コトラ（広報チーム） 
取締役委任契約書とは？その基本と役割
取締役委任契約書が必要な理由
取締役委任契約書は、企業と取締役との間で取締役の責任や義務を明確化するための重要な書類です。取締役は企業の業務運営において非常に重要な役割を担うため、契約書の作成を通じてその職務内容や権限を明示することが求められます。役員としての法的責任が明確化されると同時に、企業と取締役の双方がリスクを適切に回避することが可能になります。また、社外取締役の設置義務が進む近年では、外部の取締役を迎える際にもこの契約書の重要性がさらに高まっています。
会社法と民法の関連性
取締役委任契約書は、会社法や民法の規定に基づいて作成されます。会社法第329条で取締役が役員として規定されており、第330条では取締役との関係が民法上の「委任契約」に基づいて成立することが示されています。具体的には、民法第643条に記される「委任」とは、法律行為の執行を他者に委託する契約形式を指します。また、民法第644条で求められる「善良な管理者の注意義務」は、取締役が業務を行う上で重要な責務となります。これらの法律を正しく理解した上で、契約内容に反映させることは、契約書作成の際に必要不可欠です。
委任契約と取締役の関係
取締役の立場は一般的な従業員とは異なり、雇用契約ではなく委任契約に基づいています。民法第648条によれば、委任契約に基づき報酬請求権が発生しますが、報酬の額や支払い条件は契約書で詳述される必要があります。また、企業の経営責任や意思決定に関与する一方で、業務執行上では労働基準法の適用から外れるため、残業手当の支払い義務がない場合もあります。このように、委任契約に基づく取締役の業務形態は一般的な労働契約とは異なるため、契約書による詳細な取り決めが必要となるのです。
取締役委任契約書の重要性
取締役委任契約書の重要性は、取締役の職務範囲を法律で保護するだけでなく、会社と取締役の双方が互いの責任を正しく理解し、トラブルを未然に防ぐことにあります。この契約書では、報酬や経費負担に関する取り決め、任期や解任条件、さらに秘密保持義務や競業避止義務などが明示されます。これにより、取締役が業務に集中できる体制を構築し、企業自体もコンプライアンスの遵守を徹底することが期待されます。特に近年、改正民法の影響や企業に期待されるガバナンス強化の流れを受け、取締役委任契約書の整備はますます不可欠となっています。
取締役委任契約書に記載すべき基本項目
取締役の権限と義務の明確化
取締役委任契約書には、取締役の権限や義務を明確に記載することが重要です。これは企業経営における混乱やトラブルを未然に防ぐためであり、法律的なリスクの軽減にも寄与します。特に、取締役としての権限範囲を明確にすることにより、業務執行上の責任の所在が明らかになり、意思決定の円滑化に繋がります。また、民法第644条の「善良な管理者の注意義務」を遵守することを盛り込み、適切な業務執行を求める内容にすることで、企業と取締役双方の信頼関係を強化することができます。
報酬や経費に関する取り決め
取締役委任契約書において、報酬や経費の取り決めは非常に重要な項目です。民法第648条に基づき、取締役には報酬請求権が認められています。ただし、報酬額や支払い方法については、株主総会での決議を前提とする場合が多いため、契約書内でその手続きや基準をしっかりと規定しておく必要があります。また、経費に関しては、取締役の業務執行中に発生する交通費や通信費などをどの範囲で会社が負担するのか、具体的に記載するとトラブルの防止に役立ちます。
解任や任期に関する規定
解任や任期に関する規定も、取締役委任契約書で必ず記載すべきポイントです。会社法第329条および第330条に基づき、取締役の任期は通常、選任後2年以内の定時株主総会までとされていますが、それに沿った形で任期を明示することで、雇用関係との誤解を防ぐことができます。また、取締役の解任条件についても具体的に記載することで、予定外の解任に伴うトラブルや金銭的リスクを回避することが可能です。このように、役員としての契約が締結される際の重要なポイントを明文化することで、双方の合意を明確にします。
秘密保持義務の項目
取締役委任契約書を作成する際には、秘密保持義務の項目を含めることが欠かせません。取締役は、会社の経営上の重要な情報を扱う立場にあるため、その情報が外部に漏洩することは、企業の信頼や競争力を大きく損ねる原因となります。契約書には、在任中および退任後においても秘密保持を遵守する義務があることを明記し、違反した場合のペナルティや補償責任についても詳しく記述しておくと良いでしょう。この条項をしっかりと設定することで、情報漏洩リスクを大幅に軽減できます。
取締役委任契約書を作成するときの注意点
雛形だけに頼らないリスクとは
取締役委任契約書を作成する際に、インターネット上で提供されている雛形をそのまま使用することは避けるべきです。その理由は、雛形が作られた当時の法律や企業環境に即した内容であるため、現在の法改正や貴社の独自事情に適合しない可能性があるからです。また、大まかで抽象的な条項のみ記載されている場合、取締役の責任範囲や報酬条件など、具体的な取り決めが明確にできず、後のトラブルの原因になりかねません。取締役の就任や業務遂行においてリスクを最小限に抑えるためにも、雛形はあくまで参考程度に留め、自社の実情に沿った内容にカスタマイズすることが重要です。
記載すべき細部の検討ポイント
取締役委任契約書では、取締役の権限、義務、報酬、秘密保持義務など、細部まで明確に取り決めることが求められます。特に、解任プロセスや任期に関する記載が不十分だと、後のトラブルを招くおそれがあります。また、会社法や民法などの関連法規に基づき、法的整合性がある内容にする必要があります。さらに、取締役の責任範囲をきちんと規定することで、企業と取締役の双方が安心して契約を履行できる状況を整えることが不可欠です。
改正民法の影響を考慮する
近年の民法改正により、取締役委任契約にも影響が及ぶ可能性があります。特に、民法第644条は、委任契約における重要なルールであり、受任者（この場合は取締役）に対し、「善良な管理者の注意」を持って業務を遂行する義務を課しています。この改正によって責任範囲がより明確化される一方で、契約書の作成や運用において慎重な対応が求められます。法改正への対応不足は不要なリスクを招く可能性があるため、必ず現行法を反映させた上で契約書を作成しましょう。
弁護士への相談の重要性
取締役委任契約書を作成する際には、専門知識を持つ弁護士に相談することが重要です。弁護士に依頼することで、契約書が会社法や民法に準拠した内容であることを確認できるだけでなく、契約書をより実務的かつ具体的な内容に仕上げることが可能です。また、取締役が担う業務範囲や報酬条件、秘密保持義務など、会社ごとの事情に応じたカスタマイズを行う際にも、弁護士のサポートは強い武器になります。結果として、トラブル防止に役立ち、企業運営の安定性が高まるでしょう。
実際のトラブル事例とその回避策
取締役との契約解除における問題
取締役委任契約書が適切に整備されていない場合、契約解除時にトラブルとなるケースが少なくありません。例えば、契約期間中に突然取締役を解任する際、具体的な手続きや解任理由が契約書に明記されていないと、不当解任として法的な争いに発展する可能性があります。また、報酬や退職金の支払いに関する取り決めが明確でない場合も、取締役と企業の間で大きな対立を生む要因となります。
このようなトラブルを避けるためには、取締役委任契約書に契約解除に関する明確な条件や手続きを記載することが重要です。さらに、契約期間中のパフォーマンス評価や解任に至るプロセスを具体的に設け、トラブルの種を未然に防ぐことが求められます。
業務範囲の曖昧さが招くトラブル
取締役と委任契約を結ぶ際、業務範囲が曖昧であることから起こるトラブルも少なくありません。例えば、「業務全般を担当する」といった曖昧な表現では、取締役本人がどこまで責任を負うべきなのか、またどの範囲までが裁量の範疇であるかがわからなくなります。その結果、業務のアウトプットや判断を巡って企業と取締役間で摩擦が生じることがあります。
このような問題を防ぐには、取締役委任契約書内で取締役の具体的な職務範囲と責務を詳細に規定することが重要です。キーワードである「役員 委任契約」を中心とした契約内容で曖昧さを排除し、合意形成をしっかり行いましょう。
秘密保持義務違反の事例
取締役が在任中または退任後に企業の機密情報を外部に漏洩することでトラブルになる事例もあります。特に、秘密保持義務を契約書で定めていない場合、情報漏洩の際に取締役に対する責任を追及することが難しくなります。このようなトラブルは、企業の信用や競争力に悪影響を与えるだけでなく、法的措置に発展する可能性も高いです。
これを回避するには、取締役委任契約書に秘密保持に関する明確な条文を盛り込み、在任中のみならず退任後も一定期間は情報を守る義務を課すことが重要です。また、必要に応じて競業避止義務の条項を導入することも効果的です。
トラブル防止のための定期見直し
取締役委任契約書は一度作成すれば終わりではありません。法改正や経営環境の変化に応じて契約書の内容を見直すことが重要です。例えば、改正民法のような法的変更が加わると、既存の契約書の内容が法律に準拠しなくなるリスクがあります。また、企業が成長する中で取締役に求められる役割や責務が変化することも少なくありません。
このような背景を踏まえ、取締役委任契約書を定期的に更新し、法律的な整合性や現在の業務に適した内容であるかを検証することが必要です。さらに、変更時には弁護士などの専門家に相談し、法的リスクをゼロに近づける努力が求められます。