会社法361条を読み解く:取締役の報酬はこう決まる

会社法361条とは?その基本概要

会社法第361条は、株式会社における取締役の報酬等の決定に関する基本的なルールを定めています。この条文は、取締役の報酬額や算定方法を適切に決定するための手続きや、その透明性を確保するための仕組みを規定するものです。2019年以降、そして特に2021年の法改正によりさらに整備が進められ、現代の企業経営において重要な役割を果たしています。

会社法361条の位置づけと目的

会社法361条は、株式会社の健全な経営とガバナンス向上を目指す法律の中で、取締役の報酬に関するルールを具体的に示したものです。この規定は、取締役の報酬が株主の利益に適合するか、公正かつ透明な手続きで決定されるかを保証するために設けられました。特に、取締役が自己の利益を優先して報酬を過度に高く設定する、いわゆる「お手盛り」を防ぐことを目的としています。

「報酬等」の定義と適用範囲

会社法361条では、「報酬等」の範囲が明示されています。「報酬等」とは、取締役が職務執行の対価として株式会社から受け取る財産上の利益を指します。この中には、基本的な金銭報酬のみならず、賞与や株式報酬、新株予約権のような非金銭的な報酬も含まれます。また、この規定はすべての取締役に適用され、社外取締役についても報酬決定のルールが適用される点が特徴です。

条文が規定する株主総会の役割

会社法第361条では、取締役の報酬決定には株主総会が重要な役割を果たすことが明記されています。取締役の報酬額や報酬の具体的な算定方法は、基本的に定款の規定や株主総会での決議によって決定されます。これは、株主に会社経営の透明性と公平性を確保する権利を付与するものです。さらに、特に監査等委員会設置会社の場合は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役の報酬等が区別され、それぞれの決定に株主総会が関与する必要があります。

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取締役の報酬決定手続き:必要なルールと手続き

定款における記載の必要性

会社法第361条では、取締役の報酬について、まず定款で記載される必要があるかどうかが重要なポイントとして定められています。定款に報酬に関する具体的な取り決めが明記されている場合は、その内容に従って報酬が支払われることとなります。特に、報酬の支払い方法や算定基準が定款で明示されていれば、株主総会での議論をスムーズに進めることが可能となります。定款での記載がない場合は、後述するように、株主総会の決議が必須となります。

株主総会での決議事項とその範囲

取締役の報酬を決定する際、定款に定めがない場合は、株主総会での決議が必要です。この決議事項には、報酬等が金額として明確に定められている場合はその金額を、また金額が定められていない場合は基準となる算定方法を含む必要があります。さらに、報酬が金銭でない場合でも、その具体的な内容を決議で示さなければなりません。このような明確な規定は、取締役の報酬設定を恣意的に行うことを防ぎ、株主の意向を反映させるために重要です。

報酬決定権と取締役会の役割

会社法の下では、株主総会で大枠の方針や金額が決定された後、最終的な細かい報酬額の決定には取締役会が関与する場合があります。特に、監査等委員会設置会社の場合、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役で報酬の金額や内容を区別して決定する必要があります。また、取締役会では、報酬の額や内容について透明性を担保しつつ、企業の業績への貢献度や役割に基づいた公正な配分を行うことが求められています。取締役会の役割は、単なる形式的な手続きではなく、会社の経営を支える重要な基盤となるため、その意味でも慎重な運営が欠かせません。

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改正会社法による報酬制度の変化と影響

業績連動型報酬導入の背景

日本の会社法は、取締役報酬の透明性確保とともに、企業価値の向上を図るために改正が実施されてきました。特に、2021年の会社法改正では、業績連動型報酬の導入が注目されました。この背景には、株主や投資家への説明責任が高まる中で、短期的な成果だけでなく、中長期的な業績向上に寄与する報酬制度の設計が求められたことがあります。また、グローバルな市場競争の中で、日本企業が海外企業と同様の報酬体系を採用する必要性が指摘され、国際基準に近づけるための改革として位置づけられています。

改正条文で求められる報酬方針の明確化

2021年の会社法改正以降、取締役の報酬決定において、個人別の報酬方針の策定が義務付けられました。この改正により、各取締役に支払われる報酬の根拠や、その算定方法を明示することで、取締役会による恣意的な報酬設定のリスクを低減することを目的としています。この報酬方針には、基本報酬のほか、業績連動型報酬や株式報酬といった非金銭的報酬が含まれ、その具体的な概要を株主総会や事業報告書において開示する必要があります。この改正の背景には、報酬決定プロセスの透明性を高めることで株主の信頼を得るという狙いがあるといえるでしょう。

中長期的業績向上を目指すインセンティブ制度

取締役の報酬体系において、中長期的な視点での業績向上を実現するため、改正後の会社法では非金銭的報酬が重視されるようになりました。特に、株式報酬や新株予約権といったインセンティブ制度の導入は、企業価値の中長期的な成長を促進する仕組みとして注目されています。このような報酬制度は、取締役自身が株主と利益を共有する形となるため、企業経営において株主価値を重視した意思決定が期待されます。一方で、こうした非金銭的報酬の導入にあたっては、株主総会での明確な決議が求められ、その透明性を担保することも重要です。

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報酬額とその公開:透明性の確保

事業報告書における報酬額の記載要件

会社法の規定により、取締役の報酬は透明性を確保するため、事業報告書の中で報酬額を開示する必要があります。具体的には、1億円以上の報酬等を受け取る取締役については個別の報酬額を開示しなければならず、この規定は株主や投資家に対する信頼を高める上で重要な意義を持ちます。また、報酬の金額だけでなく、その算定方法や報酬方針についても併せて記載することが求められており、これにより不当な報酬設定などを未然に防ぐことが期待されています。

社外取締役における別枠公開の意義

会社法の改正により、社外取締役の報酬については、他の取締役報酬とは別枠で具体的な内容を公開することが推奨されています。この背景には、社外取締役の独立性を確保しつつも、その報酬が公正であり、外部からの監視機能に支障を与えないよう透明性を高める必要性があります。特に、社外取締役は監督機能の中核を担うため、他の取締役とは異なる観点から設定された報酬額を提示することが、企業の説明責任を果たす上で不可欠です。

報酬公開と株主への説明責任

取締役の報酬に関する情報を公開することは、会社が株主に対する説明責任を果たす重要な手段となります。会社法の361条に基づき、取締役の報酬は本来、株主総会での承認を得るべき事項であり、その金額や算定方法が妥当であることを説明する責任があります。適切な報酬公開を行うことで、株主は企業経営の透明性を確認でき、また取締役が適切な職務を遂行しているかを評価することが可能となります。このプロセスが実現されていれば、企業と株主との信頼関係が深まり、ガバナンスの向上にもつながります。

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報酬制度の課題と今後の動向

お手盛り防止策の限界と課題

取締役の報酬を適正に決定するため、会社法では株主総会での決議や監査等委員による意見表明が求められています。これは、取締役が自己の裁量で高額な報酬を設定する「お手盛り」を防ぐ重要な仕組みです。しかしながら、この制度だけでは限界も残っています。

例えば、株主総会における意思決定が支配株主や大口株主によって左右される場合、少数株主の意見が反映されにくい状況が生じる可能性があります。また、報酬の透明性を確保する仕組みが十分でない場合、報酬額の妥当性や算定基準に対する株主の理解と納得が得られにくいことも課題です。このような状況は、株主と取締役会の間に信頼の欠如を招く可能性があります。

グローバル基準と日本の報酬体系の違い

日本における取締役の報酬体系は諸外国と比較すると、固定報酬が高い比率を占める傾向があります。一方で、欧米諸国では業績連動型の報酬や、株式報酬などの中長期的な成果を反映したインセンティブが一般的です。これにより、経営者のパフォーマンスと報酬が密接に関連付けられることが期待されています。

日本では近年の改正会社法により、中長期的な業績向上を目的とした株式報酬やストックオプションの導入が進みつつありますが、全体的にはまだ浸透しているとはいえません。この違いは、経営者のモチベーションやガバナンスのあり方にも影響を与える要因となっています。

今後予測される法改正の方向性

取締役の報酬制度をより適切で透明性の高いものにするため、さらなる法改正が進む可能性があります。特に、報酬の開示義務の強化や、業績連動型の報酬が適切に評価される仕組みづくりが議論されるでしょう。

また、グローバル化が進む中で、日本の報酬制度が国際的な基準に適合する形へとアップデートされることも求められています。これには、株主総会や取締役会の役割の見直し、さらに報酬に関する具体的な基準や指針が盛り込まれる可能性があります。これにより、株主と経営者の信頼関係を強化し、企業価値の向上を図る法体系が構築されることが期待されます。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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