コトラ（広報チーム） 
自治体DXの背景と必要性
DXとは何か：基礎概念と自治体への適用
DX（デジタル・トランスフォーメーション）とは、ICT（情報通信技術）の活用によって、従来の業務プロセスやサービス提供方法を変革し、生活や社会活動をより良いものに変えることを指します。現在、行政においてもDXは非常に重要なテーマとなっています。特に自治体は、住民に直接関わるサービスを多く提供しており、DXの導入により地域の暮らしを向上させる役割を担っています。
具体的な取り組みとして、行政手続きにおける電子化やデジタルデータを活用した政策立案が含まれます。令和2年に策定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」や令和4年の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」においても、自治体DXの推進が重要視されています。このような背景のもと、行政分野でのDXは、住民サービスの利便性向上や業務効率化に大きく寄与すると期待されています。
少子高齢化・地方格差の課題とDXの役割
日本では少子高齢化が進み、地方の人口減少や経済格差が深刻な問題となっています。このような状況下で、自治体が持続可能な行政サービスを提供するためには、限られたリソースを効率的に活用する必要があります。DXはこれらの課題を解決する鍵となり得ます。
例えば、少子高齢化に対応するために、オンライン健康相談や高齢者向けデジタルサービスの提供が進められています。また、地方格差の解消に向けて、デジタルインフラの整備や、地域の産業支援に役立つデータ活用が期待されています。一人ひとりのニーズに合わせたサービスをよりスピーディーかつ効果的に届けるには、DXが不可欠です。
さらに、データを活用したEBPM（Evidence-Based Policy Making）により、客観的なデータをもとに政策を立案することで、格差是正に向けた効果的な取り組みが可能になります。
行政手続きのデジタル化の現状と課題
行政手続きのデジタル化は、自治体DXの象徴的な取り組みの一つです。例えば、住民票の取得や税金の申告など、これまで窓口で行うのが一般的だった手続きが、インターネットを通じて行えるようになっています。また、「マイナンバーカード」を活用したオンライン手続きも推進されています。
しかし、現状では課題も多く残っています。デジタル化が進んでいる自治体とそうでない自治体の間で進捗の格差が広がっており、「誰一人取り残さないデジタル化」を実現するには、全国的な均質化が必要です。また、高齢者やITに不慣れな住民がデジタル手続きを活用できるよう、丁寧なサポートやデジタル教育も必要不可欠です。
行政のデジタル化をさらに推進するには、セキュリティ対策やシステムの安定性向上、人材の確保・育成といった課題を克服し、住民に安心して利用してもらえる環境を整えることが求められています。
自治体DXの具体的な施策と成功事例
マイナンバーカードによる行政効率化
マイナンバーカードは、自治体DXを推進する上で重要な役割を果たしています。このカードにより、各種行政手続きの効率化が進められており、住民が自治体窓口を訪れる手間が減少しています。例えば、住民票や印鑑証明のオンライン取得が可能になり、これまで必要だった書類提出や待ち時間が大幅に削減されました。
また、行政間でのデータ連携も進展しており、マイナンバーカードを用いることで住民の各種情報が一元管理され、迅速かつ的確な対応が実現されています。こうした利便性の向上と業務効率化は、自治体が持続可能な行政運営を目指すため、重要な施策のひとつとなっています。
オンライン行政手続の導入事例
行政手続きのオンライン化は、自治体DXの中心的な施策のひとつです。例えば、転居届の提出や保育施設の利用申請など、住民が日常的に行う手続きがオンラインで完結する自治体も増えています。これにより、窓口での対応時間が短縮されるだけでなく、業務プロセスそのものの効率化が加速しています。
具体例として、ある自治体では、ICTを活用した電子申請システムを導入し、申請データを自動的に関連部署に振り分ける仕組みを構築しました。この結果、業務負担の軽減とミスの削減が実現され、住民からも高い評価を得ています。DXが住民サービスの質を高めるだけでなく、行政内部の働き方改革にも寄与していることがわかります。
先進的な地方自治体のDX事例
自治体DXにおいて先進的な事例を挙げると、東京都や大阪府の取り組みが注目されています。東京都では、デジタル技術を活用した「東京デジタル庁」を設立し、施策全体のDX化を推進しています。マイナンバーカードを活用した住民サービスを中心とした取り組みと同時に、行政データのオープン化にも力を入れており、透明性向上を目指しています。
また、地方の中規模自治体においても独自の成功事例があります。例えば、長野県のある自治体では、AIを活用した行政相談システムを導入し、住民からの問い合わせ対応を自動化しました。これにより職員の負担が軽減されるとともに、住民は24時間いつでも問い合わせが可能になりました。このように、大都市だけでなく、中規模や小規模の自治体でも独自の創意工夫を取り入れたDXが進展しています。
自治体DXがもたらす住民へのメリット
住民サービスの利便性向上
自治体におけるDX推進は、住民サービスの利便性を大きく向上させるものです。これまで紙ベースで行われていた行政手続きがオンラインで完結することにより、住民は役所に出向いたり時間を割いたりする必要がなくなります。たとえば、住民票の発行や、税金や公共料金の支払いといった日常的な手続きがスマートフォンやパソコンを通じて便利に行えるようになります。こうした取り組みによって、一人ひとりのニーズに応じたサービス提供が可能になり、デジタル社会における住民満足度の向上につながります。
行政コスト削減と税金の有効活用
自治体DXの導入は、行政の効率化とともに運営コストの削減にもつながります。紙の書類を削減し、デジタル化することで印刷や管理、郵送といったコストを大幅に抑えることが可能です。また、AIやデータ解析を活用した業務の自動化により、職員の負担軽減や業務スピードの向上が実現します。これにより削減されたリソースは、さらなる住民サービスの改善や地域の開発に振り向けることができ、限られた税金をより有効に活用することが可能になります。
地域社会におけるデジタル参加拡大
DXの推進は、地域社会全体におけるデジタル参加の拡大を促進します。高齢者やデジタル機器に不慣れな層にも使いやすいシステムやデジタル教育の機会を提供することで、「誰一人取り残さない」デジタル化を実現することが目標です。また、住民が積極的にオンラインサービスを活用することで行政とのつながりが深まり、リアルタイムで情報を受け取ることができる環境が整備されます。これは、災害時や緊急事態における迅速な連絡体制の構築にもつながり、地域住民の安心感や安全性を高める一助となります。
自治体DX推進における課題と今後の展望
セキュリティとプライバシーの確保
自治体DXの推進において、セキュリティとプライバシーの確保は最優先課題の一つです。デジタル技術を活用することで行政の効率化が進む一方、大量の個人情報を扱うため、不正アクセスや情報漏洩のリスクが高まります。特に、行政手続きのオンライン化によって住民データのデジタル管理が普及する中で、通信の暗号化やシステムの多層的な防御機能の導入が求められています。また、自治体内部の職員がサイバーセキュリティについて適切な知識を持つことも重要です。国としても統一基準を設け、各自治体のセキュリティ対策をサポートする枠組みが必要です。
人材不足への対応と職員のデジタル教育
自治体DX推進にあたっては、人材不足が大きな課題となっています。多くの自治体では、デジタル技術に精通した職員が限られているため、新しい技術を導入しても十分に活用しきれない状況が生じています。また、現状の行政職員が従来の業務プロセスから新しいデジタルツールを活用する業務へと転換するためには、教育や研修が不可欠です。具体的には、デジタル人材の外部採用や民間企業との連携による研修プログラムの提供が重要です。さらに、CIOを任命するなどDX専門部署の設置を進め、各自治体が独自のDX戦略を推進できる体制を整えるべきです。
中小自治体における予算と技術の壁
中小規模の自治体では、DX推進のための予算が限られていることが課題となっています。大都市に比べて税収基盤が弱いため、高額なITシステムや専門人材の確保に困難を抱えているケースが多いです。さらに、技術力が不足しているため他自治体との連携もスムーズに進まない状況が見られます。このような中小自治体に対しては、国が財政面での支援を行うとともに、システムの共同調達や共有化を推進することが解決策の一つです。共通プラットフォームの構築や、クラウドサービスの採用によるコスト削減なども効果的です。
地域ごとの自治体DXの進捗の不均衡解消
自治体DXの進捗状況には地域ごとに大きな差があります。待ったなしのデジタル社会への移行が叫ばれる中、都市部では比較的DXの取り組みが進んでいる一方、地方では十分なインフラ整備や人材が不足しており、DXが遅れている場合があります。進捗の不均衡が解消されないと、住民間のサービス格差が拡大するリスクがあります。この課題の解決には、地域ごとの状況を把握した上で特化した支援が重要です。例えば、IT企業と連携した地域密着型のDX支援体制や、自治体間で成功事例を共有するためのプラットフォーム構築が求められます。
