コトラ（広報チーム） 
1. 農協における女性役員の現状
女性役員比率の推移と現状
農協における女性役員の比率は年々向上していますが、依然として課題が残っています。令和6年度の調査では、全国の農協（JA）における女性役員比率は10.6％と前年比で+0.9ポイント改善しました。しかし、政府が掲げる「女性役員比率15％以上」という目標を達成したJAは537JA中117JA（21.8％）にとどまっています。
この背景には全国的な女性参画推進の動きがあり、1999年に施行された「男女共同参画社会基本法」以降、女性の経済的・社会的地位向上を目指した取り組みが進められています。また、2021年のJA全国大会では、女性の正組合員、総代、役員の比率を具体的数値で改善する目標が掲げられました。しかし、この目標達成には農協ごとの具体的な方針や取り組みが不可欠とされています。
女性が役員になるためのハードルと挑戦
女性が農協で役員として活躍するためには、依然として多くのハードルが存在します。一つは、長年の男性中心の組織文化です。農業分野では依然として伝統的な役割分担が根強く、女性が意思決定を担う役職に就く機会が限られがちです。
さらに、多くの女性は家庭や地域活動の中で多くの責任を担っているため、役員職に挑戦する時間や余裕が不足していることも現実です。しかし、各地のJAでは役員としての女性参画を促進する機会を増やすため、研修会やリーダーシップを育成するプログラムを実施し、女性がそのハードルを越えるための支援を行っています。
男性役員との役割分離はどう進んでいるのか？
農協内の役員構成は、過去に比べると男女の役割分離が少しずつ解消されつつあります。これまでは男性が戦略的な意思決定を担い、女性は主に地域活動やイベント企画といった補助的な役割が多く割り当てられる傾向が強かったと言われています。しかし、近年では女性役員が経営戦略や政策立案などの重要な分野でも積極的に参画する例が増えています。
この変化の背景には、男女共同参画の推進や、女性ならではの視点が地域活動やJAの発展に寄与する事例が増加したことがあります。男性役員の意識改革も進みつつあり、女性役員が安心して活躍できる環境が少しずつ整備されています。
地域別の女性役員登用の実態と差
地域ごとに女性役員の登用状況には大きな差があります。都市圏に近い農協ほど女性役員比率が高い傾向にありますが、農村部や小規模農協では女性役員比率が低い状況が続いています。たとえば、千葉県ではJAなのはな組合長の谷井悦子さんのような先進的事例がある一方で、全国的には女性組合長がまだ3名しかいないというのが現実です。
地域差の一因として、女性の社会進出や教育環境の格差、さらには地域ごとの慣習や価値観が挙げられます。これらの課題を克服するためには、女性の参画を後押しする具体的な制度や、地域ごとのニーズに合わせた柔軟な取り組みが求められています。
2. 女性が活躍する農協：成功事例
女性リーダー主導の農業プロジェクト事例
農協における女性リーダーの活躍は、農業分野の新たな可能性を引き出しています。たとえば、女性役員が中心となって立ち上げた6次産業化プロジェクトでは、農産物を活用した加工品開発や販売促進が成功し、地域経済を大きく支えています。特に、地元の特産品を商品化した事例では、JA女性部が主体となり、生産者や消費者を結びつける新しい流通モデルを確立しました。このような活動は、農協に女性役員がいることで生まれる柔軟な視点や多様性を象徴しています。
女性役員が推進した地域活性化活動
地域活性化においても農協の女性役員が大きな役割を果たしています。例えば、高齢者を対象にした食農教育や、過疎地域での交流イベントの推進など、女性ならではの気づきやアイデアが活かされている事例があります。特に、千葉県の事例では、女性役員が地域ブランドの確立を支援し、地元住民の雇用や所得向上に貢献しています。これらの活動は、農業と地域社会を結びつけるモデルとして全国で注目を集めています。
JA女性組織による連携と成果
JA全国女性組織協議会をはじめとするJA女性組織の連携は、女性の社会的地位向上に大きく寄与しています。これらの組織は、食農教育活動や環境保全活動、高齢者福祉活動など、多岐にわたる分野で成果を上げています。たとえば、42万人規模の協働を活かした全国的な農業関連イベントの開催や、女性視点での政策提言が実現されています。こうした活動が持つ社会的影響力は、農協全体の発展にも寄与しています。
農村における女性リーダーの影響力
農村で活躍する女性リーダーの存在は、地域全体の発展に欠かせません。女性リーダーは、地域住民との細やかなコミュニケーションや柔軟な問題解決力を発揮し、信頼と協力関係を築いています。特に、谷井悦子さん（JAなのはな組合長）のような取り組みは象徴的で、組合の効率的な運営とともに若手女性の登用を促進するリーダーシップを発揮しています。このような女性リーダーの影響力は、これからの農協の未来を切り開く源となっています。
3. 女性が輝ける環境の整備
女性登用を後押しする制度や取り組み
農協では、女性役員の参画を後押しするためにさまざまな制度や取り組みが進められています。特に「男女共同参画社会基本法」が制定されて以降、JA全体で女性の社会的・経済的地位の向上に向けた活動が本格化しました。また、2021年のJA全国大会では「正組合員比率30％以上」「総代比率15％以上」「役員比率15％以上」を主要目標として掲げ、女性役員の増加を目指す計画が策定されています。こうした仕組みは、女性が農協の運営に積極的に関与するための道筋をつくり、次世代に向けた重要な基盤となっています。
働きやすさの追求：柔軟な業務体制の導入
女性が農協内で活躍しやすくするためには、柔軟な業務体制の導入が欠かせません。近年、多くの農協が育児や介護、家事など多忙な日常を抱える女性の立場に寄り添った働き方改革を進めています。リモート会議や時短勤務などの施策もその一環と言えます。さらに、役員会や会議の時間帯を見直すことで、女性が参画しやすい環境を整備する取り組みも進められており、実際にこれらの改革が女性役員比率の向上に寄与しています。
女性の農業知識やリーダーシップを育む教育
女性の役員登用を促進するためには、リーダーシップや農業に関する専門知識の向上が不可欠です。JA女性部や女性組合が主催する研修プログラムは、農業経営や組織運営に関する知識を深める絶好の機会を提供しています。また、地域活性化プロジェクトを通じて実践的なスキルを磨く女性も増加中です。これらの教育活動によって、女性が自信を持って役員やリーダーとしての役割を果たす力を身に付けています。
男性社員の意識改革と共働する文化
女性が輝ける環境を整える上で、男性社員の意識改革は避けて通れない課題です。農協内では、これまで男性が主導的な立場を占めるケースが多かったため、ジェンダーバランスへの理解を深めることが重要とされています。男女が対等に意見を交わし、一緒にプロジェクトを推進する文化づくりが進められており、これにより役割の固定観念が徐々に薄まってきています。特に、若い世代の男性社員を中心に、多様性を尊重する動きが広がりつつあります。このような意識改革が進むことで、農協全体として性別に関係なく能力を発揮できる組織文化が醸成されています。
4. 日本社会における女性役員の未来
農協が目指す女性役員比率の目標
農協では、女性役員比率の向上を目標に掲げています。2021年のJA全国大会では、役員の15％を女性とすることが決議され、現在この目標の達成に向けて取り組みが進められています。2023年度時点で女性役員数は1,490人、比率は10.6％となり、前年比+0.9ポイントの増加を見せました。この成果は歩みとしては小さいものの、着実に変革の兆しを示しています。しかし、目標達成にはまだ課題が多く、特に「女性役員ゼロJA」の解消が喫緊の課題となっています。今後はさらに多様な女性が意思決定の場に参画できるような環境整備が鍵となるでしょう。
地域社会における女性リーダーの可能性
農協における女性役員の増加は、地域社会全体への波及効果を生み出す可能性を秘めています。例えば、千葉県では78歳の女性がJAなのはな組合長として活躍しており、女性リーダーの存在が農業だけでなく地域全体の発展を後押しする好事例として注目されています。このように、女性がリーダーシップを発揮することによって地域活性化や環境保全、そして食農教育などの分野で革新的な取り組みが生まれることが期待されています。女性特有の視点や多様性が地域課題の解決に結びつくことで、さらに多くの可能性が生まれるでしょう。
政府・民間による女性支援政策の影響
政府と民間の連携による支援政策も、農協における女性役員比率向上に大きな寄与をしています。1999年に施行された「男女共同参画社会基本法」や、2025年度政府目標の「女性役員ゼロJAをなくす」という方針などがその一例です。また、JA全国女性組織協議会など、女性の参画を支えるネットワークや教育プログラムの提供も、女性リーダーの育成を着実に後押ししています。こうした支援策が各地で女性の自立と挑戦を後押しし、その成果はJA内にとどまらず、広く社会全体に波及しています。
次世代リーダーへのバトン
現役の女性役員が培った経験や成果を次世代に引き継いでいくことも重要な課題です。農協の多くの分野ではまだまだ男性がリーダーを務める割合が高い中、女性役員が増えていくことで若い世代の女性たちが「自分にもできる」と自信を持つ環境が整うでしょう。例えば、女性リーダーたちが推進したプロジェクトや改革の事例を共有し、その実績を次世代の教育や啓発活動に活用することが期待されます。また、JA全国女性組織協議会などの育成プログラムを通じて、農協の将来を担う若い女性リーダーが育成されることが、持続可能な農業と活力ある地域社会の実現に繋がるでしょう。