企業の合併や買収(M&A)は、現代のビジネスにおいて非常に多様な形で行われています。その中でも特に耳にする機会が多いのが、「TOB(公開買付け)」「MBO(マネジメント・バイアウト)」「LBO(レバレッジド・バイアウト)」という言葉ではないでしょうか。これらは一見似ているようにも見えますが、実はそれぞれ目的も仕組みも大きく異なります。
この記事では、M&A初心者の方にもこれらの手法がどのようなものなのか、その基本的な概念から、それぞれの違いや使われる具体的な場面まで、丁寧に解説していきます。
TOBとは?基本的な仕組みと特徴
TOBの概要と定義
TOB(Takeover Bid)とは、「株式公開買付け」の略称で、企業が他社の株式を市場外で買い集める手法を指します。通常の株式市場での売買とは異なり、買い手企業は、買付けを行う株式の数や買付価格、買付期間などの条件を事前に公に発表し、対象企業の株主から直接株式を買い取ることを提案します。
この手法を用いることで、市場で大量の株式を一度に購入することによる株価の急激な変動を抑制しながら、効率的に株式を集めることが可能になります。TOBは特にM&Aの手法として頻繁に活用され、「M&Aの最終兵器」と表現されることもあるほど強力な手段です。その主な目的は、対象企業の経営権を取得することにあります。
公開買付けの流れ
TOBは通常、以下の流れで進行します。まず、買収を計画する企業(公開買付者)は、対象企業の株式を何株、1株いくらで取得するのかを具体的に決定します。次に、このTOBの決定内容を新聞やインターネットなどで公告し、対象企業の株主に対して直接、株式を買い取る意思を明確に表明します。
この提案を受けた株主は、提示された買付条件に納得した場合、自身の株式を売却するかどうかを判断します。通常、提示される買付価格は、買付け発表前の市場価格よりも高めに設定されることが一般的で、しばしば30~40%程度のプレミアム(上乗せ分)が付与されます。これにより株主にとって経済的なメリットが提供され、結果として多くの株式が集まりやすくなります。設定された一定の買付期間内に、目標とする数の株式が集まれば、取引が成立し公開買付けは完了します。
友好的TOBと敵対的TOBの違い
TOBには、対象企業の経営陣との関係性によって、「友好的TOB」と「敵対的TOB」という2つの主要なタイプがあります。
友好的TOBは、その名の通り、対象企業の経営陣が買収提案に同意・賛同した上で行われるものです。この場合、買収は通常、円滑に進むことが多く、例えば親会社が子会社を完全子会社化するために行う場合や、経営戦略を共有する企業間でグループ再編のために実施されることがあります。対象企業の経営陣も協力姿勢であるため、情報の開示もスムーズに進みやすいのが特徴です。
一方、敵対的TOBは、対象企業の経営陣の同意を得られないまま実施される場合を指します。この場合、対象企業の経営陣は買収を阻止するために、様々な防衛策を講じることが一般的であり、事態が複雑化し、交渉が難航することも少なくありません。敵対的TOBは「乗っ取り」と解釈されることもあり、市場や利害関係者に対する影響が大きくなり、企業イメージの低下や訴訟に発展するリスクも伴います。
TOBの目的と企業戦略への影響
TOBの最大の目的は、なんといっても経営権の獲得です。買い手企業が対象企業の株式の保有率を過半数(50%超)にすることで、株主総会における議決権が強まり、対象企業の経営方針を大きく変更することが可能になります。さらに、株式の保有比率が3分の2以上に達した場合、株主総会の特別決議(重要な事項の決定に必要な高い議決権割合)での支配力を持つことができ、対象企業を完全子会社化することも視野に入ってきます。
また、TOBには経営権の獲得以外にも、企業戦略上の多岐にわたる目的があります。具体的には、新たな事業領域の拡大や成長市場への進出、あるいは後継者問題に悩む中小企業の事業承継問題の解決手段としても活用されます。しかし、買収が失敗した場合や、特に敵対的TOBが長期化した場合、市場や利害関係者との信頼関係に悪影響を及ぼすリスクも否定できません。
TOBのメリット・デメリット
TOBには、買い手と売り手双方にとってのメリットとデメリットが存在します。
メリットとして、まず対象企業の株主にとっては、市場価格にプレミアムが上乗せされた有利な価格で株式を売却する機会が提供される点が挙げられます。これにより、他の方法では実現が難しい高値で株式を現金化できるため、多くの株主が利益を得やすいと言えます。また、買収側にとっては、短期間で大量の株式を集められるため、経営権を効率的に取得することが可能です。
一方で、デメリットも存在します。買収側は、提示するプレミアム価格によって多額の資金を投入する必要があるため、その資金調達や買収後の財務負担が大きな課題となります。また、対象会社や市場からの反発が強い場合、買収が難航し、企業イメージの低下や、敵対的TOBの場合は訴訟対応や法的手続きの長期化によるコスト増加につながる可能性もあります。
MBOとは?企業経営陣が主体となる手法
MBOの基本的な考え方
MBO(Management Buyout)は、対象企業の現在の経営陣が主体となって、自社の株式を買い取り、経営権を取得する手法を指します。これは、経営陣自身が多額の資金を出資者として投入することで、会社のオーナーシップを持つ形態の一つです。特に、上場企業が非公開化を目指す場合や、親会社からの独立を志向する際に利用されます。この仕組みは、株主層からのプレッシャーに縛られず、企業の意思決定を効率化し、より独立した経営を目指す際に非常に有効な手段となります。
経営権の取得とプライバシー保護の目的
MBOを選択する主な理由の一つに、経営権の確固たる確保が挙げられます。上場企業の場合、多数の株主の意向や株価の変動が、経営戦略や意思決定に影響を与えることがあります。MBOを実施し企業を非上場化することで、短期的な市場の評価や株主からの要求に左右されることなく、長期的な視点での経営戦略を自由に遂行できるようになります。
さらに、MBOを通じて非上場化することで、企業の財務状況や詳細なビジネス戦略に関する情報を市場に公開する必要がなくなります。これにより、企業としてのプライバシーを保護しつつ、外部からの干渉を受けずに柔軟な経営を行うことが可能になります。
MBOを活用する際の課題
MBOには様々な利点がある一方で、いくつかの課題も伴います。まず、MBOを実行するためには、対象企業の株式を買い取るために多額の資金が必要となり、その資金調達の方法が非常に重要になります。例えば、銀行融資や投資ファンド(特にプライベートエクイティファンド)からの資金提供が一般的ですが、これらは買収後の返済計画や利益計上へのプレッシャーが経営陣に大きな負担を与える可能性があります。また、MBOは経営陣が会社のオーナーとなるため、買収価格が公正な企業価値に基づいているかが問われます。そのため、第三者の評価機関の関与が必要となり、手続きが複雑化することも課題となります。
MBOとTOBの違い
MBOとTOBは、どちらも企業買収や再編の場面で活用される手法ですが、その主体と目的に明確な違いがあります。
TOB(株式公開買付け)は、通常、外部の企業や投資家が対象企業の株式を市場から買い集める方法で、主に経営権の取得を目的とします。買い手は対象企業とは別個の存在です。
一方で、MBOは、対象企業の現在の内部経営陣が主体となり、自社の株式を買い取ります。その目的は、外部からの影響を排除しつつ、経営陣が自身の独自の戦略を遂行することにあります。MBOは基本的に友好的なケースがほとんどですが、TOBには友好的なものと敵対的なものの両方が存在するという点も大きな違いです。
LBOとは?買収のための資金調達モデル
LBOの仕組みと目的
LBO(Leveraged Buyout、レバレッジド・バイアウト)は、企業の買収に際して、主に買収対象企業自身の資産や将来の収益性を担保として多額の資金を調達し、買収を実施する手法です。この手法の目的は、買い手側が少ない自己資金で大規模な企業買収を可能にすることにあります。「レバレッジ(てこの原理)」という言葉が示す通り、少額の自己資金で大きな投資効果を狙うのが特徴です。
具体的には、買収対象企業が保有する不動産や設備、あるいは将来生み出すキャッシュフロー(現金収入)を担保にすることで、多額の初期投資を回避しながら企業を取得することが可能となります。特に、安定したキャッシュフローを生み出す能力が高く、成長可能性を秘めている企業への買収に適しているのが特徴です。
買収資金の調達方法
LBOにおける買収資金の調達は、その名の通り「レバレッジ」を最大限に活用します。多くの場合、買収対象企業の資産や将来の収益力を信用力とした金融機関からの融資が主な資金調達手段となります。この融資は、返済順位の異なる複数の種類のローン(シニアローン、メザニンローンなど)を組み合わせることが一般的です。
また、一部のケースでは、金融機関からの融資に加え、投資ファンドやプライベートエクイティ(PE)ファンドからの出資を併用することもあります。LBOの根幹にあるのは、買収後に対象企業が生み出す収益によって、その融資を返済していくという仕組みです。この点で、買い手自身の資金を主体とする他のM&A手法とは異なる、非常に特徴的な資金調達モデルと言えます。
LBOのメリットとリスク
LBOの最大のメリットは、買い手企業が自己資金を抑えながら大規模な企業買収を実現できる点にあります。これにより、少ない資本で多くの投資機会を追求し、効率的に資産運用を行うことが可能となります。また、買収後に対象企業の収益が順調に伸びれば、その収益を活用して借入を返済できるため、投資効率が非常に高いと言えます。
しかし、一方でリスクも存在します。LBOは多額の借入を伴うため、買収後の対象企業の収益が期待を下回る場合、借入の返済が困難になる可能性があります。また、過剰な負債は企業の財務状況を圧迫し、経営を不安定にするリスクも否定できません。このため、LBOを実施する前には、対象企業の事業内容、財務状況、そして将来のキャッシュフローについて、綿密な調査(デューデリジェンス)と厳格なリスク管理が極めて重要となります。
LBO成功のためのポイント
LBOを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。まず、最も重要なのは対象企業の安定したキャッシュフローと高い収益性を正確に評価することです。なぜなら、LBOの借入返済は、買収後の対象企業の収益に依存するからです。次に、買収後の負債比率が適切であることも重要です。過剰なレバレッジは、少しの景気変動や事業の停滞で企業の経営を不安定にするリスクがあります。さらに、買収後の具体的な事業計画を明確に策定し、どのように収益を効率的に活用して借入を返済していくかの戦略を立てる必要があります。この計画には、コスト削減や事業改革、成長戦略などが含まれます。また、適切な金融機関とのパートナーシップを築き、投資ファンドやM&Aアドバイザーからの専門的なアドバイスを受けることも、LBO成功の鍵となります。
LBOと他手法の比較
LBOはTOBやMBOと比較すると、その資金調達方法に最も大きな特徴があります。
TOB(株式公開買付け)が、買い手自身の資金や信用力に基づいて直接株式を買い取ることで企業支配権を獲得する手法であるのに対し、LBOは、買収対象企業自身の資産や将来の収益を担保にして資金の大部分を調達する点が異なります。
一方、MBO(Management Buyout)は、対象企業の経営陣が中心となって企業を買収する方法であるのに対し、LBOは外部の投資家やファンドが主体となり、その資金調達にレバレッジを効かせるケースが多いです。
このように、TOB、MBO、LBOそれぞれの手法には明確な目的や資金調達方法、実行する主体に違いがあるため、M&Aの状況や目的に応じて適切な選択をすることが求められます。
TOB、MBO、LBOの違いを簡単比較!初心者でも分かるポイント
TOB、MBO、LBOは、M&Aの場面で有力な選択肢となり得る手法ですが、それぞれの仕組みや目的、そして使われる場面を理解することが重要です。
それぞれの手法の目的の違い
TOB(株式公開買付け)は、主に対象企業の経営権を取得することを目的として行われます。特に、対象企業の株式を効率よく取得し、市場での株価の急騰リスクを避けつつ、大量の株式を確保したい場合に用いられます。これにより、特定の企業が別の企業を支配下に置くことを可能にします。
一方、MBO(Management Buyout)は、企業の経営陣が自ら株式を買い取ることで、外部からの影響を受けずに経営権を確保しつつ非上場化を目指す手法です。これにより、短期的な市場のプレッシャーを受けにくくし、より長期的な視点での企業成長戦略を自由に描けるようになります。
そして、LBO(Leveraged Buyout)は、主に買収の資金調達を他人資本、つまり融資や出資によって実施する点が特徴です。これにより、買収側の企業は自らの資金負担を抑えつつ、比較的小さい自己資金で大規模な企業買収が可能となり、高いレバレッジ効果を追求します。
資金調達の方法における違い
資金調達の方法にもそれぞれ特徴があります。
TOBでは、買い手企業はあらかじめ設定した買付価格で市場外で株式を購入します。その際、買収資金は基本的に買い手企業自身の資金や、その企業が金融機関から借り入れることによって準備されます。
MBOは、経営陣が主体となる買収であり、通常その資金は経営陣個人の資産、あるいは銀行からの融資や投資ファンド(特にMBOを専門とするファンド)などの協力を得て調達されます。株式を非公開化するため、買収資金の規模が比較的大きくなる傾向があります。
一方、LBOは、最も特徴的な資金調達方法をとります。買収に必要な資金の大部分を、買収対象企業自身の資産や将来の収益を担保にして金融機関などから調達します。この仕組みにより、買い手企業は少ない自己資金で買収を進めることが可能で、高いレバレッジ効果が得られるというわけです。
実行する主体の特徴
これらの手法は、誰が主体となって実行するのかという点でも異なります。
TOBでは、主に他企業や投資ファンドが主体となり、対象企業の株式を市場外で買い付ける形を取ります。多くの場合、公開買付けのための緻密な戦略と計画、そして大規模な資金と交渉力が必要です。
MBOは、対象企業の現在の経営陣が主体となります。彼らが自らの経営権を確保しつつ、株主の影響から離れた経営を進めるメリットを追求します。市場の短期的なプレッシャーを排除し、独自の意思決定が可能です。
LBOは、買収側の企業や投資ファンドなどが主体となって実行されます。この手法の最大の特徴は、買収に必要な資金を他の金融機関や融資元から調達し、その返済を対象企業の資産や将来の収益に依存する点です。
使用される場面別の事例解説
それぞれのM&A手法は、特定の目的や状況に応じて使い分けられます。
TOBの場面では、大企業が経営権を握るために他企業の株式を買い取る事例が多く見られます。例えば、通信大手が流通大手の株式を友好的TOBで取得し、同じグループ内でビジネスシナジーを強化する狙いがあったケースなどが有名です。
MBOは、経営陣が上場による株主のコントロールから独立し、非上場化することを目指す場面で使われます。ある企業が短期的な株主のプレッシャーから離れて、より長期的な成長戦略を自由に追求するために非上場化するケースがその典型例です。
LBOは、大手投資ファンドがターゲット企業を買収する際にしばしば活用されます。対象企業の資産や収益力を担保にすることで、自己資金力に乏しい場合でも大型買収が可能となります。その一例として、海外のプライベートエクイティファンドによる日本企業買収事例も挙げられます。
初心者が押さえておきたいポイント
TOB、MBO、LBOのどの手法もM&Aの場面で有力な選択肢となり得ますが、初心者の方がまず押さえておくべきなのは、それぞれの手法の目的と使われる具体的な場面、そして資金調達の仕組みの違いです。
TOBは、株式公開買付けを通じて効率よく経営権を取得する手法であり、その計画や市場への影響を考慮する必要があります。MBOは、経営権の独立や非上場化を目的とした手法で、経営戦略に基づいた実施が求められます。そしてLBOは、自己資金不足を補うための極めて効率的な方法である反面、多額の借入を伴う高いリスクを理解することが大切です。
これらを理解することで、M&Aに関する基礎知識がしっかり身につき、今後のビジネスニュースや企業の動向をより深く読み解けるようになるでしょう。
TOB・MBO・LBOに関する求人ポジション
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1)日系/非日系大企業に対する買収関連ファイナンスの組成業務
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