企業価値を高めるリスク管理とコンプライアンス:なぜ今、攻めの経営戦略なのか

リスク管理とコンプライアンスの基本概念

法令遵守(コンプライアンス)の定義と意義

法令遵守(コンプライアンス)とは、企業が事業活動を行う上で、国内外の法令や行政機関の規則、社内規程といったルールを守ることです。近年では、単に法律を守るだけでなく、社会規範や企業倫理に基づいた公正で透明性の高い事業運営が求められており、その範囲はESG(環境・社会・ガバナンス)の観点を含む広範囲なものとなっています。ルールを軽視することは、法的リスクや社会的な信用の失墜といった重大な問題に繋がります。

リスク管理とは何か:企業経営における役割

リスク管理とは、企業が直面するさまざまなリスクを特定・分析し、評価した上で、適切な対応策を講じるプロセスを指します。企業経営におけるリスク管理の役割は、単に損失を回避することではありません。どのリスクをどこまでなら受け入れられるかというリスクアペタイトを明確にすることで、経営陣が新しい市場への参入や大規模な設備投資といった、成長を促すための「計算されたリスクテイク」を自信を持って行えるようにすることです。

法令遵守とリスク管理の相互関係

法令遵守とリスク管理は、企業経営において相互に補完し合う不可欠な要素です。法令遵守を怠ることは、コンプライアンス・リスク(法令違反リスク)を生み出し、罰則や訴訟、社会的信頼の低下を招きます。一方、リスク管理は、これらのリスクを早期に発見し、対応策を構築するための基盤となります。両者は車の両輪のように、企業活動の健全性と成長性を支えます。

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経営リスクの捉え方と戦略的アプローチ

企業が直面する多岐にわたるリスク

企業が直面するリスクは、金融業界に限定されません。製造業ならサプライチェーンリスクや製品安全リスク、IT業界ならサイバーセキュリティや個人情報漏洩リスク、そしてどの業界にも共通する評判リスクや人材流出リスクなど、多岐にわたります。これらのリスクを戦略的に管理することで、予期せぬ事態が起こっても事業を継続できる体制を築き、持続的な成長を実現できます。

統合リスク管理(ERM)と「3つのディフェンスライン」モデル

現代のリスク管理は、事業部門ごとの個別対応ではなく、統合リスク管理(ERM:Enterprise Risk Management)という全社的なフレームワークに基づいて実施されます。このERMを組織的に機能させる上で、国際的に標準となっているのが「3つのディフェンスライン(Three Lines of Defense)」モデルです。

  1. 第1線(事業部門):リスクを直接的に負い、日常業務の中でリスクを管理する最前線。例:営業担当者が顧客情報の取り扱いルールを遵守する。
  2. 第2線(リスク管理・コンプライアンス部門):第1線が適切にリスク管理を行っているかを監視・監督する役割。例:コンプライアンス部門が、内部規程が守られているかを定期的にチェックする。
  3. 第3線(内部監査部門):第1線と第2線から独立した立場で、リスク管理体制全体の有効性を客観的に監査・評価する。

このフレームワークを導入することで、誰が、何を、どう管理するのかが明確になり、企業全体のガバナンスが強化されます。

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企業価値へ繋がるリスク管理とコンプライアンス

信頼の構築とブランド価値の向上

法令遵守は、単に罰則を回避するだけでなく、顧客、投資家、取引先といったステークホルダーからの信頼を築く上で不可欠です。不正を働かない、誠実な企業というイメージは、貴重な無形資産となり、ブランド価値を向上させます。特に、ESG投資が増加している現代においては、倫理的な経営姿勢が企業の評価を大きく左右します。

「攻め」の経営を可能にする羅針盤

リスク管理は、事業の「攻め」を加速させるための羅針盤としての役割も担います。リスクアペタイトを明確にすることで、経営陣は不確実性の高い意思決定においても、どの程度のリスクまでなら許容できるかを把握し、自信を持って挑戦できます。例えば、新しい技術に投資する際、技術的な失敗リスクと市場投入の遅延リスクを事前に評価し、最悪のシナリオを想定しておくことで、冷静かつ迅速な判断が可能になります。

罰則や訴訟リスクの回避

法令違反が発生した場合、企業は高額な罰金、業務停止命令などの罰則、そして訴訟リスクに直面します。これらは企業の存続を脅かす事態に発展する可能性があります。 過去の事例では、大規模な個人情報漏洩を起こした大手ECサイトが、顧客からの信頼を失い、事業継続に深刻な影響を受けたケースがありました。しかし、これを教訓としてCSIRT(Computer Security Incident Response Team)を設立し、セキュリティ投資を経営の最優先課題に位置付けたことで、その後は強固なセキュリティ体制を武器に成長を続けています。

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成功企業に学ぶ実践的アプローチ

業界を越えた実践事例

製造業:サプライチェーンリスクの分散

大手自動車メーカーは、半導体供給網の寸断リスクに対し、調達先を複数の国や地域に分散させることで、地政学的リスクを軽減しました。これは、単にリスクを回避するだけでなく、安定した生産体制を確保し、市場競争力を維持する「攻め」の戦略です。

IT業界:サイバーセキュリティのプロアクティブな強化

ある大手IT企業は、サイバー攻撃を常時監視する専門チームを編成し、潜在的なリスクを未然に防いでいます。これは顧客データの保護という「守り」だけでなく、高度なセキュリティ体制を「信頼性の証」としてアピールし、顧客獲得に繋げる「攻め」の戦略でもあります。

グローバル企業:多国間規制への統一的対応

国際的に事業を展開するグローバル企業は、コンプライアンス部やグローバル金融犯罪対策室といった専門部門を設置し、各国の複雑な法規制に統一的に対応する体制を構築しています。これにより、各国の市場でスムーズな事業展開を実現し、国際的な競争力を高めています。

中小企業のためのスモールスタート

限られたリソースの中小企業でも、戦略的なリスク管理は可能です。

・リスクの洗い出しワークショップ:まずは社長と従業員数名で、自社にとって最も致命的なリスクを5つだけ洗い出すワークショップから始めましょう。

・外部専門家の活用:顧問弁護士や税理士に、契約書レビューや社内規程の整備範囲を広げてもらうことで、専門的な知見を手軽に活用できます。

・低コストなツール:無料のオンラインテンプレートや、安価なSaaS型のリスク管理ツールを活用し、基本的な管理体制を構築することも有効です。

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企業のDNAとしてのリスク管理文化

精緻なルールやフレームワークを構築しても、それが形骸化しては意味がありません。リスク管理を真に機能させるためには、全従業員がリスクを「自分ごと」として捉える企業文化の醸成が不可欠です。

経営トップが率先してリスクと向き合う姿勢を示すこと、そして従業員が不正や問題点を気兼ねなく報告できる心理的安全性の高い環境を築くことが、健全なリスク管理文化を育みます。また、過度なノルマが不正を誘発しないかなど、インセンティブ設計を見直すことも重要です。

リスク管理の成果を測る際には、「法令遵守率100%」といった結果指標だけでなく、以下のような先行指標(Leading Indicator)をKPIに設定することで、リスクを未然に防ぐための活動を客観的に評価できます。

・全従業員のコンプライアンス研修完了率

・内部通報制度の認知度と利用件数

・リスク評価で特定された重要課題の改善進捗率

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未来に向けたリスク管理とコンプライアンスの展望

AIやデジタル技術の進化は、リスク管理に大きな変革をもたらしています。AIを活用したデータ分析により、不正取引のパターンを早期に検知したり、膨大なデータから潜在的なリスクを予測したりすることが可能になりました。

また、ESG投資の重要性が高まる中で、企業は持続可能な社会への貢献と法令遵守を統合した経営が求められています。倫理的なサプライチェーンの構築や、環境負荷の低減に向けた取り組みは、もはや単なるコストではなく、企業価値を高めるための重要な戦略です。

未来のリスク管理とコンプライアンスを成功させるには、経営陣の卓越したリーダーシップと、変化に柔軟に対応する企業全体の積極的な姿勢が不可欠です。リスクを管理・抑制するだけの「守り」の活動から、事業成長を加速させる「攻め」の経営戦略へと、その役割は確実に進化しています。

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コンプライアンスに関する求人ポジション

コトラでは、コンプライアンスに関する求人ポジションを取り揃えております。

日系運用会社での法務・商品業務の求人

【ポジション概要】
法務業務を中心とし、経験に応じ以下の業務を担当頂きます。

●新商品・新種業務における法的検討
●契約書レビュー及び交渉/締結の支援
●国内籍の投資信託及び投資一任業務並びに第二種金融商品取引業に係る国内外の規制についての調査及び対応支援
●金融庁や投資信託協会、投資顧問業協会との折衝
●現場部署からの法令等に係る照会に対する回答
●訴訟など対応
●法令等違反対応
●コンプライアンスに関する社内規則の制改定

オンライン証券でのリスク・コンプライアンスオペレーション業務 (スタッフ〜リーダー候補)の求人

【ポジション概要】
税務署や警察署等の関係当局からの顧客照会に対する対応業務
不公正取引の監視・チェック業務、内部者登録業務および当局への届出業務
反社会的勢力等の該当のチェックなど顧客スクリーニングに関する業務
マネー・ローンダリング等疑わしい取引に係る審査業務、マネー・ローンダリング資金供与防止態勢の充実、海外子会社管理など、コンプライアンス態勢の高度化に向けた企画の立案と実務の運営

公的年金でのコンプライアンスの求人

【ポジション概要】
(1)コンプライアンス研修に関する業務(研修の企画、実施)
(2)コンプライアンスに関する規範の整備
(3)市場取引に関するモニタリング
(4)投資候補先のオペレーショナル・デューデリジェンス
(5)インサイダー情報の管理に関する業務
(6)職員の法令違反行為等への対応
(7)その他法務室コンプライアンスチームの業務運営に必要な業務

独立系投信・投信投資顧問での法務担当<弁護士>の求人

【ポジション概要】
・国内外における契約関連全般の業務
・関連各所への法的アドバイス(国内及び海外拠点)
・株主総会、取締役会運営に係る業務
・その他会社運営上、法的領域に係る業務
・社内研修の開催、コンプライアンス/リーガルイシューの共有等、社内啓蒙活動

独立系投信・投信投資顧問でのコンプライアンス業務担当者の求人

【ポジション概要】
・運用資産のガイドライン・モニタリング
・各種規程(英文規程を含む)類の整備・改定
・関連官庁との窓口、折衝、連携
・リスク管理、コンプライアンスに関連した社内ルールの整備およびモニタリング
・関連各所への法的アドバイス(国内及び海外拠点)
・社内研修の開催、コンプライアンス/リーガルイシューの共有等、社内啓蒙活動
・国内外における契約関連全般の業務
・株主総会、取締役会運営に係る業務
・その他会社運営上、法的領域に係る業務

大手不動産ファンドでのコンプライアンス担当者(シニアアソシエイト)の求人

【ポジション概要】
●コンプライアンス・法務業務全般
・ライセンス管理(金融商品取引業者、宅地建物取引業者)
・当局への届出・報告(システム対応を含む)
・法定帳簿の作成
・当局、弁護士との協議、相談
・派遣社員の指揮、指導
・各種契約書レビュー、ドキュメンテーション、作成相談対応
・法務・コンプライアンスに係る相談対応
・その他の法務・コンプライアンス業務

コトラでは、上記以外にも非公開求人を含む多数の求人をご案内可能です。

ご興味ございましたらお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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