女性役員の存在が企業価値を高める?コーポレートガバナンスに見る現状

女性役員登用の現状とその背景

日本における女性役員比率の推移

日本における女性役員比率は、近年ようやく上昇傾向を見せています。しかし、依然として世界と比べて低い水準にとどまっています。2022年時点で、東証プライム上場企業の中で約18.7%が女性役員不在の状況にあり、女性役員比率が3割以上を占める企業はわずか2%未満という厳しい実情も浮き彫りになっています。これまで女性役員の登用は緩やかなペースで進んできたものの、「女性活躍・男女共同参画の重点方針」やコーポレートガバナンス・コード改訂により、その重要性が強調され、さらなる加速が期待されています。

諸外国の女性取締役登用状況との比較

日本の女性役員比率は諸外国と比べて大きく遅れを取っています。例えば、欧州諸国では近年ジェンダー平等を推進するために法規制が強化され、フランスやノルウェーでは取締役会における女性比率がすでに40%以上に達しています。一方、アメリカでも機関投資家がジェンダー多様性を経営の重要な要素と捉え、企業に女性取締役の登用を求める動きが進んでいます。日本はこれらのグローバルなトレンドに対応する余地が多く残されており、国際競争力の観点からも一層の取り組みが求められます。

コーポレートガバナンス・コードの改訂と女性役員の重要性

コーポレートガバナンス・コードの改訂により、取締役会におけるメンバーの多様性確保が求められるようになりました。この中で特に注目されているのが、女性役員の登用です。多様性は企業の持続可能な成長や経営の透明性向上に寄与するとされ、女性役員の存在はガバナンスの健全性向上に直結します。また、国際的な投資家からの信頼を得るためにも、取締役会のジェンダー多様性はますます重要視されています。2024年のガバナンスコードの更なる改訂では、女性比率を具体的な目標として示すことが計画されており、企業の対応が鍵となります。

政府と市場の取り組み:女性比率目標の設定

政府は「女性版骨太の方針」において、女性役員比率を2030年までに30%以上に引き上げるという明確な目標を設定しました。また、2025年までにプライム市場上場企業すべてが最低1名の女性役員を選任することを求めています。このような政府の方針は、企業に対する明確なメッセージであり、施策を通じて市場全体で女性役員の登用を加速させることが狙いです。同時に、機関投資家も女性役員の不在に対して厳しい立場をとるようになっており、こうした市場のプレッシャーも企業の意思決定に影響を与えています。これらの取り組みは、企業の中長期的な競争力向上にも寄与することが期待されています。

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女性役員が企業価値に与える影響

多様性の確保が経営のパフォーマンスに与える効果

取締役会における多様性の確保は、企業の経営力やパフォーマンスを向上させる鍵とされています。特に女性役員が存在することで、異なる視点や価値観を経営に取り入れることが可能となり、意思決定の質が向上します。これは、複雑化する市場環境において、柔軟かつ革新的な戦略を立てるうえで大きな強みになります。また、コーポレートガバナンス・コードも取締役会の多様性を求める方向性を示しており、女性取締役の選任がその指針に沿った取り組みと位置付けられています。一方で、取締役会の性別バランスが良好な企業ほど、収益性や生産性が高いとの研究結果もあり、多様性が企業価値向上を直接的に支えている現状が伺えます。

投資家視点から見た女性役員登用の評価

近年、多様性を重視する投資家からの視線が厳しくなりつつあります。特に、女性役員がいない企業に対しては、企業統治の観点からマイナス評価を受けるケースも増加しています。その一例が米議決権行使助言会社ISSによる日本企業への批判で、女性取締役が存在しない場合、経営トップの選任議案への反対を推奨する動きが出ています。多様性はガバナンス強化や持続可能な成長を示す指標と考えられており、投資家はこうした要素を重視する傾向を強めています。このような状況に対し、企業側もプライム市場のガバナンスコードに沿い、女性取締役の選任状況を積極的に見直す動きが進んでいます。

実例から見る女性役員導入による成果

女性役員を導入した企業が成果を上げた例も少なくありません。例えば、多国籍企業を含めて女性役員比率を高めた企業では、市場からの評価や株価が上昇したとする報告があります。また、日本国内でも、ある大手メーカーが社外取締役として女性を起用した結果、取締役会における議論の活性化や、新規事業におけるリスク管理能力の向上が見られたとされています。これらは、女性登用が単なるガバナンス対応の一環ではなく、企業価値の実質的な向上に寄与していることを示しています。こうした事例は、女性役員導入の必要性とその重要性をさらに裏付けるものと言えるでしょう。

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女性役員比率拡大への課題と懸念

特定の人物への兼任依存問題

日本の女性役員比率を拡大する中で、しばしば問題視されるのが特定の人物への兼任依存です。一部の有能な女性が複数の企業で取締役や監査役を兼任するケースが増加しており、これは女性活躍の象徴とも言える一方で課題も伴います。兼任が多い場合、一人の役員が十分な時間とエネルギーを各企業に割くことが難しくなり、ガバナンスの質を低下させるリスクがあります。

背景には、適任となる女性人材が未だに限られている状況や、企業が社外取締役として女性を選任することでガバナンスコードの基準を満たそうとする傾向があるためです。この問題を解決するには、企業ごとに多様な候補者を発掘し、人材プールを拡充することが重要です。それに伴い、企業が教育・研修プログラムを提供するなど、女性リーダーを育成する仕組みの整備が求められます。

質の確保と人数拡大のバランス問題

質の確保と人数拡大のバランス問題は、女性役員比率を向上させる上で大きな課題です。ガバナンスコードに基づき、企業に求められる役員の多様性は単なる数の問題ではなく、役割を適正に遂行できる質が伴わなければ意味をなしません。しかし、急激に女性役員比率を拡大する風潮の中で、時に「数合わせ」として選任される女性役員がいることも否定できません。

このような課題を解消するには、企業が役員の選任基準を厳格に設定し、多様性とスキルの両立を実現する必要があります。また、役員候補となる女性に対して経営スキルや判断力を高めるサポートを行い、単なる数の充足ではなく、真のガバナンス向上に繋がる施策を推進することが求められます。

企業規模による違いと対応策の差異

日本企業における女性役員比率拡大に向けては、企業規模による対応策の違いが顕著です。大企業では、コーポレートガバナンス・コードの適用範囲が広く、さらに機関投資家からの圧力も強まっているため、女性取締役の導入が比較的進んでいます。一方で、中小企業では経営資源が限られ、女性役員の登用に抵抗感や困難が伴いやすいのが現状です。

そのため、中小企業が直面する課題を緩和するための支援策が必要です。具体的には、政府や業界団体による財政的・教育的な支援、例えば女性役員候補者育成プログラムの拡充や、役員選任に関する助言機関の活用が効果的です。また、大企業の成功例をモデルケースとし、中小企業にも参考となるようなガイドラインを提示することが、全体的な企業価値向上に寄与すると考えられます。

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コーポレートガバナンス向上への今後の方向性

企業が果たすべき責任と透明性の確保

企業が持続的な成長を遂げるためには、透明性の高いコーポレートガバナンスが求められます。特に、女性取締役の登用は取締役会の構成に多様性をもたらし、意思決定プロセスの質を向上させる重要な要素です。ガバナンスコードに基づき、取締役会の多様性を確保することは、企業が果たすべき社会的責任の一環でもあります。また、ステークホルダーに対して性別平等や多様性推進への取り組みを明確に示すことで、信用力向上や投資家からの支持を得られるでしょう。一方、中長期的な視点を持ち、単なる形式的な対応ではなく実効性のある施策を講じる必要があります。

規制強化と企業自発的改善の動向

近年、政府や市場からの規制強化の動きが進んでいます。例えば、2025年までに女性役員を最低1名選任することが東京証券取引所のプライム市場上場企業に求められています。また、2030年までに女性役員比率を30%以上に引き上げる数値目標も設定されており、一部の企業は対応を開始しています。一方で、規制に頼るだけでなく、企業自らが多様性を経営戦略の重要要素として位置づけ、自主的に改善する動きも必要です。特にグローバルな競争の中では、女性取締役を含む多様な経営層の存在が、企業の競争力向上に寄与するとの認識が高まっています。このような流れは世界的にも強まっており、日本企業も他国に遅れを取らないよう迅速な対応が求められています。

ジェンダー平等を促進するための具体的な提案

ジェンダー平等を促進するためには、具体的な取り組みと目標設定が不可欠です。まず、企業は社内研修やメンター制度を活用し、女性職員が管理職や役員のポジションに進むための道筋を整備することが重要です。また、採用時から多様性を意識し、女性の登用率を中長期的に向上させる仕組みを構築する必要があります。さらに、外部から女性取締役を積極的に招へいすることで、社外の視点を取り入れつつ、全体の多様性を向上させることも有効です。

また、政府や市場も積極的に指導と支援を進めるべきです。アジア・コーポレートガバナンス協会が提案したように、取締役会が男性のみで構成される場合の上場制限や、具体的な女性取締役比率目標の義務化など、より強力な措置を検討することも考えられます。このように、企業、政府、社会全体が一体となり取り組むことで、真のジェンダー平等が実現するでしょう。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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