はじめに
相続は、故人の財産や権利、義務を相続人が引き継ぐための重要な手続きです。しかし、その過程は複雑で多岐にわたり、専門知識を必要とすることが少なくありません。
相続手続きの全体像
相続手続きは、故人の死亡から始まり、相続人の確定、財産調査、遺産分割協議、名義変更、相続税申告など、様々なステップがあります。これらの手続きには期限が設けられているものもあり、適切に進めないと予期せぬトラブルにつながる可能性もあります。
行政書士に依頼するメリットとは
行政書士は、官公署に提出する書類や権利義務・事実証明に関する書類作成の専門家です。相続においては、以下のようなメリットがあります。
- 幅広い相続業務に対応
- 戸籍収集や財産調査、遺産分割協議書の作成など、多岐にわたる書類作成を依頼できます。
- 手続きのやり直しや漏れを防ぐ
- 専門知識に基づいて正確な書類を作成し、手続きの遅延やミスを防ぎます。
- 費用を抑えられる可能性
- 弁護士や信託銀行と比較して、費用がリーズナブルに設定されていることが多いです。
- 依頼主の負担軽減
- 煩雑な手続きを代行してもらうことで、精神的・時間的な負担を軽減し、故人を偲ぶ時間を確保できます。
- 身近な相談相手
- 他の士業に比べて気軽に相談しやすい「街の法律家」として、利用しやすい存在です。
行政書士が対応できる相続手続き
行政書士は、相続手続きの中でも特に書類作成とその代理、相談業務において幅広いサポートを提供します。
相続人の調査や戸籍謄本の取得
相続手続きの第一歩は、誰が相続人であるかを正確に確定することです。行政書士は、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本や改製原戸籍を含む)を収集し、相続人を特定する作業を代行します。相続関係が複雑な場合でも、戸籍を読み解く知識と経験を活かして効率的に調査を進めることができます。
財産目録・相続関係図の作成
相続財産の全体像を把握するために、行政書士は財産調査を行い、財産目録を作成します。預貯金、不動産、有価証券などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も漏れなく調査し、正確な目録を作成することで、その後の遺産分割協議をスムーズに進めることができます。
また、相続人調査で確定した情報を基に、相続関係を一目でわかるように図式化した「相続関係説明図」や、法務局の認証を受けた「法定相続情報一覧図」を作成することも可能です。これにより、複数の相続手続きで戸籍謄本の束を何度も提出する手間を省けます。
遺産分割協議書の作成
相続人全員で遺産の分割方法について話し合い(遺産分割協議)がまとまったら、その内容を書面にまとめた「遺産分割協議書」を作成します。この協議書は、後日の紛争予防や名義変更手続きに必要な重要な書類です。行政書士は、法的に有効で不備のない遺産分割協議書の作成をサポートします。
預貯金・自動車・有価証券などの名義変更
故人名義の預貯金口座の解約・払戻しや、自動車、有価証券(株式など)の名義変更手続きも行政書士に依頼できます。これらの手続きは平日に行う必要があり、書類の準備や提出に手間がかかるため、行政書士に代行してもらうことで負担を軽減できます。特に、許認可を受けて事業を行っていた故人の場合、事業承継に伴う許認可の変更手続きも行政書士の専門業務です。
遺言書作成サポート・遺言執行
将来の相続トラブルを未然に防ぐために有効な手段が遺言書の作成です。行政書士は、遺言書の内容の起案や、公証人との打ち合わせサポートなど、遺言書作成を支援します。自筆証書遺言の場合、形式の不備で無効になるリスクがあるため、専門家のサポートを受けると安心です。
また、遺言書の内容を忠実に実現する「遺言執行者」に行政書士が就任することも可能です。相続財産の管理や遺言の執行に必要な行為を代行し、中立的な立場でスムーズな相続を実現します。
行政書士ができないことと他士業との違い
行政書士は幅広い相続手続きに対応できますが、法律によって定められた業務範囲があり、他の専門家(士業)にしかできない業務も存在します。
不動産の相続登記(司法書士の業務)
相続財産に不動産が含まれる場合、所有権移転登記、いわゆる「相続登記」が必要になります。この相続登記は司法書士の独占業務であり、行政書士が行うことはできません。2024年4月1日からは相続登記が義務化されたため、不動産を相続した場合は速やかに司法書士に相談しましょう。
相続税申告(税理士の業務)
相続財産の総額が基礎控除額(「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」)を超える場合、相続税の申告が必要です。相続税の申告書作成や税務相談、税務調査への対応は税理士の独占業務であり、行政書士は対応できません。相続税の申告が必要な場合は、税理士に相談することをおすすめします。
相続放棄や紛争対応(弁護士の業務)
相続人同士で遺産分割協議がまとまらない、遺留分侵害額請求をしたいなど、相続をめぐる紛争が発生している場合、行政書士は特定の相続人の代理人として交渉したり、調停や裁判の代理人となったりすることはできません。このような紛争解決や相続放棄の申述手続き(家庭裁判所への書類提出を含む)は、弁護士または司法書士の業務範囲となります。特に紛争性が高い場合は、弁護士への相談が適切です。
業務範囲比較:行政書士・司法書士・弁護士・税理士
業務内容行政書士司法書士弁護士税理士相続人の調査〇〇〇〇相続財産の調査〇〇〇〇遺産分割協議書の作成〇〇〇〇預貯金・有価証券の名義変更〇〇〇〇自動車の名義変更〇×〇×遺言書作成サポート・執行〇〇〇×不動産の相続登記×〇〇×相続放棄・限定承認×〇〇×遺産分割調停・紛争解決の代理××〇×相続税申告××〇〇
行政書士に相続手続きを依頼する際の注意点
行政書士に相続手続きを依頼する際は、いくつかの点に注意し、スムーズかつ確実に手続きを進めることが重要です。
業務範囲の確認
行政書士に依頼する前に、具体的な業務内容が行政書士の業務範囲に含まれるかを確認しましょう。特に、不動産の相続登記や相続税申告、相続人間の紛争解決などは行政書士の独占業務ではないため、これらの手続きが必要な場合は、他の専門家への依頼が必要となります。
必要書類や情報の整理
依頼する前に、被相続人や相続人に関する基本的な情報、おおよその相続財産の内容などを整理しておくと、相談がスムーズに進みます。行政書士は戸籍謄本などの収集を代行できますが、情報が多ければ多いほど、より迅速かつ正確な手続きが可能になります。
他士業との連携が必要なケース
相続手続きは多岐にわたるため、行政書士の業務範囲外の手続きが必要になることもあります。例えば、不動産がある場合は司法書士、相続税が発生する場合は税理士、相続トラブルがある場合は弁護士への依頼が必要です。行政書士が他の士業と連携体制を構築している事務所を選ぶと、ワンストップでスムーズな対応が期待できます。
行政書士に依頼するメリット・デメリット
相続手続きを行政書士に依頼することには、多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。
依頼主の負担軽減と費用面
メリット
- 煩雑な手続きを代行し、時間と労力を削減
- 相続手続きは多くの書類収集や作成、役所や金融機関への訪問が必要で、平日昼間に時間を確保できない方にとって大きな助けとなります。
- 正確な手続きによるミス防止
- 法的な知識を要する書類作成を専門家が行うことで、書類の不備や手続き漏れを防ぎ、再提出や手戻りの手間を省きます。
- 費用が比較的リーズナブル
- 弁護士や信託銀行と比較して、行政書士の報酬は低めに設定されている傾向があります。
煩雑な手続きや漏れの防止
行政書士は、相続人の調査から戸籍謄本の取得、相続関係説明図や財産目録の作成、遺産分割協議書の作成、預貯金や自動車の名義変更、遺言書作成サポート、遺言執行など、幅広い業務に対応できます。これにより、個々の手続きを個別の専門家に依頼する手間を省き、一元的にサポートを受けることが可能です。特に相続トラブルがなく、相続税申告や相続登記が不要なケースでは、行政書士に一括で依頼する「おまかせパック」のようなサービスも活用できます。
デメリットと注意するポイント
デメリット
- 業務範囲に制限がある
- 不動産の相続登記、相続税申告、相続人間の紛争解決など、行政書士には対応できない独占業務が他士業にあります。
- トラブル発生時の対応が難しい
- 相続人間に争いがある場合、行政書士は代理人として交渉や仲裁を行うことができません。
- 行政書士の専門分野の偏り
- 行政書士は業務範囲が広いため、事務所によって得意分野が異なります。相続業務に特化していない行政書士に依頼すると、知識や経験が不足している可能性があります。
これらのデメリットを踏まえ、依頼する行政書士の専門性や他士業との連携体制を事前に確認することが重要です。
相続手続き依頼時の費用相場
行政書士の報酬は自由に設定できるため、事務所によって異なりますが、一般的な費用相場は存在します。
業務内容ごとの費用例
日本行政書士会連合会の報酬額統計調査によると、相続手続きに関する業務の報酬相場は以下の通りです。
- 遺言書の起案及び作成補助:平均約6.8万円
- 遺産分割協議書の作成:平均約6.8万円
- 相続人及び相続財産の調査:平均約6.3万円
- 遺言執行手続:平均約38.4万円
これらの金額はあくまで目安であり、相続関係の複雑さ、相続人の人数、財産の量などによって変動する可能性があります。正式に依頼する前に、必ず見積もりを取るようにしましょう。
パッケージサービスの活用
多くの行政書士事務所では、複数の相続手続きを一括で代行する「おまかせパック」のようなパッケージサービスを提供しています。これにより、個々の手続きをバラバラに依頼するよりも費用計算がシンプルになり、総額で20万円〜30万円程度で名義変更手続きまで対応してもらえるケースが多いようです(遺産総額2,000万円程度までの場合)。
追加費用・オプションの有無について
報酬以外に、戸籍謄本や住民票、印鑑証明書の発行手数料、郵送費、交通費などの実費が別途かかります。また、想定外の財産が見つかるなど、手続きの途中で状況が変わった場合には、追加費用が発生する可能性もあります。そのため、契約前に、パッケージに含まれる業務内容、追加費用が発生するケース、オプションの有無などについて、行政書士から明確な説明を受け、書面で確認しておくことが大切です。
行政書士の選び方ガイド
相続手続きを依頼する行政書士を選ぶ際は、費用だけでなく、いくつかの重要なポイントを押さえることが成功の鍵となります。
相続分野の経験・専門性
行政書士は幅広い業務を扱いますが、事務所によって専門分野が異なります。相続手続きは専門的な知識と経験が必要なため、以下の点を確認しましょう。
- 相続手続きに注力しているか
- 事務所のウェブサイトなどで、相続に関する実績や解決事例が豊富に掲載されているかを確認します。
- 戸籍の読み解きなど、専門的な知識を有しているか
- 相続人の調査は、古い戸籍を読み解く知識が必要となるため、その経験がある行政書士を選びましょう。
他士業との連携体制
相続手続きは、行政書士の業務範囲外の専門家(司法書士、税理士、弁護士など)の協力が必要となるケースが多々あります。
- ワンストップで対応できる体制か
- 他士業と連携している行政書士事務所であれば、必要に応じて適切な専門家を紹介してもらい、手続きをスムーズに進めることができます。
相談時の対応・料金説明の明確さ
行政書士を選ぶ上で、最も大切なのは依頼者への誠実な対応と明確な料金説明です。
- 丁寧で分かりやすい説明
- 専門用語を使わず、依頼者の疑問や不安に寄り添い、手続きの内容や期間を明確に説明してくれる行政書士を選びましょう。
- 料金体系の明確さ
- 報酬規定表を提示し、見積もりを具体的に示してくれるかを確認します。追加費用が発生する条件なども、事前に確認しておくことが重要です。
- コミュニケーションの取りやすさ
- 相続手続きは故人を亡くしたばかりのデリケートな時期に行われるため、話しやすく、信頼できる人柄の行政書士を選ぶことが、ストレスなく手続きを進める上で重要です。連絡方法(電話、メール、オンラインなど)や対応時間帯(夜間、休日など)も確認しておくと良いでしょう。
まとめ
行政書士を賢く活用してスムーズな相続を
相続手続きは、複雑で時間と労力がかかるものです。行政書士は、官公署に提出する書類の作成や、権利義務・事実証明に関する書類作成の専門家として、相続人調査、財産目録作成、遺産分割協議書作成、預貯金や自動車の名義変更、遺言書作成サポートなど、幅広い相続業務に対応できます。これにより、依頼主の負担を軽減し、手続きの漏れやミスの防止、そして他の専門家と比較して費用を抑えられるという大きなメリットがあります。相続人間の争いや相続税申告、不動産の相続登記がない場合、まずは行政書士に相談することが、スムーズな相続への第一歩となるでしょう。
自分に合った専門家選びのコツ
行政書士を選ぶ際には、相続分野での経験・専門性、他士業との連携体制、そして相談時の対応や料金説明の明確さが重要なポイントです。相続手続きを全て自分で行うのは非常に大変なため、信頼できる行政書士を見つけ、「かかりつけのホームドクター」のように、困ったときにいつでも相談できる専門家を確保しておくことが、安心で円滑な相続を実現するための賢い選択と言えるでしょう。












