昨今の金融・投資市場を見渡すと、かつてない規模と深度で「産業資本」と「金融資本」、そして「リスクヘッジ機能」の融合が進んでいることを肌で感じます。
長らく続いた低金利環境の終焉と、世界的なインフレ・高金利環境の定着は、日本の機関投資家や事業会社に対し、単なる利回り追求を超えた「事業モデルそのものの変革」を迫っています。
ここでは、総合商社とメガバンクグループによる航空機リース事業の巨額買収や、生命保険会社による海外資産運用会社との提携戦略などを紐解きながら、銀行、生損保、資産運用会社(AM)、総合商社といった主要プレイヤーの動向と、そこで生まれているハイクラス人材市場の新たな潮流について解説します。
1. インベストメント・チェーンの垂直統合:商社×銀行×オルタナ投資
まず注目すべきトレンドは、「インベストメント・チェーンの垂直統合」です。
2025年9月に発表された、住友商事、SMBC Aviation Capital(SMBC AC)、Apollo Global Management、Brookfield Asset Managementの4社コンソーシアムによる、米航空機リース大手Air Lease Corporationの買収合意は、まさにこの象徴と言えます。
「持たざる経営」と「持つ経営」のハイブリッド戦略
このディールで興味深いのは、商社の「産業知見」、銀行の「資金調達力と顧客基盤」、そしてオルタナティブ投資会社の「リスクマネー供給力」が、一つの案件の中で不可分に結合している点です。
新設される買収目的会社の資本構成を見ると、住友商事は議決権の約48%を保持して経営を主導しつつ、経済的なリスクエクスポージャー(持分)は約38%に留めています。残りのリスクマネーをApolloやBrookfieldといった「他人の資本(保険・年金マネー)」で補完する構造です。これは、商社がバランスシートを肥大化させずに支配権を維持する高度な戦略であり、伝統的な「トレーディング」から「投資プラットフォーマー」へと変貌していることを如実に示しています。
【参考:買収目的会社の資本構成イメージ】
- 住友商事: 経営主導・産業知見の提供(議決権47.51% / 経済持分37.51%)
- SMBC AC: 管理受託・シナジー追求(議決権4.99% / 経済持分24.99%)
- Apollo / Brookfield: リスクマネー供給・利回り追求(議決権・経済持分ともに各20%前後)
三井住友フィナンシャル・グループにとっても、銀行規制(バーゼルIII最終化)により実物資産を無制限に積み増せない中、ファンドと協調してオフバランス化を図りつつ、管理手数料(Feeビジネス)を最大化する「アセットライト」な戦略として機能させていると言えます。
2. 生命保険業界の進化:「運用委託」から「機能の取り込み」へ
次に、生命保険会社における「ALM(資産負債管理)の外部化・事業化」の動きです。
国内債券利回りが上昇したとはいえ、高コストの既往契約を抱える生保にとって、国債のみでの逆ざや解消は依然として困難です。そこで進んでいるのが、海外の運用会社そのものをグループに取り込む動きです。
朝日生命・日本生命のインオーガニック戦略
朝日生命は、2025年12月にベトナムのMVI Life買収を発表するなど、海外の成長市場への直接進出も加速させています。
日本生命も同様に、Resolution Lifeへの出資・完全子会社化を通じて、海外運用会社のプライベートクレジットや不動産ファンドへのアクセスを拡大しています。
これらは、運用を単に委託するのではなく、世界最高峰の運用機能を自社のコアコンピタンス化し、さらには他社資金の運用も受託する「アセットオーナーからアセットマネージャーへの進化」を意味しています。
3. 銀行・地銀の変化と「リスクヘッジの市場化」
銀行業界では、資本コストの上昇を背景に「B/Sを使うビジネス」から「投資家の資金を仲介するビジネス」への転換が進んでいます。
信託銀行では、海外のプライベートデット(PD)ファンドを日本の投資家ニーズに合わせて組成・販売するゲートキーパー機能を強化してきているところも出てきており、これに伴い、海外GPの選定や商品開発ができる専門人材のニーズが高まっています。
また、LBOファイナンスや不動産ノンリコースローンに特化し、精緻なキャッシュフロー分析ができるモデリング人材を高待遇で募集するといった動きも出てきております。
M&Aを支える「W&I保険」
投資活動の活発化に伴い、リスクヘッジの手法も進化しています。M&Aにおける表明保証違反リスクをカバーする「表明保証保険(W&I保険)」は、クロスボーダー案件のみならず国内におけるM&A案件でも利用が増えてきています。これは、投資リスクを金融商品として切り出し、売買可能にする高度な金融技術の普及を示唆しており、ここでも新たな専門職(アンダーライター)の需要を生んでいます。
4. 専門性の細分化と高騰する人材市場:いま求められる4つの「モデル人材」
こうした金融・事業会社の戦略高度化は、人材市場に構造的な変化をもたらしています。
伝統的なジェネラリストや国内融資審査といった職種のニーズが落ち着きを見せる一方、「異なる機能(実物資産×金融、法務×保険など)を繋ぎ合わせ、構造化できる人材」へのオファー金額は急騰しています。
現在、市場で引き合いの強い人材像を、以下の4つのモデルケースとして整理しました。
| 人材モデル名 | 主な活躍の場 | コアスキル | ネクストキャリア |
| ① ストラクチャード・ファイナンス(SF)アーキテクト | ・メガバンク、特定分野に強い銀行 ・FAS | ・財務三表が完全に連動するLBOモデルや、複雑なCFモデルの構築能力 ・対象事業のビジネスDDを遂行できる解像度の高さ | ・PEファンドの投資担当 ・事業会社のCFO ・財務アドバイザリーのパートナークラス |
| ② オルタナティブ投資ゲートキーパー | ・信託銀行 ・大手生保 ・アセットマネジメント会社 | ・海外GP(運用会社)とのタフな折衝能力・目利き力 ・プライベートデットやインフラファンド等、非流動性資産の深い知識 | ・グローバルAMのプロダクトマネジャー ・年金基金のチーフインベストメントオフィサー(CIO)候補 |
| ③ ウェルスマネジメント×実物資産スペシャリスト | ・大手リース ・商社系金融子会社 ・プライベートバンク(PB) | ・航空機・船舶・コンテナ等の実物資産に関する税務・法務知識 ・富裕層やオーナー経営者に対する高度なソリューション営業経験 | ・プライベートバンカー(RM) ・ファミリーオフィスの資産運用責任者 |
| ④ M&Aリスク・アンダーライター | ・大手損保 ・外資系MGA(総代理店) ・ブローカー | ・M&A実務における契約書(SPA)の読解力とリスク抽出能力(弁護士資格保有者など) ・クロスボーダー案件に対応できる高い英語力 | ・保険会社の新規事業開発幹部 ・戦略コンサルタント ・リスクマネジメント専門役員 |
まとめ:融合が生む新たなキャリア機会
今回のリサーチを通じて明確になったのは、業態の壁が溶解し、「機能の最適配置(Re-bundling)」が進んでいるという事実です。
もはや「商社」対「銀行」といった対立軸は意味をなさず、勝者となるのは、各プレイヤーの強み(アセットアクセス力、顧客基盤、運用能力)を柔軟に組み合わせられるプラットフォームです。
個人のキャリアにおいても同様のことが言えます。
これからの10年を生き抜くためには、自身のキャリアを伝統的な金融の枠組みから、オルタナティブやストラクチャード・ファイナンスといった「ソリューション」の領域へとシフトさせることが有効な戦略となるでしょう。
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