人的資本経営とは何か?
人的資本の定義と重要性
人的資本とは、単なる個人の能力の総称ではありません。それは個人の知識、スキル、経験、創造性など、企業価値創造に寄与する能力を、経済学的に「資産」として捉えた概念です。教育や研修といった投資を通じて向上させることが可能で、その投資対効果が将来の企業収益に貢献すると考えられています。このため、人的資本は単なるコストではなく、積極的に投資すべき対象として認識されており、有形資産にはない独自の競争優位性をもたらす企業の持続的な成長基盤となっています。
人的資本経営の基本的な概念
人的資本経営とは、人材を企業の最も重要な資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、企業のパフォーマンスと競争力を高める経営手法です。このアプローチは、単なる人材マネジメントを超え、企業理念や経営戦略と人材戦略を密接に結びつけることを意味します。経営の中核に人的資本を据えることで、従業員一人ひとりのモチベーションや能力を向上させるための研修、キャリアパスの設計、多様な働き方の推進といった投資が、企業全体の持続可能性を実現する戦略的な取り組みとなります。
人的資本経営が注目される背景
社会的要請と規制強化の動向
近年、人的資本経営への注目が高まっている背景には、社会からの要請と法規制の強化が挙げられます。社会全体でサステナビリティへの関心が高まる中、企業は従業員の多様性、インクルージョン、健康経営といった人的資本への取り組みが不可欠と見なされるようになりました。
法規制の面では、2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂において、上場企業が健全な経営を行うための規範として、人材の多様性確保に向けた方針や人材育成方針を開示・説明することが求められました。さらに、2023年3月には有価証券報告書への人的資本情報の記載が義務化されるなど、企業が人的資本をマネジメントしていく必要性が法的にも高まっています。経済産業省と金融庁が連携して設立した「人的資本経営コンソーシアム」も、この動きを後押ししています。
無形資産としての人材価値の変化
かつて企業価値の多くは工場や設備といった有形資産に依存していましたが、現代ではブランド価値、顧客基盤、技術力、そして組織能力(人的資本)といった無形資産がその大部分を占めるようになっています。
特に、人的資本はイノベーションを生み出す創造力や、業務効率を向上させる専門性といった企業の競争力を生み出す重要な要素です。金融市場においても、これらの無形資産の価値がより高く評価されるようになりました。人材は単なる労働力から、企業成長を支える戦略的な資産へとその価値を変えており、人的資本への適切な投資が企業の持続可能な成長を支える鍵として認識されています。
働き方改革と人的資本経営の接点
働き方改革は、人的資本経営と深く結びついています。単に労働時間を短縮するだけでなく、多様な人材がその能力を最大限に発揮できる環境を整備することが求められています。これは、従業員のエンゲージメントと生産性の向上を支える仕組みを構築することを意味します。
人的資本経営は、この改革を企業成長の戦略の中核に据えるものです。多様な働き方を戦略的に取り入れることで、従業員のスキルや生産性の向上を支える仕組みを構築するだけでなく、組織のイノベーションを促進し、企業価値の向上につながります。このように、人的資本経営は働き方改革を能動的な成長戦略として位置づけるものです。
有価証券報告書の記載義務化と影響
2023年3月期以降、有価証券報告書の提出義務がある上場企業に対して、人的資本に関する情報の開示が義務化されました。この規制では、必須開示項目として、人材育成方針、社内環境整備方針、そしてこれらの取り組みに関する指標の3項目が定められています。金融庁が示す具体的な項目例(7分野19項目)は参考情報であり、企業は自社の戦略に沿った指標を特定し、開示することが求められます。
この義務化により、情報開示の透明性が高まることで、投資家からの評価が向上し、資金調達の優位性が生まれます。また、優れた人材に対する投資姿勢を示すことで、採用市場での競争力が高まる効果も期待できます。このように、人的資本を重視した経営が企業価値を左右する時代が到来したと言えます。
企業戦略としての人的資本経営
人的資本経営と経営戦略の統合
人的資本経営と経営戦略の統合は、企業の持続的な成長を支える重要な要素です。経営層が人的資本の重要性を深く認識し、それを具体的な経営戦略に落とし込むことで、人材をコストではなく、価値を創出する資本として捉えるパラダイムシフトが起きます。
例えば、金融業界ではAIやデータ分析の専門知識を持つ人材の育成が急務となっており、研修プログラムを経営戦略の一環として取り入れる企業が増えています。こうした取り組みは、企業価値の向上と持続可能な経営に直結します。
企業における人的資本投資の優先領域
人的資本経営を推進する上で、企業が優先的に投資すべき領域は多岐にわたります。
- スキル開発や研修プログラムの充実は、従業員の付加価値を高め、長期的な競争力を確保します。
- 多様な人材の採用と、その能力を最大限に引き出すための働き方改革は、組織のイノベーションを促進します。
- 健康経営や従業員のエンゲージメント向上への投資は、離職率の低下や生産性の向上に繋がります。
金融業界では、デジタル化に対応した専門知識だけでなく、多様性や包括性を推進する取り組みもますます注目されています。
人的資本経営の成功事例
人的資本経営を実践し成功を収めた企業には、共通した特徴があります。多くの企業が、従業員のスキル向上とキャリア開発を重視した研修制度を構築し、市場での競争優位性を確保しています。
例えば、人的資本経営コンソーシアムに参加する企業の中には、社員のスキルを可視化する「スキルマップ」の活用や、従業員エンゲージメントスコア、離職率、一人あたり研修時間といった具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、データに基づいた意思決定を行っている事例が見られます。これらの取り組みは企業全体の統合的な成長を支える基盤となっています。
ステークホルダーの期待に応える情報開示
人的資本経営において、ステークホルダーに対する透明性の高い情報開示は不可欠です。2023年3月以降の義務化により、企業は人的資本に関する取り組みや投資内容を明確にすることが求められています。
この情報開示は、企業がどのように人的資本を活用し、社会的責任を果たしているかを示す指標となります。特に、国際的な投資家層に対するアピールや、優秀な人材の獲得、企業ブランドの強化に繋がる要素として注目されています。
人的資本経営を成功させるための鍵
リーダーシップとしての視点
人的資本経営を成功に導くためには、経営トップとリーダー層が人的資本を収益を生み出す資産として捉えるパラダイムシフトを起こすことが不可欠です。リーダーは、人的資本の重要性を深く理解し、それを経営戦略に統合するとともに、従業員との対話を通じて組織全体を巻き込むビジョンを提示する役割を担います。こうしたリーダーシップは、企業内の人的資本管理を意識的に実施し、結果として金融面や採用競争力での優位性をもたらします。
データ活用とKPI設計
人的資本経営の実現には、データを活用した指標設計が欠かせません。従業員エンゲージメントスコア、一人あたり採用コスト、研修の効果測定といったKPIを策定することで、人材への投資が企業価値向上にどれだけ寄与しているかを定量的に把握できます。データに基づいた意思決定は、人的資本の効率的な運用を可能にし、資本全体の健全性を高めます。
組織文化とイノベーションの推進
効果的な人的資本経営には、イノベーションを推進する組織文化の構築が必須です。従業員が主体的に行動でき、失敗を許容する文化を醸成することで、創造性が最大限に引き出されます。部門間の壁を取り払い、多様な視点が融合するような仕組みを設けることも、新たな価値創出に繋がります。
持続可能な経営と多様性の重要性
人的資本経営は、ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点を取り入れた持続可能な経営の基盤となります。特に、多様性(ダイバーシティ)の推進は企業の競争力を高める上で重要な側面です。さまざまなバックグラウンドを持つ人材が共存する環境は、幅広い視点を事業運営に反映させ、革新的なアイデアを生み出す土壌となります。これにより、企業の持続的な成長と無形資産の強化に繋がります。
人的資本に関する求人
コトラでは、人的資本に関する求人ポジションを取り揃えております。
大手シンクタンクでの経営コンサルタント(人的資本経営)の求人
【ポジション概要】
人的資本経営に関するコンサルティング業務(お客様の持続的な企業価値向上に向けた課題解決、実行支援、実行サービスの企画・開発)
【担当領域】
人材戦略策定・人的資本開示、要員計画策定、タレントマネジメント、リスキリング、組織変革、組織開発、エンゲージメント向上、ピープルアナリティクス
EY新日本有限責任監査法人/大手監査法人の人的資本経営におけるアドバイザリー業務の求人
【ポジション概要】
人事戦略の策定、人材育成方針の設計、人事関連のデータ収集、データ分析、データプラットフォームの構築、開示対応等の人的資本関連のプロジェクトの一躍を担っていただくことを想定しています。
大手金融機関系リスクマネジメント会社での人的資本コンサルタント(メンバー)の求人
【ポジション概要】
1.人的資本の可視化・分析支援
・エンゲージメントサーベイの設計・実施・分析
・ISO 30414に基づくFit&Gap分析
・人的資本に関する簡易診断の実施および報告書作成
2.組織改善・施策立案支援
・サーベイ結果に基づくエンゲージメント改善施策の企画・提案
・人事・労務データを用いた構造的・定量的分析と課題抽出
・顧客企業の課題に応じた育成・マネジメントプログラムの提案
3.各種人的資本領域におけるコンサルティング
・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)推進支援
・離職・介護離職防止施策の企画・実施支援
・職場環境改善・人財育成プログラムの立案と実施
4.セミナー・研修対応
・組織・人事課題に関する社内セミナー
・健康経営に関連したセミナー
大手シンクタンクでの組織人事コンサルティング(人事戦略・制度構築・人的資本経営)の求人
【ポジション概要】
1. 人材戦略
・人的資本経営の推進
・人材戦略策定
・要員計画、タレントマネジメント
・人材情報データ整備、活用
・採用戦略 など
2. 評価・処遇・育成
・人事処遇制度改革
・グループ人事制度統合、構築
・日本企業に適したジョブ型マネジメント
・高度専門人材の評価、処遇
・人材育成ビジョン、人材育成体系構築 など
3. 役員/ガバナンス
・指名・報酬委員会の設計・運営支援
・役員報酬制度改革
・取締役のスキル評価
・取締役会の実効性評価
・サクセッション・プラン など
4. 経営組織
・ダイバーシティ&インクルージョン
・エンゲージメントサーベイ
・組織風土改革
・生産性・業務改革
・人事機能高度化・変革 など
大手コンサルティング会社での戦略コンサルタント(人的資本経営/サービス開発)の求人
【ポジション概要】
売上高1兆円以上の大手企業に対する全社変革テーマにおける提案活動
人材ポートフォリオ変革における実行支援
新規オファリング開発
新たな人的資本経営モニタリング基盤の構築/拡大/導入支援
プロジェクト例
化学メーカー:経営統合に伴う人的資本経営ストーリー実行策定
自動車メーカー:人的資本データ基盤構築
コトラでは、上記以外にも非公開求人を含む多数の求人をご案内可能です。
ご興味ございましたらお気軽にお問い合わせください。