BaaS最前線:「アイマス」コラボのBuzz BANK等が示す金融×ITの新戦略 

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「エンタメ×金融の融合が、単なる“機能提供”を超えてブランド体験を再設計する」

2025年7月1日、三菱UFJ銀行のBaaS基盤「&BANK」上で展開するデジタルバンクアプリ「Buzz BANK」は、20周年を迎えたバンダイナムコエンターテインメントの人気IP、『アイドルマスター』との大型コラボをローンチしました。ファンが愛着を持つキャラクターを“きせかえ”として金融アプリ上で体験できる仕掛けや、限定グッズ(オリジナル名刺ケース)をもらえる口座開設キャンペーンなどを通じて、金融行動そのものを「コンテンツとの接点」に変える試みです。このコラボは、BaaSが単に銀行機能を外部に提供する“パイプ”ではなく、ブランドと金融の共創によって顧客エンゲージメントを再定義するプラットフォームになり得ることを象徴しています。

なぜ「アイマス×Buzz BANK」コラボが戦略的に重要なのか

従来の金融サービスは、“お金を扱う”という機能に重きが置かれていましたが、Buzz BANKのアイドルマスター連携は、金融機能をファンの感情的な動機と結びつけ、「好き」という体験の延長線上に貯蓄や決済といった行動を置くことで、エンゲージメントの深度を質的に変えています。キャラクターを通じたパーソナライズ(きせかえ)や、限定アイテムを媒介にした口座開設インセンティブは、金融の“利用”をコンテンツ消費と同列に扱う設計であり、BaaSが可能にする再構成(リバンドリング)の最前線といえます。

この種のコラボは、単にユーザー数を稼ぐキャンペーン以上の意味を持ちます。ファンの文脈(=アイドルマスターへの愛着)を活かして金融行動を誘導する“文脈に埋め込まれた金融(Embedded Finance)”の成功例であり、「金融が生活/趣味の延長線上にある」形を具体化しているのです。カスタマーライフタイムバリューの再定義、ブランドロイヤルティと金融のクロスセル、そして“好き”で動く層へのリテンション設計という観点で、他業種のBaaS活用にも示唆を与えています。

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背景:BaaSはどうしてこうした共創を可能にするのか

Banking as a Service(BaaS)は、伝統的な銀行のコア機能(口座、決済、与信、カード発行等)をAPIでモジュール化し、外部の非金融事業者が自社の文脈の中に“必要な金融”を統合できる仕組みです。いわば銀行機能のアンバンドリング(分解)と、それらを新しい体験に再結合するリバンドリング(再構築)を可能にするプラットフォームであり、Embedded Financeと密接に連動して進化しています。

・アンバンドリング(分解): 伝統的な銀行が提供してきた「預金」「融資」「決済」といった一体のサービスを、APIなどを通じて個別の「機能モジュール」として提供できるようにすること。例えば、単に「振込機能」だけを外部に提供するといったイメージ。

・リバンドリング(再構築): 個別の金融機能モジュールを、非金融事業者が自社のサービスやブランドの中に自由に組み合わせて、顧客にとって最適な新しい体験を作り出すこと

この構造のおかげで、Buzz BANKは三菱UFJ銀行自身が持つ金融ライセンスやインフラを自前で全面に出すのではなく、エンタメIPと掛け合わせる形で“金融付きのブランド体験”を柔軟に設計できました。金融機能は裏側にありつつ、ユーザーにとっては「アイドルとつながる」感覚の延長で貯めたり使ったりする体験になります。BaaSが「機能提供」で終わらず、外部の文脈を織り込むことで新しい価値を生むインフラへと変化していることがここに現れていると言えるでしょう。

単に銀行が外部に機能を開放するだけでなく、銀行側にも新規顧客接点の拡大というメリットをもたらす双方向の価値交換を可能にしているのです。

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筆者も口座を作ってみました。ネットバンクとは思えない見た目で、利用が楽しくなりそうだと感じました。

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市場インパクトの大きいBaaS事例 3選

具体的な事例を通じて、他のBaaSがどのように機能し、どのようなインパクトを与えているかを見ていきましょう。

JRE BANK(JR東日本×ビューカード×楽天銀行のBaaS連携)

2024年5月に開始されたJRE BANKは、JR東日本グループが楽天銀行のBaaSを活用して立ち上げたデジタルバンクです。ビューカードを銀行代理業者とし、グループ内の交通・ポイント資産(JRE POINTや運賃優待)と銀行機能を組み合わせることで、開始直後から急速な口座獲得を実現しました。これは、異業種が金融を自前で構築せずにBaaS経由で顧客関係を再設計し、ブランドと金融のシナジーを効果的に引き出した事例と言えるでしょう。

dスマートバンク(NTTドコモ×三菱UFJ銀行)

dスマートバンクは、NTTドコモが三菱UFJ銀行との連携により提供する、ドコモユーザー向けのデジタル金融サービスです。ドコモの顧客基盤とdポイント経済圏を活かし、三菱UFJ銀行の口座と連携することで、ユーザーはd払い残高へのチャージや、ドコモのサービス利用状況に応じた金利優遇といった特典を受けられます。これは、携帯キャリアという巨大な顧客接点を持つ企業が、既存の銀行のBaaS的な機能提供を受けることで、自社エコシステム内で金融サービスを深化させ、顧客の利便性と囲い込みを強化する好事例です。

NTTドコモは、BaaS事業で市場規模の大きい住信SBIネット銀行を買収したことで話題になりました。今後どのようなサービスを打ち出すか、業界で注目されています。

Grab(東南アジアにおけるEmbedded Finance/BaaS的展開)

東南アジアで配車・フードデリバリープラットフォームとして知られるGrabは、BaaS的なアプローチで金融サービスを展開しています。ドライバーや小規模事業者向けの融資・保険を、自社のユーザーデータと組み合わせて提供することで、単なる決済埋め込み以上の金融サービスを実現しています。これにより、金融包摂と事業者支援を両立させ、地域の「収益エンジン」としての地位を確立し、自前でデジタルバンクを持たずとも顧客体験を再定義できる設計として、グローバルでも注目されています。

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BaaS時代に求められるIT知見

BaaSの進化は、金融サービスとテクノロジーの融合を加速させています。金融のDXが進んでいる中で、さらにITの知見が重要な役割を果たすようになっているのです。もはや、金融を語る上で、ITは欠かせない存在となったと言えるでしょう。

具体的には、以下のような知見が重視されます。

  • APIエコノミー理解と設計力: BaaSの根幹は、銀行の機能をAPIとして提供し、外部と連携することにあります。そのため、APIの設計、連携、そしてシステムの耐障害性やセキュリティ(例: OAuthなどの認可フロー)を考慮した運用ができる能力は、サービスの信頼性と拡張性を確保する上で不可欠です。
  • クラウドネイティブ/フルクラウド基盤への知見: MUFGが新しいデジタル銀行で採用するようなフルクラウド環境(例: Google Cloud上の勘定系システム)での構築や運用経験は、今日の金融テクノロジーにおいて差別化の大きな要素となります。スケーラビリティと柔軟性を追求する現代の金融システムにおいて、クラウド技術の深い理解は必須です。
  • 金融UXとブランド融合の設計: JRE BANKやBuzz BANKの事例が示すように、金融サービスを既存のブランドやユーザー体験にシームレスに組み込む設計力は、顧客のエンゲージメントを高める上で不可欠なスキルです。テクノロジーを通じて、金融をより身近で魅力的なものに変える視点が求められます。
  • 規制・コンプライアンスの実践的理解: BaaSの基盤には銀行のライセンスがあるため、KYC(顧客確認)、AML(マネーロンダリング対策)、データ保護といった金融規制やコンプライアンスの実務をテクノロジーの側面から理解し、システムに落とし込めることは、サービスの合法性と信頼性を担保する上で極めて重要です。
  • パートナーエコシステム構築と共創: 「&BANK」のような共創型プラットフォームでは、外部企業との協働によるプロダクト開発やアライアンス設計の経験が、プロジェクトを成功させる上で大きな価値を持ちます。技術的な側面だけでなく、ビジネスパートナーとの連携を円滑に進める能力も重要です。

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おわりに

Buzz BANKと『アイドルマスター』のコラボは、BaaSが単なるバックエンドの機能提供を超え、ブランド体験と金融体験を融合させる共創インフラとして機能し得ることを鮮明に示しました。

BaaSは単なる技術の潮流ではなく、金融機能の分解と再構成を通じて、ブランドや顧客体験を再設計することを意味します。JRE BANKや&BANKのような事例を起点に、異業種と金融機関がどのような「共創」を図るかが、今後の成長を左右することになるでしょう。

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この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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