コトラ（広報チーム） 
取締役と部長を兼務する基本概念
取締役と部長の役割とは？
取締役と部長の役割には明確な違いがあります。取締役は、会社全体の運営方針を決定し、その方向性に基づいた経営の指揮を担います。一方で、部長は特定の部門を率いてその運営と目標達成を支える役割を果たします。このように、取締役は会社全体のかじ取り役であり、部長は個別領域の管理者としての役割があるのです。そのため、両方を兼務する場合には、全体と部分をバランスよく管理する能力が重要となります。
兼務する理由と背景
取締役と部長を兼務する理由には、企業規模や人材活用の効率化という要因が挙げられます。特に、中小企業では、経営資源が限られているため、取締役が部門管理を兼務することで、意思決定の迅速化やコスト削減を図ることが可能です。また、企業によっては特定分野において実績を持つ担当者が、その専門知識を活かしながら経営に関与することも期待されています。しかし、兼務の背景には、充実したリーダーシップや適切な業務配分が求められる点も重要なポイントです。
使用人兼務役員の法的基準
取締役が部長としての職務を兼務する「使用人兼務役員」は、日本の会社法において適法とされています。ただし、注意すべき点もあります。たとえば、使用人兼務役員の場合、取締役報酬と部長としての給与がそれぞれ定められますが、これらの報酬体系については株主総会の決議や定款の規定を遵守する必要があります。また、税務上の扱いも異なるため、それに応じた管理が必要です。一方で、監査役や指名委員会等設置会社の取締役においては、使用人としての兼務が制限されている点も押さえておくべきです。
会社法が求める兼務のルール
会社法では、取締役が部長を兼務することについて明確な禁止規定はありません。ただし、指名委員会等設置会社の場合、執行役を監督する立場にある取締役が使用人としての役割を持つことが適切ではないとされており、兼務は認められていません。このルールは、取締役の監督義務の独立性を確保するために設けられています。また、役員報酬や使用人給与の支払い方法にも特定の規定があるため、これを満たす形で兼務を進める必要があります。
兼務可能な状況と制約
取締役と部長の兼務は、一般的な会社形態では多くの場合可能ですが、いくつかの条件や制約があります。まず、取締役会設置会社では、取締役が使用人の地位を兼務することが可能とされています。一方で、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社での取締役は、内部統制や独立性の観点から使用人職務を兼務することが認められていません。また、兼務役員は通常の役員と同様に善管注意義務を負い、適切に会社の利益を追求する必要があります。
取締役と部長を兼務するメリット
意思決定の迅速化とコミュニケーション効率
取締役と部長を兼務することで、経営層と現場の間にある情報伝達のスピードが向上します。取締役の戦略的な意思決定を部長として現場に即座に反映できるため、課題の解決や目標達成がスムーズに進みます。また、経営方針を深く理解している兼務者が直接現場を指揮できるため、部門内のコミュニケーション効率も大幅に改善するメリットがあります。
リーダーシップの集中による統率力向上
取締役と部長を兼任することにより、リーダーシップの一元化が実現されます。部門の指揮命令系統と経営戦略の方向性が一本化され、組織の統率力が強化されます。特に重要なプロジェクトや意思決定の場面で、取締役と部長が別々に調整する手間が省けるため、部門全体がより効率的かつ統一感を持った行動を取ることができます。
会社組織内での一貫性の確保
取締役が部長職を兼務することで、経営戦略と部門目標との間に一貫性が確保されます。経営層の意図がそのまま部門の方針に落とし込まれるため、全社的なビジョンと部門レベルの実行がズレにくくなります。これにより、社内全体が同じ方向に向かいやすくなり、組織全体での目標達成がしやすくなるメリットが期待されます。
コスト削減効果と人材活用の効率化
取締役と部長を兼任する形態は、役職毎に別人を配置する場合に比べて人件費を削減できます。また、同じ人物が複数の責任を担うことで、経営資源を効率的に活用することが可能です。この構造により、経営層の意向を現場と連動させた柔軟な対応を図るだけでなく、財務面でもメリットを享受できるといえます。
社員との信頼関係強化
部長として現場の第一線で指揮を執ると同時に取締役として経営の全体像も把握している人物が存在することで、従業員からの信頼感が高まります。現場の状況や課題を経営層に直接共有できるという安心感は、部門の従業員との関係をより良好に保つきっかけとなります。また、社員の意見が経営に反映されやすくなるため、組織全体の結束力が強化されるメリットも期待されます。
取締役と部長を兼務する際の注意点
役職上の権限や責任の混同
取締役と部長を兼務する場合、それぞれの役職における権限や責任の明確な区別が求められます。取締役としては株主の利益を優先し、会社全体の方針決定に関与する一方、部長としては現場のマネジメントや業務執行が主な役割となります。この二重の役割が曖昧になると、意思決定の優先順位が不明確となり、組織全体の運営に支障が生じる可能性があります。役職ごとの役割を明確にし、責任の混同を防ぐための対策が必要です。
過重労働による負担とその対策
取締役と部長を兼務する場合、業務量が著しく増加することが考えられます。取締役としての意思決定業務や法的義務に加え、部長としての日常業務や従業員管理を並行して行うため、長時間労働や業務の過重負担に陥るリスクがあります。これを回避するために、業務の適切な分担、効率的なスケジュール管理、そして必要に応じた補佐的な人材配置が重要です。また、取締役会や上層部による定期的な業務チェックも有効な手段です。
法的リスクとコンプライアンスの遵守
取締役と部長の兼務には法的責任が発生します。特に取締役には善管注意義務や忠実義務といった法的責任が求められるため、これを従業員職務と明確に区分しながら業務を遂行する必要があります。また、使用人兼務取締役として合理的な給与体系や労働条件を確保することは、コンプライアンスの観点からも重要です。違法な取り扱いや判断ミスが生じると、企業全体の信頼に悪影響を与える可能性があります。そのため、兼務にあたっては専門家の助言や法的な確認を行うことが望まれます。
従業員への公平性の担保
取締役と部長を兼務することにより、従業員からの視点で役職上の公平性に対し疑問が生じることが考えられます。例えば、取締役としての立場を活用して部長職における特別待遇を受けているように見られると、内部的な不満や信頼の低下につながる可能性があります。そのため、役職が異なる場合でも公平かつ透明性のある評価・待遇を従業員に示すことが重要です。また、定期的な説明会や意見交換を行い、会社全体で納得感を醸成する取り組みが求められます。
報酬体系の明確化と透明性の確保
取締役と部長を兼務する際、報酬体系の複雑化が懸念されます。使用人兼務役員の場合、取締役報酬に加え、部長としての給与が支払われるケースがありますが、これらの区分が不明確であると、財務面や税務面でのリスクを招く可能性があります。また、従業員や株主から不審を抱かれる恐れもあるため、報酬の内容を明確化し、適切な手続きで承認を得ることが重要です。併せて、社内外への透明性を高めるために定期的な報酬の見直しや情報開示を行うことが求められます。
取締役と部長の兼務を成功させるポイント
業務と役割の明確な分離
取締役と部長を兼務する場合、それぞれの業務と役割を明確に分離することが重要です。取締役としての責務は会社全体の方向性や意思決定に関与することであり、一方、部長としての役割は担当部門の業務運営や従業員の管理を担います。これらを混同すると、役員としての視野が狭まったり、部門運営に影響を及ぼす可能性があります。そのため、会議内容や職務時間を明確に分け、どちらの職務でも成果を上げられる環境を整備する必要があります。
適切な業務配分とチームとの連携
取締役と部長を兼務する場合、業務量が増加し、負荷が大きくなる傾向があります。そのため、役割ごとに業務を適切に配分し、業務効率を確保することが必要です。特に部長としての職務では、チームメンバーとの連携を強化し、日常業務を共有・分担する体制を整えることが効果的です。部長職の負担を軽減しながら、取締役としての職務に集中する時間を確保することが、組織全体の効率化に寄与します。
コンプライアンスを意識した行動指針
取締役と部長を兼務する中で特に留意すべき点の一つがコンプライアンスです。取締役は会社法に基づいた法的義務や責任を負っており、部長としての管理責任とも密接に関連します。それぞれの立場での判断や行動が法律や規則に違反しないよう、常にコンプライアンスを意識した行動指針を策定し、遵守することが求められます。また、定期的な研修や確認を実施し、法令遵守の徹底を図ることも重要です。
定期的な業務評価と見直し
兼務が成功するかどうかは、取締役としても部長としても双方で成果を挙げられるかにかかっています。そのため、定期的に業務内容と役割分担を評価し、必要に応じて見直すことが不可欠です。例えば、四半期ごとに業務進捗を評価し、過剰な負担がないか、組織運営に支障が出ていないかを確認します。これにより、精度の高い判断と、業務全体のバランスを保つことが可能になります。
取締役会と部門会議での役割の使い分け
取締役会と部門会議における役割を明確に区別することも、成功のポイントです。取締役会では会社全体の戦略や経営方針に関する議論を重視し、部門会議では現場の課題解決や日々の運営改善に注力するという形で、関わり方を区分けする必要があります。これにより、双方での責任が明確になり、意思決定のスピードが向上するだけでなく、部門メンバーにも公平感を与えることが可能になります。
兼務役員を導入する際の準備と手続き
兼務導入前に行うべき規定の確認と策定
取締役と部長を兼務させる際には、事前に会社の規定や運用ルールをしっかりと確認した上で、必要に応じて新たな規定を策定することが重要です。特に、就業規則や人事規程において、兼務役員に関連する明確な定義が存在するかどうかを確認しましょう。具体的には、「使用人兼務役員」としての賃金の取り扱いや役職の階層の扱いについて定めることで、後々の混乱を防ぐ効果があります。また、会社法を始めとする法的基準を満たしていることを確認し、必要であれば弁護士や専門家に相談することも推奨されます。
株主総会・取締役会での正式決定の進め方
取締役と部長を兼務するにあたっては、株主総会や取締役会での正式な決議が必要です。特に取締役報酬については、多くの場合、株主総会での承認を得ることが求められるため、兼務役員に支払う報酬と給与の内訳を詳しく検討・決定する必要があります。また、定款に基づき役職に関する改定が必要な場合や、新たな兼務役員の指名が行われる場合には、それらを議案として明記することで、手続きの透明性を確保するのが大切です。正式決定が遅れた場合、法的な問題が生じる可能性もあるため、事前準備をしっかり進めましょう。
就業規則や人事規程との整合性確保
取締役と部長の兼務を実現する場合、就業規則や人事規程との整合性を必ず確認する必要があります。例えば、労働時間や給与体系、雇用保険の適用といった項目が、役員と使用人の立ち位置で矛盾がないかを精査するべきです。また、報酬の決定についても、就業規則が曖昧な場合にはトラブルを招きやすい為、事前の見直しと修正が重要です。このような整合性の確保を通じて、役員としての責任と部長としての役割を明確に区別できる環境を整えることを心掛けましょう。
兼務に伴う人材育成とフォローアップ体制
取締役と部長を兼務する場合、その役員が過重労働に陥るリスクを低減するために、適切な人材育成とバックアップ体制を整えることが不可欠です。具体的には、兼務役員をサポートできる副部長やリーダークラスの人材を育て、業務負担を分散させる取り組みが効果的です。また、定期的に上司や人事部門がフォローアップを行い、兼務の状況についての課題を把握する場を設けることも重要です。このような体制を準備しておくことで、兼務役員の「役員としての責務」と「部長としての業務」の双方をバランス良く遂行できる環境を整えることが可能です。
従業員への説明と信頼醸成のための施策
取締役と部長の兼務がスムーズに進むようにするためには、従業員への適切な説明と信頼醸成が欠かせません。「なぜ特定の役職者が兼務を行うのか」「兼務による組織的なメリットは何か」など、背景や目的をしっかりと共有することが従業員の理解を得るうえで重要です。また、兼務する役員が現場に対して不足なくコミュニケーションを取り、業務が円滑に進む環境を維持することで、現場からの信頼感を高めることができます。このような施策を通じて、兼務体制を組織全体で支え合う風土形成が求められます。
