
カオナビ買収事例から紐解く「レバレッジ」の真意
PEファンドの投資手法において、不可分な関係にあるのが「LBO(レバレッジド・バイアウト)」です。PEファンドへのキャリアを志向するプロフェッショナルにとって、LBOファイナンスの構造を理解することは、投資リターン(IRR)の源泉を把握することと同義といえます。
昨今、米大手カーライル・グループによるSaaS企業「カオナビ」への公開買付け(TOB)が、従来のLBOの常識を覆すスキームとして業界で大きな注目を集めました。今回は、LBOファイナンスの基礎知識から、2026年現在の最新トレンドまでを詳細に解説します。
そもそも「LBOファイナンス」とは何か
LBO(Leveraged Buyout)とは、買収対象会社の資産や将来のキャッシュフローを担保として、外部から負債(デット)を調達し買収を行う手法を指します。
PEファンドが投資を執行する際、全額を自己資金(エクイティ)で賄わず、意図的に多額の負債を組み込む背景には、主に以下の二つの合理的な目的が存在します。
- レバレッジ効果によるリターンの最大化: 投下する自己資金を抑制しつつ大規模な買収を実行することで、エグジット時におけるエクイティ・マルチプル(MoIC)を飛躍的に向上させることが可能です。
- 負債による規律付け: 継続的な利払いおよび元本返済の義務を課すことにより、経営陣に対してキャッシュフロー創出への強いインセンティブと経営の規律を促します。
LBOファイナンスの一般的な構造
通常、PEファンドが設立した買収用特別目的会社(SPC)が、銀行団(シニアローン)やメザニン投資家から資金を調達します。
- シニアローン: 弁済順位が最も高く、金利は相対的に低く設定されます。日本のPE案件では、メガバンクや地方銀行が主要な出し手となります。
- メザニン: シニアよりリスク許容度が高く、高利回りが設定されます。劣後ローンや優先株といった形態が一般的です。
- エクイティ: PEファンドがLP(リミテッド・パートナー)投資家から募った運用資金です。
従来のLBOにおいては、「いかに低コストで負債調達余力(デット・キャパシティ)を最大化できるか」が、入札競争力を左右する極めて重要な要素でした。
【新潮流】カオナビ事例が示した「あえてレバレッジをかけない」戦略
2025年2月、カーライルによるカオナビの買収(企業価値評価額約497億円、TOB価格1株4,380円・公表前日終値比約121%プレミアム)において、革新的なスキームが公表されました。
それは、「外部負債を一切活用せず、全額エクイティで買収を完了させる」 という、従来のLBOの定石を覆すものです。
なぜ、PEファンドの最大の武器であるレバレッジを封印したのでしょうか。ここには、現代の投資環境に適応した高度な戦略的意図が看取されます。
- 「負債の壁」を回避した成長支援: SaaS企業は、持続的成長のための広告宣伝費や研究開発費が先行し、一時的にキャッシュフローが低下するフェーズがあります。LBOローン特有の財務制限条項(コベナンツ)を排除することで、機動的な先行投資を可能にしました。
- 「のれん」計上の回避: 本案件では、SPC(特別目的会社)との合併を行わない方式を採用したため、買収後の会計処理において多額の「のれん」が発生しないスキームが実現しました。これにより、将来の利益圧迫リスク(のれんの償却・減損)が最小化されています。
これは、従来の「負債活用によるリターン向上」から、「事業成長(トップライン成長)を通じた本質的な企業価値向上」 へと、PEファンドの主眼が移行していることを象徴する事案といえます。
PEファンドへの転職を目指す方へ
LBOファイナンスは、単なる資金調達の技法に留まりません。対象企業のビジネスモデル、成長フェーズ、および2026年現在の金利環境を多角的に分析し、最適な資本構成を設計する「投資戦略の核心」です。
近年のPE業界では、今回のようなSaaS企業への投資や、金利動向を注視した複雑なストラクチャリング能力が不可欠となっています。
- モデリングスキル: 負債の返済シミュレーションとIRRの相関を、精緻かつ柔軟に算出できる能力。
- 事業への解像度: 負債を許容しうるキャッシュフローの安定性、あるいは投資を優先すべき成長ステージであるかを見極める洞察力。
PEファンドへの転職を成功させるには、こうした最新のディール構造を理解し、自身の知見をアップデートし続ける姿勢が求められます。









