「不正のトライアングル」とは?—3つの要素が暴く不正のメカニズム

1. 不正のトライアングルとは何か?

1-1. 不正行為を分析するモデルの背景

「不正のトライアングル」は、人が不正行為を行う際のメカニズムを説明するために提案された理論で、不正リスクを評価・管理するための有力なフレームワークです。このモデルは、アメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシーによって提唱され、不正行為を分析する上での基本的な考え方を提供しています。この理論が示す3つの要素、すなわち「機会」「動機」「正当化」は、個人や組織が不正行為に関与する際の条件を明らかにします。特に、企業や公共機関など、不正リスクを管理すべき組織の理解において重要な理論とされています。

1-2. 3つの要素の概要—機会・動機・正当化

不正のトライアングルは、「機会」「動機」そして「正当化」という3つの要素から成り立っています。「機会」は、不正行為が可能となる環境を指し、不十分な監視や内部統制の欠如が原因で生じます。「動機」は、金銭的なプレッシャーや業績目標の達成といった主観的な理由によって、不正行為を行わざるを得ない状況を作り出します。そして「正当化」は、自己合理化することで不正行為を行う人々が感じる罪悪感を和らげ、不正行為を許容できる状態を生み出します。この3つの要素が組み合わさることで、不正リスクが高まり、不正行為が発生する土壌が整うのです。

1-3. 理論の成立と提唱者ドナルド・R・クレッシーについて

「不正のトライアングル」を提案したドナルド・R・クレッシーは、犯罪学分野で広く知られた研究者です。彼は、特に組織内における不正のメカニズムについて研究を進め、この理論を打ち立てました。クレッシーの理論は、W・スティーブ・アルブレヒト博士によってさらに図式化・整理され、より多くの実務や調査に活用されていることが特徴です。このモデルを用いることで、組織や個人がどのような状況で不正行為を行いやすくなるのかを理論的に分析することができるようになりました。その結果、「不正のトライアングル」は、現在も不正防止の分野で基礎的な枠組みとして広く活用されています。

1-4. 不正三要素が人や組織に与える影響

不正のトライアングルが示す三要素—「機会」「動機」「正当化」—は、個人や組織に大きな影響を与えます。まず、「機会」が存在すると、従業員や関係者が不正行為を行うハードルが低くなります。これに、「動機」が加わると、不正行為を行うことに対する心理的な圧力がさらに増します。そして、「正当化」は、不正行為を行った後でも自分が正しいと信じ込ませる材料となり、行為者が罪悪感を感じることを防ぎます。これらの要素は連鎖的に作用し、結果として不正行為が組織全体の信頼性や経済的損失を大きく損なうリスクを生み出します。そのため、これらの要因を適切に認識し、コントロールすることが、不正リスクを低減するうえで極めて重要です。

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2. 不正行為を引き起こす「機会」のメカニズム

2-1. 機会が生じる場面とは?

「不正のトライアングル」における機会とは、不正行為が現実的に可能となる状況や環境を指します。不正は、機会が存在しない限り実行されないため、機会が生じる場面を把握することは不正防止において重要です。たとえば、内部統制が不十分な組織では、現金や商品が管理されず不正リスクが高まります。また、業務プロセスが曖昧で誰も責任を負わない状況や、権限が一部の担当者に集中する場面では不正行為が実行される余地が生まれます。

2-2. 組織構造や内部統制の重要性

不正リスクを低減するためには、組織の構造や内部統制が極めて重要です。例えば、業務分掌により一人の担当者がすべてのプロセスを担当できないようにし、複数の視点から確認が行われる環境を構築することで不正の機会を減少させることができます。また、適切な承認プロセスを導入し、規則的な監査を実施することは、不正を未然に防ぐうえで効果的です。逆に、これらの仕組みが曖昧であれば、不正が発見されにくくなり、組織全体に不正の余地を与えてしまいます。

2-3. 見逃される「穴」をいかに防ぐか

不正の三要素の1つである「機会」を排除するためには、組織内の「穴」を特定し、適切に対策を講じることが必要です。例えば、頻繁に変更されていないパスワードや、特定の個人に過剰な権限が与えられている状況は、不正の温床となり得ます。このようなリスクを防ぐためには、システム監査を定期的に実施し、権限管理を適切に行うことが求められます。また、従業員から定期的に意見を聴取する機会を設けることで、内部の問題点に気づきやすくなります。これにより、未然に不正を防ぐ文化の醸成が可能になります。

2-4. 実際の企業で見られる機会の事例

実際の企業では、不正が発生しやすい機会の事例がいくつか見られます。例えば、ある企業では経費の申請プロセスが不透明であり、上司が確認せずに承認した結果、架空の経費が申請され問題となったケースがあります。また、アクセス管理が不十分で重要なデータが容易に閲覧可能だったため機密情報が持ち出された事例も報告されています。このような例は、不正の三要素のうち「機会」がどれほど重要な役割を果たしているかを改めて示しています。企業においてこれらの機会を減少させることが、不正防止の第一歩となります。

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3. 「動機 (プレッシャー/インセンティブ)」の要因

3-1. 不正を引き起こす心理的プレッシャー

不正の三要素の一つである「動機(プレッシャー/インセンティブ)」は、不正行為を誘発する心理的な圧力や衝動が含まれます。心理的プレッシャーには、経済的な事情だけでなく、職場での過剰なノルマや業績目標へのプレッシャーも引き金となります。特に、業績達成が給与や地位に直結する場合、プレッシャーは一層強まります。さらに、職場での競争環境が強調されすぎると、プレッシャーを持つ社員が不正行為に走るリスクが高まります。こうした要因は、個人の判断に影響を与え、不正リスクを増大させることになるため、企業はプレッシャーを軽減するための環境づくりを検討する必要があります。

3-2. 個人が抱えるストレスや経済的問題

個人が直面するストレスや経済的問題も不正の動機となることがあります。たとえば、借金や家族の医療費などの経済的負担は、不正行為を実行する要因となり得ます。また、職場での評価や管理職からのプレッシャーも、大きなストレスを引き起こします。このような内的・外的ストレス要因が積み重なると、不正行為への抵抗感が低下する場合があります。特に、不正が「問題解決の手段」として認識される場合は、経済的な理由が強力な動機となり得るのです。

3-3. インセンティブが不正に影響する要因

インセンティブの設計は、社員の行動に大きな影響を与える要素です。業績達成に基づく報酬や昇進制度は、モチベーションを高める反面、不正を誘発するリスクを伴うことがあります。目標が極端に高く設定されていたり、達成に対する過剰な期待がある場合、正当な手段では達成が難しいと感じる社員が不正行為に頼る可能性があります。特に、短期的な利益や成果を追求する報酬制度の場合、不正リスクが高まる傾向にあるため、インセンティブは慎重に設計する必要があります。

3-4. 組織の目標設定と不正リスクの関連性

組織の目標設定は、不正リスクの高低に大きな影響を及ぼします。過度に高い目標や不合理な期待が社員に伝えられると、それに応じたプレッシャーが生じ、結果的に不正行為につながる場合があります。さらに、個々の社員が目標を達成するための十分なリソースやサポートが提供されていない場合、追い詰められた状況が不正を誘発する可能性も高まります。したがって、目標設定を行う際には、不正の三要素に基づき、不正リスクを事前に評価することが重要です。現実的で達成可能な目標を設定することで、動機要因を最小限にすることができます。

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4. 不正を正当化する意識のメカニズム

4-1. 自己正当化の心理—「仕方がなかった」の危険性

人が不正行為を行う際には、多くの場合、その行為に対しての「正当化」が行われます。この自己正当化の心理は、不正 三要素の中で最も内面的な要素と言えるでしょう。例えば、「会社の給与が低いから仕方がない」「一時的に借りただけ」といった考え方が典型例です。このような心理があると、不正行為が罪悪感なく行われる場合があります。これが繰り返されると、さらに不正行為がエスカレートする危険性があります。

4-2. 倫理観や価値観が不正を許す要因

倫理観や個人の価値観も、不正を正当化する大きな要因となることがあります。特に、「他の人もやっているから自分もして良い」という集団心理が働くケースや、会社の風潮そのものが倫理的な基盤を欠いている場合にこうした状況が助長されます。このような環境下では、個人の良心やモラルよりも、組織や状況がもたらす暗黙のルールが不正行為を許す温床となります。

4-3. 正当化が企業文化に入り込む仕組み

個々人の正当化が広まると、やがてそれは企業文化にまで浸透する場合があります。例えば、上司が部下の経費水増しを暗黙的に認めたり、業績目標を達成するための多少の「改ざん」を容認するような雰囲気が生じることがあります。このような状況では不正行為が黙認されるだけでなく、やがてそれが「常態」として組織内に定着し、組織全体の透明性を著しく低下させます。

4-4. 実例から見る正当化の形

不正 三要素の中で「正当化」の具体例として、過去の企業スキャンダルが挙げられます。有名な事例では、「業績がよく見えるように一時的に数字を調整しただけ」や、「市場の期待に応えるためにやむを得なかった」という言い訳が頻繁に見られました。これらのケースでは、当事者が不正行為を「緊急避難」のように考える心理が働いています。しかし、このような「一時しのぎ」は、結果的に大きな損害を生むことが多く、特に企業レベルではブランド価値の失墜や法的責任に繋がる大きなリスクがあります。

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5. 不正のトライアングルを用いた予防策と対策

5-1. 内部統制と監視体制の強化

不正の三要素である「機会」を削減するためには、内部統制と監視体制の強化が欠かせません。内部統制は、企業全体で適切な秩序を保ちながら業務を遂行する仕組みを構築することを指します。特に、業務の分掌や監督体制を明確にすることで、社員一人ひとりが自由に操作できる領域を制限し、不正行為を試みる「機会」を減少させることができます。また、定期的な監査や不定期のチェックを組み合わせることで、経営層は不正を早期に発見し対処する体制を整えることが重要です。

5-2. 倫理規範の教育と周知徹底

「正当化」の要素を抑えるためには、倫理規範の徹底が効果的です。倫理教育を社員全員に提供することで、不正を許容しない価値観と組織文化を醸成することができます。特に企業が掲げる行動指針やコンプライアンスポリシーを具体例を挙げて説明し、社員が理解しやすい形で伝えることが不可欠です。また、倫理規範に基づいた行動が評価される仕組みを取り入れることで、社員が不正の誘惑に負けにくい環境を構築できます。

5-3. 組織内の透明性向上のための施策

組織内の透明性を高めることは、「機会」と「正当化」を同時に抑える効果があります。具体的には、意思決定プロセスや経済的な取引の透明性を確保し、社員同士や管理職の活動を見える化することが重要です。また、匿名性を確保した内部告発制度を構築し、不正行動を迅速に報告できる環境を整えることも、透明性向上に貢献します。さらに、経営層が自ら透明性に対するコミットメントを示すことで、組織全体に不正に対する警戒心を植え付けることができます。

5-4. 有効な不正検知システムの導入

テクノロジーを活用した不正検知システムの導入は、不正対策において非常に有用です。例えば、異常な取引や行動パターンを検知する人工知能(AI)を活用すれば、従来の手作業では見逃されていた不正行為を早期に発見することが可能です。また、デジタルで可視化されたデータがあれば、不審な挙動を過去のデータと比較することも容易になります。これにより、「機会」を事前に排除し、不正リスクを大幅に軽減することができます。

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6. まとめ—不正のトライアングルから学ぶこと

6-1. 不正を防止するための重要なポイントの整理

「不正のトライアングル」は、不正行為の発生メカニズムを理解するために非常に有用な理論です。この理論が提唱する「機会」「動機」「正当化」の3つの要素をそれぞれ分析し、特定の環境や状況がどのように不正リスクを高めるかを明確にすることが不正防止の第一歩となります。組織における内部統制や透明性を強化することで、「機会」を減らすと同時に、過度なストレスや不公正感を解消し「動機」と「正当化」を抑制することが求められます。

6-2. 「機会」「動機」「正当化」の評価と改善

不正を未然に防ぐためには、「機会」「動機」「正当化」の3要素を継続的に評価し、改善していくプロセスが重要です。まず、「機会」に関しては組織内のルールや業務プロセスを見直し、内部統制を強化する必要があります。「動機」に関しては、従業員が抱える経済的な問題やプレッシャーを理解し、適切なサポート体制を整備することが効果的です。また、「正当化」を防ぐためには、組織内で倫理観を醸成し、高い企業文化を構築することが不可欠です。このような取り組みを総合的に実施することで、不正リスクの軽減につながります。

6-3. 企業と個人が取るべきこれからのアプローチ

企業と個人が協力して不正を防止するためには、それぞれの視点から効果的なアプローチを取ることが重要です。企業側としては、組織文化の透明性や不正が許されない環境の整備、従業員への倫理教育、内部監査の導入などが挙げられます。一方、個人としては、倫理意識の向上とともに、自身のストレスやプレッシャーを適切にマネジメントするスキルを磨く必要があります。企業全体の努力と個々人の責任意識が相まって、不正のリスクが大きく低減されるでしょう。

6-4. 不正を未然に防ぐ組織づくりの未来

不正のトライアングルに基づく予防策を効果的に活用するためには、組織が柔軟かつ継続的に改善策を実施し、不正を許さない文化を形成することが重要です。次世代の組織づくりは、技術的な不正検知システムの導入だけでなく、従業員との信頼関係を深め、内部告発制度のような適切な仕組みを整備する方向へと向かうべきです。また、経済や働く環境が急速に変化していく中で、不正防止のための理論や手法も進化させなければなりません。不正三要素を意識しながら、企業と従業員が一丸となって健全な働きやすい環境を構築していくことが、より良い未来につながるのです。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

金融、コンサルのハイクラス層、経営幹部・エグゼクティブ転職支援のコトラ。簡単無料登録で、各業界を熟知したキャリアコンサルタントが非公開求人など多数のハイクラス求人からあなたの最新のポジションを紹介します。