コトラ（広報チーム） 
リスクアセスメントの基本
リスクアセスメントとは何か
リスクアセスメントとは、職場における危険性や有害性を特定し、それによるリスクの見積もりを行い、必要な対策を立案・実行していくプロセスのことを指します。具体的には、事業場内で働く人々の安全と健康を守るために、リスクを明確にし、その優先度を判断したうえで効果的なリスク低減措置を講じる手順です。このプロセスによって、労働災害や健康被害の未然防止が可能となります。
リスクアセスメントが必要な理由
リスクアセスメントが必要な理由は、職場の安全性を確保し、労働災害リスクを軽減するためです。職場環境には、目に見えるものから見えにくいものまで多くの危険性や有害性が存在します。これらを放置しておくと、従業員の健康や安全が脅かされるだけでなく、場合によっては重大な事故につながる可能性もあります。また、リスクアセスメントを行うことで、危険性を効率的に管理し、事故やトラブルを未然に防ぐことができます。さらに、リスクアセスメントは労働安全衛生法に基づく責任の一部とされており、法令遵守の観点からも不可欠な取り組みと言えるでしょう。
関連する法規制と基準
リスクアセスメントに関連する主な法規制として、労働安全衛生法第28条の2が挙げられます。この条文では、事業者に対し、職場内の危険性や有害性について調査し、それに基づく適切な措置を講じる努力義務が課されています。また、特定の事業分野や作業内容に対しては、さらに詳細なガイドラインや基準が設けられています。例えば、厚生労働省が公表している「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」では、具体的な実施手順やリスク低減策について詳しく解説されています。このような基準や法規制に沿ったリスクアセスメントを実施することで、安全で健康的な職場環境を構築することが可能になります。
重点的に考慮すべきリスクの種類
リスクアセスメントのプロセスでは、特に重点的に考慮すべきリスクの種類があります。代表的なものとしては、物理的リスク、化学的リスク、作業姿勢や疲労からくる人間工学的リスク、そして心理的・社会的リスクが挙げられます。物理的リスクには、機械設備の使用や高所作業などが含まれる一方、化学的リスクは有害な化学物質への曝露による影響を示します。また、不適切な作業姿勢や手順が原因となる筋骨格系障害に関するリスクも無視することはできません。さらには、ストレスや職場内のコミュニケーション不足による心理的リスクも、近年では注目されています。これらのリスクをバランスよく考慮し、優先度を設定したうえで対策を講じることが重要です。
リスクアセスメントの具体的なプロセス
危険性・有害性の特定方法
リスクアセスメントにおいて最初に行うべきステップは、職場内に存在する全ての危険性や有害性を特定することです。これには、業務で使用する機械や化学物質、作業環境、作業手順など、徹底的に洗い出す作業が含まれます。厚生労働省の指針によれば、作業フローのどの段階で危険が潜んでいるかを労働者と共に詳細に調査することが推奨されています。
このプロセスを成功させるためには、現場を直接観察し、ヒヤリ・ハット事例や過去の労働災害データも有効に活用することが重要です。特に、化学物質使用時や高所作業などのリスクの高い工程では、細部まで確認する必要があります。
リスクの見積り手法
危険性や有害性を特定した後は、そのリスクを見積もる段階に進みます。リスクの見積りには、「発生する可能性」と「発生した場合の影響の深刻度」を評価する方法が一般的です。具体的には、リスクを定量化するためにマトリックスやスコアリングシステムが用いられます。
例えば、発生頻度を「低・中・高」で分類し、影響度を「小・中・大」と分けて、それぞれに点数をつけてリスクの優先度を判断する手法があります。これにより、特に対応が急がれるリスクを視覚的に把握できるようになります。このプロセスは、事業場における労働災害防止への初期対応として重要です。
優先度の設定と意思決定
リスクの見積り結果をもとに、対応すべきリスクの優先度を設定します。リスクアセスメントでは、安全確保の効率性を高めるために、リスクが高いものから順に対策を講じることが求められます。
優先度の設定にあたっては、法的な制約があるリスク（例：化学物質管理法に準拠した化学物質取り扱い条件）や、即座に労働者の安全に大きな影響を及ぼす可能性があるものを最優先とします。意思決定の際には、経営者と安全衛生管理者、さらには現場の労働者が協力し、実現可能な対策を講じることが重要です。
リスク低減措置の立案と実践
優先順位が明確になった後は、それぞれのリスクに対する低減措置を具体的に立案し、実行に移します。リスク低減措置としては、作業工程の変更や危険作業の自動化、より安全な機器や材料への変更などの本質的対策が推奨されます。それが難しい場合、インターロックの設置や保護柵の設置といった工学的対策、さらには教育訓練の強化や安全衛生マニュアルの見直しといった管理的対策を講じます。
また、個人用保護具（PPE）の導入も有効ですが、これは効果が限定的であるため最後の手段とされます。リスクアセスメントの最終的な成功には、これら低減措置の実践だけでなく、実施後の効果検証や記録管理も欠かせません。
職場でのリスクアセスメントの導入事例
建設業での活用事例
建設業では、労働災害のリスクを軽減するためにリスクアセスメントが広く活用されています。例えば、高所作業や重機の操作など、危険性が高い作業が頻繁に行われる現場では、リスクアセスメントを徹底することで事故や障害の発生を防止しています。具体的には、作業前に危険箇所や危険性を明確に共有し、必要な安全装置や保護具を適切に使用する取り組みが行われています。このようなプロセスを通じて、安全性を高めるだけでなく、現場作業員の危険意識の向上も促されています。
製造業における取り組み事例
製造業では、機械設備や化学物質を扱う環境が多いため、リスクアセスメントが重要な役割を果たします。例えば、プレス機械の操作に伴う手指の挟み込み事故を防ぐために、安全装置の設置や作業員への教育が実施されるケースがあります。また、化学物質については、事前に有害性を特定し安全データシート（SDS）を活用して適切な取り扱い方を徹底します。これらの取り組みにより製造業では、大幅な事故削減と生産効率向上が実現しています。
化学物質管理におけるリスクアセスメント
リスクアセスメントは、化学物質を扱う職場において欠かせない取り組みです。化学物質の取り扱いの際には、労働者が健康を害する可能性や爆発・火災の危険性を十分に考慮する必要があります。具体例としては、職場内で使用される化学物質のリスクを特定し、作業環境測定や空気中の濃度測定を行うことで、適正なリスク低減措置を実施しています。また、必要に応じて換気装置の導入や保護具の支給など、化学物質のリスク対策を徹底することで安全な作業環境を維持しています。
小規模事業所での成功例
小規模事業所では、予算や人員などの制約からリスクアセスメントの導入に課題を抱える場合があります。しかし、簡易的なチェックリストを活用することで、リスクを特定し、低減措置を講じる成功事例も増えています。例えば、従業員数十人程度の事業所において、高齢の従業員が多いことを考慮し、転倒防止措置や機械操作における安全教育を強化した例があります。このように、事業規模に合わせた柔軟なリスクアセスメントの実施により、小規模事業所でも大きな成果が得られています。
リスクアセスメントを成功させるポイント
組織内での意識改革の重要性
リスクアセスメントを成功に導くためには、まず組織全体での意識改革が必要です。多くの場合、リスクアセスメントは法令上の義務として行われるものですが、その本質的な目的は労働者の安全確保と作業環境の改善にあります。組織内全員が「リスク アセスメントの実施が職場の安全性を高める」という共通認識を持つことが重要です。そのためには、経営陣が率先してリスクアセスメントに取り組む姿勢を示し、従業員が積極的に参加する風土をつくる必要があります。具体的には、研修や説明会を開催し、労働者にリスクアセスメントの重要性を伝える活動が効果的です。
ツールやソフトウェアの活用
リスクアセスメントの効率化と精度向上には、専門のツールやソフトウェアの導入が役立ちます。手作業でリスクを洗い出したり評価したりするのは大変な作業ですが、専用のツールを利用することで、リスクの可視化や項目管理が容易になります。また、危険性・有害性の記録やリスクの見積もりを一元管理できるソフトウェアを活用することで、リスクの優先順位や低減措置の進捗管理がスムーズになります。これらの技術を適切に導入することで、リスクアセスメントが効果的かつ継続的に実施される体制を構築できます。
専門家やコンサルタントの活用
リスクアセスメントを本格的に実施する際、専門知識や経験が必要となる場面があります。このような場合、専門家や労働安全コンサルタントを活用することが有効です。外部の専門家は、事業場特有のリスクを的確に分析し、最適なリスク低減措置を提案することが可能です。また、法令や基準に関する最新の知識を有しているため、法的な側面からのアドバイスも得られます。特に、化学物質を取り扱う事業場や多岐にわたる作業内容がある職場では、こうした専門家の力を借りることで、効率的かつ高水準のリスクアセスメントが実現します。
継続的改善への取り組み
リスクアセスメントは一度実施すれば終了というものではありません。労働環境は常に変化しており、それに伴って新たなリスクが発生する可能性があります。そのため、リスクアセスメントのプロセスを定期的に見直し、改善を続けることが重要です。具体的には、一定の頻度で再評価を行い、職場の変化に応じたリスク低減措置を適用することが求められます。また、従業員からの意見や現場の声を反映させ、より実践的で効果的な取り組みを行うことが重要です。継続的な改善を通じて、職場の安全性をさらに高め、組織全体の生産性向上にもつなげることが可能です。
