ランサムウェアによる暗号化被害から守る!最新の対策10選【2024年版】

はじめに

ランサムウェア被害が拡大する背景と社会的影響

ランサムウェアとは、悪意あるサイバー攻撃の一種で、コンピューターやファイルを暗号化して使用不能にし、その復元と引き換えに金銭(身代金)を要求するマルウェアの一種です。2024年に入り、国内外でランサムウェア攻撃が一段と巧妙化し、数々の大手企業や公共機関が深刻な被害を受けています。警察庁のレポートによると、2024年上半期のランサムウェア被害報告件数は114件に達し、依然として高水準で推移しています。また、被害を受けた組織の約5割が復旧までに1週間以上を要しており、事業継続に深刻な影響を与えています。

近年ではデータの暗号化に加え、窃取したデータをダークウェブへ公開すると脅迫する「二重脅迫型」の手法が一般的となっており、手口が判明している事案の8割以上を占めています。さらに、データの暗号化を行わずに窃取したデータの公開を脅迫する「ノーウェアランサム」という新たな手法も確認されており、従来のバックアップだけでは防御が困難な状況になっています。

このような状況は、企業の金銭的損失、業務停止、そして顧客や社会からの信頼失墜といった多大な影響をもたらします。ランサムウェアは企業規模や業種を問わず、あらゆる組織にとって発生の可能性がある事業リスクとなっています。

本記事の対象読者と知ってほしいこと

本記事は、ランサムウェアの脅威に直面している、または対策を検討している企業のIT担当者、経営層、そして情報セキュリティに関心のあるすべての方を対象としています。ランサムウェアの基本的な知識から、最新の攻撃動向、そして2024年版として強化すべき具体的な対策までを網羅的に解説します。万が一被害に遭った際の初動対応や復旧の手順についても触れることで、皆様の組織がランサムウェアの脅威から大切な情報資産を守り、事業継続性を確保するための手助けとなることを目指します。

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ランサムウェアの基礎知識

ランサムウェアとは?その仕組みと種類

ランサムウェアは「Ransom(身代金)」と「Software(ソフトウェア)」を組み合わせた造語で、マルウェア(悪意のあるソフトウェアやコードの総称)の一種です。感染したコンピューターやサーバー上の重要なファイルやデータを暗号化したり、システムにアクセスできないようにロックしたりすることで、その解除と引き換えに金銭(身代金)を要求します。

ランサムウェアの攻撃は通常、以下の4つの段階で進行します。

  • 初期侵入攻撃者はVPN機器の脆弱性を悪用したり、フィッシングメールを従業員に送ったりして、標的の内部ネットワークに侵入します。
  • 内部活動侵入に成功すると、攻撃者は遠隔操作ツールなどを利用してネットワーク内の端末を遠隔操作し、より高い権限の獲得を試みます。検出を逃れるために、正規のツールやクラウドサービスが悪用されることがあります。
  • 情報持ち出し十分な権限を得ると、攻撃者は情報暴露の脅迫に利用するため、機密性の高い情報を探し出し、攻撃者側のサーバーにアップロードします。
  • ランサムウェア実行データのアップロードが完了すると、最後に標的の組織へランサムウェアを展開・実行します。ファイルを暗号化した後、対象の端末に身代金要求画面を表示させて脅迫します。

ランサムウェアには、主に以下の種類があります。

  • 暗号化型最も一般的で、ファイルやデータを暗号化して使用不能にし、復号鍵と引き換えに身代金を要求します。
  • ロック型コンピューターの画面をロックして操作不能にし、解除と引き換えに身代金を要求します。
  • 暴露型窃取したデータを外部に公開すると脅迫し、公開の取りやめと引き換えに金銭を要求します。近年主流の「二重脅迫型」は、暗号化と暴露の両方を行います。
  • 破壊型身代金要求よりも、システム自体を破壊することを目的とする場合があります。破壊されたデータは復元が困難なケースが大半です。

攻撃の手口と感染経路

ランサムウェアの感染経路は多岐にわたり、日々進化しています。主な感染経路は以下の通りです。

  • VPN機器からの侵入近年最も多い感染経路です。テレワークなどで利用されるVPN機器やリモートデスクトップの脆弱性、強度の弱い認証情報が悪用され、ネットワーク内に侵入されます。警察庁のレポートによると、感染経路の8割以上がネットワーク機器経由で、その約6割がセキュリティパッチ未対応の機器でした。
  • メールの添付ファイルやリンクフィッシングメールを通じて感染するケースです。信頼できる組織や個人を装ったメールに悪意のある添付ファイルやリンクが含まれており、これを開いたりクリックしたりすることで感染します。
  • Webサイトのブラウジング悪意のあるコードが埋め込まれたWebサイトにアクセスすることで、自動的にランサムウェアがダウンロードされる「ドライブバイダウンロード攻撃」などがあります。
  • ソフトウェア・ファイルのダウンロード正規ではないソースから提供されるソフトウェアや、海賊版の音楽・動画ファイルなどをダウンロードすることで感染するパターンも報告されています。
  • USBメモリやHDDの接続感染したUSBメモリや外付けHDDをコンピューターに接続することで、マルウェアが自動的にシステムに侵入するケースがあります。
  • 不審なアプリケーションの実行正規のアプリケーションに偽装されたマルウェアが、ユーザーに気づかれないうちにシステムに悪意のあるコードを注入します。

かつてはメールを使った「ばらまき型」が主流でしたが、現在は特定の企業・組織を狙う「標的型」攻撃が主流となっています。また、「RaaS(Ransomware as a Service)」と呼ばれるビジネスモデルの普及により、攻撃者がランサムウェアを容易に利用できるようになり、サイバー犯罪の敷居が下がったことも被害拡大の一因です。さらに、生成AIを用いてマルウェアを作成する事例も報告されており、より高度で検知が難しい攻撃が出現する可能性も指摘されています。

ランサムウェアの歴史と最近の傾向

ランサムウェアは1989年の「AIDSTrojan」が世界初とされていますが、本格的に普及したのは仮想通貨の登場以降です。仮想通貨は追跡が難しいため、攻撃者にとって身代金回収の魅力的な手段となりました。

2013年の「CryptoLocker」以降、外部のサーバーと通信して暗号化活動を行う手口が主流となり、復号が困難になりました。2017年には「WannaCry」が世界的に大流行し、ファイル共有プロトコル「SMB」の脆弱性を悪用して甚大な被害をもたらしました。

2018年頃からは、特定の企業や組織を狙う「標的型攻撃」が主流となり、ランサムウェアは再びセキュリティの重大脅威となりました。「Ryuk」はその代表例です。2019年以降は「MAZE」の登場をきっかけに、窃取した情報を暴露する「二重脅迫型」の手口が普及し、被害を拡大させています。

近年では、「LockBit」や「8base」といったRaaSを採用するランサムウェアが活発に活動しており、多くのサイバー犯罪者が容易に攻撃を行えるようになっています。2024年上半期もランサムウェア被害は高水準で推移しており、警察庁の統計では、被害組織の51%がランサムウェア攻撃を受けたと回答しています。被害額も増加傾向にあり、日本の組織が復旧のために負担した平均金額(身代金以外)は293万ドル(約4億6340万円)に上るとの調査結果もあります。

また、サプライチェーンを狙った攻撃も増加しており、委託先からの情報漏洩が甚大な被害を引き起こすケースも確認されています。

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主な被害事例と影響

国内外で発生した被害事例の紹介

2024年に入っても、国内外でランサムウェアによる深刻な被害が報告されています。

  • 日本商工会議所(2024年3月)小規模事業者持続化補助金事務局のサーバーがランサムウェア被害を受け、データの一部が消滅・暗号化されました。個人情報保護委員会や警察への報告が行われ、現在も調査・復旧が進められています。
  • 富士通(2024年3月)複数の業務用パソコンにマルウェアが発見され、個人情報を含む顧客情報ファイルが不正に持ち出せる状況にあったと発表されました。発見後、迅速な対応が取られましたが、ランサムウェアではないものの高度な偽装を行うマルウェアによる攻撃でした。
  • 岡山県精神科医療センター(2024年5月)電子カルテを含む総合情報システムがランサムウェア攻撃を受け、約4万人の患者情報や病棟会議の議事録が流出しました。ダークウェブ上に情報が掲載されたことも確認されており、VPNの脆弱性を放置していたことが原因とされています。
  • ニデックインスツルメンツ(2024年5月)業務システムにランサムウェアによる不正アクセスが検知され、社内システムやファイルサーバーに保管された一部データが暗号化されました。グループ会社にまで影響が及び、情報漏洩の可能性が指摘されています。
  • KADOKAWAグループ・ニコニコ動画(2024年6月)大規模なランサムウェア攻撃とサイバー攻撃が発生し、出版事業の流通やニコニコ動画のサービス停止、一部オンラインショップのログイン障害などが発生しました。ロシア系ランサムウェアグループ「BlackSuit」によるもので、約1.5TBものデータが窃取されたと声明が出されました。Vtuberの個人情報、ニコニコ超会議の振込履歴、有名配信者への依頼書、業務マニュアル、従業員のマイナンバーや免許証情報など、多岐にわたる情報が流出した可能性が高いとされています。
  • 東京海上日動あんしん生命保険(2024年7月)委託先の税理士法人がランサムウェアに感染し、契約者や元社員ら約2万7800件の情報が外部に流出した恐れがあると公表されました。通信機器の設定ミスが原因と見られています。
  • 名古屋港運協会(2023年7月)名古屋港統一ターミナルシステム(NUTS)がLockBitランサムウェアに感染し、コンテナの搬出入作業が一時中止されるなど、港湾機能に甚大な影響が出ました。
  • Change Healthcare(米国、2024年2月)米国のヘルスケアテクノロジー企業がランサムウェア攻撃を受け、推定でアメリカ人の3分の1の個人情報が流出しました。攻撃者の要求に応じ、約2,200万ドル(約34億円)の身代金を支払いましたが、その後、別の集団に情報が横流しされ二度目の身代金要求があったと報じられています。

暗号化型被害の実態と業務・社会への影響

ランサムウェアによる暗号化型被害は、組織の業務と社会に深刻な影響を及ぼします。

  • 業務・サービス停止感染した端末やサーバーのデータが暗号化されることで、基幹システムやオンラインシステムが使用不能になり、業務やサービスが停止します。これにより、製造業では工場稼働停止による生産性低下、医療機関では電子カルテの利用不能による診療停止など、直接的な事業活動の阻害が発生します。復旧には多大な時間とリソースを要し、顧客へのサービス提供が長期的に停止するケースも少なくありません。
  • 金銭的損失復旧費用、身代金の要求(支払いの有無に関わらず)、事業停止による売上損失、訴訟費用など、多岐にわたる金銭的被害が発生します。警察庁の調査では、ランサムウェアによる被害に遭った企業の37%が、調査・復旧費用として1,000万円以上を費やしています。
  • 情報漏洩二重脅迫型ランサムウェアでは、暗号化と同時に機密データや個人情報が窃取され、ダークウェブなどで公開されるリスクがあります。これにより、顧客や取引先からの信頼失墜、ブランドイメージの低下、訴訟リスク、そして法的罰則の対象となる可能性があります。改正個人情報保護法では、個人情報漏洩の可能性がある場合に、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務付けられています。
  • サプライチェーンへの影響子会社や取引先など、サプライチェーン上の脆弱な組織が標的となり、そこから感染が拡大するケースが増加しています。これにより、感染した企業だけでなく、関連する複数の企業や団体にまで被害が波及し、社会全体に甚大な影響を与える可能性があります。

復旧の難しさと法的・組織的リスク

ランサムウェア感染からの復旧は非常に困難です。

  • 復旧の難しさ一度暗号化されたデータを復号するのは、専門家にとっても非常に困難です。身代金を支払ったとしても、データが確実に復元される保証はありません。また、バックアップデータもランサムウェアによって暗号化されるケースが多いため、適切なバックアップ戦略(オフラインでの保管など)がなければ、復旧がさらに難しくなります。警察庁のレポートによると、バックアップを取得していた組織の9割以上が、被害前の水準まで復元できなかったと回答しています。
  • 法的リスクランサムウェアによる情報漏洩が発生した場合、2022年4月に施行された改正個人情報保護法により、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務付けられています。これに違反した場合、最高1億円の罰金が科されるなど、法的ペナルティが強化されています。
  • 組織的リスク不適切な対応は、企業の社会的信頼を失墜させ、株価の下落や顧客離れ、優秀な人材の流出など、長期的な経営ダメージにつながります。また、サプライチェーン上の取引先からの損害賠償請求に発展する可能性もあります。

これらのリスクを最小限に抑えるためには、事前の予防策の徹底に加え、万が一感染した場合の迅速かつ適切な初動対応、そして復旧計画(BCP/DR)の策定とテストが不可欠です。

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もし被害を受けたら〜感染時の初動対応

万が一、ランサムウェアの被害に遭ってしまった場合、迅速かつ適切な初動対応が被害の拡大を防ぐ鍵となります。

感染端末の隔離とネットワーク遮断

ランサムウェア感染の疑いがある場合、最も重要な初動対応は、感染した端末を直ちにネットワークから切り離すことです。これにより、ランサムウェアがネットワークを通じて他の端末やサーバーへ拡散するのを防ぎます。

  • 有線接続の場合LANケーブルを抜く。
  • 無線接続(Wi-Fi)の場合端末のWi-Fi設定をオフにするか、Wi-Fiルーターの電源を切る。
  • 電源は切らない感染端末の電源をいきなり切ってしまうと、RAMに保存されているログ情報が失われ、感染原因や被害状況の特定が困難になる可能性があります。電源を切らずにネットワークから隔離し、スリープモードで維持することが推奨されます。
  • バックアップデータの隔離バックアップデータが感染端末と同一ネットワーク上にある場合も、ランサムウェアに感染するリスクがあるため、速やかにネットワークから切り離し、保護してください。

警察・専門機関への通報と相談

ネットワークからの隔離が完了したら、速やかに以下の機関へ連絡・相談しましょう。

  • 警察への通報・相談最寄りの警察署、または都道府県警察に設置されている「サイバー犯罪相談窓口」へ通報・相談してください。被害の実態を明らかにし、捜査や被害拡大防止に必要な情報提供を受けることができます。警察への通報時には、感染を確認した日時、暗号化されたファイルの範囲、要求された身代金の額、攻撃者とのやり取りの記録など、可能な範囲で情報を整理して伝えましょう。
  • 情報処理推進機構(IPA)への報告IPAは情報セキュリティに関する最新情報や対策手段を提供しており、相談窓口も設置されています。
  • JPCERT/CCへの連絡サイバーセキュリティインシデントに関する調整や情報提供を行っています。
  • セキュリティ専門業者への相談自社での対応が難しい場合や、より専門的な調査・復旧が必要な場合は、ランサムウェア感染調査の実績が豊富なフォレンジック調査会社やセキュリティベンダーに相談することが強く推奨されます。専門家は、感染経路・被害状況の特定、データの復旧支援、今後の予防策について具体的なアドバイスを提供してくれます。

初期調査・被害範囲の特定

感染端末の隔離と関係機関への連絡と並行して、初期調査を行い、被害範囲を特定します。

  • 感染状況の確認端末に表示されているランサムウェアの警告画面や不具合の症状から、ランサムウェア攻撃による被害であるかを確認します。
  • 感染端末台数の把握組織内で他に感染している端末がないか、導入済みのウイルス対策ソフトなどでスキャンし、被害がどこまで広がっているかを把握します。
  • ログの記録と保全感染経路や攻撃の手口を特定するために、感染端末やネットワーク機器のログ情報を可能な限り記録し、保全します。これらのログは、フォレンジック調査において重要な証拠となります。
  • データ持ち出しの有無の確認二重脅迫型ランサムウェアを考慮し、データの持ち出しや不正アクセスの有無を、アクセスログなどを確認して可能な範囲で進めます。

復旧と重要データの取り戻し

被害範囲が特定されたら、復旧作業に着手します。

  • 身代金は支払わない攻撃者からの身代金要求には決して応じてはいけません。支払ったとしてもデータが復旧する保証はなく、さらなる攻撃の標的となるリスクがあります。
  • バックアップからの復旧事前に取得していたバックアップデータから、システムの復旧を試みます。感染後に取得したバックアップデータは、ウイルスが再度混入する可能性があるため、使用しないようにしましょう。
  • 復号ツールの活用「No More Ransom」プロジェクトのウェブサイトなどでは、一部のランサムウェアに対応する復号ツールが公開されている場合があります。感染したランサムウェアの種類が特定できれば、試してみる価値はあります。
  • システムの初期化感染したパソコンやサーバーは、初期化することで完全にランサムウェアを排除できる場合があります。その後、クリーンな状態からバックアップデータを用いてシステムを再構築します。
  • 専門家の支援復旧作業は複雑で専門的な知識を要するため、自社での対応が難しい場合は、フォレンジック調査会社やセキュリティベンサルなどの専門業者にデータ復旧を含めた支援を依頼することを検討しましょう。

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2024年版・ランサムウェア最新対策10選

ランサムウェア攻撃は日々進化しており、従来の対策だけでは不十分となる場合があります。2024年版として、強化すべき最新の対策10選を紹介します。

1. OS・ソフトウェアの定期アップデート

OSやアプリケーション、そしてVPN機器などのネットワーク機器に残る脆弱性(セキュリティ上の欠陥)は、ランサムウェア攻撃の主要な侵入経路となります。

  • 定期的なアップデートの徹底OSや各種ソフトウェア、ファームウェアは、常に最新の状態に保ち、セキュリティパッチがリリースされ次第、速やかに適用しましょう。これにより、既知の脆弱性を悪用した攻撃を防ぎます。
  • 古い機器の更新メーカーのサポートが終了した古いネットワーク機器は、新たな脆弱性が発見されても修正プログラムが提供されないため、計画的に更新を検討しましょう。

2. メール・Web利用時の注意喚起と教育

ランサムウェアの感染経路として、依然としてメールやWebサイトが利用されています。従業員のセキュリティ意識を高めることが重要です。

  • 不審なメール・リンク・添付ファイルへの注意宛先や本文に不審な点があるメール、特に「緊急」「重要」など過度に煽る表現のあるメール、身に覚えのない添付ファイルやリンクは安易に開かないよう、社内で繰り返し注意喚起と教育を行いましょう。
  • フィッシング詐欺対策実在する企業やサービスを装ったフィッシングメールや、正規のWebサイトに酷似した偽サイトへの誘導に警戒し、URLの確認や直接公式サイトへのアクセスを徹底するよう指導します。
  • 定期的なセキュリティ研修・訓練実際の攻撃事例を用いた実践的な研修や、標的型メール訓練などを定期的に実施し、従業員一人ひとりのセキュリティリテラシー向上を図ります。

3. 権限管理・多要素認証の徹底

不正アクセスによる侵入や、侵入後の被害拡大を防ぐために、アクセス権限と認証の強化は不可欠です。

  • アクセス権の最小化共有フォルダへのアクセス権限は、業務上必要なユーザーのみに限定し、管理者権限の付与も厳格に制限しましょう。不要なアクセス権は速やかに削除し、定期的に棚卸しを行うことが重要です。
  • 多要素認証(MFA)の導入システムやサービスへのログイン時には、パスワードだけでなく、スマートフォンによる認証コードや生体認証など、複数の要素を組み合わせた多要素認証を導入しましょう。これにより、パスワードが漏洩した場合でも不正ログインのリスクを大幅に低減できます。
  • パスワードポリシーの強化推測されにくい複雑なパスワードの設定を義務付け、定期的な変更を促しましょう。

4. 脆弱性管理とVPN等のセキュリティ強化

ネットワーク機器やリモートアクセスツールの脆弱性を悪用した攻撃が増加しているため、これらのセキュリティ強化が重要です。

  • 脆弱性診断の実施Webアプリケーション、ネットワーク、OSなど、IT資産全般に対して定期的に脆弱性診断を実施し、潜在的な弱点を洗い出し、迅速に修正しましょう。
  • VPNのセキュリティ対策VPN機器のファームウェアは常に最新の状態に保ち、強固なパスワード設定、不要なアクセスの無効化、アクセス制御の強化を徹底しましょう。可能であれば、ゼロトラストアプローチへの移行も検討します。

5. アクセス権の最小化・ゼロトラストアプローチ

一度の侵入で広範囲に被害が及ぶことを防ぐため、アクセス権の最小化とゼロトラストアプローチの導入を検討しましょう。

  • 最小権限の原則ユーザーやシステムが必要最小限のアクセス権のみを持つように設定し、不必要なアクセスを排除します。
  • ゼロトラストアプローチ「すべてのアクセスを信頼しない」という原則に基づき、たとえ社内ネットワークからのアクセスであっても常に認証・認可を行い、厳密なアクセス制御を適用するセキュリティモデルです。ユーザー、デバイス、アプリケーションのすべてを継続的に検証し、脅威の横展開を防ぎます。

6. バックアップの導入と実運用

ランサムウェアによるデータの暗号化や破壊に備え、データのバックアップは最も重要な対策の一つです。

  • 「3-2-1ルール」の実践
  • 少なくともデータを「3つ」保存する。
  • 異なる「2つ」の媒体(例:外付けHDDとクラウドストレージ)で保管する。
  • 「1つ」はオフサイト(自社施設から物理的に離れた場所)で保管する。
  • オフラインバックアップバックアップデータもランサムウェアの標的となるため、バックアップが完了したらネットワークから切り離し、オフラインで保管することを徹底しましょう。
  • 定期的なバックアップと復旧テストバックアップは定期的に取得し、そのデータからシステムを復旧できるかを実際にテストすることで、有事の際に確実に復旧できる体制を整えましょう。

7. ウイルス対策ソフト・EDR、MDR等の導入

多層的な防御を実現するためには、適切なセキュリティ製品の導入が不可欠です。

  • アンチウイルスソフト(NGAV/NGEPP)の導入ランサムウェアなどのマルウェアの侵入を水際で防御するために、AIやクラウドを活用した高精度な次世代型アンチウイルスソフト(NGAV/NGEPP)を導入しましょう。
  • EDR(Endpoint Detection and Response)の導入万一、アンチウイルスをすり抜けてランサムウェアがエンドポイントに侵入してしまった場合でも、EDRは侵入後の脅威を検知・隔離・駆除し、被害を最小限に抑える機能を提供します。アンチウイルスとEDRを併用することで、より強固なエンドポイントセキュリティを実現できます。
  • MDR(Managed Detection and Response)サービスの活用セキュリティ人材が不足している場合や、EDRの運用監視に手が回らない場合は、セキュリティ専門家が24時間365日体制で監視・対応を代行するMDRサービスの利用を検討しましょう。

8. ログ監視・インシデント監視体制の構築

攻撃の早期発見と拡大防止には、継続的なログ監視とインシデント監視体制が重要です。

  • ログの収集と分析システム、ネットワーク機器、セキュリティ製品などから出力されるログを継続的に収集し、不審な挙動がないか分析する体制を構築しましょう。ログはランサムウェアによって暗号化される可能性があるため、オフラインで保存することも検討が必要です。
  • 異常検知の仕組みAIを活用したソリューションなどにより、ネットワーク内の異常なトラフィックや不審なファイルの動きを自動で検知する仕組みを導入し、攻撃の初期段階で早期発見を目指しましょう。

9. インシデント発生時の対応計画(BCP/DR)

ランサムウェア攻撃はいつ発生してもおかしくないため、「攻撃を受けること」を前提とした事業継続計画(BCP)や災害復旧計画(DR)の策定が不可欠です。

  • 対応手順の明確化インシデント発生時の初動対応、連絡体制、被害範囲の特定、復旧手順、対外発表の方法などを明確に定めた計画を策定しましょう。
  • 対応訓練の実施策定した計画に基づき、定期的にインシデント対応訓練を実施し、実効性を確認するとともに、従業員の対応能力向上を図りましょう。
  • 緊急連絡先の共有警察、専門機関、セキュリティベンダーなどの緊急連絡先を社内で共有し、有事の際に速やかに連絡できる体制を整えましょう。

10. 専門家・サービスへの相談と継続的な運用見直し

サイバー攻撃の手法は常に進化しており、自社だけで最新の脅威に対応し続けるのは困難です。

  • セキュリティ専門家への相談セキュリティ体制の評価、脆弱性診断、インシデント対応など、必要に応じて外部のセキュリティ専門家やコンサルティングサービスを活用しましょう。
  • 継続的な運用見直し一度対策を講じたら終わりではなく、サイバー攻撃の最新動向や自社の状況に合わせて、セキュリティ対策を継続的に見直し、改善していくことが重要です。

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復旧と被害回復の実践ガイド

万が一ランサムウェアの被害を受けてしまった場合、焦らず適切な手順で復旧を進めることが重要です。

データ復旧の現実・復号ツールの活用

ランサムウェアによって暗号化されたデータの復旧は、多くのケースで非常に困難です。

  • 身代金支払いのリスク身代金を支払っても、データが確実に復元される保証はありません。また、身代金の支払いは攻撃者にさらなる利益を与え、次の攻撃を助長する可能性があります。警察庁も身代金を支払わないよう推奨しています。
  • 復号ツールの可能性一部のランサムウェアについては、セキュリティベンダーや国際的なプロジェクト「No More Ransom」のウェブサイトなどで無償の復号ツールが公開されている場合があります。感染したランサムウェアの種類が特定できれば、これらのツールで復号を試みる価値はあります。ただし、対応しているランサムウェアの種類やバージョンは限られています。
  • 専門家への相談自力での復旧が困難な場合、フォレンジック調査の専門業者に相談しましょう。彼らは高度な技術と経験を持ち、被害範囲の特定、感染経路の分析、そして可能な限りのデータ復旧を支援してくれます。

バックアップからのリカバリー手順

最も確実なデータ復旧手段は、安全な場所で保管されていたバックアップデータからのリカバリーです。

  • クリーンな環境の確保ランサムウェアが完全に排除された、クリーンな環境を用意します。感染したシステムを初期化し、OSやアプリケーションを再インストールするなど、徹底的なクリーンアップを行います。
  • バックアップデータの確認と選択事前に取得していた複数の世代のバックアップデータの中から、ランサムウェア感染前の、最も新しいクリーンなデータを選びます。バックアップデータ自体が感染していないことを慎重に確認しましょう。
  • データ復元と整合性チェック選定したバックアップデータを用いてシステムやファイルを復元します。復元後には、データの整合性や完全性を確認し、業務に支障がないかをテストします。
  • 再発防止策の適用システム復旧後も、侵入経路となった脆弱性の修正、セキュリティ対策ソフトの導入・更新、アクセス権限の見直しなど、再発防止のための対策を徹底的に適用します。

法的・組織的措置(報告・記録・再発防止)

被害からの回復には、技術的な復旧だけでなく、法的・組織的な対応も重要です。

  • 関係機関への報告個人情報の漏洩やその可能性がある場合、改正個人情報保護法に基づき、個人情報保護委員会への速報と、本人への通知が義務付けられています。警察への通報も忘れずに行いましょう。
  • 情報公開と説明責任被害状況や復旧の見込み、講じた対策などについて、適切なタイミングで関係者(顧客、取引先、株主など)に情報公開を行い、説明責任を果たしましょう。風評被害を防ぎ、信頼回復に努めるため、誠実かつ透明性のある対応が求められます。
  • インシデント調査と原因究明再発防止のためには、ランサムウェアの侵入経路、感染拡大の経緯、攻撃の手口などを詳細に調査し、根本原因を究明することが不可欠です。自社で困難な場合は、フォレンジック調査の専門業者に依頼しましょう。
  • 再発防止策の策定と実施原因究明の結果に基づいて、具体的な再発防止策を策定し、実行します。これには、セキュリティシステムの強化、従業員への継続的なセキュリティ教育、インシデント対応計画の見直しと訓練などが含まれます。
  • 記録の保持インシデントの発生から対応、復旧までのすべてのプロセスを詳細に記録し、今後のセキュリティ対策改善のための教訓とするとともに、万が一訴訟などが発生した場合の証拠として保持しましょう。

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まとめと今後の展望

基本対策の徹底が最大の防御

ランサムウェアは企業や組織にとって最も深刻なサイバー脅威の一つであり、その攻撃手法は日々巧妙化し続けています。2024年に入っても被害件数は高水準で推移しており、規模や業種を問わず、あらゆる組織がその標的となり得ます。

しかし、その脅威に対抗するための最も基本的な防御策は、以下の徹底にあります。

  • OS・ソフトウェアの定期的なアップデート:脆弱性をなくし、攻撃の入り口を塞ぐ。
  • 不審なメールやWebサイトへの注意喚起と教育:人的要因による感染リスクを低減する。
  • 強固なアクセス権限管理と多要素認証の導入:不正アクセスによる侵入や横展開を防ぐ。
  • 定期的なバックアップとオフライン保管:万が一の際にデータを復旧できるようにする。
  • セキュリティ対策ソフト(アンチウイルス、EDR、MDR)の導入と活用:多層的な防御で脅威を検知・遮断・対応する。

これらの基本的な対策を継続的に実施し、従業員一人ひとりのセキュリティ意識を高めることが、ランサムウェア被害から身を守る最大の防御となります。

最新動向と継続的な見直しの重要性

ランサムウェア攻撃は、RaaS(Ransomware as a Service)モデルの普及や生成AIの悪用により、攻撃の敷居が下がり、手口がさらに高度化しています。二重脅迫型やノーウェアランサムといった新たな脅威も登場しており、バックアップだけでは対応できない被害も発生しています。

このような変化の激しいサイバーセキュリティ情勢に対応するためには、常に最新の脅威動向を把握し、自社のセキュリティ対策を継続的に見直すことが不可欠です。

  • 情報収集:警察庁、IPA、セキュリティベンダーなどが公開する最新のレポートや情報に常に目を向けましょう。
  • 専門家との連携:自社だけでは対応しきれない部分については、セキュリティ専門家やサービスの活用を積極的に検討しましょう。
  • インシデント対応計画の更新:脅威の変化に合わせて、有事の際の対応計画(BCP/DR)を定期的に更新し、訓練を実施しましょう。

ランサムウェアの脅威は今後も続くと予想されます。組織全体でサイバーセキュリティへの意識を高め、適切な対策を講じ、継続的に見直すことで、大切な情報資産と事業を守り抜きましょう。

参考リンク・さらなる情報源

  • 警察庁「ランサムウェア被害防止対策」
  • 情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威」
  • No More Ransom Project
  • JPCERT/CC「侵入型ランサムウェア攻撃を受けたら読むFAQ」

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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