セキュリティ評価制度とは
セキュリティ評価制度の定義
セキュリティ評価制度とは、製品やサービスのセキュリティ対策が適切かつ十分であるかを評価し、その結果を基に信頼性を確保するための仕組みです。特に、IT関連製品やサービスに対し、情報漏えいや不正アクセスなどのリスクを軽減するためのセキュリティ機能がどの程度有効かを客観的に確認することが目的となっています。現在では、国際標準規格であるISO/IEC 15408を基準として評価が行われることが一般的です。
評価制度が生まれた背景
セキュリティ評価制度は、サイバー攻撃の高度化や複雑化を背景に生まれました。特に、近年ではサプライチェーンを狙った攻撃や大規模な情報漏えい事件が増加しており、これらが大きな社会問題となっています。また、企業間の取引においてセキュリティ要件が統一されていないことや、第三者による客観的な評価が不足している点も課題となっていました。これらの課題を解決するために、各国でセキュリティ評価を体系化した制度が構築されるようになったのです。
主要な関連制度の例
セキュリティ評価制度には、国ごとにさまざまな形式があります。例えば、日本の「ITセキュリティ評価及び認証制度 (JISEC)」は国内の代表的な制度であり、第三者機関による評価を経てセキュリティ製品やサービスの適切性を認証します。また、国際的には「コモンクライテリア(CC)」と呼ばれる多国間で認められる評価基準が広く利用されています。最近では、経済産業省が主導する「セキュリティ対策評価制度」も注目を集めており、2026年度の本格施行に向けて準備が進んでいます。
対象となる製品やサービス
セキュリティ評価制度の対象は、IT関連製品やサービス全般にわたります。具体的には、ソフトウェアやハードウェア、ネットワーク機器、クラウドサービスなどが挙げられます。また、最近ではIoT機器や産業制御システムなど、従来のIT分野以外にも対象が拡大しています。このように広範な製品やサービスに対して、必要なセキュリティ水準が求められる時代となっています。
制度の国際的な位置づけ
セキュリティ評価制度は、国際的なサイバーセキュリティ標準化の一環でもあります。多国間での共通基準を設けることで、異なる国や地域間でのセキュリティ要件の統一が図られています。特に、「CCRA(コモンクライテリア承認協定)」は国際的にも重要な枠組みとされており、日本を含めた31の加盟国がこの基準を採用しています。さらに、2024年にはヨルダンやベルギーが加盟するなど、評価制度の国際的な拡大が進んでいます。
セキュリティ評価制度の仕組み
評価プロセスの概要
セキュリティ評価制度の評価プロセスは、第一に対象製品やシステムのセキュリティ要件を特定することから始まります。この要件は、企業や製品が直面する脅威やリスクを念頭に設計されます。次に、第三者の評価機関がこれらの要件が満たされているかを検証するプロセスに入ります。この段階では、技術的仕様だけでなく、適切な設計や運用が確保されていることを確認します。最後に、評価結果について認証機関が最終的に判断を下し、基準を満たしている場合には認証が発行されます。これにより、評価プロセス全体が透明性と信頼性を持つ形で完了します。
ISO/IEC 15408などの基準の役割
ISO/IEC 15408は、情報セキュリティ製品の信頼性を評価するための国際基準として広く採用されています。この基準は、一般に「コモンクライテリア(CC)」とも呼ばれ、セキュリティ評価の国際的な枠組みを提供しています。この規格は、IT関連製品やシステムのセキュリティ機能を評価する際に使用され、その結果は各国の認証機関によって認証されます。また、日本ではITセキュリティ評価及び認証制度(JISEC)がISO/IEC 15408に準拠しており、製品が評価基準を満たしているかを検証します。これにより、国内外での製品の信頼性が確保され、セキュリティ評価制度の重要な一部を担っています。
自己評価と第三者評価の違い
セキュリティ評価制度では、自己評価と第三者評価という2つのアプローチが存在します。自己評価は、企業自身が自社製品やシステムのセキュリティ要件への適合性を検証するプロセスを指します。一方、第三者評価は、外部の専門機関が客観的な視点で評価を行うプロセスです。自己評価は内部的なコスト削減につながる一方、信頼性に課題が残る場合があります。これに対し、第三者評価は中立的かつ慎重な検証が行われ、公正性の観点で企業や取引先からの信頼を得やすい特徴があります。そのため、国際的な認証を目指す場合、多くの企業が第三者評価を採用しています。
評価結果の認証フロー
セキュリティ評価制度における認証フローは、評価プロセス全体の結果を最終的に認証する重要なフェーズです。具体的には、第三者評価機関による検証が完了した後、その結果を認証機関へ提出し審査を受けます。この段階で認証機関は、評価結果が各種規格や要件を満たしているかを確認します。合致が認められた場合、正式な認証が発行され、製品やサービスがセキュリティ基準に適合していることが公に証明されます。この認証フローは、国内市場に留まらず、国際市場での信頼性向上にも寄与する重要なステップです。
重要な評価視点と具体的な項目
セキュリティ評価制度において重要な視点は、主に3つに大別されます。それは「機密性」「完全性」「可用性」です。例えば、機密性では、データが不正なアクセスからどの程度保護されているかが評価されます。また、完全性では、データの正確性や変更防止が支えられているかが検証されます。そして、可用性については、サイバー攻撃やシステム障害時でもサービスの継続性を確保できるかが焦点となります。具体的な評価項目には、認証機能やアクセス制御、データ暗号化、イベント監視、バックアップ体制などが含まれます。これらの項目を満たすことで、企業はセキュリティレベルの向上が図られ、顧客や取引先に安心感を提供することが可能となります。
企業がセキュリティ評価制度を活用するメリット
顧客や取引先への信頼性向上
セキュリティ評価制度を活用することで、企業はセキュリティ対策の適切性を第三者機関によって保証できます。これにより、顧客や取引先に対する信頼性が大幅に向上します。特に、ITセキュリティ評価及び認証制度(JISEC)のような国際的な基準に準拠した評価を取得することで、企業の信頼性を国内外で示すことが可能です。この信頼性は、新規取引先の獲得や既存顧客との関係強化に寄与します。
セキュリティ対策の可視化と成熟度の向上
セキュリティ評価制度では、企業のセキュリティ対策を段階的に評価します。この仕組みは、現状のセキュリティ対策を可視化し、改善すべき領域を明確にする手助けとなります。また、評価を通じて対策を強化することで、企業全体のセキュリティ成熟度を向上させることが可能です。こうした可視化と改善プロセスにより、企業は持続的にセキュリティレベルを高めていくことができます。
海外市場進出での優位性
国際基準であるISO/IEC 15408に準拠したセキュリティ評価制度を活用することで、企業は海外市場での競争力を強化できます。特に、2024年にはヨルダンとベルギーがCCRA受入国に加わるなど、国際的な合意が広がっています。この背景から、各市場での信頼性を確立しやすくなり、グローバル展開を目指す企業にとって大きなメリットとなります。国際認証は、顧客や取引先が求める要件を満たす証明として有効です。
リスク回避によるコスト削減
セキュリティ評価制度を通じて企業のセキュリティ対策を強化することは、潜在的なリスクの回避につながります。たとえば、サプライチェーン攻撃などの一大リスクに対処することで、情報漏えいやサービス停止といった大規模な損害を未然に防ぐことが可能です。また、リスク低減により、インシデント発生時の対応コストやイメージダウンによる売上減少を抑える効果も期待できます。
競争力の向上と市場シェア拡大
セキュリティ評価制度を活用することで競争力が向上し、結果として市場シェアの拡大が期待できます。他社に先駆けてセキュリティ対策を強化し、評価を取得することで、顧客や取引先からの評価が高まり、選ばれる企業になることができます。特に、厳しいセキュリティ要求を持つクライアントや公共調達案件などをターゲットとする企業にとって、この制度の活用は他社との差別化を図る効果的な手段となります。
セキュリティ評価制度の最新動向
日本における最新トレンド
日本におけるセキュリティ評価制度は、特に情報セキュリティ分野での信頼性向上を目的として進化しています。国内で広く適用されている「ITセキュリティ評価及び認証制度(JISEC)」は、ISO/IEC 15408に基づいており、第三者評価による客観的な認証が特徴です。また、2024年には複数国でのセキュリティ基準の相互承認が進み、ヨルダンやベルギーが新たにCCRA(Common Criteria Recognition Arrangement)の承認国として加わりました。さらに、JISECの認証申請手数料が2025年から改定され、運用の効率化と透明性が一層重視されています。
主な改定点と将来的な展望
セキュリティ評価制度の改定内容として、旧規格であるCC/CEMバージョン3.1リリース5の一部受付が2024年に終了し、新たな基準への適応が進んでいます。2025年には評価基準がさらに明確化され、特にIT製品やサービスを提供する企業にとって評価プロセスの指針が具体化される予定です。将来的には、評価基準の国際的な一元化や、自動化ツールによる効率的な審査プロセスの実現も展望されています。
サプライチェーン強化における注目点
サプライチェーン全体のセキュリティ対策を見える化するための新たな評価制度が、経済産業省を中心に議論されています。2026年度には制度導入が予定されており、段階的評価(例:★3~★5)の採用によって取引先企業間でのセキュリティ要求を準拠しやすい形で標準化する取り組みが進められています。この制度により、サプライチェーンを狙った攻撃への耐性を強化し、企業間の信頼性をさらに高めることが期待されています。
政府主導プロジェクトの影響
近年、政府主導のプロジェクトがセキュリティ評価制度に大きな影響を与えています。特に、情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威2025」では、サプライチェーン攻撃が重大なリスクとして位置づけられています。この背景を受け、2024年には経済産業省が具体案の検討を進め、制度設計に反映しています。また、政府の取り組みは国内企業だけでなく、多国籍企業にとっても国際競争力を高める契機となるでしょう。
企業が今取り組むべき施策
現在、企業が取り組むべき施策の一つとして、自社のセキュリティ対策を定期的に見直し、評価制度で必要とされる基準に適応する準備を進めることが挙げられます。また、サプライチェーン全体の安全性を確保するため、取引先との情報共有やセキュリティ方針の統一化に注力する必要があります。加えて、国内外の最新動向や法規制への対応力を強化することも重要です。これにより、セキュリティ評価制度を活用したビジネスチャンスの拡大が期待できます。