コトラ（広報チーム） 
死者の個人情報と法律上の定義
個人情報保護法が適用される対象とは
個人情報保護法は、日本国内において個人情報を適切に管理し、個人の権利や利益を保護することを目的としています。この法律では「個人情報」を、「生存する個人に関する情報」と定義しており、氏名や住所など、特定の個人を識別できる情報が該当します。そのため、死亡した方の情報は原則として個人情報保護法の適用対象とはなりません。
ただし、マイナンバーのような一部の情報においては、亡くなった後も特別な安全管理措置が義務付けられている場合があります。このような例外的な場合を除けば、大半の死者の情報は個人情報保護法の枠外とされています。
死者の情報が個人情報に該当しない理由
法律上、「個人情報」は生存する個人の権利保護を目的とした概念であり、死者に関してはプライバシーの権利や情報の保護が原則として及びません。これは、プライバシーの権利が一身専属的な権利であり、譲渡や相続されるものではないという法的解釈に基づいています。
たとえば、亡くなった方の過去の履歴や医療記録などは、死者本人に直接的な保護が及ぶものではありません。ただし、これらの情報が遺族や他の第三者など、生存する個人と結びつく場合には、その情報が間接的に「個人情報」に該当することがあります。したがって、情報の扱いには注意が必要です。
例外としての遺族に関連する情報
死者の情報が直接的には個人情報保護法の適用対象外であっても、それが生存する遺族に関連する場合には状況が変わります。たとえば、亡くなった方の家族構成や経済的な背景が記録に含まれている場合、その情報は遺族個人の情報と考えられる可能性があります。
また、遺族が死亡した方の情報開示を求める場合など、遺族が情報管理や保護に関与するケースも増えています。これらの場合には、遺族の感情や権利への配慮が必要であり、適切な対応が求められます。
法改正や議論の動向について
近年では、情報社会の進展により、死者の情報に関する法的保護や運用についての議論が活発化しています。たとえば、SNSアカウントやネット上のデータが死後も残るデジタル遺産問題は、新たな社会的課題として注目されています。しかし、現行の個人情報保護法にはこれらを直接的に規制する条文がないため、今後の法改正に向けた議論が続いています。
実際に、2022年6月の個人情報保護法改正では、データの取り扱い基準が見直されましたが、死者の情報に特化した規定は含まれていませんでした。将来的には、死者に関する情報保護を強化する方向での法改正や、議論の更なる深化が求められるでしょう。
個人情報保護法が適用されないケースとそのリスク
亡くなった人のプライバシーと情報開示
日本の個人情報保護法では、個人情報は生存する個人に関する情報に限定されるため、亡くなった人の情報は保護の対象外となります。そのため、法律的には死者のプライバシーとして特別に守られるわけではありません。しかし、亡くなった方の情報が不適切に開示された場合、生存する遺族の感情を害する可能性があります。また、この情報が遺族に関連する事案にも影響を及ぼすため、慎重な管理が求められます。
遺族感情への配慮と情報取扱い
亡くなった方の個人情報は、法的には保護対象外であっても、遺族感情への配慮が重要です。不適切な情報開示や利用により、遺族は精神的苦痛を被ることがあります。特にSNSやデジタル上の情報が広がりやすい現代では、安易な情報取り扱いが社会的な批判を招く恐れもあります。情報管理者や関係者は法律の枠組みだけにとらわれず、道徳的・倫理的観点からも十分な注意を払うべきです。
遺族が開示を求める場合の注意点
遺族が故人の情報開示を求める場面も存在します。たとえば、故人に関連する財産や法律上の権利を確認する必要がある場合です。ただし、第三者への情報公開については、生存する個人のプライバシー権を侵害する可能性があるため注意が必要です。また、情報提供にあたっては、遺族間の意見の相違やトラブルを避けるため、適切な手続きと調整が求められます。そのためにも情報を保管する企業や機関は、明確で公平な対応基準を設けておく必要があります。
事例から学ぶリスク回避策
死者の個人情報の取り扱いに関連するトラブルを未然に防ぐためには、過去の事例から学ぶことが有効です。たとえば、亡くなった方の医療情報に関して遺族と施設の間でトラブルになった事例では、施設側が情報開示の基準を事前に定めていなかったことが問題となりました。このような事例では、情報を適切に扱うためのガイドラインを事前に策定し、情報管理が透明であることを関係者に周知することがリスク回避に役立ちます。また、デジタル化が進む現代においては、デジタル遺産とも呼ばれるSNSアカウントやクラウド上のデータ管理にもリスクがあります。これらの取扱いにおいても事例を参考にしながら慎重に対応することが大切です。
遺族や関係者が知るべき取り扱いの注意点
死後の財産に関する情報の扱い
死後の財産に関する情報の取り扱いは、遺族や関係者にとって慎重に行うべき重要な問題です。個人情報保護法において、死者に関する情報は直接的には保護対象外ですが、財産に関連する情報には生存する個人、つまり遺族の「個人情報」が含まれる場合があります。例えば、遺言書や財産分与に関する記録が該当する場合、適切な管理が必要です。また、共有される情報が生じる誤解やトラブルを回避するためにも、信頼のおける専門家に相談することが推奨されます。
遺族からの問い合わせに対する対応
遺族が死者に関する情報にアクセスを求める場合、その対応には十分な配慮が必要です。個人情報保護法では、死者に関する情報は遺族であっても原則として開示請求の対象外ですが、例外的に遺族の権利や利益保護のために一部開示されることもあります。この際、遺族の感情に配慮しつつも、生存者のプライバシーが侵害されないよう慎重に対応することが重要です。また、問い合わせに対する手順や基準について事前に整備しておくことがトラブル防止につながります。
医療情報や介護記録の取り扱い
医療情報や介護記録に含まれる死者に関する情報についても、取り扱いには細心の注意を払う必要があります。これらの情報は、遺族の求めに応じて部分的に開示される場合がありますが、その際は生存する個人の「個人情報」が含まれていないかを確認することが求められます。特に介護記録などには、生存する関係者や担当者の名前など、個人情報に該当する内容が含まれている場合もありますので、慎重な情報管理が不可欠です。
正確な知識を持つことの重要性
遺族や関係者が死者に関連する情報を適切に管理するためには、正確な知識を持つことが重要です。特に「個人情報」として保護される対象や法的な取り扱いの範囲について理解していない場合、意図せず個人情報保護法に違反する事態を招く可能性があります。また、関連する法律や手続きは改訂や見直しが行われることもあるため、最新の動向について情報を収集し、必要に応じて専門家の助言を受けることをお勧めします。これにより、トラブルやリスクを未然に防ぐことが可能となります。
死者の個人情報に関する今後の課題と展望
デジタル化社会における個人情報の方向性
現代のデジタル化社会では、死者に関する個人情報の取り扱いが重要な課題となっています。生前のSNS投稿や電子メール、クラウド上のデータなどは、その人の死後にもデジタルの形で残り続けることが一般的です。しかしながら、これらの情報は個人情報保護法の対象外であるため、明確な保護ルールが存在しません。一方、これらのデータが第三者によって不正利用されるリスクは高まっており、死後も適切な管理や手続きが求められる時代に突入しています。テクノロジーの進化に合わせた新たなルール作りが必要不可欠となっています。
国際的な視点での保護と調和
死者の個人情報に関する保護は国によって対応が異なるため、国際的な調和を図ることも求められます。例えば、欧州連合（EU）のGDPR（一般データ保護規則）では、死者に関する個人情報への直接の規定はありませんが、各国ごとに死後のデータ保護義務を定める場合があります。一方で、日本の個人情報保護法は死者の情報を保護対象から外しています。このような制度の違いはグローバル企業や国境を越えたデータ運用に影響を及ぼすため、国際的なルールやガイドラインの確立が今後の重要な課題といえるでしょう。
倫理的観点から見た死者情報の保護
死者の個人情報に関する議論では、法律や規則だけでなく倫理的な観点も不可欠です。一方では、死者のプライバシーは保護されるべきだという考え方が根強く、もう一方では情報が適切に利用されるべきだという意見もあります。特に、死後に残されたSNSアカウントや電子データが、無断で第三者に閲覧されたり商業利用される場合には、多くの人々が倫理的な問題を感じるでしょう。死者の個人情報をいかに尊重し管理するかは、遺族や社会全体の信頼を維持するためにも重要なテーマです。
今後期待される法改正の可能性
死者の個人情報を巡る課題が顕在化する中、法改正の必要性が指摘されています。現在の個人情報保護法では、死者の情報は基本的に保護対象から外れていますが、デジタル化の進展や社会の変化を受け、これに対応する法的枠組みの見直しが期待されています。例えば、遺族が死者のデジタルデータにアクセスする権利や、データの不正利用を防ぐ仕組みの構築が検討される可能性があります。過去の改正例においては個人情報の保護が強化されてきた背景があるため、今後も新たな課題への対応が進むことが予測されます。
