コトラ（広報チーム） 
インシデントとアクシデントの基本概念
そもそもインシデントとは何か？
インシデントとは、医療現場やその他の分野で使用される専門用語で、主に「問題や障害が発生したが、実際には重大な影響を及ぼさなかった事象」を指します。具体的には、エラーや予期せぬ出来事が発生したものの、患者への影響が限定的であった、または全くなかったケースを示します。例えば、薬の投与ミスに気づいてすぐに改善した場合や、記載ミスが事前に発見され患者に影響が出なかった場合などが該当します。インシデントを適切に管理することで、潜在的なリスクを特定し、未然に重大なアクシデントを防ぐことができるのです。
アクシデントの定義とその重要性
アクシデントは、インシデントとは異なり、実際に患者や関係者に影響を及ぼしてしまった有害事象を指します。医療分野においては、例えば薬の投与ミスによる副作用の発現、手術中のミスによる後遺症、さらには患者が死亡してしまう事例も含まれます。このようなアクシデントは、医療の安全性や信頼性に重大な影響を及ぼすため、報告と分析が非常に重要視されています。発生したアクシデントを体系的に把握し、再発防止策を講じることが、医療現場の品質向上につながります。
インシデントとアクシデントの違いを整理しよう
インシデントとアクシデントの違いは「患者への実際の影響」にあります。インシデントの場合は、事象が発生したものの患者に影響を及ぼさなかった、または影響が軽微であった状況を指します。一方でアクシデントは、発生した事象が患者に具体的な損害を与え、治療が必要だったり、生命の危険に関わる場合です。医療現場では、患者影響度に基づくレベル分類（例: レベル0から5）を用いて、インシデントとアクシデントを区別しています。この分類に基づく判断が、適切な対応策を講じる際に欠かせません。
医療分野での特有の意味—一般用語との違い
日常生活で使われる「インシデント」や「アクシデント」という言葉と、医療分野におけるこれらの意味には違いがあります。一般的には、インシデントは日常的な「出来事」や「偶発的な出来事」を指し、アクシデントは「事故」そのものを意味します。しかし、医療分野では、両者に患者への影響の有無や深刻度を基準とした厳密な定義が存在します。これにより医療従事者は、リスクの段階や対応の優先度を明確に判断しやすくなるのです。特に、医療用語としてのインシデントは報告や分析を通じて、アクシデントを未然に防ぐための重要なステップとされています。
なぜ違いを知ることが重要なのか
インシデントとアクシデントの違いを理解することは、医療現場での安全性向上において非常に重要です。これらを混同してしまうと、適切な対応や改善策を講じる機会を失いかねません。例えば、インシデント報告を正しく解析しないままだと、将来発生する可能性のあるアクシデントを防ぐことが難しくなります。また、この違いを理解しておくことで、医療従事者はリスクの大小を正確に認識し、迅速かつ適切な対応を取ることが可能になります。さらに、医療施設全体で共有することで、安全文化の醸成にもつながるのです。
医療現場におけるインシデントとアクシデントの現状
医療施設での事例と報告データ
医療施設において、インシデントやアクシデントの事例は報告の重要性が増しています。具体的には、患者の安全を脅かす可能性がある「インシデント」や、実際に患者に影響を及ぼした「アクシデント」は、いずれも重要な改善機会として報告されています。日本医療機能評価機構への報告義務に基づき、2024年度の調査ではレベル3b以上の重大インシデントの割合は全体の1.14%を占めています。このデータは医療の透明性を高めるとともに、再発防止策を策定するために活用されます。
頻度に応じたレベル分類とは
インシデントやアクシデントは、その頻度や影響度に応じてレベル分類されています。具体的には、患者影響度に基づく7つの分類が一般的です。たとえば、レベル0は「実施前の気づき」、レベル1は「影響がなかった状況」、レベル3b以降は実際に治療が必要な段階で、レベル5に当たる場合は患者の死亡が確認される事例になります。この分類は、医療施設内での迅速な情報共有や対策づくりに役立ち、また重大なインシデントに対しては特別な対応が求められます。
患者影響度の分類に基づく対策
患者影響度の分類に基づいて適切な対策を講じることが、医療現場の安全を守る重要な要素となります。たとえば、レベル0から2Aの軽微なインシデントでは、発生を振り返りながら再発防止策を検討します。一方、3B以上の重大なアクシデントの場合には、医療安全管理委員会が詳細な分析を行い、改善策を策定します。このプロセスによって、事故が繰り返される可能性を最小限に抑え、安全性の高い医療を提供するための重要な基盤を築いています。
医療現場での報告制度の重要性
インシデントやアクシデントの報告制度は、医療現場の安全を維持するための要となる仕組みです。この制度を活用することで、未然に問題を発見し、適切な対策を取ることが可能になります。たとえば、インシデント報告を行うことで、日常的に見落とされがちなエラーや潜在的なリスクを表面化させることができます。また、報告内容は医療安全委員会や職員研修の資料として活用され、現場での認識を深めるとともに、再発防止策の具体的なガイドラインを作成する上で非常に有用です。このように報告制度は、医療現場の安全文化を醸成し、患者と医療従事者双方を守るために不可欠な要素です。
インシデントとアクシデントを未然に防ぐための取り組み
リスクマネジメントの基本とは
医療現場におけるリスクマネジメントは、インシデントやアクシデントの発生を未然に防ぐための基盤となる取り組みです。リスクマネジメントの基本は、潜在的なリスクを特定し、それに伴う影響度合いと発生確率を評価することから始まります。そして、インシデントのレベル分類を活用することで、どのリスクが優先的に対応すべきかを明確にすることができます。
具体的には、患者に重大な影響を及ぼすリスク（例えば、レベル3b以上の事象）に対して重点的な対策を講じるとともに、レベル0や1の段階で気づきを得て早期の対応につなげることが求められます。このようなプロセスを継続的に行うことで、医療の安全性を高めることができます。
医療従事者の教育とトレーニング
医療従事者の教育とトレーニングは、インシデントやアクシデントを予防する上で欠かせません。特に、インシデント報告制度や患者影響度レベルに基づく分類の理解を深めることが重要です。教育プログラムでは、過去の事例検討を通じて、どのようなインシデントが起こりやすいのか、そしてその対応策について学ぶことができます。
さらに、シミュレーションやハンズオン研修を取り入れることで、実際の医療現場での対応スキルが向上します。これにより、医療従事者が潜在的なリスクを早期に察知し、的確に行動する能力を養うことが可能になります。
最新技術を活用した事故防止策
医療分野では、最新技術の活用がインシデントやアクシデントの発生を防止するための有効な手段となっています。たとえば、電子カルテやAIを活用したエラー検知システムは、入力ミスや漏れを未然に防ぐ働きをします。また、医療機器のモニタリングシステムや自動アラートシステムは、患者の状態変化をリアルタイムで検知し、医療従事者に迅速な対応を促す役割を果たします。
これらの技術は、人為的なエラーを減らすだけでなく、医療チーム全体の効率を向上させます。その結果、患者の安全性が高まり、医療全体の質の向上につながるのです。
情報共有とコミュニケーションの強化
医療現場での情報共有とコミュニケーションの強化は、インシデントやアクシデントを未然に防ぐために極めて重要な要素です。特に、多職種連携を円滑に行うためには、確実かつ安全な情報伝達が必要です。これを実現するためには、定期的なカンファレンスやチームミーティングを通じて情報交換の場を設けることが効果的です。
また、報告制度の充実や匿名でのインシデント報告が可能な仕組みを整えることで、医療従事者が安心してリスクやインシデント情報を共有できる環境を作ることができます。このような取り組みが、医療現場全体の安全性を向上させる礎となります。
患者と医療従事者の双方を守るための工夫
インフォームドコンセントの徹底
インフォームドコンセントを徹底することは、医療現場において患者の利益を守るために重要な取り組みです。これは、患者が医療行為を受ける前にその内容やリスク、代替案について詳しい説明を受け、自らの同意をもとに治療に参加できる権利を保障するプロセスです。インシデントやアクシデントの発生を防ぐためには、患者と医療者の間で適切な情報共有が必要であり、これが相互の信頼関係を築く鍵となります。また、患者影響度レベルが高まるリスクを未然に回避するため、複雑な医療行為ほど詳細な説明と確認が求められます。
患者自身の役割と安全確認
患者自身が安全確認に積極的に関与することも、医療現場でのインシデントを防ぐために重要です。例えば、処方された薬の内容や適切な服用方法を理解し、確認することが必要です。また、治療や検査における疑問点があれば医療従事者に質問し、不安を払拭することで安心して治療に臨むことができます。特に、患者自身が過去の病歴やアレルギー情報などを正確に伝えることは、リスクを軽減する重要な要素となります。このように患者が主体的に安全確認に関わることは、医療事故の予防に大きく貢献します。
インシデント・アクシデント報告から学べること
インシデントやアクシデントの報告は、医療現場の安全性を向上させるための重要なステップです。これらの報告によって、どのような状況でエラーや問題が発生したかを分析し、再発防止策を講じられるようになります。報告されたデータは、患者影響度レベルに基づいて深刻度が分類され、医療従事者が対策を検討するための材料となります。報告制度が透明性を高めることで、全体として医療サービスの質を向上させ、患者と医療従事者双方の安全をより確実なものにします。
医療現場全体での安全文化の醸成
医療現場全体で安全文化を醸成することは、インシデントやアクシデントを予防するための基盤となります。安全文化とは、すべての医療従事者が適切な情報共有や報告の必要性を認識し、お互いに協力する環境を指します。インシデントのレベル分類に応じた対応策を明確化し、改善に取り組む姿勢が組織全体で共有されることが求められます。また、研修や教育を通じて医療従事者にリスクマネジメントの知識を広め、患者も含めたコミュニケーションの強化を促進することが重要です。このように、安全志向を全体で意識することで、医療現場の信頼性が高まり、患者と医療従事者の安心感が生まれるのです。
