コトラ（広報チーム） 
はじめに
アセットマネジメント業界の現状と課題
アセットマネジメント業界は、投資家から預かった資産を管理・運用し、その価値を最大化する重要な役割を担っています。近年、日本政府が「資産運用立国」を掲げ、新NISA制度の拡充などを通じて「貯蓄から投資へ」の流れを加速させていることから、業界全体として成長期にあり、採用も活発化しています。しかし、その一方で、業界特有の事情から「辞めたい」と感じる人が増えているのも事実です。
この記事の目的と読者層
この記事では、アセットマネジメント業界で働く現役の資産運用担当者や、これから業界を目指す就職・転職活動者を対象に、「なぜアセットマネジメントを辞めたい人が増えているのか」という疑問に焦点を当てます。激務やストレス、専門性の壁といった具体的な理由から、日系と外資系、金融と不動産といった業種による事情の違いまで、多角的に掘り下げていきます。また、後悔しない転職先を見つけるための実例や、未経験者向けのリアルなアドバイスも提供し、読者の皆さんが自身のキャリアを深く考えるきっかけとなることを目指します。
なぜアセットマネジメントを辞めたい人が増えているのか
アセットマネジメント業界は、専門性と高い報酬が魅力である一方で、特有の厳しい側面も持ち合わせています。
よくある「辞めたい理由」の背景
- 激務とストレス アセットマネジメント業界では、市場の変動に常に対応する必要があり、特に海外市場と連携する外資系企業や、特定の時期には、深夜や早朝の勤務が発生することもあります。また、投資判断の責任の重さから、ファンドマネージャーやトレーダーといった職種では精神的な負担が大きいという声も聞かれます。運用成績が自身の評価に直結するため、常にプレッシャーにさらされる環境は、高いストレス耐性を求めるでしょう。
- 専門性の壁やキャリアの限界 アセットマネジメントは高度な専門知識を要する分野であり、常に最新の金融知識や市場動向を学び続ける必要があります。特に未経験から転職した場合、この専門性の壁に直面し、業務についていけないと感じる人もいるようです。また、運用担当者（ファンドマネージャーなど）のポジションは業界全体で見ても少数であり、キャリアの限界を感じるケースも存在します。
- 人間関係やカルチャーギャップ アセットマネジメント業界は少数精鋭で業務を行う企業が多く、組織がフラットである反面、人間関係が固定化しやすい側面もあります。また、日系企業と外資系企業ではカルチャーが大きく異なり、外資系では成果主義がより強く、ドライな人間関係にギャップを感じる人もいるかもしれません。
- 市場環境と成果主義のプレッシャー アセットマネジメント会社の収益は、運用資産残高（AUM）と手数料率に大きく依存します。市場が低迷したり、手数料の引き下げ競争が激化したりすると、収益へのプレッシャーが高まります。特に外資系企業では、高い成果を出すことが報酬や昇進に直結するため、成果主義のプレッシャーが強く、これが「辞めたい」と感じる大きな要因となることがあります。
日系・外資系・業種別（金融・不動産等）の事情の違い
アセットマネジメント業界は、日系と外資系、また金融系と不動産系で働き方や求められるものが異なります。
- 日系企業 日系企業は、大手金融グループの傘下にあることが多く、総合職採用が主流で、様々な部署を経験しながらキャリアを積むことができます。比較的ワークライフバランスが取りやすい傾向があり、残業時間も月平均10〜20時間程度と、証券会社などと比較して少ないという声もあります。しかし、親会社の給与水準に準じるため、外資系ほど高年収ではない場合があります。
- 外資系企業 外資系企業は少数精鋭主義で、特定の専門職に特化したジョブ型採用が多いのが特徴です。年収は日系企業の1.5倍から2倍になることも珍しくありませんが、その分、高い成果と専門性が求められます。運用部門が海外本社にある場合が多く、現地時間に合わせた勤務が必要になるため、日本時間の夜中や早朝に業務が発生することもあります。
- 金融系アセットマネジメント 金融系アセットマネジメントでは、株式や債券などの金融資産を主に扱い、証券アナリストやCFAなどの資格、高度なデータ分析スキルが重視されます。運用、営業、ミドル・バックの各部門があり、それぞれ専門的な役割を担います。
- 不動産系アセットマネジメント 不動産系アセットマネジメントは、不動産を投資対象とし、物件の取得から運用、売却までの一連のプロセスを管理します。不動産鑑定士や宅地建物取引士などの資格、不動産市場への深い理解が求められます。金融系と比較すると、学歴・職歴主義ではないため、比較的未経験者にも門戸が広い傾向があります。しかし、営業経験は評価されやすいでしょう。
アセットマネジメント業界を辞めた人の転職先実例
アセットマネジメント業界で培った専門性やスキルは、多様な業界・職種で高く評価されます。
転職先に選ばれやすい業界・職種
- 金融業界内（銀行・証券・保険等） アセットマネジメントの経験は、銀行、証券会社、保険会社といった他の金融機関で活かせることが多くあります。特に、法人営業やリサーチ、商品開発などの部門では、顧客対応力や分析能力が重宝されます。
- コンサルティング・事業会社 戦略的な思考力や分析力、課題解決能力は、コンサルティングファームや一般事業会社の経営企画、財務部門などで高く評価されます。アセットマネジメントで培った経験は、事業の多角化やM&A、新規事業開発など、幅広い領域で応用可能です。
- IFA（独立系ファイナンシャルアドバイザー）など専門職 独立系ファイナンシャルアドバイザー（IFA）として、個人の資産運用コンサルティングを行う道もあります。アセットマネジメントで得た投資知識や顧客対応力を活かし、より顧客に寄り添ったサービスを提供できます。また、不動産鑑定士や公認会計士といった専門資格を取得し、その専門性を活かした職種へ転身する人もいます。
経歴・スキル別のキャリアチェンジ例
- 金融業界でのリテール営業経験者がアセットマネジメント業界のアナリストへ 証券会社でのリテール営業経験を持つ30代前半の男性が、直接アセットマネジメント業界への転職が難しいと判断し、まずファンド評価機関でアナリスト経験を3年間積んだ後、大手アセットマネジメント会社のアナリストとして転職に成功した事例があります。中長期的なキャリア戦略が功を奏した例と言えるでしょう。
- 不動産営業から不動産アセットマネジメントへ 不動産業界で営業として活躍していた人が、不動産アセットマネジメント職へのステップアップを目指し、宅地建物取引士や不動産証券化協会認定マスターなどの資格を取得し、関連部署への異動や転職を実現するケースも存在します。不動産×金融の知識と経験が評価されるポイントです。
後悔しない転職に必要な視点
後悔しない転職のためには、自己分析を徹底し、自身の強みや価値観、キャリアビジョンを明確にすることが不可欠です。また、転職先の企業文化や働き方、将来性を深く理解することも重要です。年収だけでなく、ワークライフバランス、仕事内容、成長機会など、多角的な視点から検討しましょう。転職エージェントの活用も有効な手段です。
向いている人・向いていない人の特徴
アセットマネジメント業界で活躍するには、特定の資質が求められます。
アセットマネジメントに向いている人
- 投資・資産運用への探求心 アセットマネジメントの仕事は、株式、債券、不動産といった多岐にわたる資産を扱い、市場の動向を常に分析し、最適な投資戦略を構築する必要があります。そのため、投資や資産運用に対して強い興味と探求心を持ち、常に新しい知識を吸収しようと努力できる人が向いています。
- プレッシャーやストレス耐性 顧客から預かった巨額の資産を運用する責任は非常に重く、市場の変動によって大きな損失が発生するリスクも常に伴います。このような状況下でも冷静さを保ち、論理的な判断を下せる精神的なタフさ、つまりプレッシャーやストレスへの高い耐性が必要です。
- コミュニケーション・チームワーク アセットマネジメントの業務は、ファンドマネージャー、アナリスト、トレーダー、営業など、多様な専門家がチームとして連携して進められます。また、顧客である投資家や販売会社との信頼関係構築も不可欠です。そのため、円滑な意思疎通を図り、協力して目標達成を目指せる高いコミュニケーション能力とチームワークを重視する姿勢が求められます。
向いていない人
- 数字やロジックが苦手 アセットマネジメントでは、決算書やIR情報、市場データなど、日常的に膨大な数字を分析し、論理に基づいた投資判断を行います。数字を扱うことに苦手意識があったり、ロジックよりも感情で物事を判断しがちだったりする人は、この仕事には向いていないでしょう。わずかな数字のミスが大きな損失につながる可能性もあるため、細部にわたる正確性も不可欠です。
- 安定志向・個人作業を好む傾向 市場は常に変動し、予測不能なリスクが常に存在します。そのため、常に変化に対応し、リスクを取る判断も必要となるため、極端な安定志向の人にはストレスが大きいかもしれません。また、チームで協働する場面が多いため、一人で黙々と作業を進めることを好む人にとっては、働きづらさを感じる可能性があります。
活躍し続ける人の共通点
アセットマネジメント業界で活躍し続ける人には、いくつかの共通点があります。一つは、知的好奇心が旺盛で、金融市場だけでなく、社会情勢や最新テクノロジーなど、幅広い分野にアンテナを張り、学び続けることができる点です。次に、論理的思考力と分析力に優れ、感情に流されずに客観的なデータに基づいて判断を下せること。そして、高い責任感を持ち、困難な状況でも顧客の利益を最優先に考え、誠実に対応できる倫理観も持ち合わせています。また、グローバルな視点を持ち、変化に柔軟に対応できる適応力も重要です。
未経験・異業種から転職を考える人へのリアルアドバイス
アセットマネジメント業界は専門性が高いものの、未経験者や異業種からの転職も不可能ではありません。
年齢・経歴別の転職ハードル
アセットマネジメント業界への未経験からの転職は、一般的にハードルが高いとされています。特に金融業界では学歴主義の傾向が強く、運用部門では経験者採用が中心です。しかし、20代の金融業界出身者であればポテンシャル採用の可能性もあります。不動産系のアセットマネジメントであれば、金融系と比較して学歴・職歴主義ではないため、比較的ハードルは低いと言えるでしょう。ただし、営業経験は評価されやすい傾向にあります。30代前半までが未経験転職の成功しやすい目安とされていますが、それ以上の年齢でも、これまでのキャリアで培ったスキルや経験をアピールできればチャンスはあります。
求められる資格・スキル・経験
未経験からアセットマネジメント業界への転職を目指す場合、以下のような資格やスキルを身につけることが有利に働きます。
- 資格
- 証券アナリスト（CMA）：金融の専門知識を証明する民間資格で、特に若手未経験者には有利に働きます。
- CFA（米国証券アナリスト）：世界の資産運用分野で最も権威のある資格の一つで、高度な専門知識と英語力の証明になります。
- TOEIC 800点以上：グローバルなビジネス環境であるため、高い語学力は多くのポジションで有利です。
- 不動産鑑定士・宅地建物取引士：不動産系アセットマネジメントを志望する場合に非常に有効です。
- 簿記2級以上：財務諸表の理解など、会計の基礎知識は必須です。
- スキル・経験
- 論理的思考力と分析力：市場データや企業情報を深く分析し、投資判断に活かす能力が求められます。
- コミュニケーション能力：顧客や社内チームとの円滑な連携、複雑な内容を分かりやすく説明する力が重要です。
- PCスキル（Excel, PowerPoint）：提案資料やレポート作成、データ分析において必須です。
- 金融業界での実務経験：証券会社でのリサーチ経験、銀行での市場業務経験など、関連する経験があれば尚良いです。
実際の転職活動体験談・失敗例・成功例
- 失敗例：業界理解が不足していたケース アセットマネジメント業界の表面的なイメージ（高収入、ホワイト企業など）だけで転職活動を進め、実際の業務内容やカルチャーとのミスマッチが生じ、早期退職に至るケースもあります。特に、運用担当者のイメージだけで入社し、実際には運用に携わる人数が非常に少ないことに落胆する、といった声も聞かれます。
- 成功例：中長期的なキャリアプランを立てたケース 前述の証券会社リテール営業からファンド評価機関を経てアナリストになった事例のように、自身の最終的な目標を見据え、そのために必要な経験やスキルを段階的に身につける中長期的なキャリア戦略が成功の鍵となります。また、転職エージェントを介して、業界の求める人材像から逆算したアドバイスを受けることも有効です。
相談先・転職エージェント活用術
アセットマネジメント業界への転職を考えるなら、専門の転職エージェントを活用するのがおすすめです。
- 専門性の高い情報提供 業界に特化したエージェントは、公開されていない非公開求人情報や、各企業の詳細な情報（企業文化、働き方、年収レンジなど）を豊富に持っています。
- キャリアプランの相談 自身の経験やスキル、キャリアビジョンを踏まえた上で、最適なキャリアパスや転職戦略について専門的なアドバイスを受けることができます。未経験者の場合は、目標達成に向けたロードマップの提示も期待できます。
- 選考対策 履歴書や職務経歴書の添削、面接対策（想定質問、英語面接対策など）、条件交渉など、選考プロセス全般にわたる手厚いサポートを受けることができます。特に、アセットマネジメントならではの専門的な質問への対策は、専門エージェントの強みです。
アセットマネジメントから転職する際の注意点と準備
アセットマネジメント業界から次のキャリアへ進む際には、いくつかの注意点と事前の準備が必要です。
職場選びで失敗しやすいポイント
- 期待値のミスマッチ アセットマネジメント業界特有の働き方や文化に慣れてしまい、転職先の業界・企業でのギャップに戸惑うことがあります。例えば、「アセットマネジメント業界は残業が少ない」という認識で転職しても、次の職場が激務である可能性もゼロではありません。転職先の労働環境や企業文化を事前に深くリサーチし、自身の期待と合致するかどうかを確認することが重要です。
- 専門性の汎用性を見誤る アセットマネジメントで培った専門性が、必ずしも他の業界でそのまま通用するわけではありません。自身のスキルが転職先でどのように活かせるのか、具体的に言語化し、アピールできるように準備が必要です。
転職市場で評価されるスキルセットと自己PRのポイント
アセットマネジメント業界での経験は、高い分析力、論理的思考力、リスク管理能力、市場予測能力、そして顧客とのリレーションシップ構築能力など、多くの汎用性の高いスキルを育みます。これらを転職市場で高く評価される形で自己PRすることが重要です。
- 分析力・課題解決能力 過去の業務で、どのようにデータを分析し、どのような課題を特定し、それをどのように解決したのかを具体的な事例を交えて説明しましょう。数字を用いた実績を示すことで、説得力が増します。
- コミュニケーション・交渉力 投資家や関係者との間でどのように合意形成を図り、プロジェクトを円滑に進めたのか、具体的なエピソードを話せるように準備しましょう。
- 専門知識の応用力 金融や不動産に関する専門知識を、どのように他の業界や職種に応用できるかを具体的に示すことが大切です。例えば、ポートフォリオ構築の経験を事業会社の新規事業戦略立案に活かせる、といった視点です。
ライフプラン・年収・働き方等のチェックリスト
転職を検討する際には、年収だけでなく、自身のライフプラン全体を見据えたチェックリストを作成することをおすすめします。
- 年収：希望年収は現実的か。前職よりアップするか、維持できるか。
- 働き方：残業時間、リモートワークの可否、休暇の取りやすさなど、ワークライフバランスは維持できるか。
- キャリアパス：長期的なキャリアプランに合致するか、将来的な成長機会があるか。
- 企業文化：自身の価値観や働き方に合うか。
- 居住地：転勤の有無、希望する勤務地か。
これらの要素を総合的に検討し、優先順位をつけることで、後悔のない転職を実現できるでしょう。
まとめ
アセットマネジメント業界で得たものの活かし方
アセットマネジメント業界で働くことは、高度な金融知識、市場分析力、リスク管理能力、そして顧客との深い信頼関係を築くコミュニケーション能力といった、非常に価値の高いスキルと経験を身につける機会を提供します。たとえ「辞めたい」と感じたとしても、これらの経験は他の多くの業界・職種で応用可能であり、あなたのキャリアにおける強力な武器となります。特に、数字に基づいた論理的思考力や、複雑な情報を分かりやすく伝える能力は、どの分野でも重宝されるでしょう。
後悔しないキャリア選択のためのヒント
後悔しないキャリア選択をするためには、まず自己分析を徹底し、自分の本当にやりたいこと、得意なこと、そして譲れない価値観を明確にすることが重要です。その上で、アセットマネジメント業界に残るにしても、他の業界へ転職するにしても、自身のキャリアビジョンに合った選択肢を幅広く検討しましょう。業界のトレンドや将来性を理解し、必要なスキルや資格を計画的に習得することも大切です。
最後に
アセットマネジメント業界は、日本の「資産運用立国」推進の追い風を受け、今後もその重要性を増していくでしょう。しかし、そこで働く一人ひとりのキャリアパスは多様であり、個々の「辞めたい」という感情の背景には様々な事情があります。この記事が、アセットマネジメント業界で働くことの魅力と課題、そして後悔しないキャリア選択のための具体的なヒントを提供できたなら幸いです。あなたのスキルと情熱が最大限に活かせる場所を見つけるために、積極的に情報収集を行い、最適な一歩を踏み出してください。
