総合商社のビジネスモデルと重要性
進化する商社の姿:進化する商社の役割と変革
商社は、製品やサービスを求める「買い手」と提供する「売り手」をつなぐ仲介役として、長らく経済活動と国際取引の要を担っています。単なるモノの流通管理に留まらず、市場のニーズとタイミングを正確に捉え、最適な取引環境を築いてきました。国内外の円滑な供給ネットワークを支え、ビジネス効率の向上に貢献しています。
さらに、商社はその専門性を活かし、取引先への包括的なサポートを提供しています。「物流コストやリスクを最小化する計画立案、市場動向の迅速な把握による的確な行動」は、商社ならではの強みです。例えば、パンデミックによる世界的なサプライチェーンの混乱時には、代替調達先の確保や物流ルートの再設計を迅速に行い、顧客の事業継続を支えました。この専門性と柔軟な適応力こそが、商社業界を支える核となっています。
変革期を迎える商社:トレーディングから多角的な事業経営へ
商社は元来、トレーディング(商品の仕入れと販売)を中心とした業態で発展してきました。売買だけでなく、輸送手続きや契約条件、取引リスク管理までを担うのが特徴です。しかし近年、商社は単なる仲介業者という枠を超え、自ら直接投資を行い、事業経営に深く参画する多角的なビジネスモデルへと大きく舵を切っています。
例えば、エネルギー資源やインフラ事業への積極的な参入はその典型です。こうした戦略的投資を通じて安定した長期収益を確保する一方で、新興市場や地域経済の発展にも貢献しています。さらに、この変革の原動力の一つとして、デジタル技術を活用し、リアルタイムのデータ管理や予測分析を取り入れたり、新規事業開発を積極的に推進しているのです。
商社の二つの顔:総合商社と専門商社
商社は大きく「総合商社」と「専門商社」に分類されます。
総合商社は食品、エネルギー、化学品、テクノロジーなど多岐にわたる分野で事業を展開し、幅広い業界に進出しています。三菱商事や伊藤忠商事、三井物産のような企業が代表的で、広範な取引ネットワークと多様な投資活動が特長となっています。
一方、専門商社は特定の分野に特化しています。鉄鋼、繊維、食品といった業界ごとの深い知識と経験を活かし、その分野で取引効率向上に貢献しています。このニッチな専門性が取引先の厚い信頼を得て、業界での競争力を高める要因となっています。
商社業界におけるDX推進の背景と必要性
なぜ今、商社がDX化を推進しているのか。その背景と必要性を解き明かします。
DXが拓く商社の未来:持続可能な成長への羅針盤
デジタル技術の進化と市場の複雑化に伴い、商社業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠な取り組みとなっています。DXとは、デジタル技術を駆使して従来の業務プロセスや事業モデルを革新し、新たな価値を創造する試みです。
商社では、物流プロセスやトレーディング業務が主なDXの活用領域です。AIによる市場変動予測(市場リスクの軽減)や、ブロックチェーン技術による契約の透明性向上(契約トラブルの防止)が進められています。情報のリアルタイム化により、サプライチェーン管理がより効率的になり、事業運営全体の最適化を達成しています。
DXの導入は、新たな収益源開発だけでなく、持続可能なビジネスモデル構築の鍵です。例えば、環境負荷軽減を目指す「グリーン物流」はコスト削減と企業のESG評価向上に寄与し、長期的な顧客関係を築く「CRM(顧客関係管理)のデジタル化」は顧客ロイヤルティを高めクロスセル・アップセルの機会を増やすことにつながります。これにより、商社は単なる仲介業務を超え、社会的責任を果たす持続可能な企業としての地位を確立することを目指しています。この成長モデルこそが、商社が次のステージへと進化する際のビジョンを形成し、業界全体の方向性を示しています。
バリューチェーンとDX
DX推進の背景:バリューチェーンへの深掘りと事業経営への進化
総合商社のビジネスモデルは、従来「トレーディング」と「事業投資」の二本柱となっています。近年、事業投資の割合が増加し、その重要性が高まっています。これは、グローバル市場で市況変動の影響を受けやすい商社が、安定的かつ長期的な収益を確保する必要があったためです。
1990年代に起きた「商社冬の時代」は、トレーディングへの過度な依存リスクを浮き彫りにし、商社経営に大きな転換を促しました。その結果、総合商社はトレーディング中心のモデルから脱却し、事業投資を新たな柱に据えています。さらに、単なる投資に留まらず、バリューチェーンに主体的に関与して経営に深く踏み込むことで、持続可能で安定した経営基盤と成長を目指すスタイルへと進化しています。
この「バリューチェーン」とは、原材料調達から最終消費に至るまで、製品やサービスが付加価値を生み出す全プロセスを指します。商社はここでDXを活用し、このバリューチェーンの各段階に介入し付加価値を高めることで、顧客満足度向上、コスト削減、競争優位性の確保を図っています。このようなデジタル化の動きにより、商社はバリューチェーンの各プロセスでリアルタイムのデータ収集・分析が可能となり、迅速な意思決定を支えています。この技術は、需給予測の精度向上や物流の効率化に寄与するだけでなく、各プロセス最適化を通じて、環境負荷削減や資源利用効率化にもつながり、商社全体で持続可能な事業基盤を構築しています。
例えば、食肉市場では、飼料開発から牧場での飼育、加工、販売までのバリューチェーン全体でデジタル化が進められています。ここで商社は、データ分析基盤の提供や、異なる事業者間のデータ連携を仲介するハブとして機能します。膨大なデータがリアルタイムで分析され、生産効率向上、物流最適化、供給管理精度向上が実現しています。商社はこうした取り組みを、既存市場での競争力強化のみならず、持続可能な社会形成や新規ビジネスの布石として役立てています。
また、総合商社の収益構造は「事業投資」から、より主体的な「事業経営」へと進化しています。商社は経営の意思決定に直接関与し、自社の強みを活かしながらリスクを見極めた経営判断を行っています。このプロセスを可能にするのが、商社が注力する人材育成です。DX推進にはデジタル技術だけでなく、それを活用できる人材が不可欠であり、ビジネス環境変化に柔軟に対応し、価値創造をリードする人材を育成することで、パートナー企業との連携や課題共有が進展し、より効率的で効果的な事業運営を目指しています。こうした人材こそが、高度な経営判断を可能にし、商社の事業経営への進化を支えているのです。
商社のDX戦略計画
商社のDX戦略:各社のDX事業戦略について
総合商社では、中期経営計画や統合報告書を通じて、DXを事業の柱として明確に位置づけています。DXを活用して事業モデルや業務プロセスを刷新するだけでなく、新たな社会課題への対応や将来のビジネス機会創出を目指す方向性が示されています。以下に各社のDX戦略と取り組みをご紹介します。
三菱商事:産業構造変革を目指す「産業DXプラットフォーム」
三菱商事は、単なる業務効率化を超えた「産業構造の変革」を目指し、DXを基軸としたビジョンを掲げています。中核は「産業DXプラットフォーム」の構築です。幅広い事業領域で培ったノウハウやデータを活用し、新たな価値創造と産業効率化を同時に実現しようとする戦略的取り組みとなっています。
同社は中期経営戦略等を通じてDXを成長戦略の柱と捉え、専門組織「産業DX部門」を設立しています。グループ全体の膨大なデータや知見を形式知化し、全産業へ横展開する基盤を整備しています。これにより、グループ内で蓄積された情報を有効活用し、アルゴリズムやAIなどの技術活用範囲を広げることを目標としています。このプラットフォームを推進するためには、各産業の知見とデジタル技術を繋ぐDXプロデューサーや、データを活用して事業を企画するビジネスデベロッパーといった人材が求められています。
双日:デジタル事業群で利益創出
双日では、DXを企業の成長を牽引する重要な戦略と位置づけ、2030年までにデジタル事業群で当期利益100億円の創出を目指しています。経営改革の一環としてDXを活用し、既存事業モデルの進化と新規事業創出に取り組んできました。
2023年までを「Digital開拓期」とし、全社的なデジタル文化浸透とDXの成功事例を積み重ねています。デジタル人材育成も重視し、研修や教育プログラムを通じて全社的なデジタルリテラシー向上を図っています。
次期中期経営計画では、「Digital-in-All」をスローガンに掲げ、全ての事業領域へデジタル技術を横断的に実装するアプローチを採用しています。これにより、既存ビジネスの生産性向上や競争力強化を進めつつ、新たな価値を創出する事業モデルへと進化を加速させています。具体的には、AI、データ分析、IoTなどを活用した需給予測、取引の効率化、サプライチェーンの最適化に注力しています。同社の戦略では、事業部門と伴走してDXを推進する企画人材や、アジャイル開発で新規サービスを立ち上げるプロダクトマネージャーなど、幅広いデジタルスキルを持つ人材が活躍できます。
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住友商事:「デジタルで磨き、デジタルで稼ぐ」
住友商事はDXを成長戦略の要と位置づけ、「デジタルで磨き、デジタルで稼ぐ」というスローガンのもと、競争力強化と価値創造を目指しています。2024年度から始まる中期経営計画にDXの明確な目標を設定し、全事業領域へのデジタル技術の浸透を進めています。
この計画におけるDXは、既存事業の効率化と競争力向上に加え、新規事業の創出が柱です。データやAIを活用した需給予測、サプライチェーンの効率化、顧客体験を向上させるデジタルマーケティング技術の活用などが含まれています。また、社内共通基盤「SCデジタル基盤」を整備し、全グループでのデジタル連携を強化しています。
DX導入事例:各社の具体的取り組み
企業におけるDXは、社内外双方で成果を上げています。ビジネス創出向けのDXは顧客体験向上、社会課題解決、新たな市場創造を通じて事業価値を最大化しています。一方、社内コーポレート向けのDXは、業務フロー最適化や従業員の働き方改革を通じて、組織全体の効率性や柔軟性を高める役割を果たしています。
双日のDX事例①
双日は、豪州のグレゴリー・クライナム炭鉱で製鉄原料炭の採掘効率化に最新デジタル技術を活用しています。これは同社の「Digital-in-All」戦略の一環であり、現場データを一元管理し、重機を遠隔操作する技術を導入しています。重機の動きをリモート制御し、採掘状況をリアルタイムで確認することで、作業の無駄を省き、運営コストを最適化しました。これは、効率的な操業と人的負担軽減を両立するものです。
さらに、収集データを複合分析することで、従来の経験や感覚に頼る意思決定を「データドリブン」なアプローチへ転換しています。炭鉱運営の判断が迅速かつ精緻になり、競争力向上に寄与しています。また、大型重機の部品劣化や故障を事前に察知する予兆保守技術を活用し、計画的なメンテナンスで操業安定化を図っています。
双日のDX事例②
2024年3月、双日はさくらインターネットと業務提携契約を締結し、日本国内外でインフラ技術を活用したデジタルビジネスの拡大に向けた包括的な協力を開始しました。これによりビジネスをさらに進化させ、様々な産業のDXを推進しています。
その一環として、農業DX事業を手掛ける新興企業Degasへの出資を表明しています。双日はこのDegasへの出資を通じて、農業分野のDXを推進し、新たな価値を創造しています。 Degasは、衛星画像を分析して農地の状況を予測する生成AI基盤モデルを開発し、タイやインドネシアの小規模農家を支援する先進的な技術を持つ企業です。この技術は、適切な肥料・資材提供、収穫量予測、災害リスク軽減に寄与する革新的な営農サービスを実現しています。
この連携により、双日とさくらインターネットはDegasの技術を活用し、タイのキャッサバ農家支援事業を開始しました。さくらインターネットが提供するGPUクラウドサービスで農業データの効率的な処理が可能となり、収穫量予測や気候・災害リスクの分析精度向上を目指しています。AIを活用した地理空間基盤モデルを農業プラットフォーム事業に応用することで、地域農家の収益拡大と持続可能な農業の実現を後押ししています。
三井物産のDX事例①
三井物産はグローバル展開の強みを活かし、DXを戦略の中心に据えています。特に産業分野の改革とデジタル技術を活用した新たなビジネスモデル構築に注力しています。日本国内外での先端技術を活用した実証実験や、新しいデジタルサービスの展開がその一例です。具体的な取り組みは400件を超え、50件以上が運用に繋がっています。
慶應義塾大学との共同実証実験では、インダストリアルIoTを活用し、食品製造工程の効率化と自動化に取り組んでいます。生産ラインの監視や遠隔操作を可能にする技術を導入しています。センサーやカメラで設備状態をリアルタイム監視し、データをクラウドで一元管理することで、機械の稼働率や異常を把握し、保守の最適化と修理コスト削減に成功しています。複合的なデータ分析により、生産効率向上や人的負担軽減といった成果も得られています。これは、食品製造業の効率化だけでなく、働き方改革や均質な品質維持にも貢献するものです。
三井物産のDX事例②
三井物産のDX事例②
デジタル資産運用サービス「ALTERNA」は、三井物産が自社開発した個人投資家向けの新しい資産運用プラットフォームです。これは金融分野におけるDX推進の一環であり、新たな収益源の確立を目指す戦略的な取り組みです。 AIやビッグデータを活用した投資判断支援を提供し、投資ポートフォリオのリスクやリターンをシミュレーションしながら、最適な投資戦略を提案しています。投資対象となるデジタル資産や株式市場の動向をリアルタイムで分析し、顧客ごとにカスタマイズされたレコメンドを提供しています。金融市場の複雑化や不確実性が高まる中で、効率的かつ透明性のある資産管理を実現しています。モバイルアプリ中心の操作性により、幅広い層のユーザーにとって使いやすい設計も特長となっています。
商社の未来:価値創造と持続可能性を両立する存在へ
総合商社は、複雑化する市場環境や産業構造の変化に柔軟に対応し、常に進化を遂げています。投資リスクを分散し、持続可能な成長を目指す取り組みがその中心にあります。事業投資から事業経営へと転換することで、パートナー企業との連携を強化し、新たな価値創造を実現してきました。
今後、各分野でのDXを基盤とするビジネスモデルのさらなる進化が期待されます。総合商社は、創造性とリスク管理能力を活かし、多様なステークホルダーに利益をもたらすとともに、社会と地球環境への貢献を果たす存在として、その重要性を一層増していくことでしょう。
商社でのDX推進に関する求人ポジション
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大手総合商社での不動産DX領域の新規事業におけるCTO候補/プロダクトマネージャー(嘱託プロ採用)の求人
【ポジション概要】
1)不動産領域のWeb SaaS事業立上げに向けた技術戦略の策定及び実行
2)事業開発:上記事業以外の不動産DX領域における新事業
総合商社での情報企画の求人
【ポジション概要】
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・業務効率化/利便性向上を図るための最新のIT技術やサービスの導入、及びITインフラや業務システム等の企画/導入/運用
・IT全般に関する統制を目的とした指導、及び各種施策の実行
双日株式会社/総合商社でのテクノロジーを活用したビジネス・トランスフォーメーションの推進の求人
【ポジション概要】
全社のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の中核として、ソフトウェア開発・エンジニアリング組織の強化に取り組んでいます。営業・職能本部と連携しながら、事業課題解決や新規ビジネス創出を支えるデジタルプロダクト・ソリューションの企画・開発・実装を担当していただきます。将来的には、開発チームのリードやマネジメントにも携わり、技術戦略策定や組織運営にも貢献いただくことを想定しています。
双日株式会社/総合商社での デジタル共創推進の求人
【ポジション概要】
当社のDigital In All戦略を推進を担い、デジタル領域の市場分析、戦略企画・立案、事業投資の実行および、当社デジタル関連グループ企業のバリューアップに従事いただきます。
双日株式会社/総合商社での 主計サポート業務/会計監査ガバナンス業務/DX戦略推進/税務調査対応の求人
【ポジション概要】
〈主計課〉
・業務全般に亘る課長のサポート
・制度決算、開示業務(単体/連結)、監査対応
・会計基準改正対応(会計基準策定機関への意見発信/新基準適用準備等)
〈グループ統轄課〉
・グループ会社の会計税務ガバナンス業務
・国際税務(移転価格、PE課税、グローバルミニマム課税、等)
・連結決算業務
〈DX推進課〉
・本社やグループ全体の会計・決算・税務等に関するDX戦略推進
・DXを活用した業務プロセスの見直し、効率化・高度化を推進
・DX人材の育成支援
〈税務課〉
・税務申告/納税、税務調査対応業務(法人税、消費税、所得税)
・税効果会計
・税務コミッティ(日本貿易会)対応