社外取締役の報酬、平均663万円?その背景と決め方に迫る

1. 社外取締役とは?その役割と報酬の重要性

1-1. 社外取締役とはどのような役職か

社外取締役とは、企業の経営を監督し助言を行う経営陣の一員ですが、企業内部に勤務していない外部から選任される役職です。その目的は、独立した視点を持ち込み、経営判断の透明性や公正性を高めることにあります。特に東京証券取引所に上場している企業においては、社外取締役の選任が事実上の標準となっており、2023年時点で99.9%の企業が社外取締役を設けています。社外取締役には、弁護士や公認会計士、他社の出身者など、専門的なバックグラウンドを持つ人材が起用されることが一般的です。

1-2. 株主目線の立場として期待される役割

社外取締役が特に期待される役割は、株主目線に立った経営監視と助言です。多数株主や経営陣に偏らず、少数株主を含む全株主の利益を守る立場から企業の意思決定に参与します。これにより、株主利益が最大化されると同時に、経営陣の暴走を防止する役割も担います。例えば、不適切な投資やガバナンスの欠如が生じた場合、社外取締役は改善策の提案や反対意見を出すことが求められます。

1-3. 内部ではなく外部視点が必要とされる背景

企業運営においては、内部の視点だけでは全体像や外部の変化に対応しきれない場合があります。特に、市場環境の変化や規制対応が複雑化する中で、外部視点を取り入れることは経営戦略の精度向上に直結します。また、独立性の確保された社外取締役であれば、経営陣の利害関係に左右されることなく、公平な判断が可能です。内部視点では見過ごされがちな課題を発見することで、企業全体のリスク管理や透明性向上に貢献します。

1-4. 日本における社外取締役の義務化と導入の流れ

日本においては社外取締役の導入が義務化された流れがあり、ガバナンス強化の一環として広がりました。特に、2015年の会社法改正により、上場企業には社外取締役を1名以上設置することが強く推奨され、以後多くの企業が導入を進めてきました。また、東証プライム市場における企業は、2名以上の独立社外取締役を指名することが求められるなど、その役割はますます重要視されています。この背景には、企業の不正防止や透明性向上を求める社会的要請があり、ガバナンスの強化が国際競争力向上にも寄与するとの考えがあります。

1-5. 報酬を重視する理由とその目的

社外取締役に報酬を用意することは、高い専門知識や経験を持つ人材を確保するために必要不可欠です。特に、社外取締役が担う役割は企業の経営判断やリスク管理に直結するため、これに見合った報酬を提供することで、質の高い意見や助言を期待することができます。また、高額な報酬は、役員自身の活動意欲を高めると同時に、企業からの信頼や責任の重さを示すものでもあります。特に近年では、成果報酬型制度や株式報酬制度の導入が進められ、報酬を企業価値向上に結び付ける工夫がなされています。

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2. 社外取締役の報酬の現状とその特徴

2-1. 平均報酬663万円の根拠と背景

社外取締役の平均報酬は、朝日新聞と東京商工リサーチの2019年の調査によると、663万円と算定されています。この金額は、社外取締役が担う役割や責務、そして企業の規模を反映したものと言えます。特に、近年の企業ガバナンスの重要性が高まる中で、社外取締役の報酬水準は上昇傾向にあります。2022年度の調査では、プライム上場企業ではその中央値が840万円、さらに売上高1兆円以上の大企業では1,440万円というデータも示されており、企業規模による差が顕著となっています。この背景には、少数株主の利益を守り、経営の健全化に寄与する社外取締役の役割拡大があると言えるでしょう。

2-2. 大企業と中小企業での報酬分布の違い

社外取締役の報酬には、大企業と中小企業で大きな違いが見られます。売上高が高く規模の大きい企業では、社外取締役に多額の報酬が支払われることが一般的で、経験豊富な専門家や他業種のリーダー的存在を確保するために高額報酬を提示する必要があります。一方で、中小企業では、報酬額が200万円未満というケースも多く、そもそも社外取締役の選任そのものが実現していない企業も少なくありません。限られた予算の中で人材確保を行うことが難しい中小企業にとって、適切な報酬水準の設定は課題となっています。

2-3. 高額報酬例――2000万円を超えるケースとは

一部の社外取締役報酬は2000万円を超えるケースも確認されています。例えば、日立製作所では最高報酬が3,944万円、岩谷産業では3,900万円、住友不動産では3,225万円という金額が話題となりました。このような高額報酬が設定される背景には、企業の規模のほか、役員に求められる専門知識やリスクへの対処能力、そして企業のグローバル化に伴う多国籍な経営課題への対応能力への期待があります。このように、高額報酬は社外取締役が持つ専門性や経験を正当に評価する反映でもあります。

2-4. 成果報酬型と固定報酬型の違い

社外取締役の報酬体系には、大きく分けて成果報酬型と固定報酬型の2種類があります。固定報酬型は、毎月一定額を支給する仕組みで、税務上の要件に合わせて定期同額給与として扱われることが一般的です。一方、成果報酬型は企業の業績や目標達成度に応じて変動するもので、事前確定届出給与の形式で導入されることが多く、業績向上に対するインセンティブ効果が強調されます。日本では固定報酬型が主流ではあるものの、一部の上場企業では成果報酬型が取り入れられるケースが増えつつあり、経営への貢献度がより直接的に反映される仕組みが進んでいます。

2-5. 報酬水準と期待される能力・経験

社外取締役の報酬水準は、期待される能力や経験に大きく依存します。具体的には、他社の経営での高い実績を持つ経験者や、法務、財務、会計といった専門知識を有する人物、さらには国際的な視点で経営戦略を提案できる人材が求められています。こうした能力や経験は、少数株主の利益の代弁者としての役割を果たしながら、企業価値を中長期的に向上させるために不可欠です。そのため、特に社会的に認知度の高い専門家や、業界内でリーダー的な役割を果たしてきた人物ほど、高い報酬水準で迎えられる傾向があります。

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3. 社外取締役の報酬の決め方とは?

3-1. 株主総会での承認プロセス

社外取締役の報酬は、その重要性から株主総会での承認を必要としています。株主総会では、報酬の上限額やその構造が提案され、株主による賛否の表明を経て正式に決定されます。これは、社外取締役が株主の利益を守る役割を担うため、透明性を求めた仕組みといえます。また、適正な報酬額を設定するために、社外取締役の専門性や企業への貢献度、そして競合他社との報酬水準の比較が考慮され、細かく精査されます。このプロセスにおいて、株主やステークホルダーとの信頼関係の構築が重要視されています。

3-2. 業績連動報酬や株式報酬の導入事例

近年では、固定報酬だけでなく、業績連動報酬や株式報酬を導入する企業も増えています。業績連動報酬とは、企業の収益や目標達成度に応じて支払われる報酬で、社外取締役が企業価値向上を目的とした戦略に積極的に関与することを促します。一方、株式報酬は会社株式の一部を報酬として与える仕組みです。これにより、社外取締役が株主と同じ目線で企業の成長に貢献するインセンティブが働きます。これらの報酬形態の導入は、特に大企業を中心に広がりを見せており、報酬構造の多様化にも一役買っています。

3-3. 法律上のルールと社外取締役の責任範囲

社外取締役の報酬については、法人税法や会社法でいくつかのルールが定められています。まず、報酬は原則として「定期同額給与」として支払われる必要があります。つまり、同額の給与を定期的に支給することで、透明性と公平性を保つ仕組みです。また、社外取締役の責任範囲については、特に独立性が求められ、利害関係の排除や利益相反の回避が重視されます。これにより、株主利益を最優先に守る立場を維持することができます。さらに報酬が専門性や経験に見合った適正な基準で設定されているかどうかも、法律上重要なポイントとなります。

3-4. 海外と比較した場合の日本の決定プロセス

海外では、報酬の規模や決定の透明性が日本とは異なる特徴を持っています。例えば、欧米では報酬委員会が独立性を強調し、専門家による分析や競合他社との比較を基に具体的な報酬案を作成することが一般的です。一方、日本では、社外取締役の報酬について株主総会での承認が求められるものの、報酬委員会の設置が義務ではなく、透明性に課題が残る場合もあります。また、報酬額自体も海外に比べると低めに設定されている傾向があります。こうした状況は、企業文化や株主構成の違いから生じていると言えますが、グローバル化が進む中で日本でも国際基準に合わせた改革が進む可能性があります。

3-5. 中小企業での実務的な報酬決定フロー

中小企業においては、大企業とは異なる実務的な課題を抱える場合が多いです。中小企業の多くでは、社外取締役の報酬は比較的低く抑えられており、企業規模に見合った形で報酬を設定する傾向があります。しかしながら、報酬の適切な決定は社外取締役の質を確保する上で非常に重要なポイントです。一般的に、経営陣の現状や業績を基に役員会や取締役会で案を検討し、それを最終的に株主総会で承認する形を取っています。これにより、実務的な範囲で最適な報酬を設定しつつ、社外取締役が企業価値向上に向けて積極的に働ける環境を整えています。

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4. なぜ高額な報酬が必要なのか?その意義と課題

4-1. 社外取締役に期待される中長期的な企業価値向上

社外取締役の存在は、企業にとって中長期的な価値向上を促進する非常に重要な役割を果たしています。特に、経営陣や取締役会において外部の視点を提供することで、より客観的な意思決定を可能にします。株主や利益関係者の立場から意見を述べることができるため、企業が持続的成長を達成するための道筋を示す役割を担っています。

こうした貢献を期待する背景には、適切な報酬を提供することで企業の重要な意思決定において社外取締役が十分な時間と労力を費やせる環境を整備する必要性があります。高額な報酬は、質の高い経営助言が行われる一つの基盤ともいえるでしょう。

4-2. 優秀な人材を確保するための報酬インセンティブ

社外取締役のポジションには、多様な専門知識や豊富な経験が求められます。独立性を保ちながら、企業経営に対する客観的なアドバイスや監督を行うことが期待されるため、優秀な人材を確保することが企業にとって重要な課題となっています。中でも、弁護士、公認会計士、大学教授などの専門職経験者や他企業の経営者経験を持つ人々が多く選任されています。

高額な報酬は、こうした優秀な人材が時間を割き、リスクを伴う責務を担う動機付けとして重要な要素です。また、社外取締役の給与が適切でない場合には、優れた候補者が他の役職に流れる可能性もあるため、報酬水準の競争力は欠かせません。

4-3. 利益相反を防ぐための高額報酬の考え方

社外取締役は、企業内部の利害関係者ではなく、独立した立場で経営を監督する役割を担います。そのため、利益相反の発生を防ぎ、公平な立場を保持することが重要とされます。これを実現するためには、報酬が企業経営陣から影響を受けることなく、適正に設定される必要があります。

高額な給与は、社外取締役が企業に対して忠実な働きを継続的に行うモチベーションとなり得ます。また、十分な報酬を保証することで、個人としての独立性を維持しつつ、リスクが伴う意思決定にも積極的にコミットできる環境を構築することができます。

4-4. 中小企業における高額報酬への挑戦と現実

中小企業においても社外取締役の必要性が認識され始めていますが、その報酬水準の実現は課題が多いのが現状です。大企業と異なり、財務基盤が十分でない中で高額報酬を用意することは困難であり、そのため登用できる人材や役割の範囲に制限が生じるケースも見られます。

一方で、中小企業の成長を後押しするためには外部の視点や専門知識が不可欠であるため、報酬制度の工夫や国や地域による支援策の活用が鍵になります。例えば、成果報酬型の制度を取り入れることで、報酬を業績と連動させ、経営への貢献度に応じて適正に評価するモデルが検討されています。

4-5. 日本独自の報酬文化と課題

日本の社外取締役の報酬に対しては、海外市場と比較して独自の課題があります。報酬が比較的抑えられる傾向にあり、特に中小企業においては給与が非常に低いケースが散見されます。これは、企業文化として報酬への投資が十分に行われていない点やコーポレートガバナンスの成熟度の違いに起因する部分があります。

しかし、近年では上場企業をはじめとした組織で、社外取締役の役割と貢献度が再評価される動きが広がっています。適切な給与を設定することで、国内外における企業の競争力を強化しつつ、株主を含むすべてのステークホルダーに及ぼす影響を最大化する必要があるでしょう。

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5. 今後の展望――社外取締役の役割拡大と報酬の方向性

5-1. 進化する社外取締役の役割と責任

社外取締役は近年、その役割と責任がますます重要視されています。日本企業の多くがガバナンスの強化を目指す中、社外取締役は企業の経営監視や助言機能を担い、少数株主の利益を代弁する立場として求められます。特に、利害関係を排除した独立した立場からの視点が強く期待されており、この責任に応じた適切な給与も議論の中心となっています。また、業界を超えた経験や専門知識を活かした経営アドバイスなど、その役割は年々多様化し進化しています。

5-2. ESGやサステナビリティ重視の新たな責務

ESG(環境・社会・ガバナンス)やサステナビリティが経営の主要なテーマとして注目を集める中、社外取締役にはこれらの分野での知識や判断力が求められています。特に企業価値を中長期的に向上させるためには、単なる利益追求に留まらず、社会的責任を果たす視点が重要です。持続可能な経営を実現するためには、経験豊富な人材を社外取締役として招き入れ、その責務に見合った給与を設定することが企業の競争力強化に繋がります。

5-3. 報酬制度の国際的な調和の必要性

グローバル化の進展に伴い、社外取締役の報酬制度についても国際的な調和が求められています。日本では報酬が固定給であるケースが一般的ですが、欧米では成果報酬型や株式報酬型が広く採用されています。この違いは、社外取締役の役割認識や企業文化の差異によるものですが、今後、日本企業が国際競争に勝ち残るためには、グローバルスタンダードを意識した報酬制度の整備が不可欠です。専門知識やグローバル経験を有する人材の確保には、報酬体系の見直しが重要な課題となっています。

5-4. 中小企業が採用すべき報酬施策とは

中小企業においては、大企業と比較して社外取締役の報酬は低い傾向にあります。しかし、中小企業においても社外取締役の導入は組織のガバナンス強化に寄与します。限られた予算の中で優秀な人材を確保するためには、報酬を単純な金銭分配とするのではなく、具体的な成果に基づいたインセンティブ報酬や株式報酬を導入することが有効です。また、柔軟な勤務形態や専門知識を活かせる環境を提供することで、報酬以上の働きやすさを提供することも中小企業が採用を成功させるポイントとなります。

5-5. 未来の社外取締役と報酬の在り方

今後、社外取締役にはより広範囲で高い能力が求められることが予想されます。経済や社会の変化に対応した多様な経験を持つ人材が必要とされる一方で、給与の透明性や公平性を確保する意識も高まっています。また、AIやデジタル技術を活用した効率的な監視・助言が可能となり、報酬体系にも影響を与えるかもしれません。未来の社外取締役報酬の在り方として、企業の業績だけでなく、社会的貢献度などを指標に組み込む新しいモデルが検討される可能性があります。最終的には、適切な給与を通じてより良い人材を確保し、企業価値の向上に寄与する仕組みが求められるでしょう。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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