コトラ（広報チーム） 
非機能要件とは？その基本を理解しよう
非機能要件と機能要件の違いとは
システム開発において、「機能要件」と「非機能要件」は異なる役割を持っています。機能要件は、システムが特定のタスクや業務をどのように実現するかを指します。一方で、非機能要件は、システムの使いやすさや安全性、速度といった「どのように動作するべきか」に関する要件です。例えば、在庫管理システムを構築する場合、「商品を検索できる」は機能要件に含まれ、「検索結果を3秒以内に表示する」や「ユーザーのアクセス時におけるセキュリティを確保する」は非機能要件に該当します。この違いを理解することで、よりバランスの取れた要件定義が行えるようになります。
非機能要件がシステム品質に与える影響
非機能要件はシステム全体の品質を決定づける重要な要素です。たとえば、システムのレスポンスが遅い、セキュリティが不十分、あるいは頻繁にダウンするような状態では、ユーザーの満足度は低下し、最悪の場合、システムの利用自体が避けられる可能性もあります。可用性、性能、セキュリティといった非機能要件の定義がしっかりと行われている場合、システムの信頼性や使いやすさが向上し、最終的には業務効率や顧客満足度にもプラスの影響を与えることができます。
定義し忘れを防ぐための基本項目とは
非機能要件の定義は、システム開発において見落とされがちな部分です。しかし、これを防ぐためには、事前に基本項目を押さえたテンプレートやチェックリストを活用することが有効です。特に注目すべきは、可用性（システムがどれだけ稼働するか）、性能（必要な応答速度の確保）、セキュリティ（情報をどのように保護するか）といった項目です。これらの観点を網羅的にチェックすることで、漏れやミスを最小化でき、システム全体の完成度を高めることが可能です。
なぜ非機能要件を明確にする必要があるのか
非機能要件を明確化することで、システム開発の成功確率が大きく向上します。この要件が不十分だと、完成後のシステムが業務に適していない、または計画された性能を発揮しないといった問題が発生する可能性があります。たとえば、十分なセキュリティ対策が施されていない場合、不正アクセスや情報流出などのリスクが高まり、結果的にユーザーの信頼を失うことになります。非機能要件を適切に定義することで、こうしたリスクを未然に防ぎ、システムにおける品質面の安定性を向上させる意義があります。
非機能要件で押さえるべき6つの観点
可用性：システムがダウンしない仕組み
可用性とは、システムがどれだけ高い稼働率を維持し、継続的に利用可能であるかを示す指標です。一部でもダウンすると業務に大きな支障をきたすシステムでは、可用性を高めることが重要です。高い可用性を実現するためには、冗長化や自動フェイルオーバーなどの仕組みを導入することが効果的です。ただし、これらの対策にはコストが伴うため、システムの重要性や利用規模に応じた適切なレベルを検討する必要があります。たとえば、クラウドサービスの多くが提供する99.99%以上の稼働率は、主要な業務システムに求められる基準と言えるでしょう。
性能・拡張性：未来を見越した設計
性能とは、システムの応答速度や処理能力を指し、利用者がストレスなく操作できることが求められます。例えば、伝票照会画面では通常3秒以内、ピーク時でも5秒以内の応答速度が理想的とされています。また、拡張性は将来的な利用者増加やデータ量の増加に対応できる能力を指します。性能と拡張性を改善するためには、キャッシュ機能や負荷分散技術、新たなサーバーリソース追加への柔軟な対応が必要になります。これにより、業務の成長とともにシステムも無理なく拡張できる設計を実現できます。
セキュリティ：脆弱性を取り除くポイント
セキュリティは非機能要件の中でも最も重視される項目の一つです。システムの脆弱性を取り除くためには、適切なアクセス制御、通信の暗号化、不正侵入防止機能を導入する必要があります。特に近年ではサイバー攻撃が高度化しており、簡易的な対策では十分とは言えません。セキュリティテストを定期的に実施し、新たな脅威に備えることも求められます。また、開発段階からセキュリティを考慮した設計（セキュリティ・バイ・デザイン）を採用することが、高品質なシステムの実現につながります。
運用・保守性：効率的な管理を考える
運用・保守性においては、システムが長期間安定稼働し、メンテナンスが容易であるかが重要なポイントです。例えば、管理画面の操作性や障害対応の迅速性、ログデータの収集・解析機能が求められます。また、システムが複雑化すると問題が増えるため、略可能なプロセスを排除してシンプルで効率的な運用設計を行うことが鍵です。運用・保守性の向上は直接的に運用コストの削減や、対応速度の向上に結びつき、システムの品質向上にも寄与します。
移行性と互換性：スムーズな移行手法
移行性とは、既存システムから新システムへの移行がスムーズに行えるかを指します。現行の業務データや運用方法の継続性を確保することが、ユーザーエクスペリエンスを損なわない重要なポイントです。また、互換性は、対応するハードウェアやソフトウェア環境での稼働性を考慮する指標です。例として、新しいERPシステムを導入する場合、既存の業務アプリケーションとの連携が正常に動作するかの確認が必要です。適切な移行計画と事前テストを行うことで、トラブルのリスクを抑え、信頼性の高い移行が実現できます。
実践的な非機能要件の定義ステップ
現状分析から始める要件定義
非機能要件の定義を成功させるためには、まず現在のシステムや業務の状態を正確に把握することが重要です。これには、システムの稼働状況、ユーザーの利用方法、既存の課題やボトルネックを特定する作業が含まれます。例えば、システムのアクセスが集中する時間帯や、セキュリティ上の懸念点をリストアップすることで、次のステップでの検討がスムーズになります。現状を正確に理解することで、非機能要件の漏れを防ぎ、設計ミスのリスクを低減できます。
利害関係者と合意形成を行う
非機能要件の定義プロセスでは、システムの利用者だけでなく、経営層やIT部門など多様な利害関係者とのコミュニケーションが欠かせません。各関係者の視点や期待を理解し、全体としてどの項目を重視すべきかを合意形成することが求められます。特に、可用性やセキュリティに関する要件は、業務の持続性や顧客信頼性に直結するため、関係者全員で明確にしておくことが必要です。早期の段階で合意を得ることで、後のトラブルや再設計を防止できます。
必要な項目を明確化し優先順位をつける
非機能要件には多くの項目が存在しますが、すべてを均等に優先することは現実的ではありません。例えば、可用性が優先されるシステムでは、24時間体制の運用と冗長化が重要な要件となる一方、将来的な拡張性が求められるシステムでは、スケーラビリティを重視する必要があります。セキュリティについても、保護レベルや費用対効果を考慮し、何を守るべきかを具体的に決めていくことが求められます。優先順位を明確にすることで、要件の実現可能性が高まります。
具体的な要件を文章化するポイント
非機能要件を文書化する際には、曖昧な表現を避けて、定量的な指標を入れることがポイントです。例えば、「高い可用性を確保する」といった表現ではなく、「稼働率を99.99%にする」と明確に記載することで、関係者間の認識のずれを防げます。また、セキュリティに関しても具体的に「脆弱性診断を定期的に実施する」「アクセスログを3年保管する」といった運用ルールを記載することが重要です。明確な要件定義は、スムーズなプロジェクト進行の基盤となります。
継続的な検証とフィードバックの重要性
非機能要件は、定義しただけでは効果を発揮しません。その有用性を確認するために、継続的に検証および改善を行うことが大切です。例えば、負荷テストやセキュリティテストを定期的に実施することで、現在の要件が適切であるかを評価できます。また、運用中に発生したトラブルやクレームをもとにフィードバックを収集し、それを次回の要件定義に反映させましょう。これにより、システムの品質と信頼性を長期的に維持できます。
失敗しないための非機能要件のチェックリスト
よくある失敗例とその回避策
非機能要件定義が適切に行われない場合、システムを利用するユーザーだけでなく、開発者にとっても多くの問題を引き起こします。よくある失敗例として、システム稼働時間や利用者数の増大が想定されていないことで、システムが停止してしまうケースがあります。また、セキュリティ対策が不十分な場合、情報漏洩や不正アクセスのリスクが高まります。このような失敗を回避するためには、非機能要件を詳細に洗い出し、漏れなく定義することが重要です。具体的には、関係者全員で非機能要件をレビューし、業務に適した明確な基準を設定することが効果的です。
非機能要件漏れを防ぐためのテストとは
非機能要件を確実に満たすためには、適切なテストを計画・実施することが不可欠です。たとえば、性能要件を検証する性能テストは、システムの応答速度やピーク時の動作を確認します。また、セキュリティテストは、脆弱性診断や不正アクセスへの耐性を評価するために有効です。その他にも、ストレステストや保守性テストなど、システムの安定性や運用の効率性を検証するためのテストが存在します。これらのテストを継続的に実施することで、非機能要件漏れを防ぎ、システム品質を高めることが可能です。
要件定義で活用できるツールの紹介
要件定義を効率的に進めるためには、適切なツールを活用することが効果的です。たとえば、非機能要件の管理には「Jira」や「Redmine」といったプロジェクト管理ツールが役立ちます。これらのツールは、タスクの割り当てや進捗管理を一元化でき、チーム間での情報共有が容易になります。また、「Jama Connect」や「DOORS」などの要件管理専用ツールを活用することで、要件定義書の作成や追跡がスムーズになります。さらに、セキュリティ要件に関しては、「OWASP ZAP」や「Burp Suite」などのツールを用いて、非機能要件の一環として定義されたセキュリティ対策の妥当性を検証できます。
プロジェクト全体の成功と品質の関係性
プロジェクトを成功させるためには、非機能要件を適切に定義し、それを確実に満たすことが大前提となります。なぜなら、非機能要件はシステム全体の品質に直結する要素だからです。たとえば、システムの可用性が低い場合、頻繁なダウンタイムで顧客満足度が低下するリスクがあります。また、性能やセキュリティが不足している場合、信頼性を損ない、競争力の低下を招きかねません。非機能要件をしっかりと押さえ、適切なテストやツールを活用することで、プロジェクト全体の成功に繋がる高品質なシステムを構築することが可能です。