はじめに:停滞を破る「資産運用立国」というビジョン
日本経済の長年の課題である「貯蓄から投資へのシフト」。この変革の鍵を握るのが、金融庁が掲げる「資産運用立国」という壮大なビジョンです。約2,000兆円にものぼる日本の家計金融資産の半分以上が現預金に眠り、成長の原動力となる資金循環が十分でない現状を打破するため、この国家戦略が動き出しました。
このビジョンは、単なる個人の資産形成に留まりません。眠れる資金を有効活用し、企業価値を高めることで、家計への利益還元、ひいては消費や投資の促進へと繋がる「成長と分配の好循環」を生み出すことを目指しています。一体、資産運用立国は私たちの暮らしと日本経済にどのような変化をもたらすのでしょうか?その背景から具体的な施策、未来への展望まで、深掘りしていきます。
「資産運用立国」とは?:日本経済変革の核心
約2,000兆円の家計金融資産が眠る日本
ご存じのとおり、日本の家計金融資産は約2,000兆円と、世界でも有数の規模を誇ります。しかし、その約半分(約1,100兆円)が現金や預金に集中しており(日本銀行「資金循環統計」より)、欧米諸国と比べると、投資への意識が低いのが現状です。この巨額の資金が有効活用されず、経済の活性化を阻んでいることは、長年の課題とされてきました。
成長と分配の好循環を目指す
「資産運用立国」とは、この眠れる資金を投資やアセットマネジメントへと振り向け、企業に成長資金を供給しつつ、個人にリターンを還元することを戦略的目標とする政策ビジョンです。これにより、個人のお金が増え、そのお金が再び消費や投資に回ることで、企業もさらに成長するという「成長と分配の好循環」を実現しようとしています。
「貯蓄から投資へ」:金融庁の戦略と具体的な施策
新NISA制度が牽引する個人投資
金融庁が掲げるスローガンは「貯蓄から投資へ」。この変革を後押しする重要な施策の一つが、2024年(令和6年)から始まった新しいNISA制度です。旧NISAと比較して、非課税保有限度額が大幅に拡充され(生涯投資枠1,800万円、うち成長投資枠1,200万円)、非課税保有期間も無期限化されたことで、より多くの小口投資家が、より長期的に、安心して投資を始められる環境が整いました。これは、個人の資産形成を促進し、経済全体の活性化に繋げるための大きな一歩と言えます。
海外モデルから学ぶ、日本ならではの強み
海外では、アメリカやイギリスを中心に、家計資産の多くが投資商品や資産運用に活用されています。例えば、アメリカでは確定拠出型年金(401k)などを通して、個々人が自らの資産運用を管理する仕組みが定着しています。
一方、日本では金融リテラシーの不足やリスク回避的な傾向が依然として強いのは事実です。しかし、日本には強固な金融・資本市場が存在するという大きなポテンシャルがあります。資産運用立国の実現により、海外の成功事例に学びつつも、日本ならではの仕組みで世界に冠たる資産運用モデルを築ける可能性があります。
資産運用立国実現プランの「4つの柱」
金融庁は、「資産運用立国」の実現に向けて、主に以下の4つの柱を掲げています。
1. 資産運用業の改革と競争促進
これまで日本の資産運用業界は、家計の現預金偏重により規模が小さい状況でした。金融庁は、この業界が「顧客本位」のアプローチを徹底し、投資家にとって真に魅力的な商品やサービスを提供できるよう、改革を促しています。具体的には、運用会社が顧客のニーズに合致した商品を提供しているか、手数料体系は透明かといった点に重点を置いています。また、国内外の競争を促進することで、金融商品の選択肢を広げ、多様な投資家のニーズに応えられる市場環境を目指します。
2. アセットオーナーシップの強化
アセットオーナーとは、金融資産を保有し、その活用を担う主体を指します。日本では、企業年金や公的年金、そして個人投資家がこの重要な担い手です。これらのアセットオーナーが、多様な投資先を選定し、的確に資産を活用する能力を高めることが求められています。金融庁は、アセットオーナーの知識と専門性を向上するための支援策を展開しており、投資先の選定プロセスや運用実績の透明性向上を推進することで、持続可能な経済成長に貢献することを目指します。
3. グローバルリスクマネーの誘致
日本が資産運用立国を目指す上で、海外からのリスクマネー(投資資金)の誘致は不可欠です。グローバル資本は、日本の経済課題の解決や成長分野の開拓に重要な役割を果たします。金融庁は、新しいNISA制度の拡充や税制優遇措置など、海外投資家にとって日本市場の魅力を高める投資環境の整備を進めています。これにより、国内外の投資資金を呼び込み、市場全体の活性化を図る狙いです。
4. スチュワードシップ活動の実質化
スチュワードシップ活動とは、主に機関投資家が、投資先企業の価値向上や持続可能な発展を目指して働きかける取り組みです。日本ではコーポレートガバナンス改革と連動してスチュワードシップ・コードが普及してきましたが、金融庁はこれをさらに実質化するよう求めています。つまり、単なる形式的なエンゲージメントではなく、投資先企業の長期的な成長と持続可能性に真に貢献する活動を重視しているのです。投資家の企業価値向上への関与が、経済全体の成長と、資金の出し手から受け手までの一連の流れ(インベストメントチェーン)の強化に繋がると期待されています。
「資産運用立国」が日本経済にもたらす影響
成長と分配の「好循環」が日本を強くする
金融庁が推進する「資産運用立国」は、「成長と分配の好循環」の実現を中核に据えています。家計金融資産が企業価値向上を通じて家計に還元され、それがさらに投資や消費を活性化させるというこの循環が、日本経済の持続可能な発展を支えることになります。
家計所得の増加と企業の成長加速
現状、家計金融資産の半分以上が現預金として保有されています。この資金が投資という形で市場に活用されることで、企業の資金調達が円滑になり、イノベーションや事業拡大が加速します。企業価値が向上すれば、株式の配当や株価の上昇という形で家計にリターンが還元され、家計所得の増加に繋がります。この相乗効果が、企業と家計の双方にプラスの影響を及ぼし、アセットマネジメントの重要性が一層高まるでしょう。
地方経済・中小企業への波及効果
「資産運用立国」は、大企業だけでなく、地方経済や中小企業にも大きな恩恵をもたらすと期待されています。例えば、「金融・資産運用特区実現パッケージ」のような施策により、地域特性を活かした金融・資産運用業の誘致や、地方発のベンチャー企業への資金提供が促進されます。これにより、地方経済の活性化や、これまで資金調達に課題を抱えていた中小企業の成長が後押しされ、日本全体の底上げに繋がります。
GDP向上と世界金融市場での存在感強化
日本が「資産運用立国」を実現することで、国内総生産(GDP)の成長が期待されます。さらに、資産運用業の改革やスチュワードシップ活動の実質化により、日本は世界金融市場においてリーダーシップを発揮できる地位を確立することも視野に入ってきます。国内外からの投資資金を呼び込むことで、国内市場の魅力を高め、経済全体の国際競争力を向上させる狙いがあります。
課題と展望:資産運用立国を成功させるために
資産運用業界の人材育成と専門性向上
資産運用立国を実現するには、アセットマネジメント業界において高い専門性と倫理観を備えた人材の育成が不可欠です。金融庁は、この分野での専門性向上に向け、業界全体での教育・研修プログラムの強化を進めています。特に、新しいNISAの普及に伴い、顧客の立場に立ったアドバイスができるプロフェッショナルが増えることが期待されています。
金融リテラシーの普及と教育
日本の家計金融資産が現預金に偏っている大きな理由の一つが、金融リテラシーの不足です。金融庁は、この課題を解決するため、学生から社会人まで幅広い層に向けた金融教育の充実を目指しています。投資初心者にも理解しやすい教材や講座の提供を通じて、投資への親近感を高める仕組みを構築することで、資産運用立国を支える基盤を広げようとしています。
規制と市場自由化の最適なバランス
資産運用立国を推進する上で、規制と市場自由化のバランスは極めて重要です。規制が強すぎると、創造性や競争力が阻害される可能性があります。一方で、自由化が進みすぎると、投資家保護が脆弱になるリスクも否定できません。このため、金融庁は、運用業者による自律的な改善を促しつつ、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの運用を通じて透明性を高めることで、投資家が安心して参加できる市場環境を構築することを目指しています。
インベストメントチェーン全体の最適化
インベストメントチェーンとは、資金を運用する一連の流れ(投資家→運用会社→企業)を指します。資産運用立国を実現するためには、このチェーン全体の効率化と信頼性向上が不可欠です。運用会社が長期的な視点での資金運用を実現し、投資家と企業の間で効果的な資金循環を生む仕組みを構築することが求められます。国内外の投資家から資金を引き寄せ、成長資金として企業に還元する流れを強化することが、持続可能な経済成長に寄与するでしょう。
未来を描く資産運用立国:次世代へのメッセージ
持続可能な経済発展への貢献
「資産運用立国」は、日本の経済を持続可能に発展させるための大きな柱です。資産運用を通じて家計金融資産を効率的に活用することで、企業の成長を促し、それが再び家計所得や消費の拡大につながる「成長と分配の好循環」を目指します。この仕組みが機能することで、地域経済の振興や中小企業の強化、さらにはエネルギーや環境といった次世代を担う分野への投資が活発化し、持続可能な未来を築くことが期待されています。
若者世代への資産形成提案と明るい未来
若者世代が将来に向けて資産を形成することは、社会全体の活力を高める鍵となります。金融庁は、新しいNISAの抜本的な拡充や金融経済教育の充実などを推進することで、若い世代が早期から投資に親しみ、自分自身の未来に投資できる環境を整えています。特に積立投資や長期投資といった手法が奨励されており、リスクを分散しながら安定的に資産を増やす手段が広がっています。これにより、若者が安心して資産形成を始められる環境が整いつつあります。
国際社会での日本のリーダーシップ確立
資産運用立国の構築は、日本が国際金融市場で重要なプレイヤーとしての地位を強化することにもつながります。国内のアセットマネジメント業界を活性化させるとともに、グローバル資金を日本に呼び込むことを目指すのが特徴です。さらに、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの活用を通じて、透明性と安定性の高い金融市場を構築することで、日本独自の特性を武器に国際社会でリーダーシップを発揮することができるでしょう。
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