コトラ（広報チーム） 
序章：龍角散の危機と革新の始まり
倒産危機を迎えていた龍角散
「ゴホン！といえば龍角散」で知られる龍角散は、家庭医薬業界における長い伝統を誇る企業です。しかし、1990年代後半、同社は深刻な経営危機に直面していました。市場競争の激化や製品ラインナップの陳腐化などが要因で、倒産の可能性すら囁かれる状況にまで追い込まれたのです。女性役員の福居篤子氏もこの困難な時期に奮闘し、その後の革新的な取り組みに重要な役割を果たしました。
服薬補助ゼリー誕生のアイデア
経営難に喘ぐ中、新しいビジネスモデルを模索していた龍角散に光を差したのが、「服薬補助ゼリー」のアイデアでした。錠剤やカプセルを飲むのが苦手な人だけでなく、介護や医療の現場での使用も見込まれたことから、この製品には幅広い可能性がありました。この発想が後の大ヒット商品「おくすり飲めたね」に繋がることとなります。その背景には、女性視点の細やかな工夫や患者への配慮が取り入れられており、福居氏をはじめとする開発チームの努力が大きく影響しました。
立ちはだかる“男人社会”の壁
こうしたアイデアが具体化するまでの道のりは平坦ではありませんでした。当時の製薬業界は、いわゆる“男人社会”と呼ばれるような風潮が根強く、女性が新たな提案をする場面でのハードルは非常に高かったのです。社内でも「女性に任せられることではない」といった偏見の目が向けられていた中、福居氏や他の女性従業員はその先入観を覆すために奮闘しました。このような環境の中で力強く挑戦を続けたことが、龍角散の復活劇における重要な伏線となるのです。
旧態依然とした企業体質の課題
龍角散が抱える課題は、製品競争力だけではありませんでした。古い商習慣や硬直化した企業体質がイノベーションを阻害し、特に女性の活躍を難しくしていました。福居篤子氏もこの状況に苦しんだ一人です。男女間の不平等や意見が通りにくい社内の風土に直面しながらも、周囲と協力しながら変革への努力を続けました。この過程で、女性役員としての視点が新しい風を吹き込み、後の革新と成功へとつながっていったのです。
挫折と試練：左遷・降格をきっかけに掴んだチャンス
セクハラ告発が引き起こした人事騒動
2018年、龍角散の社内で起こったセクハラ問題は、同社の歴史の中でも大きな騒動となりました。問題の発端は、忘年会における藤井隆太社長の発言がセクハラに該当するとして女性社員が告発したことです。この問題への対応を進めたのが、当時執行役員だった福居篤子さんでした。福居さんは妹である元法務部長と人事課長に調査を依頼し、問題の解決に努めましたが、告発行動が波紋を呼び、組織内での立場が次第に危うくなっていきました。この騒動は、龍角散における女性の地位や働き方について社会的な議論を引き起こした一例でもあります。
解雇危機をどう乗り越えたのか
セクハラ騒動の結果、福居篤子さんの妹である元法務部長は解雇され、福居さん自身も千葉工場への異動と降格という処分を受けました。これは、執行役員開発本部長という重要な役職からの降格を意味しており、彼女にとって極めて厳しい状況でした。しかし福居さんはこの危機に直面しつつも、辞職という選択をせず、むしろ逆境を機会に変えようと奮闘しました。彼女の粘り強さと前向きな姿勢が、最終的に龍角散の再建への道筋を形作る大きな力となりました。
革新へのエネルギーに変えた逆境
左遷や降格処分を経験した福居篤子さんですが、この厳しい状況を自己成長の糧に変えていきました。特に、龍角散の抱える課題に着目し、製薬業界での新しい価値を創造することにエネルギーを注ぎました。男性中心の文化や旧態依然とした体質に挑むことは決して容易なことではありませんでしたが、福居さんは製薬の最前線に立ち続け、龍角散の未来を切り開くために全力を尽くしました。その努力はやがて、同社を国内外で成功に導く大改革の原動力となっていきました。
「おくすり飲めたね」が市場にもたらした変化
厳しい試練を乗り越えた末に、福居篤子さんは龍角散の主力商品の一つである服薬補助ゼリー「おくすり飲めたね」に携わることができました。この製品は、日本のみならず海外市場でも注目されるようになり、医療や介護の現場で広く利用されるようになります。その結果、「おくすり飲めたね」は市場における製薬業界の新たなスタンダードのひとつとして位置付けられることになりました。この成功は、福居さんが逆境を乗り越えたことで得た成果の象徴であり、龍角散そのものにとっても大きな飛躍の一歩となりました。
革新と成功：龍角散復活の立役者として
服薬補助ゼリーの国内外での成功
龍角散が開発した服薬補助ゼリー「おくすり飲めたね」は、1998年の発売以降、医療・介護の現場において画期的な製品として広く認知され、成功を収めました。この製品は、薬を飲むことが難しい子どもや高齢者を対象に、安全で便利に服用できる新しい方法を提供しました。国内市場での人気はもちろんのこと、その使いやすさとアイデアは海外市場にも受け入れられ、龍角散の国際的な評価を高める大きな一因となりました。
女性執行役員としての功績
龍角散の女性役員として活躍した福居篤子さんは、革新的な商品開発において重要な手腕を発揮しました。特に「らくらく服薬ゼリー」や「龍角散ダイレクト」の開発に尽力し、そのユニークな製品は多くの消費者に受け入れられました。男性中心の製薬業界において、女性が執行役員として活躍することは容易ではありませんでしたが、福居さんの努力と挑戦が新たな可能性を示し、多くの女性の道を開く契機となりました。
製薬業界の新しい標準を作る
福居さんの革新性は、単に製品開発にとどまりません。服薬補助ゼリーや粉薬の直接服用を可能とする商品など、従来の製薬業界における「服薬」のルールを根本から変える新しい標準を作り上げました。高齢化社会に対応し、介護や医療の現場で薬がより手軽に飲めるようにするこれらの製品は、業界全体の課題を解決する一つの模範とされ、他の企業や医療従事者にも大きな影響を与えました。
社員たちに共有されたビジョン
龍角散の復活にあたって、重要だったのは企業全体で共有された「革新」というビジョンでした。福居さんを含めたリーダー層が掲げた目標は、新しい市場を切り開くだけでなく、社員一人ひとりの創造性を引き出すことに重きを置いたものです。困難を乗り越えるために必要な連帯感を築き、各部署の垣根を越えた協力体制を育むことで、会社全体が成長し、顧客の期待に応える製品を継続的に提供し続ける原動力となりました。
未来の展望：挫折を乗り越えた教訓と課題
企業文化の改善と女性活躍推進
龍角散は、長い歴史を持つ製薬企業として伝統的な企業文化を維持してきましたが、その一方で時代に即した変化が求められてきました。特に女性活躍推進については、福居篤子執行役員の存在とその尽力が大きな示唆をもたらしています。福居氏が直面した降格や人事騒動は企業文化の課題を浮き彫りにしましたが、これを契機にジェンダー平等の重要性が再認識されました。
今後、龍角散は女性役員をはじめとする多様なリーダーシップ層の形成を推進する必要があります。経営層におけるジェンダーギャップを解消するための取り組みは、企業イメージの向上だけでなく、革新を生む組織文化の土壌を形成する鍵となるでしょう。
革新し続ける龍角散の次なる目標
「ゴホン！といえば龍角散」というキャッチコピーが社会に浸透する中、同社は時代のニーズに応じた製品開発を続けています。具体的には、国内市場だけでなく、海外市場でも評価された「服薬補助ゼリー」のような高付加価値の商品をさらに展開していくことが目標に挙げられます。
また、持続可能な社会の実現を目指し、環境に優しい製品開発やSDGs（持続可能な開発目標）への取り組みも視野に入れた戦略が重要です。このような革新を加速させるためにも、社員全体の一体感と新たな挑戦に向けた意識改革が求められています。
伝統と革新の融合をどう実現するか
龍角散が長きにわたり愛され続けている理由の一つに、製品に込めた「伝統」の価値があります。しかし、伝統に固執することは新たな革新を阻むことにもつながりかねません。同社にとって重要なのは、高い顧客満足度を維持しつつ、時代の変化に柔軟に対応する力を持つことです。
革新の象徴ともいえる「らくらく服薬ゼリー」や「龍角散ダイレクト」のように、新しい価値を提案し続ける姿勢が、伝統と革新の融合を実現する糸口となるでしょう。そのためには、消費者の声に耳を傾けるとともに、社員一人ひとりが創造性を発揮できる環境づくりが重要です。
個人の挑戦がもたらした示唆
福居篤子さんのように、様々な挫折や壁を乗り越えて成果を挙げた個人の挑戦は、企業全体に計り知れない影響を与えています。彼女が歩んだ道は、従業員たちにとって学びの多いロールモデルとなり、逆境を突破する力が会社全体の礎となることを示しました。
現在の企業経営において、多様な価値観や経験を尊重し、それを力に変える柔軟性が必要です。女性役員としての実績を築いた福居氏の姿勢から、「挑戦し続けること」の重要性を学び、これを全社的なビジョンとして昇華させることが龍角散の未来を明るいものにするでしょう。