プロジェクトファイナンスとは?仕組みと可能性を徹底解説

プロジェクトファイナンスとは、特定の事業(プロジェクト)から生じるキャッシュフローを融資の返済原資とし、かつそのプロジェクトに関連する資産を担保とする資金調達手法です。この手法は通常、特別目的会社(SPC)という独立した法人を設立し、この法人が主体となって資金を調達します。

大きな特徴として、ノンリコース(非遡及型)またはリミテッドリコース(限定遡及型)という性質を持つ点が挙げられます。これは、万が一プロジェクトが失敗して融資の返済が滞った場合でも、融資元は融資対象のプロジェクトの資産やキャッシュフロー、そして担保に限定して債権回収を行い、親会社に直接的な債務返済義務を求めないというものです。このため、プロジェクトの収益性自体が融資のポイントとなり、融資元はプロジェクトの成功による収益を重視します。一方で、プロジェクトが失敗しても親会社の信用に影響を及ぼしにくい点が特徴です。

従来のコーポレートファイナンスでは、企業そのものの信用力や事業全体の収益性が評価され、融資が行われます。これに対し、プロジェクトファイナンスでは、プロジェクト特有のキャッシュフローが評価対象となります。この違いにより、プロジェクトファイナンスは企業のリスクを限定しながら資金調達を可能にする柔軟性を持っています。また、プロジェクトの負債や資産を親会社のバランスシートから切り離す「オフバランス化」が可能になるため、親会社の財務健全性を保つ上でも重要な意味を持ちます。

プロジェクトファイナンスの基本概念と活用分野

プロジェクトファイナンスの歴史と発展

プロジェクトファイナンスのルーツは中世ヨーロッパにおける貿易船の共同出資にさかのぼります。その後、20世紀に入り、石油・ガス分野や大規模インフラ建設プロジェクトで活用が広まりました。

特に1970年代のエネルギー危機を契機として、資源開発とともにプロジェクトファイナンスが発展しました。近年では、再生可能エネルギー分野の台頭や官民連携(PFI、PPP)の活用、さらにはESG投資の重要性の高まりにより、より幅広い分野での導入が進んでいます。

プロジェクトファイナンスはどのような分野で利用されているのか?

プロジェクトファイナンスは主にインフラストラクチャーやエネルギー分野で広く利用されています。特に、発電所、空港、鉄道、道路などの大規模インフラ開発が代表的な例です。また、再生可能エネルギーの導入が加速する中で、風力発電や太陽光発電、バイオマス発電などのプロジェクトにも積極的に活用されています。

さらに、石油・ガスの採掘事業、医薬品開発、さらには新興市場におけるハイリスク・ハイリターンのプロジェクトにも適用されており、世界中でその重要性が増しています。

>まずはコトラに登録

プロジェクトファイナンスの具体的な仕組みを解説

プロジェクトのSPC(特別目的会社)とは?

プロジェクトファイナンスでは、まず「SPC(特別目的会社)」と呼ばれる独立した事業体が設立されることが一般的です。SPCは、特定のプロジェクトを遂行するためだけに設立された会社であり、スポンサーと呼ばれる企業や団体が出資し、プロジェクトに関与する各種契約を取りまとめます。

SPCを設立することで、プロジェクトに関わる負債や資産をスポンサーのバランスシートから切り離すオフバランス化が可能になります。これにより、スポンサーの財務状況や信用リスクを切り離した資金調達および運営が可能となり、リスクを限定する仕組みが築かれます。

キャッシュフローがなぜ重要なのか?

プロジェクトファイナンスでは、キャッシュフローが資金調達や融資の審査における最も重要な指標となります。なぜなら、この融資手法では、プロジェクトの収益性が元利金返済の唯一の基礎となるからです。このため、融資を受けるには慎重なキャッシュフロー予測が求められるほか、収益性を脅かすリスクを最小限に抑える仕組みが必要です。具体的な財務指標としては、元利金返済余裕率(DSCR)やローン残高返済余裕率(LLCR)などが重視されます。

担保とリスク分散の仕組み

プロジェクトファイナンスのもう一つの特徴的な要素として、担保の活用とリスク分散の仕組みが挙げられます。この融資手法では、プロジェクトそのものの資産や将来のキャッシュフローが担保として設定されることが一般的です。具体的には、プロジェクトの土地・建物、設備といった物理的資産に加え、長期の電力売買契約(PPA)などの事業運営に関する各種契約上の権利、保険金請求権、さらにはSPCの株式などが担保として設定されます。

さらに、リスク分散を目的に、プロジェクトの契約構造が緻密に設計されます。たとえば、リスクを適切に分担し、管理するため、以下の契約が結ばれます。

・オフテイク契約(長期売買契約):プロジェクトで生産される電力やガスなどを長期にわたって購入することを約束する契約。これにより、安定した収益源を確保し、キャッシュフローの確実性を高めます。

・EPC契約(設計・調達・建設契約):建設請負業者がプロジェクトの設計から建設までを一括で請け負う契約。これにより、工期遅延やコスト超過といった建設段階のリスクを請負業者に移転します。

・O&M契約(運営・保守契約):プロジェクトの運営・保守を専門の会社に委託する契約。これにより、運営中の技術的リスクを移転し、効率的な運営を確保します。

契約構造における関係者の役割

プロジェクトファイナンスでは、契約構造が非常に重要な要素となります。プロジェクトに関与する各種関係者は、それぞれの役割に応じた契約を締結します。具体的には、スポンサーが出資者としてSPCを設立し、プロジェクトの企画運営を行います。一方で、金融機関や投資家は、融資や出資を通じ資金を供給します。また、建設請負業者はプロジェクトのインフラを構築し、運営会社は運営のために必要な業務を遂行します。これらの関係者が役割分担によって協働することで、プロジェクトは円滑に進行し、最小限のリスクで収益を確保することが可能となります。

>キャリア相談はこちら【無料】

プロジェクトファイナンスが活用される具体例

インフラ開発とエネルギー分野の事例

プロジェクトファイナンスは、発電所や鉄道、空港といったインフラ開発プロジェクトにおいて広く活用されています。これらの事業は通常、長期的かつ大規模な資金調達を必要とするため、プロジェクトそのもののキャッシュフローを担保にした融資手法が採用されます。また、再生可能エネルギーの導入が加速する中で、風力発電や太陽光発電などのプロジェクトにも積極的に活用されています。例えば、日本国内でも「再生可能エネルギー特別措置法」の施行以降、プロジェクトファイナンスを活用した太陽光発電施設の建設が急増しました。

公共事業(PFI/PPP)と新興市場での事例

公共事業でも、プロジェクトファイナンスの手法が効果的に活用されています。特にPFI(Private Finance Initiative)やPPP(Public-Private Partnership)といった官民連携スキームにおいて、プロジェクト単位での資金調達と運用が行われます。例えば、日本の地方自治体が導入したPFI法改正を機に、学校給食センターやコンベンション施設の整備事業にプロジェクトファイナンスが活用され、民間のノウハウと資金を導入することで、公共サービスの効率的な提供が実現されています。

また、新興市場での事業展開においても重要な役割を果たしています。これらの地域では、カントリーリスクと呼ばれる、政治的リスク、為替リスク、収用リスク、送金リスクといった特有のリスクが存在しますが、プロジェクトファイナンスを活用することで、リスクを特定のプロジェクトに限定できます。例えば、アジアやアフリカの電力インフラプロジェクトへの投資が進行中です。

>まずはコトラに登録

プロジェクトファイナンスのメリット・デメリットと今後の可能性

メリット:資金調達の自由度とリスク分散

プロジェクトファイナンスの最大のメリットの一つは、資金調達の自由度が高い点です。この手法では、プロジェクトそのもののキャッシュフローを返済の原資とするため、企業全体の信用力や財務状況に依存せずに融資を受けることが可能です。また、リスク分散の面でも優れています。特別目的会社(SPC)を設立し、プロジェクトが失敗した場合でも、親会社の債務負担が限定される(ノンリコース性)点が特徴です。

ただし、実務上は完全なノンリコースは稀で、多くは『リミテッドリコース(限定遡及型)』となります。これは、例えばプロジェクトの初期段階で特定の条件が満たされるまでのスポンサーによる保証(完工保証など)や、特定の事由が発生した場合の追加出資義務など、限定的な範囲で親会社が責任を負う仕組みです。これにより、貸し手と借り手の間のリスクバランスを取っています。

デメリット:手続きの複雑さとコスト

一方で、プロジェクトファイナンスにはデメリットも存在します。その一つが手続きの複雑さです。この手法は通常、多数の契約者や関係者が関与し、それぞれの役割やリスク分担を詳細に取り決める必要があります。そのため、契約構造が高度に複雑化し、専門家への報酬を含め、膨大な準備時間とコストが発生します。

今後の需要拡大と日本の取り組み事例

なぜ企業は、単独では財務的に不可能な洋上風力発電所や、数十年にわたる高速道路の建設といった巨大プロジェクトに挑戦できるのでしょうか?その答えが、プロジェクトファイナンスです。これは単なる資金調達手法ではなく、国家レベルの巨大なリスクを、事業の将来性という一点を信じてファイナンスする、壮大な金融技術なのです。

>登録してコンサルタントに相談

プロジェクトファイナンスに関する求人

コトラでは、プロジェクトファイナンスに関する求人ポジションを取り揃えております。

大手信託銀行における産業インフラ等のプロジェクトマネジメント・プロジェクトファイナンスの求人

【ポジション概要】
サステナブルビジネス部(旧 ESG ソリューション企画推進部)は、当社における法人事業全体を統括する法
人企画部内に 2020 年 4 月に新設され、法人顧客向けの ESG 関連ビジネス、プロダクトやサービスを企画し、
ESG を統合した事業を推進する役割を担っています。日本経済も低炭素社会に移行する過程で、サステナブルビ
ジネスでは、政府の「グリーン成長戦略」をサポートする事業に注力し、トランジションファイナンスや気候変
動アドバイザリーとファイナンスや不動産関連のソリューションを組み合わせたサービスを企画推進していま
す。同時に、法人顧客とのエンゲージメントに ESG を統合する活動も進めています。

メガバンクグループのプロジェクトファイナンス業務推進・管理の求人

【ポジション概要】
国内外の資源、新エネルギー(水素・アンモニア等)、再生可能エネルギー、インフラ等のプロジェクトに対するファイナンスを組成する業務。案件発掘、アドバイザリー、調査分析、キャッシュフロー分析、対顧交渉、稟議作成、行内審査協議、シンジケーション組成、契約書作成、融資実行、事後管理まで、プロジェクトファイナンス組成に関連する全ての業務を担当。

大手証券会社でのプロジェクトファイナンス・LBO / M&Aファイナンスのアレンジャー/クレジット・アナリストの求人

【ポジション概要】
プロジェクトファイナンス・M&Aファイナンスが行われる案件の創出、アレンジメント、分析やファイナンスの実行・管理、シンジケーション等の実務を行います。クレジット・アナリスト職については、案件の分析(事業分析、CF分析)を主に担いながら、オリジネーション・チームとの協働を行います。また、調査・分析業務を活かしながらオリジネーション業務に関与いただくこともございます。

【東京/茨城】大手地方銀行での海外プロジェクトファイナンス担当の求人

【ポジション概要】
・海外プロジェクトファイナンス・アセットファイナンス推進(フロント業務)
・非日系企業向けシンジケートローン
・上記ジャンル参加案件の審査・稟議作成、期中管理
・海外プロジェクトファイナンス・アセットファイナンス等に係る行内の各種規定・ルールの企画・立案

大手銀行でのプロジェクトファイナンス(再生エネルギー)/フロント業務の求人

【ポジション概要】
●再生可能エネルギーや火力発電事業等電力セクターにおける新規開発プロジェクト向けストラクチャードファイナンス・プロジェクトファイナンス等の融資組成・財務アドバイス
●技術的専門性や業界ネットワークを生かしてお客様(事業者)やベンダーと同じ目線で会話し、ファイナンス案件獲得につなげるマーケティング活動

●電力セクター宛の金融を通じて事業支援は社会的意義が高く、また脱炭素・カーボンニュートラル等の社会的課題への対応手段としての再生可能エネルギーやトランジション電源の導入については社会的重要度も高い。
・シニアローンやアドバイザリーにとどまらず、メザニンファイナンスやプロジェクトへの出資関連業務の機会の可能性もあり。

グループの総合力や信託銀行としての機能を強みにする銀行での不動産・物流施設等にかかるプロジェクトファイナンス担当の求人

【ポジション概要】
不動産業者に対する仕入れ、不動産開発資金の融資などを取り扱うコーポレートファイナンスのほか、物流施設をはじめとする不動産に関わるプロジェクトファイナンスを担当して頂きます。

コトラでは、上記以外にも非公開求人を含む多数の求人をご案内可能です。

ご興味ございましたらお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

金融、コンサルのハイクラス層、経営幹部・エグゼクティブ転職支援のコトラ。簡単無料登録で、各業界を熟知したキャリアコンサルタントが非公開求人など多数のハイクラス求人からあなたの最新のポジションを紹介します。