取締役の給料とは?給与ではない役員報酬の仕組みを解説

役員報酬とは何か

役員報酬とは、株式会社の役員に対して支給される報酬のことを指します。「役員」とは会社法第329条に基づき、取締役、会計参与、監査役に区分される役職を担う人々のことを指します。この報酬は、通常の従業員給与とは大きく異なり、その決定方法や税法上の取り扱いには特別なルールが存在します。

「役員報酬」と「給与」の違い

役員報酬と従業員給与にはいくつかの明確な違いがあります。従業員給与は基本的に労働に対する対価として労働契約に基づき支払われるものですが、役員報酬はこれとは異なり、株主総会や取締役会の決議によって決定されます。また、税法上の取り扱いにも相違があり、従業員の給与は損金として計上しやすい一方、役員報酬は一定のルールに則った場合にのみ損金計上が認められます。そのため、取締役の報酬設定には慎重な検討が必要です。

役員報酬の定義

役員報酬は、役員に対して定期的に支払われるもので、「役員給与」と「役員賞与」に分けられることがあります。特に、役員賞与については特殊な状況下で支給されることが多く、法人税法上、経費として認められない場合があります。また、役員に提供される非金銭的な利益、例えば会社が負担する生命保険料や会社資産の使用なども、役員報酬の一部として扱われることがあります。

役員報酬の法的基盤

役員報酬は、会社法に基づき具体的なルールが設定されています。例えば、報酬の決定に際しては、会社の定款や株主総会の議決に基づくことが求められます。特に取締役の報酬に関しては、額の決定が株主総会の普通決議を経る必要がある点が特徴です。また、2021年3月に施行された会社法改正では、取締役の個人別報酬の決定方針を定める義務が設けられており、より明確かつ透明性のあるルールが求められるようになりました。

支払対象とする役員の範囲

役員報酬の支払対象には、会社法上の役員として定義されている取締役、会計参与、監査役が含まれます。なお、役員であっても非常勤や無報酬の形で業務に携わる場合もあります。しかし、役員報酬を設定する場合は、登記されている役職に基づき、報酬の妥当性や業務とのバランスを考慮する必要があります。特に取締役の場合、業務執行権の有無や事業規模に応じて、報酬設定に関する基準が異なる点に注意が必要です。

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役員報酬の決め方

役員報酬は、会社の経営において非常に重要な要素であり、その決定方法は法律や税法上厳格に定められています。適切に役員報酬を設定することは、取締役をはじめとする役員のモチベーションを高めるだけでなく、企業の財務バランスや税務処理にも大きな影響を与えます。ここでは、役員報酬の具体的な決め方について解説します。

取締役会や株主総会の役割

役員報酬の決定は、経営陣や会社内部の都合だけで自由に決められるわけではありません。取締役の報酬は、基本的には株主総会の普通決議によって決められることが、会社法で規定されています。具体的な金額や報酬の方針を定める際には、株主総会が重要な役割を果たし、特に上場企業では透明性を確保するためのガイドラインが求められます。

また、具体的な各取締役の報酬額に関しては、取締役会が委任を受けて決定する場合も多いです。この場合、会社の定款で該当する権限が取締役会に付与されている必要があります。このように、役員報酬は単に経営判断だけでなく、会社ルールや法的基盤のもとで決定される仕組みとなっています。

定期同額給与、事前確定届出給与の概要

役員報酬の決定において重要なポイントとして、「定期同額給与」と「事前確定届出給与」という税法上のルールが挙げられます。定期同額給与とは、毎月一定の金額が給与として支給される形態を指し、これにより税法上、損金として認められる基準を満たします。一方、役員賞与など不定期での支給は、原則損金として認められないため注意が必要です。

事前確定届出給与は、役員報酬を変更するケースに関連するルールです。具体的には、事業年度の開始から3ヶ月以内に税務署へその支給額や支給条件を事前に届け出る必要があります。このルールを守らなかった場合、法人税法上、損金算入が認められないリスクがあるため慎重な管理が求められます。

費用計上と税法上の注意点

役員報酬は法人税法において、損金算入の対象となる場合とならない場合があります。そのため、費用計上には注意が必要です。役員報酬を損金として計上するためには、定期同額給与や事前確定届出給与の条件を満たしていることが求められます。これ以外の形式で支払われる役員報酬、例えば臨時賞与や非金銭的な報酬(会社資産や保険料の負担など)は法人税法上、原則として損金算入が認められません。

また、役員報酬は従業員給与と異なり、増減する際には株主総会を通じた決議が必要です。その手続きや税法上の要件を守らない場合、非課税として認められなくなる可能性があるため、注意が求められます。

業績連動報酬の仕組みと採用例

近年では、会社の業績に応じて報酬額を変動させる「業績連動報酬」を採用する企業も増えています。特に上場企業などでは、役員報酬に業績連動型や株式報酬型を導入することで、経営責任を明確化し、取締役のモチベーションを高める事例が見られます。

ただし、業績連動報酬を導入する際には、透明性の確保と事前確定届出給与との整合性を重視する必要があります。業績連動報酬を非課税として損金算入するためには、報酬の額および支給条件を事前に明確に設定し、適切に届け出る必要があります。その適用事例としては、目標売上高の達成や株価指数連動型報酬などがありますが、いずれも公平性と法的基盤の担保が求められる点を覚えておきましょう。

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役員報酬と税金の関係

役員報酬は、取締役や監査役など会社の役員に支払われる報酬であり、税金における取り扱いにおいても特別な規定が適用されます。役員報酬は法人税の損金算入や個人の所得税、住民税の計算に影響を与えるため、注意深く設計する必要があります。以下では、法人税との関係や所得税の計算方法、節税対策のポイント、税務調査の際に重要視される事項について解説します。

法人税と役員報酬の損金算入

役員報酬は会社の経費となり得る「損金」として計上することができますが、そのためには法人税法上いくつかの条件を満たさなければなりません。まず、「定期同額給与」であることが基本的な要件です。これは毎月同額の支給が行われる報酬を指し、不定期に変動する報酬や臨時の支給は損金として認められません。また、「事前確定届出給与」や「業績連動給与」といった特例に基づく金額であれば、条件を満たす限り損金算入が可能です。

さらに、役員報酬の決定は株主総会や取締役会などで適正に決議される必要があります。不適切な方法で決定された場合、税務調査時に否認されるリスクがありますので注意が必要です。

住民税や所得税の計算方法

役員報酬を受け取る取締役個人にとっては、これが住民税や所得税の基礎となります。住民税は前年の総所得を基に計算され、所得税は役員報酬から必要経費や控除を差し引いた額に税率を適用して計算されます。

なお、役員報酬の金額が増えると個人の所得税負担も増加します。そのため、報酬額の設定においては法人全体の税務負担を考慮する必要があります。特に、報酬額を引き上げる際には専門家と相談し、トータルでの納税額を最適化できるように設計することが重要です。

節税対策プロセスと注意点

役員報酬に関連する節税対策では、損金算入を適切に行い、法人税の負担を軽減することがポイントです。例えば、業績連動報酬や事前確定届出給与を活用することで無駄な税負担を防止する方法があります。ただし、これらの制度を利用する際は事前に届出を行う必要があり、適切な申請がない場合には税務上認められないことがあります。

また、役員報酬に関連して生命保険などを利用し、会社の資産として適切に管理することで資産形成と節税を両立する方法もあります。ただし、これらの手法は常に税法の変更に敏感であるため、最新の情報をもとに対策を講じることが求められます。

税務調査で重要視されるポイント

税務調査においては、役員報酬の決定過程や支払い実績が適正であるかどうかが重視されます。たとえば、株主総会や取締役会での決議内容が不明瞭であったり、定期同額給与の条件を満たさない支給が行われていた場合に問題視される可能性があります。

また、役員個人に対する非金銭的な利益の提供(例:住宅提供や保険料支払い)が役員報酬として認定される場合があり、この場合には報酬の一部として課税対象となります。そのため、金銭以外の報酬を提供する際にも、税務上のリスクを評価し、適切な管理と記録を行うことが大切です。

税務調査でのトラブルを防ぐためには、役員報酬の設計において法令遵守と透明性を意識し、必要に応じて税理士や専門家のアドバイスを受けることが勧められます。

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役員報酬の変更と実務

役員報酬を変更できる条件

役員報酬を変更する場合には、法律上いくつかの条件が設定されています。まず、役員報酬の変更は、事業年度開始から3ヶ月以内に行わなければなりません。これを超えると、原則として変更が認められず、適切な税務処理が困難になる可能性があります。また、役員報酬の変更には株主総会での普通決議が必要であり、このような法的手続きを経ることが求められます。さらに、取締役の報酬は業績や会社財務の状況に応じて正当性がある範囲で決定されるべきです。不適切な増額や減額は税務調査の対象となる可能性があるため注意が必要です。

変更手続きと法的ポイント

役員報酬を変更する際には、法的手続きを適切に進めることが重要です。まず、株主総会を招集し、役員報酬の変更に関する議案を決議します。これには株主総会の議事録を作成して記録に残すことが必要です。多くの企業では、株主総会での承認後、取締役会が具体的な支給額の変更を決定します。さらに、会社法改正により、2021年3月1日からは、取締役の個別報酬方針の策定が義務化されており、これに基づいて報酬変更を行う必要があります。これらの手続きを怠ると法的・税務的なトラブルに発展することがあります。

変更時に税務上注意すべき事項

役員報酬を変更する際、税務上の注意点を理解することが不可欠です。特に、変更には「定期同額給与」という原則が適用されます。例えば、毎月同額の支給が必要であり、急激な増減があった場合には損金性を否定される可能性があります。また、事前確定届出給与を利用する場合、その届出書を税務署に提出しておく必要があります。こうした手続きが適切に行われないと、法人税上の損金算入が認められず、税負担が増加する可能性があります。適正な額を設定しつつ、税負担を最小限に抑えるためには専門家のサポートが有益です。

変更時の実例やトラブル事例

役員報酬の変更では、実際に以下のようなトラブル事例が報告されています。ある企業では、業績悪化に伴い役員報酬を減額しようとしましたが、株主総会の手続きが不十分だったため、税務調査で指摘を受け、追徴課税を課せられた例があります。また、役員の個人的要請で報酬を急激に増額した場合、合理的な説明ができなかったために税務署から損金性を否定され、会社全体の納税額が大幅に増加したケースもあります。このような問題を回避するためには、役員報酬の変更が法律や税法に明確に基づき、適切に実施されていることを確認することが重要です。

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まとめ:役員報酬の設計を考えるポイント

報酬額の適正性を確認する

役員報酬を設計する際には、報酬額の適正性を確認することが重要です。適正性を判断するためには、企業の業績や財務状態とのバランスだけでなく、同業他社や市場相場との比較も参考になります。特に取締役の報酬は、会社のガバナンス向上にも関わるため、不適切な金額を設定すると、社内外から疑問を持たれる可能性があります。また、個人所得税や住民税への影響も考慮し、自社にとって最適な報酬体系を整えることが求められます。

税務面と実務運用を考慮した設計

税務面では、役員報酬が損金算入できる要件を満たすことが欠かせません。具体的には「定期同額給与」や「事前確定届出給与」などのルールを守る必要があります。また、報酬額が大幅に変動する場合には税務調査の対象となる可能性もあるため、実務運用上のリスクも事前に検討しましょう。適切な設計によって、取締役の報酬が会社と個人双方にとって最適な形で運用されるよう配慮することが重要です。

役員報酬を検討する際の相談先

役員報酬の設計にあたっては、専門家への相談が非常に有効です。特に税理士や公認会計士、弁護士は、法的側面や税務面について詳細なアドバイスを提供できます。また、規模の大きな企業では、社外取締役や報酬委員会が設置されている場合があるため、こうした第三者機関を活用することも一つの方法です。内部の意見だけでなく外部の視点を取り入れることで、より公平で透明性の高い役員報酬制度を構築することができます。

長期的な企業経営との調和を意識する

役員報酬は、短期的な利益だけでなく長期的な企業経営との調和を考慮しなければなりません。業績連動型の報酬を採用することで、取締役が企業の持続的成長にコミットできる仕組みを構築することができます。また、報酬設計を通じてガバナンスの強化や社員・ステークホルダーへの信頼向上につなげることも可能です。最終的な目標は、役員報酬が企業全体の価値向上を促進し、企業の成長と取締役のモチベーションを両立させることにあります。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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