はじめに
教育訓練給付金とは何か
教育訓練給付金とは、働く人々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を目的とした国の制度です。厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が給付金として支給されます。この制度は、キャリアアップや再就職支援にも活用でき、雇用保険に加入していた期間などの一定条件を満たせば利用可能です。
MBA取得者が給付金を活用する意義
MBA(経営学修士)取得には、大学院の授業料や教材費など高額な費用が発生します。このため、金銭面でMBA取得を躊躇する人も少なくありません。教育訓練給付金を活用することで、これらの費用の一部を国から支援してもらい、経済的負担を軽減しながらMBA取得を目指すことができます。返済の必要がない給付金であるため、卒業後の金銭的な負担を心配することなく、学びとキャリア形成に集中できる点が大きなメリットです。
本記事の読者層(キャリアアップ希望者・働きながら学ぶ方 など)
本記事は、キャリアアップを目指す社会人、働きながらMBA取得を考えている方、または転職を視野に入れてスキルアップを目指す方に向けた内容です。特に、MBA取得における経済的な側面に関心がある方や、教育訓練給付金制度の具体的な利用方法を知りたい方に役立つ情報を提供します。
教育訓練給付金制度の基礎知識
三種類の教育訓練給付金(専門実践・特定一般・一般)
教育訓練給付金制度には、対象となる講座内容や給付率に応じて、以下の3種類があります。
- 専門実践教育訓練給付金
- 労働者の中長期的なキャリア形成を支援する目的で、専門的・実践的な教育訓練が対象です。MBAプログラムもこの区分に該当します。
- 特定一般教育訓練給付金
- 労働者の速やかな再就職や早期のキャリア形成に資する教育訓練が対象です。業務独占資格や名称独占資格の取得を目指す講座などが該当します。
- 一般教育訓練給付金
- その他の雇用の安定・就職の促進に資する教育訓練が対象です。簿記検定やTOEICなどの資格取得講座が該当します。
給付金の拡充と2024年最新情報
2024年10月1日以降に受講を開始する講座については、教育訓練給付金の給付率が引き上げられます。
- 専門実践教育訓練給付金
- 受講費用の最大80%(年間上限64万円)が支給されます。これは、受講中の50%(年間上限40万円)に加え、資格取得・就職で20%(年間上限16万円)、さらに訓練修了後の賃金が受講開始前と比較して5%以上上昇した場合に10%(年間上限8万円)が追加されるものです。
- 特定一般教育訓練給付金
- 受講費用の最大50%(上限25万円)が支給されます。これは、訓練修了後に40%(上限20万円)に加え、資格取得・就職で10%(上限5万円)が追加されるものです。
これらの拡充により、MBA取得を目指す際の経済的負担がさらに軽減され、より多くの人が学び直しに挑戦しやすくなっています。
奨学金・ローンとの併用可否
MBA取得の資金を確保する方法には、教育訓練給付金の他に奨学金や教育ローンがあります。 教育訓練給付金と奨学金は併用が可能です。ただし、返済義務のない給付型奨学金を受給する場合は、教育訓練給付の対象となる費用からその金額を差し引く必要があります。また、教育ローンも併用可能であり、日本政策金融公庫の教育ローンや民間銀行の教育ローンなどが利用できます。奨学金は卒業後の返済が一般的であるのに対し、教育ローンは借り入れ直後から返済が始まる場合が多いです。それぞれの制度の特徴を理解し、自身の資金計画に合った方法を選ぶことが重要です。
専門実践教育訓練給付金の概要と受給条件
制度の概要・対象MBAプログラム
専門実践教育訓練給付金は、厚生労働大臣が指定する専門的・実践的な教育訓練を受講する人を対象とした制度で、MBAプログラムもこの対象に含まれます。この制度は、働く人のキャリア形成を中長期的に支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的としています。
国内のMBAプログラムでは、多くの大学院が専門実践教育訓練給付金の対象講座として指定されています。対象となるプログラムは、通学型、オンライン型など様々です。
給付額と上限(最大128万円)
専門実践教育訓練給付金の基本的な給付額は、受講者が支払った教育訓練経費の50%です。年間上限は40万円で、訓練期間が2年の場合は最大80万円、3年の場合は最大120万円となります。
さらに、以下の条件を満たすことで追加給付が受けられ、最大で128万円が支給されます(2025年4月1日以降の入学者が対象)。
- 受講修了日から1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合、または引き続き雇用されている場合、自己負担額総額の20%が追加支給されます(年間上限16万円)。
- 上記に加え、訓練修了後の賃金が受講開始前と比較して5%以上上昇した場合、さらに自己負担額総額の10%が追加支給されます(年間上限8万円)。
受給対象者の要件(雇用保険加入期間など)
専門実践教育訓練給付金を受給するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 雇用保険の加入期間
- 初めて受給する場合:受講開始日までに通算2年以上の雇用保険被保険者期間があること。
- 過去に教育訓練給付金を受給したことがある場合:前回の受給日から今回の受講開始日までに通算3年以上の雇用保険被保険者期間があること。
- 離職者の場合:受講開始日が、最後に雇用保険に加入していた日から1年以内であること。
- 訓練前キャリアコンサルティングの受講
- 受講開始日の1ヶ月前までに、訓練対応キャリアコンサルタントによる訓練前キャリアコンサルティングを受け、「ジョブ・カード」を作成する必要があります。
公務員や自営業者は雇用保険に加入していないため、原則として対象外となります。
注意点・利用時のよくある質問
- 事前申請の必須性
- 専門実践教育訓練給付金は、受講開始前の事前申請が必須です。スクールに入学してからでは申請できません。
- 給付のタイミング
- 給付金は受講開始後、6ヶ月ごとに支給されます。そのため、受講開始時には費用を自己負担する必要があります。
- 制度の利用制限
- 一度専門実践教育訓練給付金を利用すると、次回利用するまでに3年以上の雇用保険加入期間が必要です。
- 失業中の支援
- 失業中の方が専門実践教育訓練を受講する場合、一定の条件(受講開始時に45歳未満など)を満たせば、「教育訓練支援給付金」も併せて受給できる可能性があります。
給付金申請の流れと必要書類
申請スケジュール(入学前・在学中・修了後)
専門実践教育訓練給付金の申請は、大きく3つのフェーズに分かれます。
- 入学前(受講開始日の1ヶ月前まで)
- 受給資格の確認と「訓練前キャリアコンサルティング」の受講が必須です。キャリアコンサルティングで「ジョブ・カード」を作成し、必要書類を揃えてハローワークに提出します。
- 在学中(6ヶ月ごと)
- MBAプログラム受講中は、6ヶ月ごとに給付金の支給申請をハローワークで行います。
- 修了後(修了日の翌日から1ヶ月以内、追加給付は1年以内)
- プログラム修了後、所定の期間内にハローワークに支給申請を行います。資格取得や賃金上昇による追加給付を受ける場合も、別途申請が必要です。
必要なキャリアコンサルティングと申請手続き
専門実践教育訓練給付金を受給するには、訓練対応キャリアコンサルタントによる「訓練前キャリアコンサルティング」の受講が義務付けられています。このコンサルティングでは、就業目標や職業能力の開発・向上に関する事項を明確にし、「ジョブ・カード」を作成します。このジョブ・カードは、受講前申請時の必須書類となります。コンサルティングは電話での予約が必要な場合が多く、早めに手続きを進めることが重要です。
ハローワークでの手続きと提出書類
ハローワークでの申請手続きには、以下の書類が必要です。
- 受講前
- 教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格確認票
- ジョブ・カード(訓練前キャリアコンサルティングでの発行から1年以内のもの)
- 本人・住所確認書類、マイナンバー確認書類
- 雇用保険被保険者証
- 写真2枚
- 金融機関の通帳またはキャッシュカード
- その他、過去に受給がある場合は専門実践教育訓練給付及び特定一般教育訓練給付再受給時報告など
- 在学中の支給申請時(6ヶ月ごと)
- 教育訓練給付金の受給資格者証
- 教育訓練給付金支給申請書
- 専門実践教育訓練修了証明書または受講証明書
- 領収書
- 修了後の支給申請時
- 教育訓練給付金の受給資格者証
- 教育訓練給付金支給申請書
- 専門実践教育訓練修了証明書
- 領収書
- その他還付金やクレジット払いなどの事実を証明する書類
- 資格取得等を証明する書類(追加給付申請の場合)
提出書類は多岐にわたるため、厚生労働省のウェブサイト等で詳細を確認し、漏れなく準備することが重要です。
申請時の注意事項とオンライン申請のポイント
- 申請期限の厳守
- 各申請フェーズには厳格な期限が設けられており、期限を過ぎると給付金を受け取れない可能性があります。特に受講前申請は、受講開始日の1ヶ月前までという点に注意が必要です。
- 書類の原則持参
- 原則として、ハローワークの窓口に必要書類を持参して申請します。
- 電子申請の活用
- 2024年2月1日以降、教育訓練給付金の受給資格確認および支給申請は電子申請が可能になりました。これにより、自宅からでも手続きが行えるようになり、利便性が向上しています。ただし、教育訓練支援給付金の失業認定は電子申請ではできません。
- 合否発表前の申請
- 入学試験の合否発表が遅くなる場合でも、合否に関わらず先行して申請手続きを進めることが推奨されます。
対象となるMBAプログラムと学費事例
給付金対象となる国内主要MBAプログラムのタイプ
専門実践教育訓練給付金の対象となる国内MBAプログラムは多岐にわたり、通学型とオンライン型、フルタイムとパートタイム(夜間・週末)など、様々な学習スタイルに対応しています。多くの大学院が対象として指定されており、自身のキャリア目標や学習環境に合わせて選択肢を検討できます。
オンライン・通学型の違いと選択ポイント
- 通学型MBA
- 多くの国立・私立大学院で提供されており、キャンパスでの対面授業を通じて、教員や他の学生との密な交流が可能です。ネットワーキングを重視する方や、集中的な学習環境を求める方に向いています。
- オンライン型MBA
- 働きながら学ぶ社会人にとって柔軟な学習を可能にする選択肢です。場所や時間の制約が少なく、自身のペースで学習を進められます。近年では、多くのオンラインMBAプログラムが給付金の対象となっています。
選択のポイントとしては、自身のライフスタイル、仕事との両立の可否、学習スタイルへの好み、そして各プログラムのカリキュラムや専門分野がキャリア目標と合致しているかなどを考慮することが挙げられます。
学費と給付金活用時の自己負担イメージ
国内MBAの学費は、国公立であれば2年間で100万円台、私立であれば2年間で200万円から300万円台が目安となります。給付金を活用した場合、この自己負担額を大幅に軽減できます。
例えば、総額300万円の2年間MBAプログラムを修了し、資格取得・就職、さらに賃金上昇の条件を満たした場合、最大128万円の給付金が支給されると、自己負担額は約172万円まで抑えることができます。給付金は受講中に半年ごとに支給されるため、資金計画を立てる際には、一時的な自己負担が必要となる期間を考慮しておく必要があります。
体験談・ケーススタディ
利用者の声:年齢別・キャリア別の活用例
教育訓練給付金を活用してMBAを取得した方々の体験談は、多様な背景を持つ人々に勇気を与えています。
- キャリアアップを目指す若手ビジネスパーソン(20代・30代)
- 「費用対効果に不安を感じていましたが、給付金を利用して収入アップを実現できれば、MBAへの投資価値も十分にあると判断しました。事務局の方からの『後になればなるほどライフイベントが重なる可能性が高い』というアドバイスも後押しとなり、最適なタイミングで出願できたと実感しています。」
- 働きながら学ぶ社会人
- 「仕事を続けながらMBAを取得したかったので、出張などで授業を欠席しても振り替え受講ができる制度がある学校は魅力的でした。費用面では、給付金制度を利用できたことで学費を圧縮でき、経済的な不安なく学習に専念できました。」
これらの声から、給付金が経済的な障壁を取り除き、キャリア形成の機会を広げていることがうかがえます。
給付金を活用しながらMBA取得を目指すポイント
- 早期の情報収集と計画
- 給付金制度は事前申請が必須であり、申請書類も多いため、早めに情報収集を行い、綿密な計画を立てることが成功の鍵です。
- ハローワークへの相談
- 自身の受給資格や申請に必要な書類、手続きの詳細は、必ず最寄りのハローワークで確認しましょう。個別の事情に応じて、適切なアドバイスを受けることができます。
- 対象講座の選定
- 自身が目指すキャリアプランに合ったMBAプログラムが、専門実践教育訓練給付金の対象となっているかを確実に確認することが重要です。年度によって指定講座が変わる可能性もあるため、最新情報をチェックしましょう。
- 学習の継続と修了
- 給付金は講座を修了することが条件となるため、途中で挫折することなく学習を継続し、修了要件を満たすことが不可欠です。
失敗しないための注意点
- 申請期限の見落とし
- 受講前申請の期限(受講開始日の1ヶ月前まで)を過ぎてしまうと、給付金を受けられなくなります。
- 受給条件の誤解
- 雇用保険の加入期間や過去の受給歴など、自身の受給資格を正確に把握していないと、申請後に不支給となる可能性があります。
- 必要書類の不備
- 提出書類に不備や不足があると、手続きが遅れたり、最悪の場合は給付金を受け取れなくなったりすることがあります。
- オンライン/通信制講座の条件
- 教育訓練支援給付金は、原則として通信制や夜間制の講座は対象外となるため、注意が必要です。
よくある質問と最新トピックス
給付金と奨学金の違い
教育訓練給付金と奨学金は、ともに学費を支援する制度ですが、いくつかの重要な違いがあります。
- 返済の有無
- 教育訓練給付金は、条件を満たせば返済不要な「給付」です。
- 奨学金には返済不要な「給付型」と返済が必要な「貸与型」があります。貸与型奨学金は、卒業後に返済義務が生じます。
- 支給条件
- 教育訓練給付金は、雇用保険の加入期間や訓練前キャリアコンサルティングの受講などが主な条件です。
- 奨学金は、学力や経済状況(世帯収入など)が主な審査基準となります。
- 支給目的
- 教育訓練給付金は、働く人の主体的な能力開発やキャリア形成、雇用の安定・再就職促進を目的としています。
- 奨学金は、経済的な理由で修学が困難な学生への学資支援を目的としています。
海外MBAは対象になる?
これまでは国内MBAが専門実践教育訓練給付金の主な対象でしたが、厚生労働省の検討により、「日本国内で外国の大学院の修士(MBA)の取得を目標とする課程」も対象となり得る場合があります。ただし、この場合、国際認証(AACSB, EFMD, AMBAなど)を取得しているか、世界大学ランキングで上位(300位以内を想定)であること、就職・在職率80%以上といった厳しい条件を満たす必要があります。海外MBAを検討している場合は、個別のプログラムが指定講座となっているか、最新の情報を確認することが不可欠です。
制度利用の裏ワザ・今後の制度変更予測
- 支給要件照会
- 申請前に、ハローワークで「支給要件照会」を行うことで、自身の受給資格の有無や希望する講座が対象であるかを事前に確認できます。
- オンライン申請の活用
- 2024年2月1日より、受給資格確認と支給申請の一部が電子申請可能になり、手続きの利便性が向上しました。
- 教育訓練休暇給付金の新設(2025年10月)
- 2025年10月からは、教育訓練を受けるために仕事を休み無給になった場合に、雇用保険に5年以上加入する人を対象に「教育訓練休暇給付金」が新設されます。これは失業給付と同額の手当が最長150日支給されるもので、働きながらの学び直しを強力に後押しする制度として注目されています。
- 給付率のさらなる拡充
- 2024年10月1日以降に開講する講座では、専門実践教育訓練給付金において、賃金上昇の条件を満たした場合の追加給付が強化され、最大80%の給付率となります。
今後も、政府のリスキリング推進政策に伴い、教育訓練給付金制度がさらに拡充される可能性があります。最新情報は厚生労働省のウェブサイト等で定期的に確認することをおすすめします。
まとめ・次のステップ
申請に迷ったら何をすべきか
MBA取得に向けた教育訓練給付金の申請に迷った場合は、以下のステップを踏むことが重要です。
- 最寄りのハローワークに相談する
- 自身の受給資格の有無、対象講座、必要な書類、申請手続きの詳細など、個別の事情に応じて最も正確な情報を得られます。訓練前キャリアコンサルティングの予約もここから行います。
- 大学院の事務局に問い合わせる
- 検討しているMBAプログラムが教育訓練給付金の対象講座であるか、具体的な認定基準や申請に関するサポート体制について確認しましょう。
- 厚生労働省の公式ウェブサイトで最新情報を確認する
- 制度の変更や拡充に関する最新情報が掲載されています。
公式情報・相談窓口の紹介
- 厚生労働省
- 教育訓練給付制度に関する総合的な情報が提供されています。
- ハローワーク
- 各地域の管轄ハローワークで、受給資格の確認や申請手続きに関する相談が可能です。
- 教育訓練講座検索システム
- 厚生労働省が提供するシステムで、対象講座を検索できます。
- キャリアコンサルタント
- 専門実践教育訓練給付金の申請には必須となる訓練前キャリアコンサルティングを通じて、自身のキャリアプランと学習計画を具体化するサポートを受けられます。
MBA取得は、キャリアアップや自己成長の大きな機会です。教育訓練給付金制度を賢く活用し、経済的な不安を解消しながら、理想のキャリア実現を目指しましょう。










