【完全ガイド】MBAバリュエーションとは?理論と実践をわかりやすく解説

はじめに

記事の目的と想定読者

本記事は、MBAの学習を通じてバリュエーションの理論と実践を深く理解したいと考えているビジネスパーソンや、M&A、投資判断に関わる実務担当者を主な読者として想定しています。企業価値評価の基本から応用、さらにはMBAで学ぶ特徴までを網羅的に解説し、実務で役立つ知識の習得を目的とします。

バリュエーションの重要性と注目の背景

M&Aや資金調達、経営戦略の策定において、企業価値評価(バリュエーション)は不可欠なプロセスです。特に近年、東京証券取引所から上場企業に対して資本コストや株価を意識した経営が要請されるなど、企業価値経営への関心が高まっています。バリュエーションは、単に「会社の値段」を算出するだけでなく、企業の将来性やリスクを評価し、適切な意思決定を行うための重要なツールとして注目されています。

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バリュエーションの基本理論

バリュエーションとは何か

バリュエーションとは、企業や事業の経済的な価値を算定するプロセスです。これは、事業の収益性、保有資産、負債など多岐にわたる要素を総合的に評価し、金額に換算する行為を指します。M&Aにおける買収価格の決定基準となるほか、資金調達、事業承継、経営戦略の立案など、様々な場面でその必要性が高まっています。

企業価値算定の手法概観

企業価値算定には大きく分けて以下の3つのアプローチがあります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、評価対象の特性や目的に応じて最適な手法を選択することが重要です。

  • インカムアプローチ: 将来期待される収益やキャッシュフローに基づいて価値を評価する方法です。将来性を重視する評価に適しています。
  • マーケットアプローチ: 類似する企業や取引事例の市場価格を参考に、相対的な価値を評価する方法です。客観性が高いとされています。
  • コストアプローチ: 企業の保有する純資産に着目して価値を評価する方法です。現在の財産的価値を把握するのに適しています。

企業価値と会社価値の違いを理解する

企業価値、事業価値、株式価値といった用語は混同されがちですが、それぞれ異なる意味を持ちます。

  • 事業価値: 企業が行う事業活動によって生み出される価値。のれんや無形資産なども含む、事業の収益力そのものを指します。
  • 企業価値: 事業価値に、事業活動に直接関係しない非事業用資産(遊休資産、有価証券など)の価値を加えたものです。「事業価値 + 非事業用資産 = 企業価値」と表されます。
  • 株式価値: 企業価値から、株主以外の債権者に帰属する有利子負債などの他人資本を控除したもので、株主に帰属する価値を指します。「企業価値 - 有利子負債 = 株式価値」と表されます。

M&Aにおいては、特に「株式価値」をいかに正確に算定するかが重要になります。

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主要な評価手法とその使い方

DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)の概要

DCF法(Discounted Cash Flow Method)は、インカムアプローチの代表的な手法であり、M&Aの実務で最も広く用いられています。この方法は、企業が将来生み出すと予測されるフリーキャッシュフロー(FCF)を、その実現のために想定されるリスクを反映した割引率(加重平均資本コスト:WACC)で現在価値に割り引くことで企業価値を算定します。

  • メリット:
  • 企業の将来の収益力や成長性を評価に反映できる。
  • 理論的に堅固であり、ファイナンス理論に最も忠実とされる。
  • 様々なシナリオや前提条件を変更して評価できる柔軟性がある。
  • デメリット:
  • 将来のキャッシュフローや割引率の予測に主観的判断が入りやすく、結果が大きく変動する可能性がある。
  • 詳細な財務データや多くの前提条件が必要で、評価プロセスが複雑で時間がかかる。

DCF法による企業価値の計算は、主に以下の手順で行われます。

  1. 将来フリーキャッシュフロー(FCF)の予測: 企業の将来の売上高、費用、税金、運転資本、設備投資などを考慮し、通常3〜5年間のFCFを予測します。FCFは「税引後営業利益 + 減価償却費 – 設備投資 – 運転資本増加額」で計算されます。
  2. 割引率の算定: 将来FCFを現在価値に割り引くための割引率として、WACC(加重平均資本コスト)を算出します。WACCは株主資本コストと負債コストを加重平均したものです。株主資本コストはCAPM(資本資産価格モデル)を用いて算定されることが一般的です。
  3. 継続価値(ターミナルバリュー:TV)の計算: 予測期間以降の、企業が半永久的に生み出す価値を継続価値として算定します。ゴードンモデルが代表的で、「予測期間最終年度の次年度FCF ÷ (割引率 – 永久成長率)」で計算されます。
  4. 事業価値の算出: 予測期間中の各年FCFの現在価値と継続価値の現在価値を合計して事業価値を求めます。
  5. 株式価値の算出: 事業価値に非事業用資産を加算し、有利子負債を控除することで株式価値を算出します。

マルチプル法・PER活用手法の基本

マルチプル法(類似会社比較法)は、マーケットアプローチの一つであり、評価対象企業と類似する上場企業の株価や財務指標(売上、利益など)に倍率(マルチプル)をかけて、企業の相対的な価値を推定する方法です。

  • メリット:
  • 計算が比較的簡単で迅速に実施できる。
  • 市場で実際に取引されている企業のデータを参照するため、市場の視点を反映した客観性の高い評価が可能。
  • 業界内での標準的な評価方法として理解されやすい。
  • デメリット:
  • 完全に類似する企業を見つけることが難しい場合がある。
  • 市場の状況や一時的な要因(景気変動など)に評価が左右されやすい。
  • 評価対象企業固有の成長戦略や競争優位性が十分に反映されない可能性がある。

代表的なマルチプル(倍率)には、以下のようなものがあります。

  • PER(株価収益率): 株価が1株当たりの純利益の何倍かを示す指標。「時価総額 ÷ 当期純利益」で計算されます。
  • PBR(株価純資産倍率): 株価が1株当たりの純資産の何倍かを示す指標。「時価総額 ÷ 純資産」で計算されます。
  • EV/EBITDA倍率: 企業価値(EV)がEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)の何倍かを示す指標。「(株式時価総額 + 純有利子負債) ÷ EBITDA」で計算され、M&A実務で多用されます。

マルチプル法では、類似企業の選定が最も重要なステップであり、業種、規模、ビジネスの特徴、収益構造、成長性などに着目して慎重に行う必要があります。

定性評価(ブランド・人材価値等)の着眼点

定量的な財務指標だけでは捉えきれない、企業の無形資産の価値もバリュエーションにおいて重要です。ブランド力、技術力、ノウハウ、顧客基盤、立地条件、そして優秀な人材などは、企業の将来の収益を生み出す源泉となり得ます。

これらの定性的な要素は、DCF法における将来キャッシュフローの予測や、のれん(営業権)の算定に間接的に反映されることがあります。特に、スタートアップ企業など、現状の財務状況よりも将来のポテンシャルや独自の技術・ノウハウが重要視されるケースでは、これらの定性的な価値がバリュエーションに大きく影響を与える可能性があります。

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理論の実践応用とM&A事例

M&Aにおけるバリュエーションの実務例

M&Aにおいては、売り手と買い手の間で企業価値に対する認識が異なることが多いため、バリュエーションは交渉の土台として極めて重要です。

  • 交渉の円滑化: バリュエーションによって客観的な価格レンジが提示されることで、感情論ではない建設的な交渉が可能になります。
  • 意思決定の根拠: 買い手は、投資額が妥当であるかを判断し、株主や金融機関などのステークホルダーに対して、M&Aの妥当性を論理的に説明する責任があります。
  • デューデリジェンスとの連携: 基本合意後のデューデリジェンス(DD)で発見されたリスクやシナジー効果は、バリュエーション結果に反映され、最終的な買収価格の決定に影響を与えます。

日本企業におけるバリュエーションの応用

日本企業、特に中堅・中小企業では、上場企業と比較して事業計画の策定が進んでいないケースや、市場株価が存在しないといった違いがあります。このため、コストアプローチの「時価純資産+営業権法」がM&A実務でよく用いられます。これは、実態を反映した時価純資産に、企業の収益力である営業権を加味することで、継続的な価値を表現できるためです。また、日本M&AセンターのようなM&A仲介会社は、独自の取引事例データベースを活用し、マーケットアプローチの一種である「取引事例法」を適用することで、より相場感に近い企業価値の算定を可能にしています。

失敗例・成功例から学ぶポイント

M&Aの成功は、適切なバリュエーションだけでなく、その後のシナジー効果の実現にかかっています。

  • 失敗例: 買収価格が高すぎた場合、買収後の収益性が悪化し、財務的な負担が増大するリスクがあります。また、シナジー効果を過大に見積もった場合も、買収後の業績が予想を下回ることがあります。
  • 成功例: DCF法とマルチプル法を併用し、多角的な視点から企業価値を評価することで、よりバランスの取れたM&Aを実現できます。また、買収後に期待されるシナジー効果を具体的に数値化し、それをM&A価格に反映させることで、高値掴みを避けつつ、売り手にとっても魅力的な提案をすることができます。

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MBAで学ぶバリュエーションの特徴

MBAバリュエーションの体系・カリキュラム

MBAプログラムでは、「カネ系(ファイナンス・アカウンティング)」の領域において、バリュエーションを含む企業価値評価について体系的に学びます。多くのMBAでは、1年次に基礎科目を履修し、2年次にはより専門的な内容や実践的なプロジェクトに取り組むカリキュラムが組まれています。

  • 基礎科目: 会計管理、財務管理、経営科学、組織マネジメント、経済・社会・企業、生産政策、総合経営といった主要8領域の基礎を、多くはケースメソッドを通じて学びます。
  • 専門科目: コーポレートファイナンス、財務戦略、金融リスクマネジメント、金融市場・金融商品などの科目が提供され、金融・不動産に関連する多様な専門性を身につけたマネージャーやアナリストの育成を目指します。
  • 実践的な学習: ケースメソッドやフィールドラーニング、プロジェクト研究などを通じて、理論知識を実際のビジネス課題に応用する実践力を養います。

MBAでは、単なる計算方法だけでなく、企業倫理やイノベーションといった現代のビジネスに不可欠な視点も取り入れながら、長期的な視点での企業価値創造を目指す教育が行われています。

初学者や実務者へのアドバイス

バリュエーションは変数が多く、わずかな前提条件の変更でも結果が大きく変わるため、初学者にとっては難解に感じられるかもしれません。しかし、DCF法の仕組みやEBITDA倍率法との違いをざっくりと理解することから始めるのが良いでしょう。

実務者にとっては、精緻なDCF法バリュエーションを外部に依頼すると高額なコストがかかるため、ポイントを押さえた省力的な範囲で自社評価を行うことが現実的です。また、M&Aプロセスにおいて、セルサイド(売り手)もバイサイド(買い手)と同等以上に、自社の有意義なバリュエーションを行うことで、最適なM&A戦略の策定や好条件の実現に繋がります。

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書籍レビューとユーザーの感想

初心者向け参考書としての評価

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読者からのレビューと感想まとめ

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学びを最大化する活用法

バリュエーションの学習を最大化するためには、単に計算式を覚えるだけでなく、その背景にある理論的根拠や各手法のメリット・デメリットを深く理解することが重要です。また、M&Aや資金調達といった具体的なビジネスシーンでの活用事例を学び、様々なシナリオを想定した感度分析を行うことで、実践的な判断力を養うことができます。MBAで提供されるケースメソッドやフィールドラーニングのような実践的な学習機会を積極的に活用し、自身のビジネス経験と結びつけることで、より深い学びが得られるでしょう。

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まとめ・今後のバリュエーション学習のヒント

記事の総括

本記事では、MBAバリュエーションの基本理論から主要な評価手法(DCF法、マルチプル法)、M&Aでの実践応用、そしてMBAで学ぶ特徴までを幅広く解説しました。企業価値評価は、M&Aや資金調達、経営戦略の策定において不可欠なスキルであり、その重要性はますます高まっています。DCF法やマルチプル法といった定量的な分析手法に加え、ブランドや人材といった定性的な要素も考慮することで、より本質的な企業価値を捉えることができます。

今後学ぶべきトピックと実践への踏み出し方

バリュエーションの学習は奥深く、常に進化しています。今後は、以下のようなトピックにも注目し、継続的な学習と実践を心がけることが重要です。

  • 非財務情報の価値評価: ESG(環境・社会・ガバナンス)要素やサステナビリティといった非財務情報が企業価値に与える影響は大きくなっており、その評価手法についても理解を深める必要があります。
  • リアル・オプション法: 複雑な条件下での事業や、将来の選択肢の価値を評価するリアル・オプション法も、特に不確実性の高い事業において有効な評価手法として注目されています。
  • デジタル技術の活用: AIやデータサイエンスといったデジタル技術を活用したバリュエーションも進化しており、効率的かつ多角的な分析を可能にするツールとしてその活用方法を学ぶことも重要です。

バリュエーションの知識は、単なる数字の計算にとどまらず、企業の成長戦略やリスク管理、そしてM&Aを通じた価値創造に直結するものです。理論学習と実践経験を積み重ねることで、ビジネスにおける意思決定の質を高め、持続的な企業価値向上に貢献できる人材へと成長することができるでしょう。

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この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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