女性役員比率が紡ぐ未来―変わる企業と変わらない課題

女性役員比率の現状と推移

2020年代における女性役員比率の増加傾向

2020年代に入ってから、日本の企業における女性取締役や役員の比率は着実な増加傾向を見せています。2012年から2022年までの10年間で上場企業における女性役員数は5.8倍に増加しており、特に2023年には東証プライム市場上場企業の女性役員比率が16.1%に達しました。この背景には女性活躍推進法や社会全体でのジェンダーバランス向上への意識の高まりが挙げられます。さらに、政府の目標として2025年までに女性役員比率を19%、2030年には30%を目指すといった具体的な数値設定も、この増加を後押ししている要因の一つです。

日本と諸外国の女性役員比率の比較

しかしながら、日本の女性役員比率は依然として国際的に見ると低水準に留まっています。たとえば北欧諸国では企業における女性役員比率が既に40%を超える国も多く、EU全体でも30%以上を達成している国が存在します。一方、日本では2023年時点で16.1%に留まっており、この差は依然として大きい状況です。女性取締役の増加が重要な経済成長の鍵とされる中、諸外国に追いつくための改革が急務とされています。

過去10年の変化と上場企業での取り組み

過去10年の間に、日本企業は女性役員登用に関して数々の取り組みを進めてきました。特に東証プライム市場における女性役員の比率は10年で大幅に増加しており、2023年時点での女性役員を持たない企業の数はわずか69社に減少しました。その一方で、上場企業内での女性役員登用の内訳を見ると、社内昇格による女性役員はわずか3.4%に過ぎず、多くが弁護士や公認会計士といった社外からの登用に依存している現状があります。このため、企業内部でのキャリア形成の支援や昇進の機会を増やすことが、今後課題となるでしょう。

東証プライム市場の女性役員比率と現状

2023年4月時点の調査によると、東証プライム市場上場企業の総役員数20,341人のうち、女性役員は2,760人であり、その比率は13.6%となっています。この中で、社内の役員として活躍している女性はわずか303人(11.0%)にとどまり、社外の役員を中心に進展が見られる状況です。また、138社では女性役員比率30%以上を達成しており、ジェンダーバランスにおける先進事例も増えてきています。一方で、一部の企業ではまだ数値目標が達成されていない現状が見られ、引き続き業態ごとの支援策や啓発が求められています。

転職のご相談(無料)はこちら>

女性役員比率向上の背景と要因

政府目標と新たなガバナンス指針

女性役員比率の向上に向けて、日本政府は明確な目標を設定し、企業に対して取り組みを推進しています。2023年5月には、東証プライム市場上場企業において2025年までに最低1人の女性役員を登用する目標を発表しました。また、2030年までに女性役員比率を30%以上にするという長期的な目標を掲げています。こうした政策の背景には、女性取締役の比率を高めることで、企業のガバナンス向上や社会全体のジェンダーギャップ解消を目指す意図があります。

さらに、2023年10月からは取引所規則に女性役員登用に関する規定が盛り込まれました。「女性版骨太の方針2023」に基づく具体的な指針として、企業には女性役員比率向上のためのプロセスや目標達成を促す環境が整備されつつあります。

多様性推進のニーズと機関投資家の圧力

女性役員比率向上のもう一つの大きな要因は、市場や投資家による多様性推進への強いニーズです。特に機関投資家は、女性役員比率を投資判断の重要な指標としています。この背景には、多様性に富む経営陣が企業価値を高め、長期的成長に繋がるという認識が広がっていることがあります。

2023年のデータによると、プライム市場上場企業全体で女性役員比率は16.1%に達しており、前年から2.8ポイント増加しました。こうした上昇傾向においては、投資家からの圧力が強い影響を与えていると考えられます。また、女性役員比率が高い企業はROEやPBRが高い業績傾向を示しており、経済的なメリットが具体的に裏付けられていることも企業の取り組みを後押ししています。

企業文化と社内基盤の変化

女性役員比率を高めるためには、企業文化の改革と社内基盤の整備が重要であることも挙げられます。特に、日本の企業文化では長らく男性中心の管理職構造が根強く、女性取締役の数や社内から役員に昇進する女性の比率が低い状況が課題とされてきました。

最近の動向では、経団連や上場企業が女性役員比率の年次調査を実施するなど、女性登用の現状把握と改善に向けた取り組みが加速しています。2023年のデータによると、プライム市場における女性役員のうち、社内役員は11.0%と低い一方で、弁護士や公認会計士などの社外取締役が女性役員の33.1%を占めています。このことから、社外の専門性を活用した登用が進む一方で、社内からの役員昇格における課題解決が求められていることが分かります。

転職のご相談(無料)はこちら>

女性役員登用の課題と障壁

社内昇格の低調とキャリア形成の壁

日本における女性役員比率が年々増加しているものの、依然として課題は山積しています。その中でも社内昇格の低調さが大きな障壁となっています。現状、プライム市場上場企業における社内から登用される女性役員比率はわずか3.4%に留まっています。この数値は、女性が社内で役員に昇格するための環境が十分に整備されていないことを示唆しています。

また、多くの企業では女性従業員がキャリアアップを目指す中で、育児・介護などのライフイベントがキャリア形成に影響する傾向が見られます。柔軟な働き方や支援制度が不足していることで、女性が役員レベルに昇格するまでの道筋が狭められているのが現状です。これを解消するため、より先進的な雇用制度改革や多様性を重視したキャリアパス設計の導入が求められています。

男性役員との賃金格差と職務経験の差異

女性取締役比率の向上には、男女間の賃金格差や職務経験の差異の解消が不可欠です。現在、多くの企業において男女間の賃金格差が依然として存在しており、これが女性役員の育成や登用の障壁となっています。男性役員に比べて女性が高い役職に就く機会が少ないため、結果的に職務経験の差が拡大し、女性がリーダーシップを発揮するためのステップアップが阻まれています。

さらに、経団連の調査によれば、女性の多くが現場業務に従事している一方で、経営層に必要とされるマネジメントや戦略立案の経験を積むチャンスが限られています。これにより、役員候補として推薦される女性人材が不足しているという指摘もあります。この現状を改善するためには、昇進基準の透明化や公平性の確保が必要です。

人材育成・教育プログラムの改善点

女性役員登用を推進するためには、人材育成や教育プログラムの抜本的な改善が求められます。現在、多くの企業が女性のキャリア形成をサポートするプログラムを導入していますが、その効果が限定的であるケースも少なくありません。女性の役員候補を増やすためには、経営知識やリーダーシップスキルの向上を目的とした実践的な研修が不可欠です。

さらに、メンター制度の活用や女性社員同士のネットワーク形成も女性役員比率向上に寄与すると考えられます。一方で、プライム市場上場企業の取り組みにはばらつきがあり、全体の底上げを図るには政府や業界団体の指導と支援が重要です。また、女性役員比率と企業価値の正の相関が注目されていることから、人材育成を経営課題の一環として捉える姿勢が企業全体に浸透することが求められます。

転職のご相談(無料)はこちら>

女性役員がもたらす未来と課題解決への道筋

ジェンダーバランス達成による企業価値の向上

女性役員の登用が増加し、ジェンダーバランスが達成されることは、企業価値の向上に大きく寄与するとされています。特に、女性役員比率が高い企業は、ROE(自己資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)といった経営指標が高い傾向にあるというデータがあります。これは、多様性のある意思決定が市場での競争力を向上させる影響を示唆しています。また、女性役員の視点が経営戦略や商品開発に活かされることで、新たなイノベーションが生み出される可能性も高まります。ジェンダーバランスを推進する企業は、経済成長をけん引する存在となり得るのです。

ダイバーシティ経営が社会に与える影響

ダイバーシティ経営の推進は、社会全体に多大な影響を与える重要な取り組みです。異なる視点と経験を持つ人材が意思決定に関わることで、顧客ニーズへの対応力が向上し、より多角的なサービスやプロダクトを提供できるようになります。さらに、女性取締役を含む役員層の多様性は、企業の社会的信用やブランドイメージを強化し、投資家やステークホルダーからの支持を獲得する一助となります。結果として、企業がダイバーシティを実践することで、より公平で包摂的な社会の形成が促進されます。

持続可能な社会を実現するための目標設定

持続可能な社会を目指す上で、女性役員比率の向上は重要な目標と言えます。日本政府は「女性版骨太の方針2023」において、2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率を30%以上にする目標を掲げており、これにより性別による格差が是正され、社会の公平性が高まることが期待されています。さらに、企業レベルでの目標設定や取り組みがSDGs(持続可能な開発目標)への貢献にもつながります。これにより、日本全体としての持続可能性が強化され、経済成長と社会福祉の両立が目指されるでしょう。政府や企業が協働し、長期的な視点で目標を実現することが、未来の明るい社会の基盤を築く鍵となります。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

金融、コンサルのハイクラス層、経営幹部・エグゼクティブ転職支援のコトラ。簡単無料登録で、各業界を熟知したキャリアコンサルタントが非公開求人など多数のハイクラス求人からあなたの最新のポジションを紹介します。