コトラ（広報チーム） 
事業承継の基本：その定義と重要性
事業承継とは何か？継承との違いを解説
「事業承継」とは、経営者が後継者に対して会社の経営を引き継ぐプロセスを指します。これには、経営権や資産だけでなく、経営理念や会社の文化なども含まれます。一方で、「継承」は具体的な財産や権利といった物的要素を引き継ぐことを指すため、両者には微妙な違いがあります。事業承継は、会社全体の将来を見据えて、抽象的な理念と具体的な資産の両方を後継者に受け渡す包括的なプロセスです。
なぜ事業承継が注目されているのか？
近年、事業承継が注目されている背景には、中小企業の経営者の高齢化が進んでいることがあります。例えば、中小企業庁のデータによると、2025年までに約245万人の中小企業経営者がリタイア予定で、その約半数が後継者未定とされています。これにより、多くの企業が廃業に追い込まれるリスクが浮上しています。また、少子高齢化や後継者不足といった社会問題も、この課題をより深刻なものにしています。
事業承継で引き継がれるもの：有形資産と無形資産
事業承継においては、「有形資産」と「無形資産」の双方を引き継ぐことが重要です。有形資産には不動産や設備、在庫などの具体的な資源が含まれます。一方、無形資産には経営ノウハウや顧客ネットワーク、ブランド価値、経営理念、企業文化などが該当します。特に無形資産は企業の持続的成長において重要な役割を果たすため、後継者がこれらを適切に理解し、活用できるかが事業承継の成否を左右します。
事業承継が中小企業に与える影響
事業承継は、中小企業の存続と発展に大きな影響を与えます。後継者が適切に育成され、スムーズに引き継ぎが行われることで、企業はその競争力や雇用を維持でき、地域経済にも貢献することができます。しかし、後継者が定まらず適切な承継ができなかった場合、廃業につながる可能性もあります。特に日本では、中小企業が国内企業全体の大部分を占めるため、この課題は国家経済にも波及する重要なテーマです。
失敗した場合のリスクとは？
事業承継が失敗した場合、企業にはさまざまなリスクが生じます。たとえば、後継者の選定を誤ると、経営が停滞したり、財務状態が悪化する可能性があります。また、経営理念や文化が適切に引き継がれない場合、従業員や顧客の信頼を失うこともあります。さらに、承継が遅れることによる廃業リスクも深刻です。これを防ぐためには、事業承継計画を早い段階から作成し、法的手続きや後継者の教育を含めた準備を進めることが重要です。
事業承継の種類と進め方
親族内承継：家族で事業を引き継ぐメリットと課題
親族内承継とは、会社の経営権や資産を経営者の家族に引き継ぐ方法です。中小企業においては、経営理念や会社文化を理解しやすい家族間での承継が伝統的に選ばれやすい傾向にあります。家族内での承継は、信頼関係が既に構築されているケースが多く、事業の理念や価値観をスムーズに次世代に伝えることができる点が大きなメリットです。また、家族内での調整が主となるため、外部リソースの介入を最小限に抑えることができます。
一方で、親族内承継には課題もあります。特に、家族間での承継に対する意識の違いや、後継者候補の能力不足が問題となる場合も少なくありません。また、贈与税や相続税などの税負担も考慮する必要があり、これらをクリアするためには、事業承継税制の活用を含めた計画的な準備が欠かせません。このように、家族内で事業を引き継ぐには、多角的な観点での配慮が必要です。
社内承継：従業員への引き継ぎを考える
社内承継は、現在の従業員の中から信頼できる人物を後継者として選定し、事業を引き継ぐ方法です。この場合、従業員は既に事業内容や会社の運営に精通しているため、経営の引き継ぎが比較的スムーズに進むことが期待されます。また、従業員との間の信頼関係が既に築かれているため、外部の第三者に売却するよりも社内の安定性を維持しやすい傾向があります。
ただし、社内承継には課題もあり、特に経営者としてのスキルや資質が備わっている人物を見極めることが重要です。また、引き継ぎ後の従業員間の人間関係や、組織内の統率力の維持が難しい場合もあります。そのため、候補者の教育や育成を計画的に進め、適切なタイミングで責任を移譲する準備が必要です。
M&Aによる事業承継：第三者への売却の選択肢
M&A（合併・買収）を活用した事業承継は、経営資源を外部の企業や第三者に引き継ぐ方法です。近年、後継者不足の課題に対応する選択肢として、中小企業でのM&A事例が増えています。この方法を選ぶことで、事業をさらなる成長に導くパートナーを見つけることができ、企業価値向上が期待されます。また、親族内や社内で後継者が見つからない場合でも、事業を存続させる手段として有効です。
一方で、M&Aには慎重な準備と交渉が求められます。企業価値の正確な評価や、適切な買い手を選定するプロセスに時間と労力がかかります。また、買い手との文化やビジョンの違いによる軋轢が発生する可能性があるため、契約前に双方の合意形成を徹底することが大切です。
複数の方法を組み合わせた事業承継の事例
近年では、親族内承継、社内承継、M&Aを組み合わせた柔軟な事業承継の事例も増えています。例えば、親族内承継を基本としつつ、事業の一部を第三者へ売却して資金を捻出するケースや、社内承継とM&Aを併用して事業規模の拡大を図るケースが挙げられます。このようなアプローチにより、それぞれの方法のメリットを活かし、リスクを分散させることが可能です。
複数の方法を組み合わせる場合には、専門家と連携しながら計画的に進めることが重要です。後継者教育や資産移転、税制の活用など、全体のバランスを考慮した戦略が成功のカギとなります。
各方法のメリット・デメリット
事業承継の方法それぞれにメリットとデメリットがあります。親族内承継は、信頼関係や理念の継承がしやすい反面、後継者の資質に依存するリスクがあります。一方、社内承継は安定性が高いものの、適切な後継者がいない場合は実現が困難です。M&Aは事業成長の可能性を生む選択肢ですが、買い手選定や契約条件によっては期待した成果が得られないこともあります。
どの方法を選ぶにせよ、事業承継を成功させるためには事前の計画と準備が不可欠です。また、必要に応じて専門家を活用し、最適な方法を選択することが重要です。
事業承継を成功させるための準備と手順
事業承継計画書の作成方法とは？
事業承継を成功させるためには、計画的な準備が必要です。その第一歩が「事業承継計画書」の作成です。この計画書では、現経営者が後継者に引き継ぐ経営資源や目標を具体的に記します。事業承継計画には、引き継ぎのスケジュールや課題の明確化が含まれ、経営の安定的な継続を支える重要な役割を果たします。また、明確な計画を立てることで、利害関係者との円滑なコミュニケーションも進めやすくなります。
後継者の選定と教育：早期準備がカギ
事業承継には、信頼できる後継者の選定が必要です。後継者は単に経営権を引き継ぐだけでなく、企業の文化や理念も担う役割があります。そのため、早い段階から後継者の教育に取り組むことが成功の鍵となります。例えば、経営に必要なスキルや他社との人脈を育む機会を設け、実践を通じてノウハウを学ばせることが有効です。早期準備が不十分な場合、事業の移行がスムーズに進まず、企業全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
株式承継や資産移転：法的手続きの重要性
事業承継では、株式承継や資産移転といった法的手続きが重要です。特に非上場企業では、株式の譲渡に伴う贈与税や相続税の問題が発生します。これを適切に管理するために、事業承継税制の活用が推奨されます。また、経営権の集中や適切な資産承継を実現するためには、契約書の作成や合意形成など、弁護士や税理士の協力を得ながら進めることが望ましいです。こうした法的手続きを怠ると、トラブルの原因になります。
専門家の活用：税理士・弁護士・コンサルタントの役割
事業承継では、税理士や弁護士、事業承継コンサルタントといった専門家の活用が重要です。税理士は、事業承継税制の活用や税負担の軽減策について適切なアドバイスを提供します。弁護士は、契約書や法的手続きにおける助言を行い、紛争を未然に防ぎます。また、コンサルタントは、後継者育成や事業価値の最大化に向けた戦略を提案します。これらの専門家の知見を活用することで、事業承継を円滑に進めることができます。
利害関係者とのコミュニケーションの取り方
事業承継は、経営者と後継者だけでなく、多くの利害関係者との協力が不可欠です。例えば、従業員や取引先、金融機関などは、事業の継続に重要な役割を果たします。事業承継の計画を共有し、透明性を保ちながら信頼を築くことが求められます。また、場合によっては抵抗や不安を感じる者もいるため、対話を重ねて理解を得る努力が必要です。このような対応が、企業全体の士気を向上させ、事業承継の成功につながります。
税制や補助金の活用法：事業承継にかかるコストを抑える
事業承継税制とは？基本と最新の動向
事業承継税制とは、中小企業の事業承継を円滑に進めるために設計された税優遇制度です。この税制では、経営者が後継者に事業用資産や非上場株式を引き継ぐ際に課される贈与税や相続税が一定の条件下で猶予または免除されます。法人版事業承継税制と個人版事業承継税制の2種類があり、それぞれ企業の規模や資産構成に応じて適用が検討されます。
特に法人版事業承継税制の適用範囲としては、非上場株式への納税が最大100％猶予される点が注目されています。一方、2023年度の最新動向として、制度の適用条件が簡素化されたほか、新規申請窓口の拡充により利用者が増加しています。このような税制を活用することで、後継者が税負担により事業運営を圧迫されるリスクを大幅に軽減できます。
贈与税と相続税を軽減する方法
事業承継における贈与税や相続税の負担は、経営資源の円滑な移転において大きな課題です。しかし、これを軽減する方法として事業承継税制の活用が有効です。贈与税においては、後継者が生前贈与を受ける場合に税負担を軽減する特例措置を利用することが可能です。また、相続税についても、経営資源を継承した際に課される税金の納税を猶予する制度が整っています。
さらに、早期に対策を講じることで、計画的な贈与や分割承継が可能となり、税負担を抑えることができます。専門家のアドバイスを受けながら適切な手続きを進めることで、貸借対照表や財務状態を考慮した最適な方法を選択することが重要です。
事業承継のための補助金とは？利用するポイント
政府や自治体では、事業承継をスムーズに進めるための補助金制度を提供しています。この補助金は、財務コンサルティングや専門家の雇用費、事業承継に伴う経費などを対象としています。たとえば、「事業承継・引継ぎ補助金」は広く知られるものの一つで、親族内承継や第三者承継に必要な経費を支援します。
こうした補助金を利用するポイントは、事前の綿密な計画と申請書の記載を正確に行うことです。後継者育成や事業計画が補助金の審査基準に大きく影響するため、しっかりとした準備が対策のカギとなります。また、補助金の申請期間や条件が限定されている場合も多いため、最新情報を常に確認することが重要です。
税制や補助金を利用する際の注意点
税制や補助金を利用する際には、いくつかの注意点があります。まず、事業承継税制を活用する場合、最低限の要件を満たしているかを事前に確認することが重要です。たとえば、事業承継税制では、継続的な事業運営や一定期間の雇用維持が義務付けられるケースがあります。要件を満たさない場合、猶予されていた税金が一括で課されるリスクがあるため注意が必要です。
補助金についても、利用後の事業運営や成果の報告義務が設けられている場合があります。申請業務が煩雑になりがちなので、専門家にサポートを依頼することが効果的です。また、税制や補助金利用に伴う手続きが不明確な場合は、中小企業庁や税務署、地域の企業支援機関に問い合わせを行い、最新の情報に基づいて行動することをおすすめします。
