金融業界において、生成AIの活用が本格的に進展しています。2023年以降、メガバンクや大手地方銀行を中心に、業務効率化や顧客サービス向上を目的とした生成AIツールの導入が急速に拡大しており、2025年現在、社内業務効率化での活用が定着し、より高度な業務領域への適用拡大が進んでいます。
本記事では、金融機関における生成AI活用の実態と、それに伴うキャリアの変化について、解説します。
1. 金融機関における生成AI活用の現状
金融機関の生成AI活用は、社内業務効率化から始まり、特定の業務領域に適用する段階へと進展しています。2025年現在、文書作成支援、情報検索、顧客対応補助などのアシスタント機能が中心です。
業務効率化への取り組み
各金融機関では、以下のような領域で生成AIの活用が進んでいます:
- 文書作成支援:提案書、報告書、稟議書のドラフト作成
- 情報検索・要約:社内規定やマニュアルの検索、会議議事録の自動要約
- 顧客対応支援:問い合わせ内容の分析、応答文案の作成補助
- データ分析支援:市場情報の収集・整理、レポート作成の効率化
これらのツールは、従業員の作業時間削減と、より付加価値の高い業務への注力を可能にすることを目的としています。
2. 実装段階と今後の展望
2025年現在、メガバンクでは2023年から導入した生成AIツールの活用が進み、社内業務効率化の段階から、より専門的な業務領域への適用段階へと移行しつつあります。現在の営業支援AIは「情報提供・問い合わせ応答」レベルが中心であり、エンドツーエンドの業務プロセス自動化については、引き続き人間による監督(ヒューマンオーバーサイト)が必要な段階です。
各金融機関は、2026年以降を見据えて、より高度な業務支援機能の開発を進めており、例えば:
- 融資稟議書の内容チェックと改善提案
- 顧客データに基づくパーソナライズドな提案支援
- リスク分析の高度化
など、専門性の高い業務領域へのAI活用拡大が計画されています。
3. 金融営業職の役割の変
生成AIの導入により、金融機関の営業職に求められる役割も変化しつつあります。定型的な事務作業や情報収集にかかる時間が削減される一方で、以下のような人間ならではの能力がより重視されるようになっています。
重要性が増す能力
複雑な関係性の調整と合意形成
顧客企業内の意思決定プロセスや、関係者間の利害調整など、AIでは対応困難な人間関係の構築・維持が重要です。
倫理的判断と最終責任
AIの提案内容が顧客の真の利益になるか、長期的な関係構築に資するかといった定性的な判断は、引き続き人間の専門家が担う領域です。
非定型情報の収集と入力
顧客との面談で得られる空気感や、データ化されていない情報を収集し、システムにフィードバックすることで、AIの精度向上に貢献できます。
4. これからの金融営業職に有用なスキル
今後の金融機関において活躍するためには、従来の金融知識や営業スキルに加え、以下のようなスキルが有用と考えられます。
デジタルツールの活用力
生成AIをはじめとするデジタルツールを、業務の目的に応じて効果的に活用する能力です。AIが提示する情報や提案を適切に評価し、ビジネスの文脈に即して判断する力が求められます。
継続的な学習姿勢
新しいツールや機能がリリースされた際に、積極的に試用し、業務への適用可能性を検討する姿勢が推奨されます。技術の進化が速い環境では、変化への適応力が大きなアドバンテージとなります。
仮説構築と検証のサイクル
AIが提示する情報や提案を起点として、複数のシナリオを比較検討し、顧客に最適な選択肢を提示するプロセスを、スピーディーに回す能力が求められます。
まとめ:変化する金融業界でのキャリア構築
金融業界における生成AI活用は、現在も進化を続けています。AIは定型業務の効率化に貢献する一方で、顧客との信頼関係構築や複雑な問題解決といった高度な業務は、引き続き人間の専門性が必要とされる領域です。
キーポイント
- 社内業務効率化での活用が定着し、より高度な業務領域への適用拡大が進展
- 営業職には、AIツールを活用しつつ、顧客との関係構築や倫理的判断を担う役割が期待される
- デジタルツールの活用力と継続的な学習姿勢が、今後のキャリアにおいて有用
今後、AIを活用した業務環境がさらに整備される金融機関において、新しい働き方やキャリアパスが形成されていくことが予想されます。技術の進化を理解し、それを活かせる人材が、次世代の金融ビジネスを支えていくことになるでしょう。
次回予告:第4回「リスク管理・コンプラ編」
営業現場でのAI活用が加速する一方で、金融機関として避けて通れないのが「守り」の進化です。 金融犯罪の手口が高度化する中、AIを監視し、統制する「AIガバナンス」と「モデルリスク管理」の重要性が急浮上しています。 第4回では、攻めのDXを支えるために不可欠な、リスク管理のプロフェッショナルが担うべき新たな役割に迫ります。









