マーケットリスクからシステム監査へ──リスク視点を活かすキャリア転換のステップ

近年、金融業界や大企業を中心に、サイバーセキュリティの強化やITガバナンスの重要性が高まる中で、「システム監査」職の需要が増加しています。その一方で、マーケットリスク管理の分野で培った「リスク分析力」や「内部統制への理解」を活かして、システム監査業務へキャリアチェンジを目指す方も増えています。本記事では、マーケットリスク出身者がシステム監査へ転職するためのステップ、活かせるスキル、選考対策、志望動機・職務経歴書の記載例まで、実践的に解説していきます。

目次

1. マーケットリスクとシステム監査の業務の違い

まずは両者の業務領域と視点の違いを整理しておきましょう。

項目マーケットリスク管理システム監査
主な目的金融商品取引に伴う市場リスクの評価と管理ITシステムの統制状況の監査・リスク検証
分析対象為替・債券・株式などのポジション基幹システム、セキュリティ体制、開発・運用フロー
視座数値的リスクの定量評価とレポーティング統制の有効性、法令・社内規定への準拠性
関与部門市場部門、ALM、経営企画IT部門、内部監査部門、経営監督

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2. マーケットリスク経験で活かせるスキル

マーケットリスク業務で培ったスキルの多くは、システム監査においても強みとなります。具体例は以下の通りです。

  • リスクアセスメントの視点:VaRやストレステストを通じたリスク評価力
  • 内部統制との親和性:三線モデルや内部監査との連携経験
  • データリテラシー:SQL、Excel VBA、BIツールの利用経験
  • レポーティング能力:経営層向け報告資料の作成スキル
  • 規制対応経験:バーゼルⅢ、FRTBなど、コンプライアンスへの理解

特に、システムのリスクを「業務・ビジネス」の文脈で捉えられる人材は、現場からの信頼も得やすく、監査人として高く評価されます。

3. 転職成功のための5ステップ

  1. システム監査の基礎知識を習得:IT統制、システム開発工程、情報セキュリティマネジメント等
  2. 業務経験の棚卸し:リスク評価・内部統制・IT関連業務など、関連性の高いエピソードを整理
  3. 監査思考の訓練:「証拠」「リスク仮説」「統制活動の妥当性」をロジカルに検証する練習
  4. 面接対策:なぜリスク管理から監査に?を納得感ある言葉で語れるように準備
  5. 資格取得/学習実績の提示:情報処理安全確保支援士やCISAなどの取得または学習履歴を伝える

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4. 資格・知識面の補強ポイント

必須ではありませんが、以下の資格・知識があると転職活動で優位になります。

  • 公認情報システム監査人(CISA)
  • 情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)
  • 内部監査士、CIA(公認内部監査人)
  • ITIL Foundation、PMPなどのプロセス系資格

また、IPAやISACAが提供する無料オンライン教材なども、学習の証拠として活用できます。

5. 職務経歴書の書き方

下記のように、IT・統制・リスクといった切り口でアピールするのが効果的です。

  • 市場リスク管理体制の高度化プロジェクトに従事(リスク計測ロジックの整備)
  • FRTB対応に伴うリスク計測プロセスの整備・文書化を主導
  • 取引システムのエラーチェック・ログ監視運用の設計
  • 社内規定に基づく日次レポート自動化ツール(Excel VBA)を作成・運用

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6. 志望動機の例文

内部統制とシステム運用への関心、IT統制の重要性の理解を中心に構成します。

【志望動機例】

私はこれまで、金融機関においてマーケットリスク管理業務に従事し、リスクの定量評価やレポーティングに加え、リスク関連システムの精緻化やログ分析等、技術面からの改善提案にも取り組んでまいりました。そうした経験を通じて、業務に直結するITシステムの統制が企業の健全性に直結することを実感し、より横断的・俯瞰的にリスクを捉える立場として、システム監査業務にチャレンジしたいと考えるようになりました。今後は、ITと業務の橋渡しとなる視点で、御社の統制環境強化に貢献していきたいと考えております。

7. まとめ

マーケットリスク管理出身者は、定量評価や統制理解といったスキルを備えた「ロジカルに考え、業務を改善する力」を持っています。システム監査においても、それらのスキルは直接的な武器となり、ITやガバナンスに対する探究心と合わせてアピールすれば、十分に転職を成功させることができます。

「守る側」から「評価し、改善につなげる側」へのキャリアシフトは、あなたの視野と価値を広げる第一歩になるはずです。


【職務経歴書(サンプル)】

氏名:中村 翼
生年:1989年生まれ

■職務要約:
大手銀行のリスク統括部門にて、約7年間にわたりマーケットリスク管理業務を担当。VaRやストレステストの設計、FRTB対応プロジェクトへの参画、システム連携に伴うリスク評価・ログ分析業務などに従事。近年は内部統制・IT統制にも関心を持ち、業務を通じて改善提案を実施。今後は、ガバナンス強化とシステム統制の要となるシステム監査領域での活躍を志向。

■職務経歴:
◯◯銀行株式会社(2016年4月~現在)
所属:リスク統括部 マーケットリスク管理課
・市場リスク計測(VaR/ES/ストレステスト)およびレポート作成
・FRTB規制対応に伴う計測ロジックのシステム化
・リスク管理データベースの正確性検証、ログ分析
・社内規定に基づく業務フローの標準化と文書化
・IT関連部門とのシステム連携、リスク視点でのレビュー

■保有資格:
・基本情報技術者試験 合格
・CISA受験予定(2025年)
・TOEIC 835点

■学歴:
大阪大学 経済学部卒(2012年3月)

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)