商社はなぜ「売上」ではなく「収益」と呼ぶ?会計基準の変更が映すビジネスモデルの進化を解説!

この記事でわかること

  • 商社の「売上高」と「収益」の会計上の違いと、その背景にある国際会計基準(IFRS)の考え方
  • 具体的な企業の事例で見る、会計基準の変更が商社の決算書に与えたインパクト
  • 言葉の違いから見えてくる、現代の商社の多様なビジネスモデルと「総合事業会社」としての実態

商社の「収益」と「売上高」:会計基準の変更が映すビジネスモデルの進化

はじめに:商社の決算書における表示科目の違い

大手総合商社の決算書では、一般的な事業会社で重視される「売上高」に代わり、「収益」という科目が使用されることがあります。これは単なる表記の違いではなく、その背景には、国際的な会計基準の導入と、商社のビジネスモデルの進化という二つの大きな要素が存在します。

この記事では、商社がなぜ「売上高」ではなく「収益」という科目を用いるのか、その理由を会計基準の変更と事業構造の多様化という観点から解説します。

会計基準の変更とその背景

まず、会計上の表示方法が変更された歴史的経緯を説明します。

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従来の会計慣習:「総額表示」とは

かつて日本の会計基準では、商社の決算書における「売上高」は「総額表示」という考え方に基づいて計上されていました。これは、商社の中心ビジネスであったトレーディング(商品売買)において、取引された商品の金額全体を、そのまま自社の「売上高」として記載する慣習です。

例えば、商社が100円で商品を仕入れ、105円で顧客に販売した場合、利益(粗利)は5円ですが、決算書では105円が「売上高」とされていました。商社は膨大な取引を取り扱うため、この売上高の規模は、企業の影響力や市場での存在感を示す重要な指標の一つと見なされていました。

国際会計基準(IFRS)導入による変更

この長年の慣習は、IFRS(国際会計基準)の本格的な導入によって大きく変わりました。IFRSの新しい収益認識基準では、取引における企業の実質的な役割が問われます。具体的には、企業が取引の「主役」である「本人(プリンシパル)」なのか、それとも「仲介役」である「代理人(エージェント)」なのかを判断し、それぞれに適した収益の認識方法を適用することが求められます。

在庫リスクを負い、価格決定権を持つなど、取引の主たる責任を負う「本人」の場合は、従来通り取引の総額を収益として計上できます。一方で、実質的に仲介だけを行っている「代理人」と認定された場合には、得られる手数料やコミッションなど「純額」のみを収益として計上しなければなりません。この「純額表示」への切り替えは、特に商社業界に大きな影響を与えました。

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【具体例】会計基準の変更によるインパクト

この会計基準の変更は、決算書の表示に大きな影響を与えました。その一例として双日株式会社のケースがあります。

双日は、IFRSを導入した2013年の統合報告書において、以前の総額表示による「売上高」と、IFRS基準による「収益」を両方を開示しています。

売上高(総額表示):3兆9,300億円  収益(純額表示含む):1兆7,400億円  (双日株式会社 統合報告書2013より)

このように「収益」は「売上高」を大幅に下回っていますが、これは企業の事業規模が縮小したことを意味するのではなく、会計上の表示方法が変更されたことによるものです。多くのトレーディング取引が「代理人」と見なされ、「純額表示」へ切り替わったことで、このような大きな差が生まれています。

この動きは双日だけではありません。例えば、三菱商事も2019年3月期から、決算書上の科目を「売上高」から「収益」に変更しており、現在では、IFRSへの適応は業界標準となっています。

「収益」という言葉が示す、現代商社の事業構造

会計基準の変更に加え、商社自身のビジネスモデルの多様化も、「収益」という科目が重視される大きな理由です。現代の商社の「稼ぎ方」は、従来の「売上高」という言葉だけでは捉えきれないほど多様になっています。
主な収益源には、以下のようなものがあります。

事業投資・事業経営
国内外への出資や、収益性の高い企業への投資を通じて得られる配当金、関連会社からの利益取り込み、そして株式売却時のキャピタルゲインなどが、近年の商社の利益構造を支える大きな柱です。

金融機能
貿易金融やプロジェクトファイナンスなど、資金調達や投資管理といった事業を通じて得られる金利収入や手数料もあります。

その他、多様な事業
リスクテイクによる収益や、鉱山やエネルギーなどの資源権益の保有・運用による収益など、その事業活動は多岐にわたります。

このように、現代の商社はあらゆる分野で多角化を進めており、「売上高」という単一の指標ではその経営実態を反映することが難しくなっています。そのため、会計基準の観点からも、経営実態により即した科目として「収益」が重視されるようになりました。

最後に:表示科目の違いから見える、商社ビジネスの進化

商社の決算書で「収益」という言葉が重視されるのは、会計ルールの変更と事業構造の進化という二つの側面が背景にあります。

国際的な会計基準に適合することで、商社の多様なビジネスモデルや収益の実態をより適切に反映し、財務諸表の透明性を高めています。「売上高」から「収益」への重視の移行は、商社が単に取扱高の大きさを示す存在から、投資・金融・資源開発など多角的な事業を展開する「総合事業会社」として進化してきたことの証左と言えます。

今後、商社の業績や財務状況を分析する際には、「収益」という指標に注目し、その内訳や構造を理解することが、企業の真の価値を見極める上で重要な視点となります。

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この記事を書いた人

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