コトラ（広報チーム） 
電磁的記録不正作出罪とは何か？
法律上の定義と対象行為
電磁的記録不正作出罪は、刑法第161条の2に定められた犯罪で、他人が行う事務処理を誤らせる目的で不正な電子データを作成した場合に成立します。ここでの「電磁的記録」とは、電子的または磁気的な方式によって作成された記録を指し、具体的にはコンピュータ上で処理される情報やデータがこれに該当します。
この罪の対象行為には、例えば、不正なクレジットカード情報を勝手に作成したり、他人の権利や義務に関する電子データを偽造したりする行為が含まれます。それによって他者の事務処理に支障をきたし、さらには経済的な損害や社会の信頼を損ねる危険性があります。このため、デジタル社会が進展する中で厳しく規制されています。
どのように罪が成立するのか
電磁的記録不正作出罪が成立するためには、いくつかの要件があります。まず、対象となる行為が他者の事務処理を誤らせることを目的としている点が重要です。単なる誤操作や過失によるデータの改ざんとは異なり、意図的かつ不正な目的が必要です。
また、作成した電磁的記録が「事実に反する内容」であることも要件の一つです。このような場合、作成者がその記録を使用する意図があれば罪に問われることになります。例えば、不正クレジットカードを用いて金銭を引き出すために偽造記録を作成した場合がこれに該当します。
違反した場合の刑罰と法定刑
電磁的記録不正作出罪に違反した場合、刑法では「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」という法定刑が定められています。この処罰の重さは、犯罪の重大性に比例しており、特に権利や義務に関するデータを不正に操作することで、個人や組織の信頼性を著しく損なう点が考慮されています。
さらに、公務員の場合は通常より重い罰則が適用され、「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」となります。これは、公務員が犯行に関与した場合には社会に与える悪影響が極めて大きいためです。
関連するその他の法律との違い
電磁的記録不正作出罪と類似する法律は多く存在しますが、具体的な適用範囲や行為の内容に違いがあります。例えば、不正カードを所持しているだけでも「所持罪」が成立し、こちらは刑法第163条の2に基づき罰せられます。一方で、不正な方法で取得したカードを使用する場合は「支払用カード電磁的記録不正作出罪」や「供用罪」に該当します。
また、コンピュータ・ウイルスの作成や提供については、「不正指令電磁的記録に関する罪」が適用されます。これらは一般的にウイルスや悪意あるプログラムを対象とする法律であり、とりわけ社会的信頼の保護を目的としています。このように、電磁的記録不正作出罪は主に「記録そのものの不正作成」を取り締まる点で他の法律と異なる性質を持っています。
具体的な事例で理解する電磁的記録不正作出罪
クレジットカードやキャッシュカードの不正作成ケース
クレジットカードやキャッシュカードの不正作成は、電磁的記録不正作出罪の典型的な事例の一つです。不正なカードは、本来であればカード発行者が正規に管理する電磁的記録に偽造データを作り込むことによって作成されます。例えば、カード情報をスキミング機器で盗み、そのデータを用いて偽造カードを作成する行為が挙げられます。
このような行為は、刑法163条の2第1項に規定される「支払用カード電磁的記録不正作出罪」が適用され、5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることがあります。また、不正カードの所持自体も「所持罪」に該当し、厳しい処罰の対象となります。
クレジットカードやキャッシュカードの不正作成に関わる事件は、個人だけでなく犯罪組織が関与していることも多く、その被害は多額の損失につながる可能性があります。そのため、警察や関係機関はこうした犯罪に対して厳しい取り締まりを行っています。
コンピュータウイルスや偽造記録の利用事例
コンピュータウイルスの作成や偽造電磁的記録の利用も、電磁的記録不正作出罪に関連する行為として取り上げられます。例えば、他者のパソコンやサーバーに不正アクセスを行い、支払情報や個人データを改ざんするケースがこれに該当します。また、偽造したデータをコンピュータウイルスに組み込み、特定の目的で広範囲に配布する行為も、この罪に問われる可能性があります。
平成23年に施行された改正法では、コンピュータウイルスの作成・提供や供用行為について法的な規定が設けられました。例えば、正当な理由なくコンピュータウイルスを作成・提供・供用した場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。また、ウイルスを取得して保管しているだけでも「ウイルス取得・保管罪」として2年以下の懲役または30万円以下の罰金が適用される可能性があります。
コンピュータウイルスによる電磁的記録の不正改ざんは、社会的な信頼を著しく損なうため、法律が厳しく規定しています。そのため、特定の目的がなくとも、ウイルスを意図的に取得する行為は避けるべきです。
被害者や加害者になるリスク事例
電磁的記録不正作出罪に関しては、被害者と加害者の双方になり得るケースがあります。例えば、クレジットカード情報がインターネット上で漏洩し、不正利用されることで被害者となる可能性があります。このような場合、不正カードや偽造電磁的記録が利用されることで多額の金銭的な損害を被ることがあります。
一方で、自らが不正作出行為を行っていない場合でも、意図せずに加害者になってしまうリスクも存在します。例えば、不正に作成されたカードを受け取ったり、違法な電磁的記録を入手して知らないうちに所持している状況が該当します。この場合も「所持罪」が適用される場合があり、法律を十分理解していないとトラブルに巻き込まれてしまう可能性があります。
これらの事例を未然に防ぐためには、日常的に個人情報やカード情報を適切に管理し、不審なメールやインターネット取引には十分注意を払うことが重要です。また、不必要な電磁的記録の取得や保存を避けることもリスクを低減する手段として役立ちます。
デジタル社会での注意点：知らないと避けられないトラップ
不正アクセスや詐欺の温床となる危険性
現代のデジタル社会では、IDやパスワードの不正取得をはじめとする不正アクセスが後を絶ちません。不正アクセスの被害者となると、個人情報や金融情報が流出し、不正な電磁的記録の作成や利用に繋がる可能性があります。このような行為は、不正指令電磁的記録を用いた詐欺や、ネットバンキングからの資金流出など深刻な犯罪に関与する恐れがあります。刑法ではこれらを厳しく取り締まっており、不正アクセス禁止法に基づく罰則として懲役刑や罰金刑が科されることも少なくありません。
SNSを利用した個人情報の悪用例
SNSにおいて、ユーザーが安易に公開する個人情報が悪用されることも珍しくありません。たとえば、公開された名前や生年月日、写真が、不正な支払用カード電磁的記録作出罪などの犯罪に利用されることがあります。また、SNSで得た情報を基に銀行情報やクレジットカード情報を詐取し、不正カードを作成するケースも増加傾向にあります。こうした被害を防ぐためには、プライバシー設定を厳格にし、不必要な個人情報を安易に公開しないことが重要です。
日常での習慣による防止策
不正行為の予防には、日常的なセキュリティ意識が不可欠です。まず、パスワードを定期的に変更し、他人に容易に推測されにくい複雑なものに設定することが挙げられます。また、ウイルス対策ソフトのインストールと定期的な更新を怠らないことも重要です。加えて、信頼性の低いサイトでの情報入力を控え、クレジットカードや電子決済サービス利用時には二段階認証などを活用することが、不正アクセスや記録の悪用を防ぐ有効な手段となります。
企業を狙った大規模な犯罪事例
企業を標的とするサイバー犯罪も深刻化しています。たとえば、顧客のクレジットカード情報が保存されたデータベースに対する不正アクセスや、業務に使用される電磁的記録の改ざんが挙げられます。このような犯罪は、顧客の信頼を失うだけでなく、多額の損害賠償や信用失墜など致命的な結果を招くことがあります。特に、事務処理を誤らせる目的で不正に作成された電磁的記録は、刑法第161条の2に基づいて厳格に処罰されます。企業側は、情報セキュリティ担当者を配置し、脆弱性診断やサイバー攻撃対策を定期的に実施する必要があります。
もしもあなたが巻き込まれたら：適切な対応方法
初動対応の流れと注意点
電磁的記録不正作出罪や関連する犯罪に巻き込まれた場合、初動対応が極めて重要です。まず、自分が被害者なのか、それとも誤って加害者とされているのかを冷静に把握する必要があります。被害者の場合、不正に利用されたクレジットカードや不審な電磁的記録の発見と同時に、速やかにカード会社やサービス提供者に連絡し、不正利用の可能性を報告してください。また、警察に被害届を出すことで証拠の確保がスムーズになります。一方で加害者として疑われた場合、無実を証明するための具体的な証拠（利用履歴やアクセスログなど）の保全を徹底することが重要です。焦らず、事実関係を整理した上で対応しましょう。
警察や弁護士との連携方法
電磁的記録不正作出罪は専門性の高い法律が絡むため、警察や弁護士との連携が欠かせません。被害者である場合、まず警察に相談し、公式な調査を依頼することが大切です。調査資料の提供を求められることもあるため、不正利用の証拠となる書類や記録を準備しておきましょう。また、弁護士に相談することで、法的な観点から適切なアドバイスを受けられ、複雑な状況に対処できます。一方で、加害者として疑われた場合でも弁護士の力を借りることで、無実の証明や贖罪の手順を正確に進められます。警察や弁護士の協力を得る際は、正確な情報提供と誠実な態度を心がけましょう。
被害者・加害者両面のケーススタディ
実際の事例を挙げると、被害者側では、クレジットカードの電磁的記録を不正にコピーされ、不正使用されたケースが典型的です。この場合、被害者はカード会社や警察への迅速な通報により、損害を最小限に抑えられる可能性があります。一方、加害者と疑われた場合としては、意図せずに不正プログラムが仕込まれたパソコンを利用し、電磁的記録を改ざんする行為に関与してしまうといった事例が挙げられます。このような場合には、無関与であることを証明するため、操作履歴やウイルス感染の証拠を確保し、専門家による支援を受けることが重要です。立場によって必要な行動が大きく異なるため、各ケースに応じた慎重な対応が必要です。
早めの相談とトラブル防止の重要性
電磁的記録に関連する犯罪に巻き込まれた際、迅速な相談がトラブルを深刻化させないための鍵となります。このような状況下では、カード会社や警察、弁護士といった専門機関への相談を早期に行うことで、リスクを最小限に抑えることが可能です。また、普段からサイバーセキュリティに関する知識を持ち、クレジットカードの情報管理や不審なメールへの対処法を知っていることが、被害そのものを防ぐための有効な手段となります。早めの相談が犯罪リスクの軽減に直結するだけでなく、将来的なトラブル防止につながるため、日常的な意識向上が重要です。
まとめ：知識を持ちリスクを回避する
電磁的記録不正作出罪を理解する意義
電磁的記録不正作出罪は、デジタル社会における重要な法律であり、その理解の重要性は日々高まっています。不正な電磁的記録を作成する行為は、公正な事務手続きや社会全体の信頼を損なう行為とみなされます。例えば、クレジットカードやキャッシュカードの情報を改ざんするケースでは、被害が個人だけでなく企業や社会全体へと波及する可能性があります。このような罪を正しく理解することは、自らが加害者や被害者になるリスクを予防するだけでなく、他者や企業への不当な行為を防止する第一歩となります。
デジタル社会での倫理と法知識の重要性
デジタル社会では、私たちの日常生活の多くが電磁的記録によって成り立っています。電子決済やSNS、オンライン取引など、便利さの裏には不正行為が潜んでいるリスクがあります。これらのリスクを正しく理解し、対策を取るためには、法知識と倫理観の両方が欠かせません。不正に電磁的記録を操作する行為は違法であるだけでなく、他人の財産や権利を著しく侵害する行為です。こうした法律や社会的ルールを学ぶことで、健全なデジタル社会の構築に貢献できるでしょう。
トラブルを未然に防ぐ心構え
電磁的記録不正作出罪や関連する法律についての知識を持つことは、日常生活でのリスク回避策として非常に有効です。例えば、不審なメールやリンクを開かない、クレジットカード情報を慎重に扱う、パスワード管理を徹底するなどの基本的な行動は、サイバー犯罪の標的になるリスクを大幅に減らします。また、企業においては、システム管理やセキュリティ対策を徹底することで、大規模な被害を未然に防ぐことが可能です。個人も組織も、日常生活の中で意識的に監視と対策を行うことが重要です。
