近年、ハイリスク・ハイリターンなプリンシパルインベストメント業務から、安定性や専門性を重視して、銀行や証券会社のバックオフィス業務──特に融資系・市場系事務への転職を希望する方が増えています。PI業務で得た知識や経験は、事務系ポジションでも十分に活かせる資産です。本記事では、キャリアチェンジの背景や、業務の違い、転職活動の進め方、選考通過のためのコツ、そして志望動機・職務経歴書の記載例まで、実務レベルで解説します。
目次
- 1. なぜPIからバックオフィスへ?キャリアチェンジの背景
- 2. PIとバックオフィス業務の違い
- 3. 活かせるスキルとアピールポイント
- 4. 転職を成功させるためのステップ
- 5. 職務経歴書の書き方
- 6. 志望動機の作り方
- 7. まとめ
1. なぜPIからバックオフィスへ?キャリアチェンジの背景
PIは自己資金を使った投資業務であり、裁量の大きさとリターンの魅力がある一方で、リスクとプレッシャーも大きい仕事です。近年、以下のような理由から、バックオフィスへの転職を検討する方が増えています。
- 長時間労働や業績連動報酬への疲弊
- キャリアの安定性・継続性を求める志向
- 家族やライフスタイルの変化
- 管理・運営業務への興味の拡大
2. PIとバックオフィス業務の違い
両者は金融業界内にある職種でありながら、役割や業務の目的は大きく異なります。
項目 | プリンシパルインベストメント | 融資・市場系事務(バックオフィス) |
---|---|---|
目的 | 自己資金による投資リターンの最大化 | 取引の正確性・安全性・規制順守の確保 |
主な業務 | 投資判断、財務分析、ストラクチャリング | 約定管理、担保評価、決済、コンプライアンス |
関与するプレイヤー | 経営層、投資先企業、外部専門家 | 営業担当、ディーラー、証券決済機関など |
働き方 | プロジェクトベース、変動性高 | ルールベース、正確性・安定性重視 |
3. 活かせるスキルとアピールポイント
PI業務で身につけた下記スキルは、バックオフィスでも十分に応用可能です。
- 財務諸表分析力(審査資料の読み解きに直結)
- リスク評価能力(担保管理や信用チェックに活用)
- ロジカルな資料作成スキル(稟議資料・管理報告書に転用)
- 業務フロー設計・プロセス改善の素養
- 社内外の関係者との調整・ファシリテーション力
4. 転職を成功させるためのステップ
キャリアチェンジを成功させるための現実的なステップは以下の通りです。
- 業務内容の理解:融資管理、ミドル・バック業務の実態を把握
- 志望動機の言語化:なぜPIから事務職か?を論理的かつ納得感ある言葉で伝える
- ポジション選定:希望業務の範囲(融資管理、与信、決済、担保、ミドル業務など)を明確にする
- 自己PRの再構成:「収益責任」ではなく「正確性・継続性・信頼性」を軸に語る
- 面接対策:「地味に見える事務業務でも、構造的に貢献したい」というスタンスを示す
5. 職務経歴書の書き方
応募するポジションが「管理業務・実務オペレーション」である以上、過度に戦略的・投資家的な表現は抑え、「実行力・精緻さ・ルール順守」の実績にフォーカスすることが重要です。
【記載例(抜粋)】
- 中堅企業向けのPE投資案件において、DD後の管理体制構築に関与
- 投資後のガバナンス強化支援(モニタリングレポートの定型化・報告ルール整備)
- 社内稟議資料の作成(財務評価・キャッシュフローモデル)を継続的に担当
- 複数の投資先と折衝しながら、担保条件や取引条件の文書化・締結業務を調整
6. 志望動機の作り方
志望動機では「なぜフロントを離れたいのか」ではなく、「バックオフィス業務にどのように貢献できるのか」を主軸に置きます。
【志望動機例】
私はこれまで、プリンシパル投資部門にて企業評価、投資実行、モニタリング業務に従事してまいりました。投資先管理や社内外との調整、ドキュメント整備などを通じて、ファイナンスの現場における「仕組みの整備」や「正確性の担保」の重要性を強く実感しました。今後は、こうした経験を活かしつつ、金融機関の基盤を支える管理部門の一員として、着実で信頼性の高い業務運営に貢献していきたいと考えています。
7. まとめ
PI業務から融資系・市場系事務への転職は、まったく異なる業務に見えますが、実は根底にある「リスク管理」「正確な情報処理」「他者との調整力」など、多くの共通点があります。フロントで培った知見を、堅実で仕組みを支える側として活かすキャリアもまた、今後の金融人材に求められるスタイルの一つです。
キャリアの新たな選択肢として、ぜひ「金融の仕組みを支える仕事」に目を向けてみてはいかがでしょうか。
【職務経歴書(サンプル)】
氏名:田中 一郎 生年:1987年生まれ ■職務要約: 大手証券会社のプリンシパルインベストメント部門にて8年間勤務。中堅企業のバイアウト案件やMBO、事業承継支援に従事。投資実行後の経営管理体制の整備やモニタリングルール策定など、投資後フェーズでも多くの業務経験を積む。今後は、安定した組織の中で正確性や運用力を発揮し、金融インフラを支える業務へキャリアチェンジを希望。 ■職務経歴: 〇〇証券株式会社(2016年4月〜2024年3月) 部署:プリンシパルインベストメント部門 ・投資件数:累計12件、平均EBITDA 2〜5億円規模 ・投資実行までのDD、バリュエーション、契約交渉を担当 ・投資後のモニタリング体制構築、担保管理業務に従事 ・社内稟議・取締役会資料の作成 ■学歴: 慶應義塾大学 商学部卒(2010年3月) ■保有資格: ・日商簿記2級 ・TOEIC 870点