JAL初の女性社長、鳥取三津子のキャリアの歩み
客室乗務員からスタートした異例の経歴
鳥取三津子氏のキャリアは、1985年に東亜国内航空(後の日本エアシステム、現日本航空)への入社から始まりました。その際、彼女は客室乗務員としてスタートし、サービス業務を通じて顧客との直接的な接点を持ちながら経験を積んできました。1985年と言えば、JALの歴史に残る御巣鷹山のJAL123便事故が発生した年でもあります。このような逆境の中でキャリアをスタートさせた鳥取氏の歩みは、当時から強い責任感と使命感を育んできました。客室乗務員出身で社長にまで昇進するという異例の経歴は、航空業界全体では珍しく、特にJALの歴史において注目される存在と言えます。
旧日本エアシステム時代の経験と影響
鳥取三津子氏は、日本航空と経営統合する前の日本エアシステムでの経験を積み重ね、管理職としてのスキルを磨いていきました。元々サービス品質に定評のあった日本エアシステムでの経験は、JALの顧客体験向上に寄与する重要な土台を築くこととなります。同時に、経営統合による企業文化の融合という難題も経験しており、このことが彼女のキャリアにおける重要なターニングポイントとなりました。多様な経験から得た深い洞察力と適応力が、彼女を現在のリーダーシップに導いています。
女性初の社長就任までの背景
鳥取三津子氏は、多数の管理職を経て、2020年には執行役員に就任し、その後も客室本部長やカスタマー・エクスペリエンス本部長を歴任しました。2023年には代表取締役専務執行役員に昇進し、日本航空の顧客体験全体を統括する立場にありました。彼女のこれまでの実績とリーダーシップは、JAL内部からも高い評価を得ており、「社員の力を最大限引き出すリーダー」として認められています。そして2024年4月には、JAL初の女性社長に就任します。彼女の社長就任は、これまでの努力と実績が認められた結果であり、JALが多様性推進に向けて一歩を踏み出す象徴的な出来事でもあります。
多様性推進における象徴としての役割
鳥取三津子氏がJALの社長に就任することは、同社における「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)」の進展を強く示すものです。日本航空では、近年、女性役員や女性管理職の比率を高めるための施策が進められており、それらの取り組みの成功例の一つが鳥取氏の昇進と考えられます。彼女自身が社長の座に就くことで、同社が目指している多様性の実現がより具体的なものとして広く認識されるでしょう。また、航空業界や日本全体における女性リーダー育成の成功モデルとして、彼女の存在が次世代の女性リーダーに対する希望を与えるものと期待されています。
逆境を乗り越えたリーダーシップ
コロナ禍による航空業界の危機と対応
コロナ禍は航空業界全体にとってこれまでにない大きな試練となりました。日本航空(JAL)も例外ではなく、国際線の運休や需要の急激な減少により経営環境は厳しさを増しました。その中で鳥取三津子氏は執行役員として客室本部を率い、会社の維持と顧客満足度の両立に取り組みました。業務効率化と経営資源の適切な配分を行いながら、社員の雇用維持と安全な運航を最優先とする方針を掲げたことが印象的です。さらに、社員間での情報共有やサポート体制を強化し、全体の士気を向上させるリーダーシップを発揮しました。
多くの壁に立ち向かった過去のエピソード
鳥取三津子氏のキャリアには多くの試練がありました。彼女が入社した1985年には御巣鷹山でのJAL123便事故が発生し、航空安全が揺らぐ時代でした。客室乗務員として出発した彼女は、自らの役割以上に業務を支える姿勢で、各部署との連携強化や安全管理に積極的に取り組みました。また、業務の効率化や人員管理の最適化など、旧日本エアシステム時代の経験も活かし、多様な問題に果敢に立ち向かう姿勢が評価されました。そんな彼女の歩みには、逆境を乗り越えるための努力と学びが常に存在していたのです。
組織改革におけるリーダーシップの発揮
鳥取氏が注力した改革の一つが、組織文化の醸成と業務プロセスの見直しです。コロナ禍以前から「顧客第一」を掲げるカスタマー・エクスペリエンス本部長として、サービスの質を向上させつつ、安全管理体制の強化にも取り組みました。また、執行役員時代には、女性役員の増加といったダイバーシティ推進にも力を注ぎました。組織全体に多様性の重要性を浸透させながら、社員一人ひとりが能力を発揮できる環境づくりを進め、現場を信頼する経営スタイルを確立しています。
社員との信頼関係の構築
鳥取氏は社員との信頼構築を最優先に考え、直接的な対話を大切にするリーダーとして知られています。特に、コロナ禍の困難な状況下では、社員に対する丁寧な説明と意見を聞く姿勢が高く評価されました。また、困難な決断をする際にも、その背景や目的を社員にしっかり共有することで、信頼関係を築きました。その結果として、社員一人ひとりが危機をチーム全体の課題として受け止め、共に挑む強い文化が醸成されています。社員からも支持を得られるリーダーシップを発揮することで、組織全体の一体感を生み出したのです。
女性リーダーが増える意義とその課題
日本航空の女性管理職比率の向上施策
日本航空では、女性管理職比率を高めることを重要な経営課題として掲げています。現在、女性管理職比率は約23%であり、2025年までに30%に到達することを目標としています。この取り組みは、単なる数字を達成するだけではなく、多様性の価値を企業全体に浸透させることに重きを置いています。具体的には、女性がリーダーとして成長できる研修プログラムの強化や、働きやすい職場環境の整備などが進められています。
さらに、JAL初の女性社長である鳥取三津子氏の就任は、目標に向けたシンボル的な出来事でもあります。鳥取氏には、実績をもとに女性がトップ層に達するロールモデルとしての役割が期待されており、これが他の女性社員のキャリア意識向上にも寄与するでしょう。
女性がトップになるための道のり
女性が企業のトップに立つためには、さまざまなハードルを乗り越えなければなりません。JALのような歴史ある企業において、女性が初めて社長に就任したという事実は、その道のりが容易ではなかったことを物語っています。鳥取三津子氏は客室乗務員からキャリアをスタートさせ、多くの現場経験を積み重ねながら、組織運営やマネジメント能力を磨いてきました。彼女のような例は、女性がリーダーになる可能性を実証する力強い事例です。
一方で、女性がトップに立つためには、組織全体の意識改革や支援体制の充実も欠かせません。公平性を保った評価制度の整備や、育児や介護とキャリアの両立をサポートする制度の充実が求められています。このような支援により、持続可能かつより多くの女性リーダーが生まれる環境が整います。
世界的視点で見る日本の女性役員の現状
世界的な視点で見ると、日本の女性役員比率は依然として低い水準にとどまっています。日本政府は2020年までに女性役員比率を30%以上とする目標を掲げましたが、未だ達成には至っていません。これに対し、欧州や北米では女性役員の比率が増加しており、特に北欧諸国では法令による女性登用の推進が成果を上げています。
JALの役員の男女比率は男性が11名、女性が3名(比率21.4%)と、国内平均を上回る状況にありますが、世界的基準から見るとさらなる改善が必要です。現在の取り組みを深化させ、多様性とジェンダー平等の観点からグローバルな競争力を強化することが日本企業全体の課題でもあります。
女性リーダーが直面する共通の課題とは
女性リーダーが直面する課題には、性別に基づく固定観念や先入観、加えて働き方やキャリアの両立に関する問題が挙げられます。特に、日本ではリーダーシップという役割が未だ男性中心であるという認識が根強く、女性がリーダーとして評価されるためには、男性以上に結果を求められる場合があります。
また、家庭と仕事のバランスを取るための環境整備も課題です。一般的に女性リーダーは育児や家事の負担を負うことが多く、その現状がトップへの進出を阻む要因となることもあります。加えて、メンターやネットワーク不足も一因です。女性リーダーが増えることで、次世代の女性たちが支援を得やすくなる仕組みを生むことができます。相互支援の体制を築くことこそが、女性リーダーが直面する課題を乗り越えるための鍵と言えるでしょう。
鳥取三津子社長から未来のリーダーたちへのメッセージ
自身の経験から語るリーダーシップの本質
鳥取三津子社長は、自身のキャリアを通じて培ったリーダーシップの本質について語っています。客室乗務員からスタートした経歴は異例とも言えますが、現場の視点を持つことの重要性を常に意識してきたといいます。彼女は、現場で得た知識と経験が意思決定において大きな役割を果たしていると述べています。リーダーシップとは、単に指示を出すだけでなく、チーム全体の力を引き出し、共に課題を克服する力だと鳥取社長は強調しています。JALの女性役員としての歩みからも、人と人をつなぐコミュニケーション力がリーダーシップには欠かせない要素だと感じさせられます。
多様性がもたらす組織へのメリット
鳥取社長は、組織における多様性の推進を重視しています。彼女自身がJAL初の女性社長という新たな道を切り開いたことは、多様性の重要性を実証する象徴的な存在になっています。多様性のある組織は、異なる視点やアイデアを取り入れることで問題解決力が向上し、イノベーションが生まれると鳥取社長は述べています。また、女性役員や管理職の比率の向上が、JAL全体の成長に大きく寄与すると考えています。これからの航空業界では、性別や国籍を問わず優れた人材が活躍できる環境を整備することが競争力の源泉となると確信しているのです。
次世代への期待とメッセージ
未来のリーダーたちに向けて、鳥取社長は強い期待を抱いています。彼女は、自身の経験を通じて「何事にも恐れずにチャレンジする姿勢が、最終的には自信と成長をもたらす」と語っています。また、女性リーダーの役割がますます注目される現代において、性別や背景に関係なく、自分らしくリーダーシップを発揮することが重要だと述べています。彼女がJALで実現してきた多様性や信頼に根ざした経営哲学は、次世代のリーダーにとっても大いに学ぶべき点が多いと言えるでしょう。そして最も大切なメッセージとして、「人と人を結びつける力」が最大の価値になる未来を共に築いていこうと呼びかけています。