企業の「未来」を創る財務部門、FP&A
企業の財務部門には、過去から現在までの企業活動を正確に記録・報告する「経理・会計」と、未来の経営を数字で描き出し、その舵取りを支援する「FP&A」という、二つの重要な機能が存在します。
市場環境の変動が激しく、将来の予測が困難な現代において、データに基づいた的確な経営判断の重要性はますます高まっています。このような背景から、企業の意思決定を数字の面から支えるFP&Aの役割に、大きな注目が集まっています。
本稿では、FP&Aの基本的な定義から、経理・会計との役割分担、具体的な業務内容、そしてキャリアとしての魅力まで、その全貌を体系的に解説します。
FP&Aの基本:経理・会計との連携と役割分担
FP&Aを理解する上で重要なのは、「経理・会計」との役割の違いと、その密接な連携関係を明確にすることです。両者は同じ財務データを扱いますが、その視点とミッションは異なります。
視点の違い:「過去の事実」と「未来の予測」
両者の大きな違いは、時間軸の捉え方にあります。
経理・会計の視点(過去〜現在)
経理・会計の主なミッションは、過去に発生した企業活動(取引)を、会計基準という厳格なルールに基づいて正確に記録・集計し、決算書(財務諸表)として社内外のステークホルダーに報告することです。その正確性と網羅性が何よりも重視され、企業の過去から現在までの財務状態を客観的な事実として確定させる役割を担います。
FP&Aの視点(現在〜未来)
一方、FP&Aの主なミッションは、経理・会計が確定させた信頼性の高い過去のデータを基に、企業の未来の姿を予測し、経営目標を達成するための針路を示すことです。予算の策定や業績の予測、新規投資の採算性評価などを通じて、経営陣が未来に関する意思決定を下すための情報を提供します。
役割の違い:「財務基盤の守護者」と「事業成長の航海士」
この視点の違いは、組織内での役割の違いにも繋がります。
経理・会計が、企業の財務基盤の「正確性」と「信頼性」を担保する守護者としての役割を担うのに対し、FP&Aは、その信頼できるデータを羅針盤として、経営陣や事業部門と共にビジネスの成長を目指す「航海士(ナビゲーター)」としての役割を担います。
経理・会計が提供する正確な財務データという「信頼できる唯一の真実(Single Source of Truth)」がなければ、FP&Aは有効な分析や予測を行うことはできません。両者は、企業の健全な財務運営を支える、相互に不可欠なパートナーなのです。
FP&Aの具体的な業務内容
FP&Aの業務は、その名の通り、P(Planning:計画)とA(Analysis:分析)という二つの大きな機能で構成されています。
P = Planning(計画):企業の未来の設計図を描く
Planning業務は、企業の経営目標を具体的な数値計画に落とし込み、その進捗を管理する役割を担います。
予算策定(Budgeting)
年に一度、次年度の全社的な数値目標となる予算を策定します。各事業部門のトップと議論を重ね、売上目標、人員計画、コスト計画などを積み上げ、全社の利益計画を策定します。これは、単なる数字集計ではなく、企業の戦略と現場の実行計画を結びつける、極めて重要なプロセスです。
業績予測(Forecasting
策定した予算に対し、最新の市場環境や事業の進捗状況を反映させ、年度末の着地見込み(フォーキャスト)を定期的に更新・予測します。市場が急変した場合などには、予算達成に向けた軌道修正案を経営陣に提示することもあります。
中長期経営計画の策定
3年から5年といった中長期的な視点で、企業の成長戦略を具体的な財務数値計画に落とし込みます。M&Aや大規模な設備投資、新規事業開発といった重要な経営判断の基礎となる、未来の設計図を作成する業務です。
A = Analysis(分析):データから事業のインサイトを導き出す
Analysis業務は、過去から現在のデータを分析し、経営判断に資する洞察(インサイト)を導き出す役割を担います。
予実分析(Variance Analysis)
予算(計画)と実績の差異を分析し、「なぜ差異が生まれたのか」という根本原因を特定し、経営層に報告します。例えば、「売上は達成したが利益が未達」という場合、その原因が「想定外の円安による原材料費の高騰」なのか、「新製品の広告宣伝費の使いすぎ」なのかをデータに基づいて明らかにします。
経営レポーティング
月次や四半期ごとに、取締役会などの経営会議で使用される財務分析レポートを作成・報告します。単に数字を羅列するのではなく、データが示す意味合いを解釈し、経営陣が取るべきアクションに繋がるような示唆を与えることが重要です。
事業部サポート
事業部門からの依頼に基づき、個別テーマの分析を行います。例えば、「この新製品に投資すべきか?」という問いに対しては、投資回収期間やROI(投資利益率)を分析し、「A製品とB製品、どちらが儲かっているのか?」という問いに対しては、製品別の収益性分析を行います。
FP&Aというキャリアの魅力
FP&Aは、企業の財務全体を俯瞰し、経営の意思決定に直接関与できる、非常に魅力的なキャリアです。
求められるスキルセット
ハードスキル
財務会計の知識、高度なExcelスキル、精緻な財務モデルを構築する財務モデリング能力、そしてBIツール(Tableauなど)を活用して膨大なデータを可視化・分析する能力が求められます。
ソフトスキル
論理的思考力はもちろん、事業部門のビジネスを深く理解し、対等に対話するためのコミュニケーション能力、そして複雑な数字の分析結果を、専門家ではない経営層にも分かりやすく伝える「ストーリーテリング能力」が極めて重要です。
多様なキャリアパス
FP&Aの経験は、企業の財務全体を俯瞰する視座を養うため、経営幹部への登竜門となるキャリアパスです。FP&A部門で実績を積んだプロフェッショナルは、将来的にはCFO(最高財務責任者)や経営企画部門の責任者、あるいは事業の経験を積んで事業部門のトップへとキャリアを発展させていくことが可能です。
まとめ
FP&Aは、単なる数字の分析に留まらず、企業の羅針盤として未来の針路を示し、経営陣の意思決定を支える極めて戦略的な機能です。経理・会計が企業の財務基盤の「正確性」と「信頼性」を担保する一方で、FP&Aはその信頼できるデータを基に、企業の「未来」の成長戦略を描き出し、その実現を支援します。両者が連携することで、企業は持続的な成長を達成できるのです。
変化の激しい時代において、データに基づいた未来予測と戦略立案を担うFP&Aの重要性は、今後ますます高まっていきます。企業の成長と変革を、財務の側面からリードしたいと考える人材にとって、FP&Aは大きな挑戦と成長の機会を提供するフィールドです。
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