信託受益権とは?不動産証券化を例に仕組みと実務活用を徹底解説!

はじめに:信託受益権が注目される理由

近年、不動産投資や資産流動化の現場で頻繁に耳にするのが「信託受益権」という言葉です。とりわけ不動産証券化や資産流動化スキームにおいて、税務・会計・法務の観点でメリットが大きいため、投資家や事業会社に広く利用されています。
しかし、初めて学ぶ方にとっては「不動産そのものと何が違うのか?」「どのように投資家に利益が帰属するのか?」が分かりにくい概念でもあります。

本記事では、信託受益権の基本から、不動産証券化における具体的な利用方法、税務・会計上の留意点までを網羅的に解説します。

信託受益権とは?

信託受益権とは、一言で言えば「信託財産から生じる利益を受け取る権利」のことです。
信託契約に基づき、委託者(財産の出し手)が財産を信託に出し、受託者(信託銀行など)がその財産を名義上所有・管理します。そして、その経済的価値は受益者(投資家や事業会社)に帰属します。

つまり、不動産の「名義」は受託者に移る一方で、「経済的所有権(収益や売却益)」は受益者に残るという仕組みです。

信託受益権の仕組み:当事者と流れ

信託受益権は、上述の通り、以下の三者の関係で成り立ちます。

委託者(Originator)

「信託に財産を出す主体」であり、不動産や金銭などの元のオーナーです。
典型的には以下のようなプレイヤーが該当します。

  • 不動産アセットマネジメント会社(AM):保有資産を証券化して投資家へ販売する。
  • 不動産開発会社・デベロッパ:開発したオフィスビルや商業施設を投資家に売却する際に、信託スキームを利用。
  • 事業会社(メーカー・流通企業など):自社保有の本社ビルや物流施設を流動化して資金調達。
  • 金融機関(銀行・ノンバンク): 債権や不動産を信託に出し、証券化するケース。

受託者(Trustee)

「信託財産を預かり、名義を保有する主体」であり、受益者のために管理運営する専門機関です。 実務上は以下が一般的です。

  • 信託銀行:不動産信託受益権のスキームで圧倒的に多い。
  • 信託会社(ライセンス保有): SPC向けの信託設定など。

受益者(Beneficiary)

「経済的利益を受ける主体」であり、投資家や資金提供者が中心です。

  • SPC(特別目的会社):信託受益権を保有し、証券(優先・劣後)を投資家に発行。
  • 不動産ファンド・REIT:直接受益権を取得して、運用資産とする。
  • 機関投資家(年金基金・保険会社):安定したインカム収益を求めて取得。
  • 一般事業会社:事業拡大のために物流施設や店舗の受益権を保有するケース。

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信託受益権の種類

信託受益権にはいくつかの形態があります。ここでは、表としてまとめました。

類型内容主な利用シーンメリット留意点
包括受益権元本と収益を一体として受益する一般的な形態個人投資家向け小規模スキーム、基本的な不動産信託シンプルで分かりやすい投資家間のリスク分担ができない
元本受益権 / 収益受益権元本(残余価値)と収益(賃料等)を分離して受益相続対策、ファンドの設計時キャッシュフローと残余価値を分離できる柔軟性設計が複雑化しやすい
優先受益権 / 劣後受益権配分の順序を設け、投資家間でリスクを調整不動産証券化スキーム、ファンド組成投資家のリスク選好に応じた分配設計が可能劣後投資家のリスクが高い
受益証券発行信託受益権を証券化し、受益証券として流通させる大規模な不動産証券化、REIT等流動性・市場性を高められる金商法上の規制を受ける、開示義務など負担が増える

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不動産証券化における信託受益権の活用

不動産を証券化することで、下記のようなメリットがあります。

倒産隔離効果

倒産隔離とは、委託者や受託者の経営破綻などがあっても、信託に組み入れた財産やそれに基づくキャッシュフローが外部の債権者から差し押さえられないようにする仕組みです。

不動産を信託に設定すると、その資産は委託者の資産から切り離され、受託者の信託財産として独立管理されます。法律上、信託財産は受託者自身の固有財産と区別され、受託者が倒産しても一般債権者の弁済原資にはならないとされています。そのため、投資家側にも「資産の信用力」に基づいた投資が可能になるというメリットがあります。

流動性確保

不動産は通常、取引規模が大きく、一つの物件を丸ごと売買する必要があるため流動性が低い資産です。しかし証券化することで、信託受益権に分割可能な単位を設定し、複数の投資家に配分できるようになります。「優先受益権・劣後受益権」に分けてリスク許容度に合わせた出資設計も可能なため、受益証券発行信託にすれば、証券市場での売買も視野に入れられるなど、流動性が高くなるのです。投資家としては小口化された形で不動産投資に参入しやすくなり、AMやファンドは投資家層が広がるため、資金調達力が高まります。

税務効率

証券化スキームは、通常の不動産売買に比べて税務面で効率的になる場合があります。主な税効果として、下記が挙げられます。

不動産取得税・登録免許税の軽減:

不動産そのものを移転すると取得税や登録免許税が課されますが、受益権の譲渡は不動産の所有権移転とは異なるため、課税対象が限定されることがあります。

消費税の非課税取引:

受益権の譲渡は消費税の非課税取引とされる場合が多く、物件売買に伴う消費税負担を避けられることもあります。

法人税のパススルー効果(TMKなど特定のSPCの場合):

SPCが投資家に収益をそのまま分配する仕組みにすることで、二重課税を回避できます。具体的には、一般的な株式会社が不動産を保有・運用すると、次のように 二重課税 が生じます。

1.会社が不動産賃料などから利益を得る → 法人税を支払う

2.残った利益を株主に配当する → 投資家は配当課税(所得税) を受ける

つまり、法人レベルと投資家レベルで2回課税される構造になっているのです。

そこで登場するのがTMK(特定目的会社)です。これは、「資産の流動化に関する法律(SPC法)」に基づき設立されるSPCで、特定の条件を満たすことで 収益を投資家にそのまま“パススルー”できる制度 が用意されています。TMKが不動産から得た賃料や売却益を投資家に分配する際、分配額を損金算入(経費扱い)でき、結果としてTMK自体に課される法人税はほぼゼロにできるため、実質的に課税は投資家レベルに一本化されるのです。

条件の代表例:

・投資家への分配を「利益の90%超」行うこと
・TMKが「特定資産の流動化業務」のみを目的とすること
・内閣総理大臣への届出(流動化計画の承認)を行っていること

投資家側としても、法人段階での課税がなくなるため、「直接不動産に投資したのと同じ税負担」で済む上、安定的に配当を受けられる仕組みが制度で担保されていることから、投資判断がしやすくなります。

会計処理のポイント

ここでは、会計処理について解説します。専門的なものではなく、どのように計上されるか、ざっくり理解できるようなポイントを説明します。

委託者側

委託者が不動産を信託に出すと、名義は受託者に移りますが、経済的リスク・リターンが誰に帰属するかで会計処理が変わります。オフバランス処理できるかどうかが最大のポイントです。借入の保証や買取保証を委託者が行っていると、リスクを保持しているとみなされ、オフバランスが認められない場合があります。

・不動産からの収益やリスク(空室リスク、価格変動リスクなど)が実質的に受益者に帰属 → オフバランス可能

委託者が引き続きリスクやリターンを負担している場合 → オンバランス継続(資産を残す)

受益者側

受益者が取得するのは不動産そのものではなく信託受益権という金融資産です。よって、会計上は「金融商品」として取り扱われます。そのため会計上は柔軟な管理が可能です。

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まとめ

信託受益権は、証券化スキーム(現在は特に不動産)の中心的存在であり、名義と経済的価値を分離することで、投資家保護・資産流動化・税務効率を同時に実現する手段です。

 ただし、税務や会計、金融規制の影響を受けるため、案件ごとに専門家との事前調整が不可欠なものになっています。また、信託受益権を不特定多数の投資家に販売する場合、金融商品取引法の適用を受け、有価証券または集団投資スキーム持分として規制対象となります。そのため、勧誘ルール・開示規制・適合性原則に従った運用も求められています。

現在は不動産だけでなく、様々な投資対象の証券化が進んでいます。今後ますます拡大するにつれ、信託受益権の活用はさらに一般的になり、広がっていくでしょう。

投資家・金融機関・事業会社は、仕組みを正しく理解し、自社にとって最適なスキームを設計することが重要です。

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この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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