公共×DXの現状と課題

KOTORA JOURNAL | 公共×DXの現状と課題
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新型コロナウイルス感染症の蔓延による社会活動の制限を受けて、社会ではDXに対する要請が急激に高まりました。自治体においてもこれは例外ではなく、各自治体が申請のオンライン化、窓口業務のデジタル化、業務におけるペーパーレス化と自動化など様々なDX施策を打ち出すこととなりました。しかしながら、公共分野におけるDXは各自治体によってその進みが大きく異なり、遅れている自治体はほとんどデジタル化を実現できていない状況もあります。

本記事では公共におけるDXの現状と、なぜDXを進められない自治体があるのかについて見ていきます。また、最後には実際の事例についてもいくつかご紹介します。

公共DXの意義

公共DXが実現されると、行政サービスにおける各種申請や登録の時間が削減されるとともに、オンライン申請などが普及されれば役所への移動の手間も省くことができるなど市民の利便性を高めることができます。役所職員の業務も削減され、市民サービスの向上に割ける時間が増加することも相まって市民生活に大きなメリットを与えます。

また、データの利活用や民間企業との協業を通じて新たなサービスの展開など市民の利便向上のための施策を打てる可能性が拡大することもメリットとしてあげられます。

現状マンパワーに頼っているインフラサービスや公共交通サービスの人による業務の量を削減することで、少子高齢化に伴う人手不足に対応し、サービスの縮小や廃止を防ぐことも期待されます。

公共DXの現状

上記のように様々な意義を有する公共DXですが、現状はどうなっているのでしょうか。

コロナ禍を受けた需要の急拡大

2020年頃からの新型コロナウイルス感染症の流行を受け、政府が外出の自粛を求めたことで、それまで役所に出向くことが求められていた多くの手続きがオンライン化される必要性が急速に高まりました。この流れを受けて、地方公共団体においてはサービスのデジタル化の流れが拡大し、オンライン申請できるサービスが普及しました。また、自治体職員においても特に大規模都市や都道府県においてテレワークが拡大し、2021年には都道府県と政令指定都市におけるテレワーク導入率は100%となりました。一方で、地方都市においては導入に後ろ向きな都市も多く残り、地域間・規模間での対応の差が見られました。

自治体規模による差

日本経営協会による調査によれば、自治体の規模によってDXに対する熱量や進捗度は異なってきています。

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DXの推進に積極的な首長の割合は特に地方自治体において、その規模が大きいほど高く、逆に小さい自治体では積極性が低下し、消極的な自治体も増加していることが読み取れます。この傾向は職員全体の意識を測る調査においてはより顕著に現れており、県庁と人口20万人以上の市区において消極的だと回答した自治体がゼロだったのに対し、町村においては積極的と回答した自治体より消極的と回答した自治体のほうが多いという結果になりました。

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また、自治体が現在興味を示している内容も市区町村によって異なった傾向を示しています。大都市においては「民間企業との連携」や「住民への周知」といった内容に興味を示す自治体が小規模自治体と比べて多く、DXの地盤固めがある程度終わってきたことが窺えます。一方で、町村においては「DXの推進手順」に関心が置かれていたり、小規模自治体が「職員の意識改革」に関心を示す割合が大規模自治体と比べて高かったりすることから、大規模自治体と比べて情報収集機運醸成にリソースを割く段階である自治体が多いことが予想されます。

(参考:日本経営協会:「日本の自治体DX推進状況調査」https://dxhakusho.com/3984/ )

自治体DX推進計画

社会におけるDX推進の機運が醸成されたことならびに、新型コロナウイルス対応においてデジタル化の遅れによる様々な課題が生じたことを受け、総務省は2020年12月に「自治体DX推進計画」を示しました。同計画では体制構築、重点取組事項、その他取組事項などに関して記述されており、全国の自治体が積極的にDXに取り組んでいくことが求められています。

重点取組事項としては以下の6つが示されました

1.自治体フロントヤード改革の推進

2.自治体の情報システムの標準化・共通化

3.マイナンバーカードの普及促進・利用の促進

4.セキュリティ対策の徹底

5.自治体のAI・RPAの利用促進

6.テレワークの推進

自治体は同計画に基づいてDXを進めていくこととなり、特に、情報システム標準化やマイナンバーカードの普及は国・自治体が一丸となって取り組むこととなりました。

課題

デジタル人材の不足

都道府県を含む多くの自治体においてDXに取り組むデジタル人材が不足してます。日本は優秀なIT人材がIT人材がIT企業に集中する傾向にあり、自治体・民間企業問わず人材は不足する傾向にあります。また、現業職員を登用しようにも通常業務の多さや人材の不足の影響で、内部人材の育成に割ける時間もなければ教えることのできる人材もいないという課題も有り、ITに取り組む人材が増えない悪循環に至っています。

町村の上層部におけるIT人材の不足は更に深刻であり、仮に下級職員の中にITリテラシーの高い職員がいたとしても上層部の理解が得られず大きな動きを打ち出しにくい場合もあるようです。

行政特有の文化

行政特有の文化も導入のハードルとなっているようです。行政においては部署ごとに導入されているシステムが異なることや、同システムを用いていても過度なカスタマイズが行われており、一元的なシステムとは程遠い状況にある場合も珍しく有りません。こうしたシステムは統合の際に障壁となりえます。

また、失敗をおそれて先例を求める文化もDX機運の高まりに対する障壁となっています。行政は市民の税金で、市民に対してサービスを提供するため、投資が失敗することを過度に恐れ、新しいイノベーションが起こりづらい状況に陥っています。そうした中で、成功した事例を求める文化が醸成されており、「周りの自治体における成功事例の積み上げがないと実施しない」「既存の紙システムで成功しているから変革したくない」といった意見が現場から上がり、DXに踏み切れない実態も一部で存在しています。

財源確保

DXには多額の費用が必要となりますが、その財源確保も行政にとって課題となっています。過疎化の進展している地方では人口減少に伴う税収減を受けて地方債の発行が続き、DXへの費用捻出が極めて厳しい市町村も少なくありません。逆に大都市においては、DX投資の額と影響が大きいために首長のリーダーシップによって、財源確保や投資に積極的な都市と消極的な都市の二極化が生じているのではないかと言われています。

いずれにしても、住民の税金で運営しているという特性上、民間ほどチャレンジングな投資には挑戦できない都市が多いと言うことができるでしょう。

デジタル・ディバイド

デジタル・ディバイドはインターネットやデジタル機器を使える人とそうでない人との間で生じる利益格差など様々な格差のことを指します。

公共DXはその公共性という特徴から、デジタル・ディバイドへの配慮が必要となり、導入における1つのハードルとなっています。高齢者や障害者、在留外国人、インターネットにアクセスできない住民など都市コミュニティにおいては様々な属性の住民が想定されるため、一般企業におけるDXでは想定されない多様性対応が必要となります。対応策としてはUIデザインの変更などのソフト面に加えて、相談窓口の設置などのハード面も必要になりますが、それらの整備にかかるノウハウが無いことが障壁の1つになることもあるようです。

公共DX導入事例

以上のように導入には壁がある自治体におけるDXですが、導入が進んでいる自治体も少なく有りません。ここでは、特に人手不足に悩む地方におけるDXの導入事例をいくつかみていきます。

北見市・「書かないワンストップ窓口」

各種申請書のデジタル化に合わせてバックヤードのフローも見直した事例です。

以前は複数の課をまたぐ申請をする際に「カウンターの移動」「各担当課での記載」「各担当課での説明」の3ステップを繰り返す必要があり、住民に負荷がかかっていたほか時間がかかり不便だという課題が存在しました。そこで、窓口支援システムを導入し、RPAを導入したバックヤード処理(住基システムへの異動入力など)の一部自動化に成功したほか、来庁者は自分で申請書を作成しなくても窓口で印刷された書面を確認し署名するだけで手続きを完了できるようになりました。

(参考:内閣官房「書かないワンストップ窓口」)

朝来市・AIによる水道管路劣化診断

管路情報と土壌や地形などのビッグデータを組み合わせて解析し、AIによる管路劣化診断を行うことで、破損リスクに応じた更新を行うことができるようになった事例です。

朝来市は地理条件の厳しい山間部に位置しており、維持管理に係るコストが大きいほか、担当職員数の減少もあり、現在のままでは更新需要のピークに対応しきれない状況にありました。そこで、管路劣化診断をAIを用いて行うことで更新費用の最適化(削減)と少数人員での優先度に応じた管路更新を実現することができました。

(参考:フラクタ「朝来市水道管路診断」)

別府市・ノーコードツールを用いたシステム内製事例

ノーコードツールの導入により、システム開発の期間・費用を短縮できたほか、原課の要望が的確に反映されたシステムの導入に成功した事例です。

内製システムでプレミアム付き商品券予約販売システムや避難所運営支援システムを構築し、電話対応などの業務量を削減できたほか、市民の満足度向上にも活用することができました。また、繰り返しの作業においてRPAを用いたシステムの開発を行ったことで導入業務の中で6000時間(縮減率78%)の業務負担軽減を実現し、職員が他の業務に当たれる時間を大幅に増やすことに成功しました。

(参考:総務省「自治体DX推進参考事例集」)

おわりに

公共分野におけるDXは多くの市民にとって利便性の向上という大きなメリットを与えることができる他、業務量の実質的な削減により人口減少に伴う人手不足にも対応することのできるソリューションとなっています。

コトラでは、公共分野におけるDXに関わる求人も取り扱っており、求職者の皆様のバックグラウンドを活かせる職種をご紹介することが可能です。官公庁や公共向けサービスでのご経験不問やIT業界経験不問のポジションも多くお取り扱いしておりますので、少しでもご興味ございましたら是非一度ご相談くださいませ。

コンサルタント紹介

consultant photo m yusuke namiki - 公共×DXの現状と課題

エグゼクティブコンサルタント 並木 雄助
[ 経歴 ]
大学卒業後、大手計測器メーカーに入社。自動車試験装置の設計開発に従事した後、自動車部品(tier1)メーカーに転職。防振製品の研究開発や自動車メーカーへの出向を経験した後、現職
[ 担当業界 ]
メーカー、製造業、コンサルティングファーム

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コンサルタント 吉田 宗平
[ 経歴 ]
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、外資系IT企業に入社。SEとして貿易システムプロジェクト等に従事した後、コトラに入社。
[ 担当業界 ]
IT業界、コンサルティングファーム等

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コンサルタント 伊藤 駿成
[ 経歴 ]
東京工業大学にて修士課程修了後、大手財閥系メーカーに入社。プロセスエンジニアとしてプラント設計に従事。その後米系金融機関にて個人・法人営業を経て、現職。
[ 担当業界 ]
メーカー、製造業、コンサル、金融機関等

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コンサルタント 村松 航也
[ 経歴 ]
広島大学教育学部卒。現在はESG領域、パブリックセクター、コンサルティングファーム、金融機関を担当。
[ 担当業界 ]
ESG領域、パブリックセクター、コンサルティングファーム、金融機関

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パートナー 宮崎 達哉
[ 経歴 ]
信州大学工学部卒、ゼネコンでの施工管理者を経験した後、三重県庁にて産業政策の企画・運営業務に従事。県庁在籍中に、経済産業省資源エネルギー庁及びNEDOにてエネルギー政策に係る新規事業立案や規制・制度の合理化に従事。デロイトトーマツグループでの地方創生及び教育分野のコンサルティング業務を経て現職。
[ 担当業界 ]
ESG/サステナビリティ領域、シンクタンク、コンサルティングファーム、監査法人、パブリックセクター、教育、経営層、管理系人材、技術者

この記事を書いた人

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村松航也

[ 経歴 ]
広島大学教育学部卒。現在はESG領域、パブリックセクター、コンサルティングファーム、金融機関を担当。

[ 担当業界 ]
ESG領域、パブリックセクター、コンサルティングファーム、金融機関