登記された瞬間から始まる責任—肩書きだけの役員には何が求められる?

肩書きだけの役員とは?

役員として名前を貸す行為の背景

名目的な役員、いわゆる「肩書きだけの役員」とは、実際の業務執行には関与せず、名前だけを登記されている取締役を指します。このような立場が求められる背景にはいくつかの理由があります。例えば、中小企業では法人の信用力を高めるため、社会的地位の高い知人や親族に名前を貸してもらうケースがあります。また、事業承継の過程で円滑な引き継ぎを目的として名目取締役を設定する場合も少なくありません。

一方で、名目的な役員になることで得られる報酬がない場合や、役員報酬が形式的に設定される場合も多く見受けられます。実務に関与せずに役員として名前を貸す行為は、短期的には経済的負担が少なく、企業側にとっても便利に思えるかもしれません。しかし、後述するように、名目的な役員であっても法的な責任を免れることはできない点に注意が必要です。

名目的な役員と実務責任の違い

名目的な役員と実際に業務を遂行する役員の間には、役割の明確な相違があります。しかし、法的な観点から見ると、名目的であることや実務に関与しないことは実際には大きな違いを生みません。すべての取締役には「善管注意義務」という責任が課せられ、会社の業務監督や損害防止に努める義務があります。このため、「名前だけ」であっても、役員としての立場から逃れることはできません。

例えば、実務に関与していないとしても、他の取締役が行った不祥事や経営ミスに対して連帯責任を問われるリスクがあります。この際、「実態を知らなかった」「実務には携わっていない」という主張だけでは責任逃れができないのが現実です。そのため、報酬がない役員であっても、責任の重さを十分に自覚する必要があります。

名目的取締役の登記と社会的影響

名目的な取締役として名前を登記されることは、登記簿謄本などの公的な資料にその名前が記載されることを意味します。これにより、企業外部の利害関係者に対して、取締役としての信頼性をアピールする効果があります。しかし同時に、名目的取締役として名前を貸した個人にも、社会的な責任が伴います。

例えば、会社が倒産した際や不祥事が発生した際には、社会的な信用を損なう結果となる可能性があります。「報酬は受け取らず名前だけを貸していただけ」といった理由では、登記上の責任から免れることはできないのです。もしトラブルが起きた場合、名目的取締役も法的および社会的に追及されるリスクがあるため、肩書きが与える社会的な影響を軽視してはいけません。

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役員の法的な責任とリスク

会社法上の役員の義務と責任

名目取締役であっても、会社法上の役員としての義務と責任を担うことになります。特に、会社法では役員に対して「善管注意義務」と「忠実義務」を課しています。善管注意義務とは、会社の業務執行や他の取締役の監視において、通常求められる注意を怠らないことが義務付けられている責任のことを指します。また、忠実義務とは、会社や株主の利益を最優先に考え、誠実に業務を行うよう求められるものです。

たとえ実務に関与していなくても、役員として登記されている限り、法律上は同等の責任を負うため、「名前だけを貸している」という認識では済まされない場合があります。特に、中小企業では名目取締役が問題となりやすく、このような状況においても自らの法的義務を理解し、適切な行動を取ることが重要です。

損害賠償責任—善意・無過失でも逃げられないリスク

名目取締役であっても、会社の経営において問題が発生した場合、その責任を免れることは容易ではありません。具体的には、自身が善意であり、また業務に過失がなかったと主張したとしても、会社法上の損害賠償責任を問われる可能性があります。たとえば、他の取締役が行った業務執行について必要な監視を怠った場合、その怠慢が原因で会社や第三者に損害が生じたとされると、責任を追及されることがあります。

また、名目取締役が役員報酬を受け取っている場合、受けた報酬に対して社内外からの批判や法的な責任が厳しく問われる傾向があります。一方で、役員名義でありながら報酬なしの場合であっても、任務懈怠に関する法的責任からは逃れることはできません。このようなリスクを十分に理解し、トラブルを未然に防ぐための予防策を講じる必要があります。

倒産時や不祥事時の名義貸し役員の責任

会社が倒産した場合や、不祥事が発覚した場合、名目取締役であってもその責任が問われる可能性があります。たとえば、会社の財務に異常が認められるにもかかわらず、それを見過ごして適切な対応を怠った場合、名目取締役であることを理由にその責任を免れることはできません。特に、中小企業の場合、経営者から名目取締役に責任を転嫁しようとするケースもあるため注意が必要です。

また、名目取締役として名前を貸す行為によって、社会的な信用や名誉が毀損される可能性も否めません。不祥事が世間に知られることで、役員としての肩書きに対する社会的な批判に晒されるリスクも含まれます。報酬を受け取らない役員であっても、法的責任や社会的影響から逃れることはできないため、役員名義を貸す行為には慎重な検討が必要です。

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名義貸しに対するトラブル事例

実務に関与しないまま負わされた損害賠償

名目取締役、いわゆる「名前だけの役員」として実務には関与していない場合でも、思いがけない損害賠償責任を負うことがあります。これは、会社法上、役員には会社運営を適切に監視する「善管注意義務」が課せられているためです。例えば、他の取締役が不適切な経営を行った結果、取引先に損害を与えた場合、名目取締役であってもその責任を免れない場合があります。「自分は何も知らなかった」では済まされない場合もあり、報酬なしであっても法的な責任を問われるケースが多く見られます。

税務調査で発覚する問題点

名目取締役が税務調査で問題の責任を問われる事例も少なくありません。たとえば、会社が税務申告に際して虚偽記載を行っていた場合、実際に経営に携わっていない名目取締役であっても、連帯して責任を追及される可能性があります。また、税務署は登記されている役員を基準として責任の所在を判断するため、「名前だけの役員」であってもその責任を逃れることは難しいのが現実です。こうした事態は名目取締役にとって大きなリスクとなり得ます。

友人や家族から頼まれるリスクの現実

友人や家族からの頼みで軽い気持ちで名目取締役を引き受けるケースは多いですが、非常に危険です。事業がうまくいっている間は問題が生じないことが多い一方で、倒産や不祥事の発覚時には重大な責任を背負うことになります。特に報酬なしで引き受けた場合、「名前だけ」として承諾した意識の甘さが後に深刻なトラブルを招く結果につながることがあります。信頼関係を守るための行為が、結果として自身の生活基盤を崩す原因となりかねないのです。

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リスクを回避するために重要なポイント

役員就任前に確認すべき事項

役員として名前だけを貸す行為は、安易に引き受けるとさまざまなリスクを負う可能性があります。まず重要なのは役員就任前に、その立場が持つ責任や義務を十分に理解することです。特に、名目取締役であったとしても、会社法上の善管注意義務や損害賠償責任を負う点を確認しましょう。また、会社の財務状況や運営状態、将来的な計画についてもしっかりとした説明を経営者から受けることが重要です。役員報酬が支払われるのか、無報酬なのかについても事前に確認する必要があります。無報酬の役員は法的には問題ありませんが、報酬がない分リスクに見合った待遇が全くない可能性も考慮すべきです。

名義貸しを引き受ける前に相談すべき法律専門家

名義貸しを依頼された場合には、そのリスクや責任範囲について理解するために法律専門家への相談を強く推奨します。専門家への相談では、取締役としての法的な責務、特に会社の運営が不透明な場合や倒産・不祥事時に想定される問題に関する助言を受け取れます。加えて、役員就任自体がどのような登記手続きに影響を与えるのか、また自分の立場がどのように他人や社会に影響を及ぼす可能性があるのかも確認しておくべきです。法的責任を適切に理解することで、報酬がない場合でも引き受けるべきか否かを冷静に判断する材料を提供してくれます。

辞任の手続きのタイミングと重要性

万が一、名目取締役を引き受けた後に辞任を決意した場合、辞任手続きは速やかに行うべきです。辞任の際には、正式な辞任届を会社に提出し、その内容を基に法務局で役員変更登記を行う必要があります。この手続きを怠ると、形式上はまだ役員である状態が続き、過去や将来の会社トラブルに巻き込まれる危険性があります。また、退任後も一部の責任を追及される可能性があるため、辞任手続きのタイミングと方法についても事前に法律専門家に確認すると安心です。特に名前だけの役員で報酬がない場合、トラブルに巻き込まれるメリットが皆無ですので、迅速な辞任と登記変更が非常に重要になります。

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名目的役員として果たすべき役割

最低限の経営知識を持つことの重要性

名目的な役員として名前だけ登記される場合でも、最低限の経営知識を持つことは非常に重要です。現代の経済環境では、名目的な役員であっても会社法上の責任を免れることはできません。特に善管注意義務が定められており、他の取締役の業務執行状況を正しく監視する責任が課されるためです。経営知識がないまま役員報酬なしで役職を引き受けると、不測のトラブルが発生した際にリスクを理解できず、重大な責任を負う可能性があります。

例えば、会社が倒産した場合、名義貸しであっても取締役としての損害賠償責任を問われることがあります。そのため、ビジネスに関する基本的な法的規定や財務の読解力などを身につけておくことで、危機回避能力を高めることが求められます。また、名前だけの役員として登記される立場であっても、企業活動が社会や第三者にどのような影響を与えるかを理解し、責任を果たす準備をすることが大切です。

登記された肩書きが与える社会的影響を考える

役員として名前だけが登記される場合でも、その肩書きが社会に与える影響を深く考える必要があります。取締役として登記されると、その肩書きだけで社会的信用が伴い、会社の活動を支持する役割を果たすことになります。一方で、会社が不祥事を起こしたり、社会的信用を失墜させたりした場合、名目的役員であってもその責任の一端を問われることがあります。

特に名目取締役は、社会から「会社の内部事情を理解している立場」という認識で見られることが多く、実際には経営に携わっていない場合でも批判や社会的責任を負う場面に立たされる可能性があります。安易に「名目的な役職だから」と考えず、肩書きが企業外のイメージや法的な対第三者責任にどのように影響するかを理解することが重要です。

会社経営における名目的役員の本当の役割を理解する

名目的役員として活動する場合、その役割を正しく理解することが必要です。名目的役員は、単に名前だけが取締役として記載されるのではなく、会社の信用向上や事業の円滑な運営に貢献する役割が期待されています。そのため、単なる形式的な役割とは異なり、経営の全体像を把握し、必要なときに適切な助言ができる立場であることが望まれます。

さらに、名目的役員であっても取締役としての監視責任が求められるため、会社の状態を定期的にチェックする姿勢が重要です。報酬がないとしても、自身の名前が登記された以上はその立場を果たすことが求められます。また、法的義務を果たしながらも、無用なリスクを避けるためには企業活動の透明性や経営状況の適切な把握が必要です。会社経営における本来の役割をしっかりと認識することが、名目取締役としての責任を果たす第一歩です。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

金融、コンサルのハイクラス層、経営幹部・エグゼクティブ転職支援のコトラ。簡単無料登録で、各業界を熟知したキャリアコンサルタントが非公開求人など多数のハイクラス求人からあなたの最新のポジションを紹介します。