はじめに
証券アナリスト資格の注目度と合格ラインの重要性
証券アナリストは、金融・投資のプロフェッショナルとして、証券分析、企業価値分析、ファイナンス理論、経済・市場・金融商品の仕組みなど、幅広い専門知識と分析技術を応用し、投資助言や投資管理サービスを提供する資格です。近年、金融業務の規制緩和や資産運用ビジネスの拡大、NISAの拡充などにより、その専門性へのニーズは高まっています。
この資格は、金融業界ではもちろん、一般の事業会社においても、企業価値向上やIR活動、資金調達の最適化などに役立つため、社内外からの信頼を得る上で非常に重要です。資格取得を通じて体系的な知識を身につけることは、キャリアアップや実務のレベルアップに直結します。
この記事の目的と読者層
この記事では、証券アナリスト試験の一次・二次試験それぞれの合格ライン、難易度、最新の合格率データ、効果的な勉強法、そして他の金融系資格との比較について徹底的に解説します。証券アナリスト資格の取得を目指す方、特に金融機関勤務者、大学生、または独学・予備校利用を検討している社会人の方々が、効率的に合格への道を歩むための情報を提供することを目的としています。
証券アナリスト試験の概要
試験制度・受験資格
証券アナリスト試験は、公益社団法人日本証券アナリスト協会が主催する民間資格で、一次試験と二次試験の2段階選抜方式です。この試験を受験するためには、日本証券アナリスト協会が実施する通信教育講座の受講が必須となります。一次レベル講座は年齢や学歴に制限なく誰でも受講できますが、二次レベル講座は一次試験の全科目に合格した者のみが受講可能です。
講座を受講した年度の翌年から3年間が受験可能期間となり、この期間内に合格しなければ再受講が必要となります。特に二次試験では、一次試験の合格実績も失効する可能性があるため、計画的な学習が求められます。
一次試験・二次試験の構成と出題内容
証券アナリスト試験は、2021年のプログラム改定により、一次・二次共通の6つの学習分野に再編されました。
- 証券分析とポートフォリオ・マネジメント
- 財務分析
- コーポレート・ファイナンス
- 市場と経済の分析
- 数量分析と確率・統計
- 職業倫理・行為基準
一次試験は、上記の6分野を以下の3科目に分けて実施されます。解答形式はマークシート方式(4〜5択)です。
- 科目Ⅰ:証券分析とポートフォリオ・マネジメント(170点満点、170分)
- 科目Ⅱ:財務分析、コーポレート・ファイナンス(100点満点、100分)
- 科目Ⅲ:市場と経済の分析、数量分析と確率・統計、職業倫理・行為基準(90点満点、90分)
二次試験は、全ての学習分野から出題される総合問題形式で、記述問題が大部分を占めます。午前と午後に分かれ、それぞれ180分(180点満点)の長丁場です。
試験日程・会場・費用概要
一次試験は例年4月下旬と9月下旬~10月上旬の年2回、二次試験は年1回6月上旬に実施されます。試験会場は国内9都市(札幌、仙台、東京、金沢、名古屋、大阪、広島、松山、福岡)と海外3都市(ニューヨーク、ロンドン、香港)です。
資格取得にかかる費用は、一次レベル講座受講料60,000円〜66,000円、一次試験受験料(3科目合計)13,000円、二次レベル講座受講料57,000円〜63,000円、二次試験受験料16,500円が目安です。これに入会金10,000円と年会費18,000円が加わります。独学の場合は合計約21万円、予備校を利用する場合は約40万円が概算費用となります。
合格ライン(ボーダー)の考え方
合格ラインはどのように決まるのか
証券アナリスト試験の合格ラインは、一次・二次試験ともに特定の得点率が公表されているわけではありません。試験の合否は、実務家や学者で構成される「試験委員会」および「試験管理委員会」によって、「上位一定割合の受験者の平均得点」を基準に決定されます。
公表内容と非公開情報の扱い
日本証券アナリスト協会からは、各試験の合格率や受験者数、合格者数などのデータが公表されていますが、具体的な合格点や得点率は非公開です。ただし、一次試験では科目Ⅲにおいて「職業倫理・行為基準」の得点が一定水準に達しない場合、総得点が合格最低点以上でも不合格となる「足切り」制度があります。二次試験でも同様に「職業倫理・行為基準」の足切りが存在します。
得点率・順位方式の推測と実際
これまでの試験結果や受験経験者の声から、一次試験では概ね6割程度、二次試験では概ね5割程度の得点率が合格ラインの目安とされています。つまり、満点を目指す必要はなく、基礎的・標準的な問題を確実に得点することが重要です。この「上位一定割合の受験者の平均得点」を基準とする相対評価の側面が強く、難問・奇問に深入りせず、他の受験生が解ける問題を確実に解く戦略が有効です。不合格者には順位ランク(A~Dの4区分)が開示されます。
最新の合格率・合格者データ
一次・二次試験の合格率と推移
証券アナリスト試験の合格率は、一次・二次試験ともに約40%〜55%の間で推移しており、比較的安定しています。
- 一次試験合格率(2025年)
- 春試験:46.5%(単純合計)
- 秋試験:52.7%(単純合計)
- 科目別では43.8%~54.4%
- 二次試験合格率(過去5年間の推移)
- 2025年:44.4%
- 2024年:44.6%
- 2023年:46.7%
- 2022年:54.8%
- 2021年:52.1%
これらのデータから、一次・二次試験ともに約50%の合格率を目安として考えると良いでしょう。ただし、受験者層は協会の通信講座受講者であり、学習意欲の高い人が多いため、合格率の数値以上に難易度は高いと認識しておく必要があります。
最近の試験データ(受験者数・合格者数・業態別構成)
2025年の二次試験では、受験者数2,522名に対し、合格者数1,121名でした。合格者の業態別構成比を見ると、証券会社、銀行、生命保険の順に多くなっています。
一次試験の合格者構成比は、銀行、証券会社、生命保険の順でした。これは、金融業界の多くのプロフェッショナルがこの資格を目指していることを示しています。
業界企業別 上位合格者傾向
二次試験の合格者数上位企業には、大和証券、野村證券、SMBC日興証券といった証券会社に加え、みずほ銀行、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJ銀行などのメガバンク・信託銀行、日本生命保険、住友生命保険、第一生命保険、明治安田生命保険といった生命保険会社が名を連ねています。
一次試験の合格者数上位企業にも、みずほ銀行、野村證券、大和証券、SMBC日興証券、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行、三井住友銀行、日本生命保険、第一生命保険などが挙げられます。これらのデータは、証券アナリスト資格が主要な金融機関で高く評価され、キャリア形成に不可欠であると認識されていることを裏付けています。
出題傾向の変化と合格者の特徴
最近の試験傾向・過去との比較
証券アナリスト試験は、2021年に15年ぶりとなるプログラム改定が行われ、試験内容がリニューアルされました。新プログラムでは、第1次・第2次共通の6分野に学習内容が再編され、第1次試験の科目名も「科目Ⅰ・科目Ⅱ・科目Ⅲ」に変更されています。
特に、2022年春試験からは一次試験に「職業倫理・行為基準」などが追加されるなど、従来二次試験の範囲であった内容が一次試験でも問われるようになりました。また、二次試験では、より高度な専門知識に加え、実務への応用力や論理的な記述力が求められます。過去問に類似した問題が一定数出題される一方で、毎年切り口を変えた問題や、深い理解を要する記述問題が増加傾向にあります。
合格者に共通するポイント・勉強方法
合格者に共通するポイントは、以下の通りです。
- 協会の講座テキストと過去問の徹底活用
- 協会の講座テキストは、試験に合格できる知識・能力を着実に習得できるように作成されています。
- 過去問は、試験の形式や出題傾向を把握するために非常に重要であり、繰り返しの演習が必須です。
- 専門用語の正確な理解
- 金融・投資業界特有の専門用語が頻出するため、曖昧な理解では問題に対応できません。
- 計算問題への慣れと電卓の活用
- 多くの計算問題が出題されるため、練習問題をこなし、関数電卓・金融電卓の使い方に習熟しておくことが有利です。
- 記述問題対策
- 二次試験では記述問題のウェイトが高いため、論理的に分かりやすい文章を書く練習が必要です。日々のニュースを教材に、市場の変動要因について筋の通った考えを持つ訓練も有効です。
- 「職業倫理・行為基準」の確実な対策
- 一次・二次試験ともに足切り基準があり、かつ比較的得点しやすい科目であるため、満点を目指す勢いで対策することが重要です。
受験生のリアルな声・体験談
受験生からは、「膨大な試験範囲にくじけそうになった」「難しすぎて無理かもしれないと思った」という声が聞かれます。しかし、「最後まで諦めないこと」が合格の秘訣だと語る合格者もいます。特に二次試験では、時間内にすべてを解き切るのは困難であり、解ける問題から確実に得点していく戦略が求められます。
「おかねのおにいさん」や「Kanbayashi」といったYouTubeチャンネルの活用など、自身の苦手分野を克服するための工夫も多く見られます。また、独学で合格したケースでは、TACの過去問集を繰り返し解き、用語を自分なりに整理するといった地道な努力が実を結んでいます。
効果的な勉強法と学習時間の目安
合格に必要な平均勉強時間
証券アナリスト試験に合格するために必要な勉強時間は、一次試験、二次試験ともに平均して約200時間と言われています。合計すると約400時間が必要です。初学者の場合は、各レベルで200〜300時間、全体で400〜600時間が必要とされています。
1日2時間勉強するとしても、一次試験だけで3〜5ヶ月、二次試験も合わせると1年以上かかる計算になります。講座受講から試験受験まで最短で1.5年〜2年程度の期間を要するため、長期的な学習計画が不可欠です。
科目別・レベル別の対策方法
- 一次試験対策
- 全科目共通:過去問からの類似問題が6割以上出題されるため、過去問演習を徹底することが最も重要です。マークシート形式なので、選択肢を絞るだけでも期待値が上がります。
- 科目Ⅰ(証券分析とポートフォリオ・マネジメント):根幹科目であり、公式の暗記と過去問演習が鍵です。特に株式の割引配当モデル、債券のデュレーションとコンベクシティ、デリバティブのプット・コール・パリティ、リスク中立確率など頻出公式は確実に覚えましょう。
- 科目Ⅱ(財務分析、コーポレート・ファイナンス):簿記2級程度の知識があると有利です。解き方のパターンに慣れることが重要で、財務諸表分析や株式価値評価は配点も高く重点対策が必要です。
- 科目Ⅲ(市場と経済の分析、数量分析と確率・統計、職業倫理・行為基準):出題範囲が広いため、優先順位を付けて学習します。ミクロ経済・マクロ経済(IS-LM分析、AD-AS分析)は頻出です。「職業倫理・行為基準」は足切りがあるため、必ず高得点を狙いましょう。
- 勉強順序:一般的には「財務分析」⇒「経済」⇒「証券分析」が効率的とされています。取り組みやすい科目から始め、苦手意識を作らないようにしましょう。
- 二次試験対策
- 全科目共通:記述式の応用問題が中心となり、暗記だけでなく「なぜそうなるのか」という理由を含めた深い理解が必要です。部分点を狙うためにも、空欄をなくし、関連知識を記述する意識が大切です。
- 得点戦略:「職業倫理・行為基準」は最も得点源になりやすく、9割以上の得点を目指しましょう。次に「コーポレート・ファイナンスと企業分析」で7割程度を狙い、残りの「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」と「市場と経済の分析」で4〜5割を目指すのが現実的な戦略です。
- 「職業倫理・行為基準」:過去問演習を繰り返し、出題パターンを把握しましょう。平易で簡潔な文章で解答し、オールマイティ条文の活用も有効です。
- 「コーポレート・ファイナンスと企業分析」:資本コスト、企業価値評価、投資決定、コーポレートガバナンス、連結会計、財務諸表分析など頻出分野を優先的に対策します。
- 「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」:範囲は広いですが、株式ポートフォリオ戦略、債券ポートフォリオ戦略、デリバティブと投資戦略、投資政策とアセットアロケーション、パフォーマンス評価など頻出分野を重点的に学習します。
独学vs予備校利用の比較
- 独学:日本証券アナリスト協会から送付されるテキストと過去問、そして市販のテキスト・問題集(特にTAC出版)を活用することで合格は可能です。費用を抑えられ、自分のペースで学習できるメリットがありますが、長期間のモチベーション維持や、疑問点の解消が難しいというデメリットがあります。特に数学が苦手な人や金融分野の知識が少ない人にとっては、ハードルが高いでしょう。
- 予備校利用:TACやLECなどの予備校では、専門講師による分かりやすい講義、効率的なカリキュラム、質問サポートなどが充実しています。独学では難しい深い理解や、モチベーション維持の面で大きな助けとなります。費用はかかりますが、合格までの時間を大幅に短縮できるため、費用対効果が高いと言えます。
他の金融系資格との合格基準比較
FP1級、証券外務員等とのボーダー・難易度比較
証券アナリスト試験の難易度を他の金融系資格と比較すると、以下のようになります。
- 証券外務員:合格率60〜70%程度。証券アナリストより易しいとされています。〇×方式や5肢選択方式が中心です。
- FP1級:合格に必要な勉強時間は450〜600時間程度。証券アナリストの約200時間と比較すると、FP1級の方が難しいと言えます。
- 簿記2級:合格率15〜30%程度。証券アナリストと偏差値レベルは同程度とされていますが、難易度には開きがある場合もあります。
証券アナリスト試験は、これらの資格と比較して「極端に難しいわけではないが、専門性が高く、しっかりとした対策が必要な試験」と言えるでしょう。特に二次試験の記述式は、深い知識と思考力が求められます。
証券アナリスト独自の特徴と意義
証券アナリスト資格は、単なる知識の有無だけでなく、「金融・投資のプロフェッショナル」としての体系的な知識と分析能力、そして職業倫理を有していることの証明となります。
- 幅広い知識の習得:証券分析、財務分析、ファイナンス理論、経済など、金融・投資に必要な広範な知識が身につきます。
- 実務への応用性:金融機関の運用業務、M&Aアドバイザリー、企業価値評価、IR活動など、多様なビジネスシーンで活用できるスキルが養われます。
- キャリアアップ:金融業界での昇進・異動、転職に有利に働くほか、一般事業会社の財務・経理部門でも高く評価されます。
- 国際的な広がり:日本証券アナリスト(CMA)取得後には、米国証券アナリスト(CFA)や国際公認投資アナリスト(CIIA)など、さらに上位の国際資格を目指す道も開かれます。
国家資格ではないものの、金融・投資の分野で活躍したいと考える人にとっては、非常に有益で将来性の高い資格と言えるでしょう。
よくある質問とまとめ
合格ライン・合格発表に関するFAQ
- 証券アナリストの合格ラインは公表されていますか?
- いいえ、具体的な合格点や得点率は公表されていません。上位一定割合の受験者の平均得点を基準に決定されます。
- 一次試験・二次試験の合格率の目安は?
- 過去のデータから、一次試験、二次試験ともに約50%が目安とされています。
- 「職業倫理・行為基準」には足切りがありますか?
- はい、一次試験の科目Ⅲ、二次試験ともに、「職業倫理・行為基準」の得点が一定水準に達しない場合、不合格となります。
効率的な対策・モチベーション管理法
- 計画的なスケジュール管理:講座の受講から試験まで長期にわたるため、無理のない学習計画を立て、定期的に見直しましょう。
- 過去問演習の徹底:過去問を繰り返し解き、出題傾向と解法パターンを習得することが、最も効率的な対策です。
- 重要分野に集中:全範囲を完璧にしようとせず、配点の高い科目や頻出分野に重点を置いた学習戦略が重要です。
- アウトプット重視:テキストを読むだけでなく、問題演習や記述練習を通じて知識をアウトプットする習慣をつけましょう。
- モチベーション維持:学習時間の記録、周囲への宣言、資格取得後のメリット(キャリアアップ、年収向上など)を意識することで、モチベーションを維持しやすくなります。予備校の活用も有効です。
記事内容のまとめと今後のアドバイス
証券アナリスト資格は、金融・投資のプロフェッショナルとしての確かな知識とスキルを証明する、非常に価値のある資格です。一次・二次試験ともに約50%程度の合格率ですが、受験者層のレベルが高く、専門性の高い内容が問われるため、計画的かつ効率的な学習が求められます。
独学でも合格は可能ですが、数学的な知識や記述力が必要となるため、予備校の通信講座などを活用することで、よりスムーズに合格を目指せるでしょう。合格ラインが非公開であるため、満点ではなく「基礎的な問題を確実に解く」という意識が重要です。
この資格は、金融機関だけでなく、一般事業会社の財務・経理・IR部門など、幅広い分野であなたのキャリアを強力にサポートします。ぜひ、計画を立てて挑戦し、金融・投資のプロフェッショナルとしての道を切り拓いてください。










