コトラ（広報チーム） 
はじめに
本記事の目的と想定読者
本記事は、MBA（経営学修士）の取得に関心を持つビジネスパーソン、特に国内外のMBA取得を検討している方々を主なターゲットとしています。MBA取得後のキャリアアップや転職に焦点を当て、20代から40代以上の幅広いキャリアレベルの方々が、自身のキャリアゴールを達成するためにMBAがどのように役立つのか、その具体的な実情と注意点について解説します。
MBA取得者・取得志望者のための転職最新動向
近年、ビジネス環境は「VUCA（変動性、不確実性、複雑性、曖昧性）」の時代と呼ばれ、急速な変化を遂げています。グローバル化やAI技術の進展に伴い、企業は新たな課題解決能力やリーダーシップを持つ人材を求めています。このような背景から、MBA取得はキャリアアップや転職において注目されており、特にコンサルティング、金融、外資系企業、ベンチャー企業、そして海外事業を展開する日系大手企業などでMBAホルダーの需要が高まっています。しかし、MBA取得が必ずしも転職の決定打になるわけではなく、実務経験や英語力、コミュニケーション能力などのソフトスキルも重要視されます。
MBAが転職市場で評価される背景
現代ビジネスにおけるMBAの位置づけ
MBAは、経営戦略、マーケティング、ファイナンス、人事管理など、経営に必要な幅広い知識とフレームワークを体系的に学ぶための学位です。現代のビジネス環境においては、年功序列制度の崩壊や多様化する組織形態、そしてグローバル化への対応が求められており、MBA取得者はこれらの変化に対応できる専門的知見と実践的なスキルを持つ人材として高く評価されています。特に、ビジネスにおける論理的思考能力や問題解決能力の証明として認識される傾向にあります。
MBA取得が評価されやすい理由
MBA取得が転職市場で評価されやすい主な理由は以下の通りです。
- 体系的な経営知識と実践的スキルの習得
- 論理的思考力、分析力、問題解決能力の向上
- リーダーシップ能力や異文化理解能力、コミュニケーション能力の強化
- グローバルな視点と最新のビジネストレンドへの対応力
- 高い学習意欲や主体性のアピール材料
- 多様なバックグラウンドを持つビジネスパーソンとの人脈形成
これらの要素は、企業が求める即戦力となる人材像と合致するため、MBAホルダーは転職において有利な立場に立つことが多いです。
日本と海外で異なる評価軸
MBAに対する評価は、日本と海外で異なる傾向があります。
- 海外（特に欧米）
- 上場企業やグローバル企業の最高責任者、管理職の多くがMBAホルダーであり、昇進や幹部候補生の採用においてMBAが重要な基準の一つとなっています。
- MBA取得は経営全般の知識を持つジェネラリストとして認識され、高い収入やキャリアアップに繋がりやすいです。
- 国際認証を受けたトップスクールのMBAは、グローバル市場で特に高い価値を持ちます。
- 日本国内
- 海外に比べてMBAの認知度がまだ低い傾向があり、「MBAだから」という理由だけで有利になるとは限りません。
- 実務経験や職務遂行能力が重視される傾向が強く、MBAは実務経験に付加価値を加える要素として評価されます。
- ただし、グローバル化を進める日系企業や、経営陣にMBAホルダーが多い企業、ベンチャー企業などでは、MBAが積極的に評価されるようになってきています。
MBA取得が有利に働く業界・職種とは
MBA取得が特に有利に働く業界や職種は多岐にわたります。経営に関する体系的な知識やグローバルな視点が求められるポジションでその価値が発揮されます。
コンサルティング・外資系企業
コンサルティングファーム、特に経営戦略コンサルティングファームや外資系企業は、MBAホルダーを積極的に採用しています。これらの企業では、複雑な経営課題を解決するための論理的思考力、分析力、そして実践的な提案力が必須であり、MBAで培われるスキルが直接的に役立ちます。また、外資系企業ではグローバルなプロジェクトが多いため、高い英語力と異文化コミュニケーション能力も重視されます。
金融（投資銀行・PE・VCなど）
投資銀行、プライベートエクイティ（PE）ファンド、ベンチャーキャピタル（VC）などの金融業界でも、MBAホルダーは高く評価されます。企業価値評価、M&A、財務分析といった専門知識が求められる業務が多く、MBAで得られるファイナンススキルやネットワーキング能力が強みとなります。ハードワークが常態化する業界であり、高い問題解決能力とビジネスリーダーシップを持つMBAホルダーは重宝される傾向にあります。
経営企画・事業企画・CxO候補
事業会社の経営企画や事業企画部門は、企業の経営戦略や新規事業開発を担う重要な役割を果たすため、MBA取得者が優遇される傾向があります。市場分析、M&A戦略の策定など高度なビジネススキルが求められ、経営層と連携して俯瞰的な視点から事業戦略を立案・推進できる能力が期待されます。CxO（CEO, COO, CFOなど）候補としての採用も珍しくありません。
ベンチャー企業およびスタートアップ
スタートアップやベンチャー企業では、急速な事業拡大や新規事業創出において、経営の専門知識と実践力を兼ね備えたMBAホルダーが求められます。プロダクトマネージャーや経営企画、財務責任者など、幅広いポジションで活躍の場があり、特に事業開発や資金調達においてMBAの知識と人脈が役立ちます。起業家精神（アントレプレナーシップ）を持つ人材も歓迎されます。
海外事業を展開する日系大手
グローバル展開を加速する日系大手企業も、海外事業の推進役としてMBAホルダーを採用するケースが増えています。海外拠点のマネジメントや現地市場開拓のポジションでは、経営戦略や組織運営の知識、そしてビジネスレベルの英語力が不可欠です。MBAで培ったグローバルな視点とコミュニケーション能力は、国際的なビジネスシーンで大きな武器となります。
MBA取得後のキャリアパスと転職事例
MBA取得後のキャリアパスは多岐にわたり、転職、社内昇進、起業など様々な選択肢があります。
国内MBA・海外MBA別キャリアの違い
- 海外MBA
- グローバル企業、外資系コンサルティングファーム、投資銀行など、高収入が期待できる国際的なポジションへの転職が一般的です。
- 海外での就職や起業を目指す人も多く、多様な国籍の学生との交流を通じて築かれるグローバルな人脈が大きな財産となります。
- 特にアメリカのトップスクールでは、MBA取得後の平均年収が大幅に上昇する傾向が見られます。
- 国内MBA
- 日本国内でのキャリアアップや、日系企業の経営企画・事業開発部門、コンサルティングファームへの転職が主なパスとなります。
- 仕事を続けながら取得できるパートタイムMBAやオンラインMBAが増えており、現在のキャリアを中断せずにスキルアップを図る選択肢として人気です。
- 国内での人脈形成に強みを発揮し、日本のビジネス環境に特化した知識を深めることができます。
業界・職種別の転職事例
具体的な転職事例としては、以下のようなケースが見られます。
- 国内メガバンクから外資系大手投資銀行へ
- アメリカのトップビジネススクールでMBAを取得後、国内メガバンクの資金為替部から外資系大手投資銀行のM&Aアドバイザリー業務へ転職。大幅な年収アップとインセンティブを獲得。
- 国内大手通信企業で社内昇進・昇給
- アメリカのオンラインMBAプログラムを日本国内で履修し、国内大手通信企業の営業職から海外担当部門の新事業統括責任者へ社内昇進・昇給。MBAで培った英語力と国際マーケティングの知見が決め手に。
- 国内大手重工メーカーからベンチャー企業役員へ
- アメリカの中堅スクールでMBAを取得後、国内大手重工メーカーの開発職からベンチャー企業役員へ転職。MBAで築いた人脈を活かし、小型衛星打ち上げ用ロケット開発のベンチャー企業を共同創業し、開発と営業の両面で活躍。
- 官公庁から大手ファーム公共コンサル部門へ
- 海外MBA取得後、社会貢献性の高い課題解決に注力できる環境を求め、大手コンサルティングファームの公共コンサル部門へ転職。
- スタートアップベンチャーから大手コンサルファームへ
- 国内ビジネススクールでMBA取得後、仕事を通じて多くの経験が得られるコンサルタント職を志し、大手コンサルティングファームへ転職。
- 外資系メーカー海外営業から外資系企業新規事業開発へ
- 海外MBA取得後、日系メーカーの海外営業から外資系企業の新規事業開発へ転職。MBAの知識と英語力、前職の経験を活かし、将来の幹部候補として活躍。
- 医長経験とMBA知識で外資系製薬会社臨床開発・製販後GVPへ
- 医師として約10年の臨床経験と医長としてのマネジメント経験、そしてMBA取得を経て、外資系製薬会社の臨床開発・製販後GVPへ転職。専門知識と経営視点が評価される。
- 電力会社フロントから外資系製薬会社法務へ
- 弁護士事務所、金融機関、政府系投資ファンドでの経験とMBA取得を経て、外資系製薬会社の法務部門へ転職。法務、ファイナンス、経営戦略の専門性を活かし、企業の成長に貢献。
- メディカル・バイオ事業部HRBPからサービス経営・事業企画へ
- 国内大手流通企業での人事経験と国内MBA取得後、サービス業界の企業へ転職し、経営陣の一員として人事戦略を推進する役割を担う。変化の多い環境での経験とMBAの知識が評価される。
MBA卒業後の年収レンジと昇進例
キャリアインキュベーションの調査（2020～2021年実施）によると、MBA取得後初回の転職で37.9％が500万円以上、57.1％が300万円以上の年収アップを実現しています。また、MBA取得者の80.4％が40歳時点で年収1,000万円を超え、45歳時点では60.9％が1,500万円を超えており、同年代の平均給与を大きく上回る傾向にあります。
JAC Recruitmentのデータでは、MBAホルダーの転職後の平均年収は1,100万円前後で、900万円～1,000万円がボリュームゾーンです。年代別に見ると、30代で900万円前後、40代で1,100万円前後、50代以上で1,200万円前後となっています。
昇進例としては、MBA取得をきっかけに社内のマネジメント層や海外担当部門の責任者へと昇格するケースや、起業して自ら経営者となるケースも多く見られます。
MBAが転職で役立つポイントと注意点
MBA取得は転職に有利に働くことが多いですが、成功のためにはいくつかのポイントと注意点を理解しておく必要があります。
企業がMBA人材に期待するスキル・経験
企業がMBA人材に期待する主なスキルと経験は以下の通りです。
- 論理的思考力
- ビジネス課題を分析し、論理的な解決策を導き出す能力。特にコンサルティングファームではケース面接などで重視されます。
- 英語力・コミュニケーション能力
- グローバルビジネスにおいて必須となるビジネスレベルの英語力と、多様な背景を持つ人々と円滑に協力できるコミュニケーション能力。海外MBAで特に磨かれます。
- リーダーシップ
- チームや組織をまとめ、目標達成に向けて導く力。MBAプログラムのグループワークやプロジェクトを通じて養われます。
- 実務経験
- MBAはあくまで付加価値であり、これまでの実務経験や実績が転職市場では最も重視されます。MBAで得た知識をどのように実務に活かしてきたかを具体的にアピールすることが重要です。
- 経営全般の知識
- 経営戦略、マーケティング、ファイナンス、人事など、企業経営に必要な知識を体系的に理解していること。
英語力・リーダーシップ・実務経験の重要性
- 英語力
- 外資系企業やグローバル展開する日系企業では、ビジネスレベルの英語力が必須です。TOEIC®で最低700点以上、経営幹部を目指すなら900点以上が目安とされます。海外MBAでは、英語での授業やディスカッションを通じて自然と高い英語力が身につきます。
- リーダーシップ
- チームやプロジェクトを牽引し、成果を出すリーダーシップ能力は、どの業界・職種でも高く評価されます。MBAプログラムでは、ケースメソッドやグループワークを通じて実践的なリーダーシップが養われます。
- 実務経験
- MBAは「専門知識の証明」であり、これまでの実務経験に裏打ちされた応用力が求められます。単にMBAを持っているだけでなく、「MBAで学んだことを活かして何ができるのか」を具体的に示すことが、転職成功の鍵となります。
転職成功者の共通点と転職活動での注意事項
- 転職成功者の共通点
- キャリアゴールが明確であること: MBA取得前から、どのようなキャリアを目指すのか、具体的な目標を設定しています。
- 主体的な学習姿勢と実践力: MBAで得た知識を単なる学習で終わらせず、実務で積極的に活用し、成果を出しています。
- 強力な人脈形成: MBAプログラムで出会った仲間や教授、卒業生とのネットワークを大切にし、キャリアに活かしています。
- 年齢に応じた戦略: 20代であればポテンシャル、30代では即戦力性、40代以上では高い専門性とリーダーシップを重視するなど、自身の年齢や経験に合わせた戦略を立てています。
- 転職活動での注意事項
- MBA自体を過度にアピールしない: MBAはあくまで付加価値であり、企業が最も重視するのは「自社で活躍できるか」という点です。学んだ知識を具体的な貢献にどう結びつけられるかを話しましょう。
- 評論家視点にならない: 応募先企業の課題を指摘するだけでなく、自身がどのように解決に貢献できるかを建設的に提案することが重要です。
- 高すぎる待遇を求めすぎない: 自身のスキルや経験に見合わない高待遇を求めると、採用が難しくなる可能性があります。
- 社費留学の違約金規定: 社費留学でMBAを取得した場合、一定期間の勤務義務や違約金規定がある場合があります。転職を検討する際は事前に確認しましょう。
- 多忙な中で効率的な活動: 在学中に転職活動を行う場合は、授業や課題との両立が困難なため、転職エージェントの活用など、効率的な情報収集と対策が必要です。
国内MBAと海外MBAの比較
MBA取得を検討する際、国内MBAと海外MBAのどちらを選ぶかは重要な選択です。それぞれに特徴とメリット・デメリットがあります。
学費・期間・学びの違い
項目国内MBA海外MBA学費150万～350万円程度800万～2,000万円以上期間最短1～2年（パートタイムが多い）1～2年（フルタイムが主流）学習スタイル平日夜間・週末、オンラインなど、仕事を続けながら学びやすい。主に日本語での学習。平日昼間のフルタイムが主流。英語での学習、ディスカッションが中心。その他費用渡航費・生活費は不要渡航費・現地での生活費が高額学びの焦点日本のビジネス環境に特化した知識、国内人脈。グローバルな視点、異文化理解、世界中の人脈。
転職市場での評価と選択基準
- 海外MBAの優位性
- 国際的な知名度が高く、グローバル企業や外資系企業への転職で有利に働きます。
- 高度なビジネスレベルの英語力と異文化適応能力を証明できます。
- トップスクールのMBAホルダーは、高収入のポジションを得やすい傾向があります。
- 国内MBAの価値向上
- 日本国内での認知度が高まりつつあり、日系企業でのキャリアアップや転職に有効です。
- 仕事を続けながら取得できるため、キャリア中断のリスクが少ないです。
- 国内での強力な人脈形成が可能です。
- 選択基準
- キャリアゴール: 将来的にグローバルに活躍したいのか、国内でのキャリアアップを目指すのかによって選択が異なります。
- 費用と時間: 高額な費用とキャリア中断のリリスクを許容できるか、仕事を続けながら学びたいかによって、選択肢が変わります。
- 語学力: 英語力に自信がない場合、国内MBAやオンラインMBAから始めることも有効です。
- 学びたい領域: 特定の産業や専門分野に強みを持つスクールを選ぶことも重要です。
選ぶべき志望校の見極めポイント
- 社会人でも通学可能か: 仕事との両立を考慮し、パートタイムやオンラインプログラムの有無を確認しましょう。
- 受験資格に実務経験が必要か: 多くのMBAプログラムでは実務経験を必須としているため、自身の経験年数と照らし合わせましょう。
- 学費が予算内に収まるか: 奨学金制度や教育訓練給付金の利用も検討し、無理のない範囲で計画を立てましょう。
- カリキュラム内容: 自分のキャリア目標に合致した専門分野や実践的な学びが提供されているかを確認しましょう。起業家コース、データアナリティクスなど、時代に合ったカリキュラムも重要です。
- 教授陣の実務経験: 研究者だけでなく、経営者やコンサルタントなど、実務経験豊富な教授から学べる環境は実践力向上に繋がります。
- 学生の多様性と人脈形成: 異なるバックグラウンドを持つ学生との交流は、視野を広げ、卒業後の貴重な人脈となります。
- 卒業後のサポート: キャリア支援サービスや卒業生ネットワークの活動状況も確認しましょう。
- 国際認証の有無: AACSB, AMBA, EQUISなどの国際認証は、教育の質の国際的な保証となります。
- 説明会や体験授業への参加: 実際に学校の雰囲気や授業内容を確認し、自分に合うかどうかを見極めましょう。
まとめ
MBA取得者のこれからのキャリア戦略
MBA取得は、現代の変動の激しいビジネス環境において、キャリアアップや転職を有利に進める強力なツールとなり得ます。経営に関する体系的な知識、論理的思考力、リーダーシップ、そしてグローバルなコミュニケーション能力といった多岐にわたるスキルを習得できるだけでなく、貴重な人脈を築く機会も得られます。
しかし、MBA取得がゴールではなく、そこで培った知識やスキルをいかに実務で活用し、具体的な成果に結びつけるかが重要です。自身のキャリアゴールを明確にし、MBAで得たものをどのように社会や企業に貢献できるかを具体的にアピールする戦略が求められます。
転職活動を成功させるために必要な視点
MBAを活かした転職活動を成功させるためには、以下の視点を持つことが不可欠です。
- 自己分析の徹底: 自身の強み、弱み、キャリアの希望、譲れない条件などを深く理解する。
- ターゲット企業の選定: MBAを高く評価し、自身のスキルと経験を最大限に活かせる業界・職種・企業を見極める。特に、コンサルティングファーム、外資系企業、金融、ベンチャー企業、海外事業を展開する日系大手などが有力な選択肢となります。
- 具体的な実績のアピール: MBAで学んだ知識を実務でどのように応用し、どのような成果を出したのかを具体的な事例を挙げて説明する。
- 英語力の継続的な向上: グローバル化が進む中で、ビジネスレベルの英語力は必須のスキルです。
- 人脈の活用: MBAプログラムで築いたネットワークを情報収集やキャリアの機会探索に積極的に活用する。
- 転職エージェントの活用: MBAホルダー向けの求人情報や専門的なサポートを提供してくれる転職エージェントを有効活用し、効率的な転職活動を進める。
MBAは、単なる学位ではなく、変化の激しい時代を生き抜くための「武器」となり、個人の市場価値を高める可能性を秘めています。自身のキャリア戦略を明確にし、MBAを最大限に活用することで、理想のキャリアパスを実現できるでしょう。
