コトラ（広報チーム） 
はじめに
本記事の目的と概要
本記事では、「アセットマネジメント」と「信託銀行」という二つの金融機関について、その役割、業務内容、そして投資信託における関わり方を初心者にも分かりやすく解説します。それぞれの専門性や提供サービスの違いを明確にすることで、読者の皆様が自身の資産運用を考える上で適切な選択ができるよう支援することを目的としています。個別の企業名には触れず、業界全体の構造と機能に焦点を当てて解説します。
想定読者と記事の使い方
本記事は、金融業界に興味を持つ学生や就職活動中の皆様、これから資産運用を始めたいと考えている個人投資家の方々を主な読者として想定しています。金融知識のレベルについては、専門用語を避け、平易な言葉で説明することを心がけています。
アセットマネジメントとは
アセットマネジメントの基本と主な業務
アセットマネジメント（Asset Management）とは、その名の通り「アセット（資産）」を「マネジメント（管理・運用）」する業務全般を指します。個人投資家や機関投資家から資金を預かり、株式、債券、不動産といった様々な資産に投資・運用することで、その価値を最大化し、収益を投資家に還元することを目指します。
アセットマネジメントの主な業務は、大きく以下の二つに分けられます。
- 投資信託業務: 多くの投資家から集めた資金を一つにまとめ、国内外の株式や債券などに投資・運用し、収益を還元する業務です。
- 投資顧問業務: 投資家から委託を受けて、投資に関する助言や情報提供を行います。これには、アドバイスのみを行う「投資助言業務」と、アドバイスに加え投資実務も行う「投資一任業務」があります。
資産運用会社の役割・特徴
資産運用会社は「プロの投資家」として、投資家から預かったお金を投資・運用する会社です。彼らは「資金を適切に分配する役割」と「投資を代行する役割」を担い、専門的な事業調査を通じて、優れた事業を行う会社に資金を供給し、経済の発展に貢献します。また、投資の意思決定が難しい投資家に代わって投資を行い、余剰資金を市場に流入させることで企業活動を活発化させる役割も果たします。
資産運用会社の業務は、主に以下の3つの部門に分けられます。
- 運用部門: 顧客や市場と直接向き合い、中長期的な利益獲得のために資産を運用します。ファンドマネージャーが運用全般を指揮し、アナリスト、エコノミスト、ストラテジスト、トレーダーなどがそれぞれの専門性を活かして投資判断をサポートします。
- 営業部門: 投資家や機関投資家に向けて、運用を委任してもらうための営業活動を行います。個人投資家向けの投資信託を販売会社（銀行や証券会社）に提案する「投資信託営業」と、年金基金や金融機関などの大口顧客に運用商品を提案する「機関投資家営業」があります。
- ミドル・バック部門: 運用部門と営業部門を後方から支える役割を担います。リスクマネジメント、コンプライアンス、法務、経理、ITなど、会社の基盤を支える重要な業務を行います。
投資信託におけるアセットマネジメント会社
投資信託は、投資家から集めた資金をプロが運用する金融商品であり、アセットマネジメント会社はこの投資信託の「委託者（運用会社）」として中心的な役割を担います。アセットマネジメント会社は投資信託の企画・商品開発に関与し、実際に運用が開始されてからは、投資先を選定し、信託銀行（受託会社）に売買などの運用を指示します。
信託銀行とは
信託銀行の仕組みと主な役割
信託銀行は、通常の銀行業務（預金・貸付・為替）に加えて、「信託業務」と「併営業務」を行うことができる金融機関です。信託業務とは、個人や法人の財産を預かり、その財産を管理・運用する業務を指します。財産を預ける側を「委託者」、預かる側を「受託者」、そして運用された財産から利益を受け取る人を「受益者」と呼びます。
信託銀行の主な役割は、顧客の資産を保護し、信託目的に従って適切に運用・管理することです。信託された財産は、信託銀行自身の財産とは別に「分別管理」されるため、万が一信託銀行が破綻した場合でも、顧客の資産は保全される仕組みになっています。
信託業務・銀行業務・併営業務の違い
信託銀行は、以下の3つの主要な業務を営むことが特徴です。
- 銀行業務: 一般的な銀行と同様に、預金、貸付（融資）、為替（送金など）といったサービスを提供します。
- 信託業務: 個人や企業から財産（金銭、有価証券、不動産など）の所有権を移転させ、信託銀行が受益者のために管理・運用する業務です。投資信託の資産管理、遺言信託、年金信託などが含まれます。
- 併営業務: 信託業務に付随する業務で、信託銀行のみに許されています。具体的には、遺言書の保管や遺言執行を行う相続関連業務、不動産の仲介や査定を行う不動産関連業務、株主名簿の管理を行う証券代行業務などがあります。
信託銀行が提供する代表的なサービス
信託銀行は多岐にわたるサービスを提供しており、個人のライフイベントから企業の事業活動まで幅広くサポートします。代表的なサービスには以下のようなものがあります。
- 投資信託: 投資家から集めた資金を専門家が運用する商品において、信託銀行は主に資金の保管・管理を担う「受託者」の役割を果たします。
- 金銭信託: お客様から預かったお金を信託銀行が一定の方針のもとに運用する金融商品です。
- 遺言信託・遺産整理・コンサルティング: 遺言書の作成サポート、保管、執行、遺産整理、相続に関するアドバイスなど、相続に関する一連のサービスを提供します。
- 企業年金: 企業年金の資産管理・運用や年金支払いに関する業務を行います。
- 不動産業務: 不動産の売買・賃貸の仲介、市場価格調査、コンサルティングなどを行います。
- 証券代行業務: 企業の株主名簿作成・管理、配当金支払い、株主総会サポートなどを行います。
資産運用におけるアセットマネジメント会社と信託銀行の違い
投資信託における三者（運用会社・信託銀行・販売会社）
投資信託の運用においては、主に「運用会社（アセットマネジメント会社）」「信託銀行（受託会社）」「販売会社（証券会社や銀行）」の三者が関与し、それぞれが明確な役割分担をしています。
- 運用会社: 投資信託の企画・商品開発を行い、投資先を選定して信託銀行に運用を指示します。いわば「投信のメーカー」です。
- 信託銀行: 投資家から集めた資金を保管・管理し、運用会社からの指示に基づいて実際の株式や債券などの売買を執行します。投資家の財産を安全に保全する「倉庫」と「工場」の役割を担います。
- 販売会社: 投資家と運用会社・信託銀行をつなぐ窓口となり、投資信託の販売やアフターケアを行います。家電量販店の店員のように、豊富な知識で商品選びをサポートします。
この三者による分担は「製販分離」の原則に基づき、投資家の資金が安全に管理され、運用状況が公正に報告される透明性の高い仕組みを提供しています。
委託者・受託者とは何か
投資信託においては、「委託者」と「受託者」という関係性が重要になります。
- 委託者: 投資信託委託会社（アセットマネジメント会社）がこれにあたります。投資家から資金の運用を委託され、具体的な投資判断や運用指示を行います。
- 受託者: 信託銀行がこれにあたります。委託者である運用会社からの指示に基づいて、投資家から預かった資金や資産を保管・管理し、売買を執行する役割を担います。投資家の財産を分別管理することで、運用の透明性と安全性を確保しています。
どんな資産・運用商品を扱うのか
アセットマネジメント会社と信託銀行は、それぞれ異なる視点から多様な資産・運用商品を扱います。
- アセットマネジメント会社: 主に株式、債券、不動産、ヘッジファンドなどの金融資産やオルタナティブ投資といった幅広い資産クラスを投資対象とし、積極的な運用で収益最大化を目指します。彼らは多種多様な投資信託や投資顧問サービスを提供し、顧客の運用目標に応じた戦略的な投資を行います。
- 信託銀行: 預金、貸付、為替といった銀行業務のほか、信託業務として金銭信託、遺言信託、企業年金など、より広範な財産管理サービスを提供します。投資信託においては資産の管理が主な役割ですが、一部の信託銀行では自社で運用商品を開発し、自ら運用意思決定を行うケースもあります。信託銀行の自社運用商品は、低リスクで長期安定運用を目指すものが多い傾向にあります。
投資信託・ファンド運用の現場から見る両者の役割分担
アセットマネジメント会社の視点
アセットマネジメント会社は、投資信託の「運用責任者」として、市場分析に基づき投資戦略を立案し、個々の銘柄選定から売買指示までを行います。彼らはファンドマネージャーやアナリストといった専門家を擁し、超過収益の獲得を目指します。顧客への運用報告も重要な業務であり、市場環境や運用成果について説明責任を負います。彼らの業務は、高度な専門性と市場に対する深い洞察が求められる「攻め」の役割と言えるでしょう。
信託銀行（受託会社）の視点
信託銀行は、投資信託の「受託会社」として、運用会社からの指示に基づき、資産の売買を執行し、投資家から預かった資産の保管・管理を徹底します。彼らの役割は、運用の指示に従って正確に業務を遂行し、信託財産の安全性を確保することにあります。また、ファンドの基準価額の算出や法令遵守状況のチェック、ディスクロージャー業務など、運用を円滑に進めるための「守り」の役割を担います。日系大手信託銀行では、一部専門職を除きジョブローテーションが一般的で、資産運用業務からリテール営業まで多種多様な業務を経験する機会があります。
投資信託以外の商品や受託資産
信託銀行の運用部門は、投資信託の資産管理に加えて、企業や個人の「受託資産運用」も行います。これには、株式、債券、不動産、オルタナティブ投資（プライベートエクイティ、ヘッジファンドなど）、年金資産など、多岐にわたる資産が含まれます。信託銀行はこれらの資産を組み合わせて、顧客の資産を守り増やすことを目的としています。つまり、信託銀行は投資信託以外の様々な金融商品を直接運用したり、管理したりしていると言えます。
社風や働き方・キャリアパスの違い
業務スタイルの違い
アセットマネジメント会社と信託銀行では、その業務内容の特性から社風や働き方に違いが見られます。
- アセットマネジメント会社: 市場の動きに敏感に対応し、収益を追求する業務が中心であるため、比較的アグレッシブで成果主義の社風が見られることがあります。特に外資系のアセットマネジメント会社は少数精鋭で専門性が高く、高年収である一方、業務負荷も大きい傾向があります。運用部門はチームワークを重視し、中長期的な利益獲得に向けて協調して業務にあたります。
- 信託銀行: 受託会社としての業務が多く、運用資産の管理や事務処理を正確に行うことが求められるため、比較的穏やかで安定志向の社風と言われることがあります。ただし、近年は信託銀行も忙しくなっているという声も聞かれます。日系大手の信託銀行ではジョブローテーションを通じて多様な業務を経験できる機会が多く、幅広いキャリアを築くことが可能です。
キャリア構築・スキルセットの違い
それぞれの業態で求められるスキルやキャリアパスにも違いがあります。
- アセットマネジメント会社:
- 運用系のポジションを志望する場合、証券会社や格付機関でのアナリスト業務、生命保険会社や大手金融機関の運用部門での実務経験、コンサルティングファームでの経営コンサルティング業務などが有利です。
- 求められるスキルとしては、高い分析力、市場への知的好奇心、論理的なコミュニケーション能力、語学力（特に外資系ではビジネスレベル以上）、PCスキルなどが挙げられます。
- 証券アナリスト（CMA）やCFA（米国証券アナリスト）といった専門資格は転職に有利に働き、キャリアアップにもつながります。
- 信託銀行:
- 多種多様な部門・業務を経験できるジョブローテーションを通じて、幅広いスキルを身につけることが可能です。
- 資産運用業務以外にも、不動産ファイナンス、プロジェクトファイナンス、相続関連業務など、専門性を深めるキャリアパスも存在します。
- 金融商品の知識に加え、法務、会計、税務に関する知識も役立つでしょう。
アセットマネジメント業界は全体として高収入と言われますが、外資系企業は特に成果報酬制を取り入れているため高年収になりやすい傾向があります。日系企業でも成果報酬制を導入する動きは見られますが、親会社の給与水準に一定の縛りがある場合もあります。
利用者・投資家から見たメリット・デメリット
アセットマネジメント会社を利用する際の特徴
アセットマネジメント会社は、多様な投資戦略や専門性の高い運用チームを通じて、顧客の資産を積極的に増やすことを目指します。
- メリット:
- 専門家による高度な運用: ファンドマネージャーやアナリストなど、市場のプロフェッショナルが運用を行うため、個人では難しい情報収集や分析に基づいた投資が期待できます。
- 多様な投資機会: 株式や債券だけでなく、不動産、ヘッジファンド、プライベートエクイティといった幅広い資産クラスへの投資機会を提供します。
- 超過収益の追求: 市場平均を上回るリターン（アクティブ運用）を目指すファンドが多く、高い収益性が期待できる場合があります。
- デメリット:
- 比較的手数料が高い: アクティブ運用ファンドは、運用に伴うコストが高くなる傾向があり、信託報酬などが高めに設定されることがあります。
- 運用実績に左右される: ファンドのパフォーマンスは市場環境や運用チームの手腕に大きく左右されるため、必ずしも高いリターンが得られるとは限りません。
信託銀行を利用する際の特徴
信託銀行は、資産の管理・保全に重点を置き、多様な信託サービスを通じて顧客のニーズに応えます。
- メリット:
- 資産の安全性・保全性: 預かった資産は分別管理されるため、万が一信託銀行が破綻しても顧客の財産は保護されます。
- 幅広い財産管理サービス: 金銭だけでなく、不動産、有価証券、遺言、相続、企業年金など、多様な財産に関する管理・運用・コンサルティングサービスを提供します。
- 安定志向の運用: 自社運用の商品においては、低リスクで長期安定運用を目指すものが多く、資産保全を重視する投資家に向いています。
- ワンストップサービス: 銀行業務、信託業務、併営業務を一つの金融機関で利用できるため、複数の金融機関を使い分ける手間が省けます。
- デメリット:
- 商品ラインナップの制限: 証券会社と比べると、投資商品の種類が少ない傾向があります。
- 手数料: 投資信託の販売手数料や信託報酬が、ネット証券などと比較して高めに設定されている場合があります。
よくある質問・比較Q&A
不動産・証券会社との比較
- 不動産とアセットマネジメント: 不動産におけるアセットマネジメントは、投資用不動産の取得、運用、管理、売却を通してその価値を最大化する業務を指します。プロパティマネジメント（PM）が不動産の物理的な管理や賃貸借契約の管理を行うのに対し、アセットマネジメントは投資家・所有者の代理人としてPMの選定・監督を行い、投資利回りの最大化に責任を負います。
- 証券会社との比較: 証券会社は株式や債券などの有価証券の売買仲介を主な業務とし、多岐にわたる金融商品を提供します。信託銀行は銀行業務に加え、信託業務を通じて財産を預かり管理・運用する点が異なります。アセットマネジメント会社は、投資信託という金融商品を「製造」する役割を担います。
信託銀行が破綻した場合はどうなるのか
信託銀行が破綻した場合でも、顧客から預かっている信託財産は保全されます。これは、信託法や信託業法に基づいて、信託銀行自身の財産と信託財産とを「分別管理」する義務があるためです。したがって、信託銀行の財産が破綻しても、信託された顧客の財産は影響を受けず、安全に守られます。投資信託の場合も同様に、投資家の資金は信託銀行で分別管理されているため、運用会社や販売会社が倒産しても投資家のお金は守られます。
その他の基礎知識Q&A
- ポイント投資とポイント運用:
- ポイント投資: ポイントを現金と同様に扱い、実際の投資信託や株式などの金融商品を購入するサービスです。証券口座の開設が必要で、利益は現金で受け取れます。
- ポイント運用: ポイントのまま、特定の指数などに連動させてポイント数を増減させる疑似的な投資体験サービスです。証券口座は不要で、利益はポイントとして受け取ります。
- 投資信託の手数料: 投資信託にかかる主な手数料には、「販売手数料（購入時）」「信託報酬（運用時）」「信託財産留保額（解約時）」があります。これらは投資家が負担するコストであり、ファンドの純資産総額から日々差し引かれる信託報酬などは、運用パフォーマンスに影響を与えるため、事前に確認することが重要です。NISAのつみたて投資枠対象の投資信託は販売手数料が無料です。
まとめ
自分に合った業態・サービスの選び方
アセットマネジメント会社と信託銀行は、それぞれ異なる強みと役割を持っています。
- アセットマネジメント会社は、積極的な資産運用を通じて高いリターンを追求したい投資家や、多様な投資戦略に興味がある方に向いています。
- 信託銀行は、資産の保全を重視し、遺言や相続、不動産など、幅広い財産管理サービスを一つの窓口で利用したい方、または安定志向の運用を求める方に向いています。
自身の投資目的、リスク許容度、金融知識のレベル、そしてどのようなサポートを求めるかに応じて、最適な業態やサービスを選択することが重要です。
今後の資産運用におけるポイント
現代社会において、資産運用は個人の生活設計や企業の経営戦略においてますます重要になっています。政府が推進する「貯蓄から投資へ」の流れや新NISA制度の拡充は、個人投資家にとって資産運用を始める大きな機会を提供しています。
ポイントとしては、以下の点が挙げられます。
- 情報収集と自己判断: どの金融機関を利用するにしても、自身の投資目的を明確にし、提供される商品の特性やリスク、コストを理解することが不可欠です。
- 専門家の活用: 必要に応じて、IFA（独立系ファイナンシャルアドバイザー）などの専門家からのアドバイスを受けることも有効です。
- デジタルツールの活用: オンライン証券やアプリを活用することで、手軽に情報収集や取引を行い、自身の資産状況を管理できます。
- 長期的な視点: 短期的な市場の変動に一喜一憂せず、長期的な視点を持って資産形成に取り組むことが成功の鍵となります。
アセットマネジメントと信託銀行のそれぞれの特性を理解し、自身のライフプランや資産状況に合わせた最適な選択をすることで、より豊かな未来を築くことができるでしょう。
