コトラ（広報チーム） 
はじめに
アセットマネジメント業界とは
アセットマネジメント業界は、顧客から預かった資産（アセット）を専門知識に基づいて効率的に管理・運用し、その価値を最大化するサービスを提供する業界です。証券会社のように自己資金を運用するのではなく、顧客の資金を預かり、その代わりに運用を行います。主な業務としては、個人投資家向けの「投資信託」と、年金基金や金融機関などの「機関投資家」向けの「投資顧問」の二本柱があります。
この業界のビジネスモデルは「ストック型ビジネス」と呼ばれ、預かった資産の残高に応じて継続的に手数料（信託報酬）を得ることで成り立っています。そのため、顧客との長期的な信頼関係の構築と、安定した運用成績が非常に重要とされます。近年、政府の「資産運用立国」構想やNISAの拡充により、日本における「貯蓄から投資へ」の流れが加速し、アセットマネジメント業界への注目がますます高まっています。
本記事の目的と読者層
本記事は、アセットマネジメント業界の長期インターンに関心を持つ大学生・大学院生を主な読者層としています。特に、業界の具体的な仕事内容、インターンシップの役割や目的、そして選考を突破するための具体的な対策まで、幅広い情報を提供することで、皆さんのキャリア形成の一助となることを目指します。アセットマネジメント業界は専門性が高いと思われがちですが、本記事を通じてその実態を理解し、自身のキャリアの可能性を広げるきっかけにしてください。
アセットマネジメント業界インターンの基礎知識
インターンの役割と目的
アセットマネジメント業界のインターンシップは、学生が業界のビジネスモデル、業務内容、企業文化を深く理解するための重要な機会です。特に、現場での業務体験や社員との交流を通じて、書籍やウェブサイトだけでは得られない「生の情報」に触れることができます。
- 業界理解の深化
- 企業文化や社風の体感
- 自身の適性を見極める機会
インターンシップの形態によっては、企業が学生の能力や適性を見極める選考の一部としての役割も果たします。
募集形態と主なプログラム内容
アセットマネジメント会社のインターンシップは、短期のものから長期のものまで様々です。
- 短期インターンシップ（1日～数日）
- 業界や企業に関する講義
- グループワーク（例：新規ファンドの提案、運用戦略の立案）
- 社員との座談会
- オフィス見学
- 長期インターンシップ（数週間～数ヶ月）
- 実際の部署に配属され、社員の指導のもとで実務を体験
- 運用・調査・営業・ミドル/バックオフィスなど、特定の業務に深く関わる
プログラム内容は企業によって異なりますが、運用部門の業務体験、投信マーケティングのワーク、クオンツ業務に関する講義と実践、年金運用におけるロールプレイなどが挙げられます。報酬の有無や交通費補助は企業やプログラム内容によって異なります。
求められる人物像
アセットマネジメント業界のインターンシップで求められる人物像は、主に以下の点が挙げられます。
- 知的好奇心と学習意欲
- 金融市場や経済、企業に関する深い興味関心と、常に新しい知識を学び続ける意欲
- 論理的思考力と分析力
- 複雑な情報を整理し、課題を分析し、論理的な解決策を導き出す能力
- コミュニケーション能力と協調性
- 社員やチームメンバー、時には顧客と円滑な関係を築き、協働する能力
- 責任感と倫理観
- 顧客から預かった大切な資産を扱うという高い責任感と、公正・中立な職務執行を重んじる倫理観
特に理系学生は、数理モデルを用いた分析やデータサイエンスのスキルが、クオンツ業務などで高く評価される傾向にあります。
インターン仕事内容の全体像
アセットマネジメント会社の業務は多岐にわたり、大きく「運用系」「営業系」「ミドル・バック部門」に分けられます。インターンシップでは、これらの部門で実際の業務を体験する機会が提供されます。
運用・調査・分析業務を体験する
運用部門は、顧客から預かった資産を増やすための投資判断を行う中核的な部門です。
- ファンドマネジャー/ポートフォリオマネジャー
- 投資信託の最終的な投資判断を下し、ポートフォリオ全体を構築・管理する。インターンでは、その意思決定プロセスや業務のダイナミズムを間近で体験できることがあります。
- アナリスト
- 個別企業や特定の産業、市場を深く調査・分析し、投資判断の材料を提供する。インターンでは、企業の財務分析、経営陣への取材、サプライチェーン調査、投資レポート作成などの基礎を学ぶ機会があります。
- 特に理系学生は、調査・分析のプロセスにおいて研究で培った経験が活かせると言われています。
- エコノミスト/ストラテジスト
- マクロ経済や金融政策、市場の見通しを分析し、運用戦略の方向性を示す。
- クオンツアナリスト
- 高度な数学的・統計的手法を用いて市場や銘柄を分析し、数理モデルを開発する。Pythonなどを用いたモデル開発を体験するプログラムもあります。
営業・トレーディング関連の業務
顧客との接点を持ち、運用商品を広めるのが営業部門と、市場で実際に取引を行うトレーディング部門です。
- 投資信託営業
- 証券会社や銀行などの販売代理店に対し、自社ファンドの販売を促進するための情報提供やセミナー開催、販売資料作成などを支援します。個人投資家と直接対話する機会は少ないですが、間接的に「人を支える」やりがいを感じられます。
- 機関投資家営業
- 年金基金や金融機関といった大口顧客に対し、運用ニーズに合わせたソリューションを提案し、運用報告などを行います。
- トレーダー
- ファンドマネジャーの指示に基づき、市場で株式や債券などの売買注文を執行します。市場への影響を最小限に抑えつつ、最良の価格で取引を完了させる高度なスキルが求められます。
現場体験や課題取組みの流れ
インターンシップでは、実際の現場で社員と共に業務に取り組むケースが多く見られます。
- 社員の働く現場への同席
- 実際のミーティングへの参加や、社員の業務を間近で見ることで、仕事のリアルを肌で感じます。
- 与えられた課題への取り組み
- パフォーマンス分析、新規ファンドの提案、特定のテーマに基づいた投資戦略の立案など、実践的な課題に取り組みます。
- 社員からのフィードバック
- 課題への取り組みに対して、社員から具体的なアドバイスや評価を受けることで、自身の強みや改善点を発見し、成長につなげます。
- プレゼンテーション
- インターンシップの成果を最終日に発表する機会が設けられることが多く、論理的な思考力や表現力が試されます。
インターン選考の流れと対策
アセットマネジメント業界の長期インターンシップ選考は、一般的にエントリーシート（ES）、Webテスト、面接で構成されます。早期選考に直結する重要なステップとなるため、入念な準備が必要です。
エントリーシート（ES）・自己分析の重要性
ESは、皆さんの「アセットマネジメント業界への関心」「なぜその会社・コースを志望するのか」「これまでの経験で培った強み」を企業に伝える最初の機会です。
- 自己分析
- 自身の強み、弱み、価値観、キャリアの軸を明確にしましょう。特に「向上心」「洞察力」「固い信念」といった、アセットマネジメント業界で求められる資質と合致するエピソードを見つけることが重要です。
- 業界・企業研究
- アセットマネジメント業界のビジネスモデル、各社の強みや企業理念、インターンで募集されるコースの具体的な業務内容を深く理解しましょう。
- 志望理由の明確化
- 「なぜアセットマネジメント業界なのか」「なぜこの会社なのか」「なぜこのコースなのか」を具体的に、かつ自身の経験と結びつけて語れるように準備します。例えば、「社会貢献性」や「高収入が期待できるキャリアパス」、「金融や資産運用に関する専門性」といった業界の魅力と自身の興味関心を一致させましょう。
面接でのよくある質問と回答例
面接では、ESの内容を深掘りされるほか、業界や企業への理解度、論理的思考力、コミュニケーション能力が評価されます。
- 質問例
- 「資産運用業界、および当社に興味を持った理由を教えてください」
- 「学生時代に最も力を入れたことを教えてください」
- 「研究内容を分かりやすく説明してください」
- 「このインターンシップを志望する理由を教えてください」
- 「アセットマネジメント業界でやってみたいことは何ですか」
- 「当社の事業についてどう思いますか」
- 「逆質問はありますか」
- 回答のポイント
- 自分の言葉で具体的に、論理的に説明する練習を重ねましょう。
- 特に「なぜ」を深掘りされることを想定し、あらゆる質問に対して一貫性のあるストーリーを構築することが重要です。
- 逆質問の時間は、企業への関心の高さを示すチャンスです。事前に具体的な質問を複数用意しておきましょう。
インターン選考通過のためのポイント
- 情報収集への敏感さ
- 採用活動は「ひっそり」と行われることが多いため、企業のウェブサイトや就職情報サイトで常に最新の情報をチェックしましょう。
- 早期の対策開始
- インターンシップの選考は本選考の早い段階で行われるため、早めに業界研究や自己分析を開始し、準備を進めましょう。
- OB/OG訪問
- 実際に社員から話を聞くことで、企業のリアルな文化や仕事内容、求められる人物像を深く理解できます。これは志望動機を具体化し、面接で説得力を持たせる上で非常に有効です。
- Webテスト対策
- 玉手箱などのWebテストが課されることが多いため、市販の対策本やオンラインの模擬テストで形式に慣れておきましょう。
参加者体験談とフィードバック
インターンシップへの参加は、学生にとって貴重な経験となります。ここでは、参加者がどのような課題に取り組み、どのようなスキルを得て、キャリア意識に変化があったのかを紹介します。
印象に残る課題やプログラム
- 実践的なグループワーク
- 「機械学習によりリターンの期待値が高い銘柄を選択し、そのモデルの性能を評価せよ」といったクオンツ業務の実践や、「AIを用いた新規ファンドの提案」など、最先端の技術を活用した課題に取り組む機会があります。
- 運用部門業務体験
- 実際の執務室で割り振られた部署の話を聞き、座談会に参加するなど、現場の雰囲気を肌で感じるプログラムが好評です。
- 投信マーケティング/営業体験
- 「投資信託を広めるためのYoutube企画案」の立案や、証券販売員向けの資料作成を通して、顧客ニーズを捉えた商品提案の難しさや面白さを体験できます。
得られたスキルと成長実感
インターンシップを通じて、多くの参加者が以下のようなスキルを習得し、成長を実感しています。
- 金融知識と市場理解
- 資産運用業界のビジネスモデル、運用の種類（アクティブ/パッシブ/クオンツ）、アセットクラス（伝統資産/オルタナティブ資産）など、専門的な知識を深められます。
- 分析力と課題解決能力
- 経済指標や市場動向を分析し、課題に対して論理的な解決策を導き出す力が養われます。
- プレゼンテーション能力
- チームでの議論や個人ワークの成果をまとめて発表する機会を通じて、分かりやすく伝える力が向上します。
- プロフェッショナル意識
- 巨額の資金を動かす責任感や、顧客の利益を最優先する受託者責任の重要性を学び、プロとしての意識が芽生えます。
参加後のキャリア意識の変化
インターンシップは、自身のキャリアに対する意識を変えるきっかけにもなります。
- 業界への志望度向上/再確認
- 実際の業務を経験することで、漠然とした興味が具体的な志望へと変わったり、あるいは自身の適性を再認識したりする機会となります。
- 「研究より実運用を意識したモデル開発に携わりたい」といった、より具体的なキャリアビジョンが見えてくることもあります。
- 志望部署の変化
- 運用、営業、ミドル/バックオフィスなど、様々な部門の業務に触れることで、当初考えていた部署とは異なる分野に興味を持つこともあります。
- ワークライフバランスへの理解
- 「高給だが激務」というイメージが強い金融業界ですが、アセットマネジメント業界では比較的ワークライフバランスが取りやすい企業も多いことを実感し、キャリア選択の新たな視点を得ることもあります。
インターン参加が本選考に与える影響
アセットマネジメント業界のインターンシップは、本選考において有利に働くことが多く、内定への重要なステップとなり得ます。
本選考への優遇や早期選考の有無
多くの企業では、インターンシップ参加者に対して何らかの優遇措置を設けています。
- 早期選考への招待
- インターンシップで高い評価を得た学生は、一般の選考よりも早く本選考に進むことができる場合があります。
- 一部選考の免除
- ESやWebテスト、一次面接などが免除されるケースもあります。
- リクルーター面談・座談会への招待
- 社員と非公式な形で交流する機会が与えられ、企業理解を深めることができます。
- 志望度の高さのアピール
- インターンシップへの参加自体が、企業への高い志望度と熱意を示すものとして評価されます。
ただし、インターンの評価が本選考に直結するかどうかは企業やプログラムによって異なるため、事前に情報収集を行いましょう。外資系のアセットマネジメント部門では、インターンシップを通しての採用がほとんどであるとされています。
インターン経験が就職活動にどう生かされるか
インターンシップでの経験は、本選考だけでなく、その後の就職活動全般において大きなアドバンテージとなります。
- 具体的なエピソードの獲得
- インターンでの経験は、ESや面接で語る「学生時代に頑張ったこと」や「志望動機」の説得力を増す具体的なエピソードとなります。
- 業界・企業への深い理解
- 企業研究だけでは得られないリアルな情報を知ることで、面接での質問にも自信を持って答えられるようになります。
- 自身の適性の明確化
- 実際に業務を経験することで、アセットマネジメント業界が自身に合っているか、どの職種に進みたいかといった自己分析が深まります。
- OB/OG訪問の機会拡大
- インターンを通じて知り合った社員とのコネクションが、その後のOB/OG訪問につながることもあります。
インターン生活のリアル：条件・働き方・環境
アセットマネジメント業界の長期インターンは、学生生活と両立しながら、実践的な経験を積むことができます。
勤務期間・シフト・報酬・リモート可否
- 勤務期間
- 数週間から数ヶ月、あるいは半年以上にわたる長期インターンシップがあります。
- シフトの柔軟さ
- 週数日、あるいは特定の曜日や時間帯に集中するなど、学業との両立を考慮した柔軟なシフトが組める企業が多いです。
- 報酬の有無
- 多くの長期インターンでは、報酬が支給される傾向にあります。時給制や日給制など、企業によって異なります。
- リモートワークの可否
- 近年では、一部または全ての業務をリモートで行えるインターンシップも増えています。ただし、実際の執務室で働くことで得られる経験も大きいため、事前に確認が必要です。
- 勤務地域
- 多くの企業が東京本社を拠点としていますが、海外拠点でのインターンの可能性もあります。
業務環境と働きやすさ
アセットマネジメント業界は、「ホワイト高給」と言われることもあり、一般的にワークライフバランスが良好な傾向にあります。
- オフィスの立地と雰囲気
- 丸の内や六本木など都心にオフィスを構える企業が多く、オフィス環境も整っている場合が多いです。
- 社風は比較的穏やかで、実力主義一辺倒ではなく、年功序列の傾向が強い企業も見られます。
- 残業の少なさ
- 繁忙期を除けば残業は少なめで、定時帰宅が可能な場合も多いです。
- 福利厚生
- 住宅補助や財形貯蓄制度など、充実した福利厚生が提供される企業もあります。
ただし、運用フロントのファンドマネジャーやトレーダーは、巨額の資金を動かす精神的なプレッシャーが大きいと感じる参加者もいます。
まとめと今後のアクション
アセットマネジメント業界の長期インターンは、その専門性の高さと社会貢献性、そしてキャリアパスの多様性から、多くの学生にとって魅力的な選択肢です。この経験を最大限に活かすためには、事前の準備と積極的な姿勢が不可欠です。
業界理解を深めるための次のステップ
- 公式ウェブサイトや採用情報の確認
- 各アセットマネジメント会社の公式ウェブサイトで、最新のインターンシップ情報や採用情報を確認しましょう。
- 業界ニュースのチェック
- 日経新聞や経済ニュースなどを日常的にチェックし、金融市場や運用業界の動向にアンテナを張りましょう。
- 関連書籍や勉強会の活用
- 資産運用に関する基礎知識を学ぶための書籍を読んだり、学生団体やオンライン講座が主催する勉強会に参加したりするのも有効です。
- 「製販分離」の理解
- 運用会社が「金融商品を製造するメーカー」、銀行や証券会社が「販売する小売店」という日本の金融市場の構造を理解することで、業務内容への理解が深まります。
インターンシップ活用のコツ
- 積極的に質問する
- インターンシップ中は、社員の方に積極的に質問し、疑問点を解消しましょう。主体的な姿勢は、企業への関心の高さを示すことにつながります。
- 社員との交流を深める
- 座談会や懇親会などの機会を最大限に活用し、社員の人柄や働き方、キャリアパスについて話を聞きましょう。
- フィードバックを真摯に受け止める
- 課題へのフィードバックは、自身の成長のための貴重な機会です。真摯に受け止め、今後の学習や就職活動に活かしましょう。
- 自身の適性を客観的に評価する
- インターンシップを通して、アセットマネジメント業界の仕事が本当に自身に合っているか、どのような分野で強みを発揮できそうかを客観的に評価しましょう。
アセットマネジメント業界は、高い専門性と知的好奇心が求められるやりがいのある分野です。長期インターンシップを通じて、この魅力的な業界への一歩を踏み出してください。
