エンゲージメントファンドとは?
協調で企業価値を高める新しい投資手法
近年、日本企業への注目が高まる中で、「エンゲージメントファンド」という言葉を耳にする機会が増えました。このファンドは、単に企業の株を買うだけでなく、経営陣と手を取り合い、企業の真の価値を引き出すことを目指す、新しい投資のアプローチです。批判的・対立的な姿勢ではなく、建設的な対話を通じた協調的なアプローチが最大の特徴です。企業の抱える課題解決をサポートすることで、企業と投資家の双方にとって持続可能な成長を実現します。
アクティビストファンドとの違い:対立か、協調か
企業の価値向上を目的とする点では似ていますが、エンゲージメントファンドとアクティビストファンドは、その手法において大きく異なります。
アクティビストファンド:経営陣に対し、株主提案や議決権の行使、時には経営陣の交代要求といった強硬なアプローチで積極的な提案や要求を行うので、短期的な成果を強く求める傾向があります。
エンゲージメントファンド:企業との信頼関係の構築を重視し、対話を通じて助言や支援を行う穏健な手法が特徴で、長期的な視点に立ち、企業の持続的な成長を支援することを目指します。
両者は同じ目的地を目指しつつも、その道筋が異なるのです。
ESG投資との関係性:社会貢献と企業成長の両立
エンゲージメントファンドは、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資と非常に深い関係があります。ESG投資とは、企業の環境への配慮、社会貢献、適切な企業統治といった非財務情報を重視して投資を行うアプローチです。
エンゲージメントファンドは、投資先企業のESG課題に積極的に取り組むことで、長期的な企業価値を向上させると同時に、社会的な価値の創造にも貢献します。例えば、環境負荷軽減に向けた具体的な取り組みを提案したり、ガバナンス改革を後押ししたりと、企業との協働を進めます。このように、エンゲージメントファンドは従来の財務的リターンとESGの両立を追求し、持続可能な社会への橋渡しとして重要な役割を果たしています。
日本におけるエンゲージメントファンドの存在感
日本国内において、エンゲージメントファンドはその存在感を着実に高めています。特に、コーポレートガバナンス改革が進む中で、企業価値向上を目的とした投資家からのニーズが強まっています。また、ESGへの関心の高まりも、この手法を活用するファンドへの注目を後押ししています。
国内市場の動向と主要プレイヤー
近年、日本のエンゲージメントファンド市場では、国内外の運用会社や年金基金が主導するファンドが活発に活動しています。彼らのアプローチは、議決権行使や株主提案といった直接的な行動を控えめにし、対話を通じた信頼関係の構築を重視する点が特徴です。具体的には、企業に対して収益改善や資本政策の見直し、ガバナンスの強化などを提案し、長期的な企業価値の向上を目指しています。投資先の多様性も広がり、中小企業から上場企業まで、広範な企業が対象となっています。
エンゲージメント活動の具体的なテーマ
エンゲージメントファンドが企業と対話するテーマは多岐にわたりますが、主に以下の点が焦点となります。
バランスシートの効率化:例えば、過剰に積み上がった現預金の有効活用や、自社株買い、設備投資、M&Aなどへの振り向けを提案します。
事業ポートフォリオの見直し:低収益事業や赤字事業の売却・撤退を促し、成長事業への集中や新規事業への投資を支援することで、資本効率の改善を目指します。
持続可能な経営の実現:ESGに関する課題への取り組みを推進し、企業が社会課題の解決と企業価値向上を両立できるよう助言します。
PBR1倍割れ企業が抱える課題とエンゲージメントファンドによる改善策
日本市場では、株価純資産倍率(PBR)が1倍を割り込む企業が多く存在し、これは企業の資本効率や成長性に対する市場からの評価が低いことを示唆しています。エンゲージメントファンドは、このようなPBR1倍割れ企業に対し、積極的なエンゲージメントを通じて改善を促します。
具体的な改善策としては、前述のバランスシートの効率化(例:過剰な現預金の株主還元や成長投資への振り向け)や、不採算事業からの撤退による事業ポートフォリオの見直し、そして成長戦略の明確化と実行支援などが挙げられます。ファンドは企業と深く対話し、企業が抱える潜在的な価値を引き出し、市場からの正当な評価を得られるよう支援します。
エンゲージメントファンドが持つ潜在的な可能性
企業価値向上への具体的な影響
エンゲージメントファンドは、短期的な利益追求ではなく、徹底的な企業分析と継続的な提言を行うことで、資本効率や経営効率の向上を目指します。バランスシートの効率化や事業ポートフォリオの見直しといった提案を通じ、企業が内部資源を最適化し、長期的な競争力を高める手助けをします。これにより、株主価値の向上はもちろん、従業員や顧客に対してもポジティブな影響が期待されます。
長期的な日本経済成長への寄与
個別の企業価値向上にとどまらず、エンゲージメントファンドは長期的には日本経済全体の成長にも貢献します。投資先企業が効率的で持続可能な経営を実現することで、より多くの企業が健全な経営基盤を築き、経済全体の活性化につながります。また、ESG投資の観点を重視することで、社会的に意義のある分野への資金配分を促進し、持続可能な発展を支えます。
国内外投資家からの注目
日本のエンゲージメントファンドは、近年、国内外の投資家からの注目を集めています。日本企業のガバナンス改革が進む中で、エンゲージメントファンドの存在が資本市場における透明性向上や信頼醸成に寄与していることが評価されているからです。特に、海外のESG志向の投資家にとって、日本のエンゲージメントファンドが提供する協調型アプローチは、アクティビストファンドに比べてポジティブに受け止められるケースも多くなっています。日本市場の特性を理解した上でのアプローチが、国内外双方からの信頼を得る鍵となっています。
エンゲージメントファンドの活用法と成功要因
投資先企業との建設的な対話の方法
エンゲージメントファンドが成功するためには、投資先企業との建設的な対話が不可欠です。この対話は、単なる意見交換ではなく、相互の信頼関係を築くことで可能になります。ファンドの運用者は、企業の抱える課題を深く理解した上で、経営陣と共通の目標を設定することが求められます。データに基づいた具体的かつ実用的な提案を行うことで、企業が自律的に価値向上を意識する機会を提供することが可能になります。
効果的なエンゲージメントの条件
効果的なエンゲージメントには、いくつかの条件があります。
深い知識とリサーチ:対象企業の事業や業界動向について十分な知識を持ち、具体的かつ現実的な提案を行うこと。
中長期的な視点:短期的な利益だけでなく、中長期的な視点での支援を重視すること。
優れたコミュニケーションスキル:対立を避けつつも、建設的で説得力のある議論が行えるファシリテーション能力。
具体的な事例から学ぶ成功の秘訣
エンゲージメントファンドの成功は、単なる理論だけでなく、実際の企業との協働事例から多くを学ぶことができます。
ある日本企業(例:製造業)は、長年、過剰な現預金を抱え、新たな成長投資に踏み出せずにいました。エンゲージメントファンドはこの企業に対し、詳細な市場分析と競合比較に基づき、現預金の一部を自社株買いと、将来の成長が見込まれる海外市場への設備投資に振り向けることを提案しました。経営陣との度重なる対話とデータ提示を通じて、ファンドの提案の妥当性を理解した企業は、この戦略を実行に移しました。その結果として、資本効率が大幅に改善され、株価も上昇。さらに、新たな設備投資により海外市場での競争力も強化され、長期的な企業価値向上を実現しました。
別の事例(例:小売業)では、複数の不採算店舗を抱え、事業ポートフォリオの最適化が課題でした。エンゲージメントファンドは、各店舗の収益性、立地、顧客データなどを徹底的に分析し、収益性の低い一部店舗の閉鎖と、Eコマース事業への集中投資を提案しました。この提案は、短期的な痛みを伴うものでしたが、ファンドは企業経営者と緊密に連携し、従業員への配慮も含めた実行計画を共に策定しました。結果、事業全体の収益構造が改善され、成長分野であるEコマースでの市場シェアを拡大し、持続可能な事業基盤を確立しました。
これらの事例からわかるように、エンゲージメントファンドの成功には、対象企業への深い理解、データに基づいた具体的かつ建設的な提案、そして経営陣との間に構築される強固な信頼関係が不可欠です。
地域創生に貢献する投資の形:エンゲージメントファンドの新たな役割
エンゲージメントファンドの役割は、上場企業への投資と企業価値向上に留まりません。近年、地域経済の活性化や地方創生への貢献という新たな可能性にも注目が集まっています。
エンゲージメントファンドは、地方に根ざした中小企業に対しても、その専門知識とネットワークを活用して支援を提供できます。例えば、後継者不足に悩む地方の老舗企業に対し、事業承継のサポートや、新たな経営戦略の立案を支援することが可能です。また、特定の地域資源(例:観光、特産品)を活用した新規事業への投資や、地域内の企業間連携を促進することで、新たな雇用を創出し、地域経済の活性化に貢献できます。
さらに、ESGの観点から、地域の環境保全プロジェクトや、高齢者支援、教育機会の提供といった社会課題解決に取り組むNPOや社会的企業への資金提供や経営サポートを行うことも、エンゲージメントファンドの新たな役割として期待されます。
具体的な地域創生の事例としては、あるエンゲージメントファンドが、過疎化が進む地域の伝統産業を営む複数の中小企業に対し、共同でのブランド構築や、新たな販路開拓を支援した結果、地域全体の売上が向上し、若者のUターンに繋がったという例などが考えられます(これはあくまで例であり、特定の事例を指すものではありません)。
このように、エンゲージメントファンドは、単なる財務的リターンだけでなく、地域社会へのポジティブなインパクトを追求することで、持続可能な社会の実現に貢献する投資の形を提示しています。
エンゲージメントファンドが未来にもたらす影響
日本経済の再活性化における役割
エンゲージメントファンドは、日本経済の再活性化において重要な役割を果たします。企業価値の向上と経営支援に重点を置く、この投資手法は、資本効率の改善やガバナンス改革を通じて、収益性の高いビジネスモデルを実現する企業の数を増やし、日本経済全体の底上げに貢献することが期待されています。また、短期的な利益追求ではなく、中長期的な経済成長を見据えた活動は、国内産業の持続可能な発展を促し、経営の透明性や効率性を向上させることで、海外投資家からの信頼獲得にもつながります。
持続可能な投資環境の構築
エンゲージメントファンドは、持続可能な投資環境の構築にも大きな影響を与えます。ESG課題に積極的に関与することで、企業が長期的な視野で成果を上げられるよう支援し、投資家と企業が同じ方向を向き、持続的な経済発展を目指す基盤を作り出します。特に、日本市場でESG投資の重要性が高まる中、このタイプのファンドは企業と投資家の信頼関係をさらに強化し、持続可能な投資文化の醸成に寄与します。
地域社会へのインパクト
エンゲージメントファンドの役割は、企業や投資家にとどまらず、地域社会にも影響を与えます。ファンドの投資活動を通じて推進される企業のガバナンス改善は、地元雇用の創出や地域貢献型の事業改革を促し、地域経済を健全にし、持続可能な社会基盤を強化する助けとなります。地方創生をテーマにしたエンゲージメント活動は、地域の特色を活かした産業の成長を支援し、都市部と地方の経済格差を縮小するという点でも期待されています。これにより、ファンドは単なる経済的利益を超えた社会的価値を提供する存在として高く評価されるでしょう。
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