企業の未来を拓く「トレジャリー業務」を徹底解説

「トレジャリー業務」という言葉をご存知でしょうか。これは、企業のキャッシュフローを最適化し、為替や金利の変動リスクを管理する、企業の未来を担う重要な仕事です。この記事では、トレジャリー業務の全体像を、その役割から具体的な仕事内容、ITによる変革、そしてキャリアパスまで、徹底的に解説します。経理との違いや、企業経営におけるその重要性を、具体的な事例を交えながら深く掘り下げていきます。

未来を創るトレジャリーと過去を記録する経理

過去を記録する「経理」の役割

経理(Accounting)は、企業の過去のお金を管理する役割を担います。日々発生する取引を正確に記録し、月次・年次の決算書を作成することで、企業の財務状況や経営成績を客観的に可視化します。この決算書は、株主や税務署といった利害関係者への報告義務を果たすための「記録」であり、企業の活動の軌跡を後世に残す仕事です。

未来を戦略的に推進する「トレジャリー」の役割

一方、トレジャリー(Treasury)は、企業のお金の「未来」を管理する役割を担います。将来の事業計画に必要な資金を予測し、最適な方法で資金を調達し、為替や金利の変動リスクを管理することで、企業のキャッシュフローを健全に保ちます。経理が過去を記録する仕事であるのに対し、トレジャリーは未来の資金戦略を立案・実行する仕事であり、両者は車の両輪のように企業経営を支えているのです。また、企業によっては、予算策定や業績予測を担うFP&A部門や、M&Aを主導する経営企画部門と密接に連携しながら、『資金』と『市場リスク』の観点から専門性を発揮します。

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なぜトレジャリーが重要なのか?:企業経営を支える3つの柱

トレジャリー業務の重要性は、単に資金を管理するだけに留まりません。それは、企業の生命線と未来を支える、3つの重要な柱として機能します。

1. 資金ショートから企業を守る「セーフティネット」

どんなに素晴らしい製品やサービスがあっても、手元の現金が不足して仕入れや人件費の支払いができなくなれば、企業は倒産してしまいます。いわゆる黒字倒産です。トレジャリーは、日々のキャッシュフローを緻密に管理し、常に十分な手元資金(流動性)を確保することで、この事態を未然に防ぐ「セーフティネット」としての役割を果たします。

例えば、海外の大口取引先が倒産し、売掛金の入金が滞るという予期せぬ事態に直面したとします。このとき、トレジャリーが普段から確保している緊急用の運転資金がなければ、自社の支払いができず連鎖倒産のリスクが高まります。トレジャリーの存在は、こうした有事の際に企業を救う生命線なのです。

2. 企業の成長を加速させる「資金調達」

企業の成長には、研究開発への投資、新しい工場の建設、M&A(合併・買収)など、莫大な資金が不可欠です。トレジャリーは、こうした資金を銀行からの借入、社債の発行、株式による増資など、多様な方法の中から最も有利な条件で調達します。

資金調達の意思決定は非常に複雑です。ただ金利が安いという理由だけで銀行借入を選ぶわけではありません。市場の金利動向や自社の信用力、将来のキャッシュフロー予測、資金使途などを総合的に分析した上で、金利だけでなく、企業の行動を制約する『財務コベナンツ(制約条項)』の内容も含めて、総合的に有利な条件を引き出す高度な交渉力が求められます。トレジャリーは、企業の成長というエンジンの燃料を、最も効率的に補給する役割を担っているのです。

3. グローバル市場での収益を守る「リスク管理」

国際取引を行う企業は、為替レートや金利の変動による損失リスクに常に晒されています。たとえば、海外に製品を輸出し、代金を受け取るまでの間に円高が進めば、為替差損が発生し、利益が大きく目減りしてしまいます。

トレジャリーは、このような為替リスクや金利リスクを予測し、為替予約や金利スワップといった金融デリバティブを活用してリスクを(回避)します。ここでは、将来の収益エクスポージャーに対し、どの程度の割合をヘッジするのか(ヘッジ比率の決定)という、極めて戦略的な判断が求められます。100%ヘッジすればリスクは無くなりますが、円安に振れた際の利益機会も失うため、経営陣とも議論の上で最適なバランス点を探る必要があります。これは「賭け」ではありません。将来の収益を安定させるための戦略的な判断です。トレジャリーの緻密なリスク管理は、外部環境に左右されることなく、企業の収益力を守る盾となります。

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トレジャリーの主要な業務内容とリアルな仕事の難しさ

トレジャリーの具体的な業務は多岐にわたりますが、ここでは特に重要な3つの業務と、その裏側にある難しさを解説します。

資金調達と流動性の管理

事業活動に必要な資金を最適な方法で調達し、常に安定した資金状況を維持する業務です。銀行との交渉を通じて借入条件を最適化したり、社債発行の準備を進めたりします。この仕事の難しさとして、銀行との交渉では、自社の信用力や事業計画を正確に伝え、いかに低金利を引き出すかが鍵となります。これは単なる数字のやり取りではなく、銀行との長期的な信頼関係を築く高度なコミュニケーション能力と交渉力が求められる仕事です。

為替・金利・信用のリスク管理

企業の財務に悪影響を及ぼす可能性のある市場リスクを管理する業務です。為替予約取引を活用して為替変動による損失を回避したり、変動金利の上昇リスクをヘッジしたりします。この仕事の難しさとして、「明日、為替がどう動くか」を完璧に予測することは不可能です。トレジャリー担当者は、過去の市場動向、各国の経済指標、政治情勢など、膨大な情報を分析し、複数のシナリオを想定した上でリスクヘッジ戦略を立てます。この不確実性の中での意思決定こそが、この仕事の最も難しい点であり、同時に醍醐味でもあります。

経営戦略との連携とM&Aへの貢献

トレジャリーは、単なる資金管理部門ではありません。経営陣のパートナーとして、企業の成長戦略そのものを支援します。特にM&Aや新規事業投資の際には、重要な役割を担います。例えば、M&Aを実行する際、事業部門は「買収したい」と熱意を持って語りますが、トレジャリーは「その買収に必要な資金をどう調達するか」「買収先の財務リスクはないか」といった冷徹な視点で分析します。事業部門の熱意と、財務の現実性の間でバランスを取り、最善の策を導き出すことは、時に大きなプレッシャーを伴う仕事です。

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ITとAIで進化する現代のトレジャリー

現代のトレジャリー業務は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により大きく変化しています。

業務を効率化するトレジャリーマネジメントシステム(TMS)

トレジャリーマネジメントシステム(TMS)の導入は、資金管理の劇的な効率化をもたらしました。世界中の拠点や複数の銀行口座の資金状況をリアルタイムで一元管理し、手作業による煩雑な事務作業を自動化します。これにより、担当者は単純作業から解放され、より戦略的な思考に時間を使えるようになりました。

AIによる高度な市場予測

また、AIの活用も進んでいます。過去の膨大な市場データや為替レートの変動パターンをAIが分析することで、より精度の高い将来予測が可能になりました。AIが提示する予測データを参考に、担当者は最適なリスクヘッジ戦略や資金調達のタイミングを判断します。AIは、トレジャリー担当者の意思決定を支援する、強力なツールとなりつつあります。

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トレジャリー業務のキャリアパスと求められるスキル

トレジャリー業務は、専門性が高く、キャリアアップの選択肢も豊富な分野です。

トレジャリーに求められるスキル

この仕事に就く上で、財務・会計の知識、金融市場の知識、ITリテラシーは不可欠です。また、銀行や他部署、経営陣との密な連携が不可欠であるため、高いコミュニケーション能力、交渉力、そして論理的思考力も求められます。

経験を活かした多様なキャリアパス

トレジャリー業務の経験者は、その専門性を活かして、企業の経営企画部門やIR(投資家向け広報)部門へ異動する道が開けます。また、企業の資金全体を俯瞰する経験は、将来的にCFO(最高財務責任者)を目指す上で非常に重要なステップとなります。資本市場や金融機関と直接対話し、企業の『血液』であるキャッシュの流れを全社的な視点で管理する経験は、CFOに求められる財務戦略の立案能力や市場との対話能力に直結するためです。

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まとめ:企業の未来を創る戦略的な仕事

トレジャリー業務は、単なる事務作業ではなく、企業の資金を「守り」「増やし」「活用する」ことで、持続的な成長を創出する、非常に戦略的でやりがいのある仕事です。グローバルな経済環境が複雑化する現代において、この仕事の重要性はますます高まっています。もしあなたが企業経営や金融に関わる仕事に興味があるなら、トレジャリー業務は、その知識とスキルを存分に活かせる、非常に魅力的な分野だと言えるでしょう。

トレジャリーに関する求人ポジション

コトラでは、トレジャリーに関する求人ポジションを取り揃えております。

大手監査法人での財務・経営管理コンサルタント(トレジャリー)の求人

【ポジション概要】
・財務の観点からのグループガバナンス強化、トレジャリー機能の高度化に向けた構想策定支援
・投資管理方針/資金調達方針の策定支援
・財務システム(TMS,CMS)の選定、導入支援/経理財務部門におけるオペレーション構築・改革支援(業務効率化等)
・財務リスク管理の高度化支援(為替リスク、金利リスク、流動性リスク)
・非上場会社における公募社債発行支援/クロスボーダーIPO支援

大手仮想通貨fintech企業でのトレジャリーマネージャー(部長候補)の求人

【ポジション概要】
●分別管理業務(自社資産・顧客資産の分別および保全体制の整備・運用)
●自己資本規制比率の算出および管理
●国内外の資金管理および資金繰り計画の立案
●暗号資産および法定通貨のウォレット管理体制の構築・運用
●カバー取引先や金融機関との契約・取引管理
●トレジャリー業務に関連するリスク管理およびレポーティング
●各種法定帳票の作成および提出(金融庁・業界団体対応)
●業務に関連する管理システムの要件定義・設計
●金融機関との折衝および提携関係の強化

大手仮想通貨fintech企業でのトレジャリー担当の求人

【ポジション概要】
●自社および顧客資産に係る分別管理業務
●自己資本規制比率の算出および報告資料作成
●国内外における資金管理業務
●暗号資産および法定通貨のウォレット管理
●カバー取引先の管理および関係維持
●トレジャリー業務に関するリスク管理およびレポーティング
●金融庁・業界団体向けの法定帳票の作成および提出
●金融機関との交渉・連携対応
●業務に関わる管理システムの要件定義・設計支援

大手銀行でのグローバルトレジャリー分野のプロジェクトマネジメントの求人

【ポジション概要】
●国内外の大企業(日系・非日系含む)顧客のグローバル資金管理に関するプロジェクトマネジメント及びサービス導入支援
●同顧客に対するグローバルトレジャリーや資金決済分野におけるソリューションの提供およびそれに伴う企画・管理
●同顧客に対する、決済性預金や手数料収益獲得へ繋がるソリューション営業

商社×メーカーの先端テクノロジー企業での財務(トレジャリー業務)担当の求人

【ポジション概要】
グループ全体のトレジャリー業務をお任せします。

外資系大手生命保険会社での財務管理(マネージャー/トレジャリー担当)の求人

【ポジション概要】
当社グループにおいて、財務管理マネージャーとして、主に以下の業務を自立的に担当頂きます。
● 格付会社(S&PとR&I)とのコミュニケーションをリードすること
● 米国親会社の格付けチームとのリエゾン業務
● 格付会社のキャピタルフレームワークによる必要データのとりまとめ
● 資本関連業務における銀行とのリレーションシップの維持管理(主に MUFG, SMBC, Mizuho)
● 新たなソルベンシー基準(ESR)の技術的な側面のコミュニケーションを管理
● 米国親会社国際部門トレジャリーとの議論への参画

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ご興味ございましたらお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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