トランジション・ファイナンスとは?脱炭素化を支援する新金融手法を徹底解説

トランジション・ファイナンスの基本概念と背景

1. トランジション・ファイナンスとは?定義と意義を初心者向けに解説

トランジション・ファイナンスとは、2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、特に温室効果ガス(GHG)の排出が多いハード・トゥ・アベイト(削減が困難)と呼ばれる産業分野の脱炭素化を支援する金融手法です。

この手法の最大の特徴は、現時点で高いGHG排出量を伴う企業であっても、明確かつ野心的な脱炭素化計画を持つ場合に、その変革を金融面から支える点にあります。これにより、社会全体の持続可能な発展に貢献する重要な役割を果たしています。

2. なぜ今、トランジション・ファイナンスが注目されるのか?その誕生背景

トランジション・ファイナンスが注目されるようになった背景には、カーボンニュートラルを実現する中で、多くの産業分野で脱炭素化が極めて難しいとされている現実があります。この「難しさ」は、主に以下の3つの複合的な課題に起因します。

・技術的な課題: 鉄鋼、化学、セメントなどの産業では、高温プロセスが必須であり、既存技術では代替が困難な分野が存在します。

・経済的な課題: 既存のインフラや設備を完全に変更するには、莫大なコストと時間が必要です。設備の減価償却を終えていない段階での投資は、企業の財務に大きな負担をかけます。

・社会的な課題: 産業構造の転換は、特定の地域での雇用やサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があります。

これらの課題を乗り越え、徐々に脱炭素へと移行するための現実的な道筋を支援する目的で、トランジション・ファイナンスが設立されました。

また、これらの産業が『ハード・トゥ・アベイト(削減困難)』と呼ばれるのは、現在の技術ではどうしてもゼロにできない排出(残余排出量)が存在するためです。トランジション・ファイナンスは、この残余排出量を最小化するための革新的な技術開発(例:CCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)など)への投資を後押しする、極めて重要な役割を担っています。

3. グリーンファイナンスとの違いと関係性をわかりやすく整理

トランジション・ファイナンスとグリーンファイナンスは、どちらも持続可能な社会を目指す金融手法ですが、支援対象と目的が異なります。

トランジションファイナンスグリーンファイナンス
対象現状はGHG排出が多いが、脱炭素化を目指す企業既に環境負荷を軽減する活動を行っている企業
目的高排出産業の「移行プロセス」を支援する環境に配慮した「グリーンな活動」を促進する
代表例製鉄所が石炭から水素利用に転換するための資金調達太陽光発電所の建設、電気自動車(EV)メーカーへの投資

両者は互いに補完関係にあり、トランジション・ファイナンスは、グリーンファイナンスではカバーしきれない、高排出産業の「移行段階」を支える重要な制度と言えます。

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企業にとっての重要性と日本の導入経緯

データセンター事業は、事業会社にとって非常に魅力的な特性を持っています。最大の魅力は、その安定した収益性です。データセンターは企業のIT基盤を支える不可欠なインフラであり、顧客との間で長期契約(一般的に10年以上)が結ばれることが多いため、安定的なキャッシュフローが見込めます。

1. 企業にとってのメリット:資金調達と競争力向上

企業にとってトランジション・ファイナンスは、持続可能性を高めるための重要な資金調達手段です。特に、大規模で複雑なプロセスを抱える伝統的な産業においては、新技術の開発や持続可能なビジネスモデルへの転換が不可欠です。

これを活用することで、ますます厳しくなる環境規制に対して先手を打つことができ、将来的なリスク回避にも繋がります。

また、投資家が今、企業に求めているのは、単なる長期目標の宣言ではありません。その目標に至るまでの、具体的で信頼性のある『移行計画』です。これには、①短期・中期を含む明確なKPI、②計画を実現するための具体的な設備投資計画(CapEx)、③経営陣の報酬と脱炭素目標の連動、といった要素が含まれているかが厳しく評価されます。この信頼性ある計画の策定こそが、資金調達の成否を分けるのです。

2. 日本での導入経緯と政府のロードマップ

日本では、2050年カーボンニュートラル達成に向けて、トランジション・ファイナンスが重要な手段として注目されています。2021年5月には、経済産業省、環境省、金融庁が共同で「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を策定し、信頼性のある資金調達手段として活用が進んでいます。

この指針に基づき、政府は産業ごとに脱炭素化の道筋を示す「産業ロードマップ」を策定。企業が資金使途を具体的に示すことを促しています。これは、政府が策定した「グリーン成長戦略」に基づき、今後10年間で官民合わせて150兆円を超える投資が必要とされる中で、トランジション・ファイナンスがその巨額な資金需要を満たす鍵となることを示しています。

日本において、トランジション・ファイナンスは、政府が推進する『GX(グリーン・トランスフォーメーション)』を実現するための、中核的な金融手法と位置づけられています。GXとは、化石燃料中心の産業・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換し、経済成長と環境保護を両立させる国家戦略であり、トランジション・ファイナンスはその実現に必要な巨額の資金を供給する動脈の役割を担うのです。

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運用事例と国内外の最新動向

1. 産業別の活用事例:鉄鋼、自動車、エネルギー分野

データセンターの建設には、極めて高額な初期投資が必要です。建設費に加え、高性能なサーバーや冷却システム、セキュリティ対策など、最新技術への投資が不可欠です。特に日本国内のハイパースケール向けデータセンターの場合、1施設あたり数千億円規模の投資が必要になることもあります。

さらに、現在の日本市場では、以下のようなリアルな事業リスクが顕在化しています。

・土地不足と価格高騰: 特に電力インフラが整った首都圏近郊では、データセンター用地の獲得競争が激化し、土地価格が高騰しています。

・建設コストの上昇と工期の長期化: 資材価格の高騰や、データセンター建設に対応できる専門的な建設会社・技術者の不足により、建設コストと工期が計画を大幅に上回るリスクが高まっています。

トランジション・ファイナンスは、多くの産業で脱炭素を目指す資金として活用されています。

・鉄鋼業: 鉄鋼メーカーが石炭から水素利用へと転換するための技術導入や研究開発費用を、この手法が支援しています。

・自動車業界: 内燃機関車の製造から、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)への移行、および関連技術開発のための資金として利用されています。

・エネルギー業界: 従来の化石燃料エネルギーから、再生可能エネルギーや次世代エネルギー(アンモニア燃焼など)へのシステム転換を推進する資金として活用されています。

2. 日本における具体的な成功事例

・山陽特殊製鋼: 同社はトランジション・ファイナンスを活用し、製造工程のCO2排出量削減のための高効率電気炉を導入。これにより、年間約10万トンのCO2排出量削減と製造コストの効率化を同時に実現しました。

・商船三井: 低炭素型燃料(LNGなど)を使用する船舶の導入資金としてトランジション・ファイナンスを活用。国際輸送におけるGHG排出量削減に貢献しています。

これらの成功事例は、トランジション・ファイナンスが企業の競争力を高めるだけでなく、2050年カーボンニュートラルという世界的目標を実現する上で不可欠な手段であることを証明しています。

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課題と今後の展望:未来を支える可能性

1. トランジション・ファイナンスの課題:透明性と評価基準

トランジション・ファイナンスの適用範囲については依然として議論の余地があります。特に、投資対象がどれだけ効果的に脱炭素化を進めているかを判断するためには、透明性と信頼性が重要です。

・透明性の確保: 企業が掲げる脱炭素目標の進捗状況を定量的に示し、適切に開示する仕組みが求められます。

・評価基準の確立: 移行の進捗を測るための共通の評価基準や指標が国際レベルでまだ十分に整備されておらず、その統一化が今後の大きな課題となっています。

トランジション・ファイナンスが直面する最大の課題は、『グリーンウォッシング』のリスクです。これは、企業が実態の伴わない、見せかけだけの脱炭素計画を掲げて資金を調達し、結果的に高排出な事業を延命させるための『隠れ蓑』として利用される危険性を指します。このため、投資家や金融機関には、企業の計画が本当に科学的根拠(1.5℃目標など)と整合しているのかを厳しく見抜く『目利き力』が、これまで以上に求められています。

また、金融機関や投資家にとって、トランジション・ファイナンスは大きなレピュテーションリスクを伴います。NGOや社会から『なぜ化石燃料関連企業にまだ資金を供給しているのか』という厳しい批判を受ける可能性があるからです。そのため、投資家は、なぜその企業への支援が社会全体の脱炭素化に不可欠であるのかを、論理的かつ透明性をもって説明する責任(アカウンタビリティ)を負うことになります。

2. 未来を支えるトランジション・ファイナンスの可能性

トランジション・ファイナンスは、GHG排出量が多い産業の長期的な脱炭素化を支援し、排出削減技術の革新を促進する役割を果たします。金融機関や投資家も、これを通じて新しい投資機会を得て、ESG評価の向上にも繋がります。

今後、より多くの産業がこの手法を活用することで、2050年カーボンニュートラルという目標達成に向けた現実的な道筋を築いていくでしょう。

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トランジションファイナンスに関する求人ポジション

コトラでは、トランジションファイナンスに関する求人ポジションを取り揃えております。

大手銀行でのプロジェクトファイナンス(再生エネルギー)/フロント業務の求人

【ポジション概要】
●再生可能エネルギーや火力発電事業等電力セクターにおける新規開発プロジェクト向けストラクチャードファイナンス・プロジェクトファイナンス等の融資組成・財務アドバイス
●技術的専門性や業界ネットワークを生かしてお客様(事業者)やベンダーと同じ目線で会話し、ファイナンス案件獲得につなげるマーケティング活動

●電力セクター宛の金融を通じて事業支援は社会的意義が高く、また脱炭素・カーボンニュートラル等の社会的課題への対応手段としての再生可能エネルギーやトランジション電源の導入については社会的重要度も高い。
・シニアローンやアドバイザリーにとどまらず、メザニンファイナンスやプロジェクトへの出資関連業務の機会の可能性もあり。

大手信託銀行における産業インフラ等のプロジェクトマネジメント・プロジェクトファイナンスの求人

【ポジション概要】
サステナブルビジネス部(旧 ESG ソリューション企画推進部)は、当社における法人事業全体を統括する法
人企画部内に 2020 年 4 月に新設され、法人顧客向けの ESG 関連ビジネス、プロダクトやサービスを企画し、
ESG を統合した事業を推進する役割を担っています。日本経済も低炭素社会に移行する過程で、サステナブルビ
ジネスでは、政府の「グリーン成長戦略」をサポートする事業に注力し、トランジションファイナンスや気候変
動アドバイザリーとファイナンスや不動産関連のソリューションを組み合わせたサービスを企画推進していま
す。同時に、法人顧客とのエンゲージメントに ESG を統合する活動も進めています。

大手信託銀行におけるESGソリューション企画推進(企業の事業企画・戦略策定経験者)の求人

【ポジション概要】
サステナブルビジネス部(旧 ESG ソリューション企画推進部)は、当社における法人事業全体を統括する法人企画部内に 2020 年 4 月に新設され、法人顧客向けの ESG 関連ビジネス、プロダクトやサービスを企画し、ESG を統合した事業を推進する役割を担っています。日本経済も低炭素社会に移行する過程で、サステナブルビジネス部では、政府の「グリーン成長戦略」をサポートする事業に注力し、トランジションファイナンスや気候変動アドバイザリーとファイナンスや不動産関連のソリューションを組み合わせたサービスを企画推進しています。同時に、法人顧客とのエンゲージメントに ESG を統合する活動も進めています。

国内大手シンクタンクでのサステナビリティ事業コンサルタントの求人

【ポジション概要】
・顧客と共に「サステナビリティ」をテーマに事業機会を探索し、社会への貢献と価値共創を実現していただきます。
・より具体的には、個別のコンサルティングプロジェクトに参画して、各種調査や戦略立案、戦略や政策の実行支援を担当していただきます。

銀行&商社系リース会社での海外インフラプロジェクト投融資業務の求人

【ポジション概要】
海外(主に英国/欧州)のインフラプロジェクトを対象とした投融資 (エクイティ、デット) にかかる以下の業務。今後、海外拠点の新設/事業活動の拡大を見据え、海外赴任の可能性もありうる。

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この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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