アセットマネジメントで注目の『エンゲージメント』とは?基本から最新動向まで徹底解説

はじめに

記事の目的と対象読者

本記事は、アセットマネジメント業界における「エンゲージメント」という概念について、その基礎から最新動向までを解説することを目的としています。特に、金融資産の運用に焦点を当て、ESG投資や責任投資との関連性を深掘りし、その手法、現状、課題、そして未来の展望を明らかにします。対象読者としては、アセットマネジメントに関心のある金融業界関係者やESGに関心のあるビジネスパーソンを想定しています。

アセットマネジメント業界でのエンゲージメントの重要性

アセットマネジメントとは、投資家から預かった資産を専門家が効率的かつ効果的に管理・運用し、その価値を最大化する活動を指します。この活動において、「エンゲージメント」は近年、その重要性が飛躍的に高まっています。単なる資産運用に留まらず、投資先企業との対話を通じて、企業価値の向上や持続的な成長を促す役割が期待されているためです。特に、日本政府が掲げる「資産運用立国」構想や新NISAの開始により、個人投資家の資金が市場に流入する中、アセットマネジメント業界は大きな変曲点を迎えており、エンゲージメント活動は持続可能な社会の実現と経済成長を両立させるための重要な要素となっています。

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アセットマネジメントにおけるエンゲージメントの基礎

エンゲージメントとは何か?

アセットマネジメントにおける「エンゲージメント」とは、投資家が投資先企業に対し、友好的かつ建設的な対話を通じて、望ましい経営を促し、企業価値向上と持続的成長を実現できるよう働きかける活動を指します。これは単に財務情報に基づくだけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)要素を含む非財務情報の理解に努め、企業の戦略や哲学まで踏み込んだ議論を行うことが特徴です。

アセットマネジメント分野(特に金融資産)における位置づけ

金融資産のアセットマネジメントにおいて、エンゲージメントは投資成果を最大化し、リスクを適切に管理するための強力な手段として位置づけられています。特に株式や債券などの金融商品を扱う場合、投資先企業のガバナンス改革や環境・社会課題への対応を促すことで、長期的な企業価値向上を目指します。

ESG投資・責任投資との関連

エンゲージメントは、ESG投資および責任投資の重要な柱の一つです。責任投資は、「エンゲージメント」「議決権行使」「ESGインテグレーション」の三つに分解され、エンゲージメントはその中でも特に有力な手段とされています。金融庁が2014年に策定し、2020年に再改訂した日本版スチュワードシップ・コードでも、機関投資家に対して積極的なエンゲージメントを行うことが求められています。ESG課題を抱える企業への改善要求だけでなく、望ましい経営を進めている企業への支持表明もエンゲージメントの重要な役割とされています。

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エンゲージメントの手法とプロセス

PDCAサイクルの実践

エンゲージメント活動は、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)に沿って体系的に実施されます。

  • Plan(計画): エンゲージメントの重点テーマを決定し、投資先企業の分析を通じて経営課題を特定します。
  • Do(実行): 企業との対話(面談、書簡、情報交流会など)を通じて、課題解決に向けた提案や議論を行います。
  • Check(評価): エンゲージメントによる企業行動の変化や株価への影響を統計的に分析し、効果を検証します。
  • Act(改善): 評価結果に基づき、エンゲージメント戦略の見直しや改善策を講じ、より実効性の高い活動を目指します。

エンゲージメントの見える化

エンゲージメント活動は通常非公開で行われるため、その実態が見えにくいという課題があります。このため、投資家や社会に対して活動内容や成果を積極的に開示し、透明性を高めることが重要です。活動実績の報告書作成や、エンゲージメントによって企業行動がどのように変化したか、それが企業価値や株価にどう影響したかを具体的に示すことで、見える化が図られます。

ガバナンス強化や社会課題対応へのアプローチ

エンゲージメントは、企業統治の強化や環境・社会課題への対応を促す上で重要なアプローチとなります。資本効率の改善、事業ポートフォリオの見直し、情報開示の強化など、多岐にわたる経営課題に対して具体的な提言を行います。また、気候変動、水問題、人権、ダイバーシティといったESG課題への取り組みも、企業価値向上の観点から議論されます。

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エンゲージメントの実施状況と最新トレンド

国内外での普及背景と変遷

エンゲージメントの概念は、1900年代後半のメインバンクシステム崩壊後、機関投資家が資本市場の主要プレイヤーとして台頭した日本において、特にその重要性が高まりました。所有と経営の分離から生じる「フリーライダー問題」を緩和するため、機関投資家によるガバナンス機能の強化が不可欠となったためです。欧米ではさらに早くから、企業による見せかけの環境配慮、いわゆる「グリーンウォッシュ」への警戒感から、サステナビリティに関する情報開示規制が強化され、エンゲージメントの重要性が認識されるようになりました。

最新トレンド:ESG情報の定量評価、グリーンウォッシュ問題

近年、エンゲージメント活動における最新トレンドとして、ESG情報の定量評価と「グリーンウォッシュ」問題への対応が挙げられます。

  • ESG情報の定量評価: 企業がESG課題にどれだけ取り組んでいるかを客観的に評価するため、様々なデータ分析や評価指標が開発されています。これにより、エンゲージメントの成果をより具体的に測定し、企業変革への貢献度を可視化することが目指されています。
  • グリーンウォッシュ問題: 実態が伴わないにもかかわらず、企業が環境配慮をしているかのように装う「グリーンウォッシュ」が世界的に問題視されています。欧米の規制当局はESG関連の金融商品や企業開示に対する監視を強化し、実態の伴わない主張には制裁を課す動きが加速しています。これにより、投資家はエンゲージメントを通じて、企業のサステナビリティに関する真摯な取り組みを促し、グリーンウォッシュリスクの回避に努めることが求められています。

成果の可視化と今後の展望

エンゲージメントの成果を可視化することは、その有効性を証明し、持続的な活動を推進する上で不可欠です。企業の非財務指標(例:独立取締役比率の向上、CO2排出量削減)や財務指標(例:PBRやトービンのQの改善)、さらにはエンゲージメント後の超過リターンなどを分析・開示することで、活動のインパクトを示します。今後も、より高度なデータ分析やAIの活用により、エンゲージメントの成果測定は一層洗練され、企業価値向上への貢献が明確化されると期待されています。

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主要な投資スタイル別のエンゲージメント事例

パッシブ運用におけるエンゲージメント

パッシブ運用では、特定の指数に連動するポートフォリオを構築するため、市場全体への影響力が大きいにもかかわらず、問題のある企業を個別に売却することが困難です。そのため、エンゲージメントがガバナンス機能を果たすための重要な手段となります。指数に組み入れられている企業のESG課題やガバナンス問題に対し、対話を通じて改善を促すことで、ポートフォリオ全体の価値向上を目指します。

アクティブ運用(株式・債券)での取り組み

アクティブ運用においては、ファンドマネージャーやアナリストが特定の企業や銘柄を詳細に分析し、市場平均を上回るリターンを目指します。この過程で、企業とのエンゲージメントを通じて経営戦略やESG課題への対応を議論し、企業価値向上をサポートします。株式投資では、不採算事業の見直し、資本コスト意識の改善、成長に向けた事業変革、情報開示の強化といった多岐にわたる課題に対し、具体的な提案を行います。債券投資においても、企業の信用リスク評価にESG要素を取り入れ、対話を通じてリスク低減を促す取り組みが見られます。

組織内のエンゲージメント・チームの役割

多くのアセットマネジメント会社では、エンゲージメント活動を専門に行うチームを組織しています。これらのチームは、ファンドマネージャーやアナリストといった多様なバックグラウンドを持つ専門家で構成され、個別の企業に対して経営課題の解決を提案します。企業変革エンゲージメントを目指し、財務面だけでなく非財務面を含む事業会社の状況全般を的確に把握し、中長期的な企業価値向上と持続可能性の追求に貢献しています。また、他の企業との議論の場を提供し、知見の共有を促す「リンゲージメント」といった独自の取り組みを行うチームもあります。

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エンゲージメントの課題・メリット・効果

企業価値向上・ガバナンス強化

エンゲージメントの最大のメリットは、企業価値の向上とガバナンスの強化にあります。投資家が建設的な対話を通じて、企業の資本効率改善、リスク管理の徹底、情報開示の透明性向上などを促すことで、企業の経営の質が高まり、結果として中長期的な企業価値の向上につながります。学術研究でも、エンゲージメントがROA(総資産利益率)の改善や独立取締役比率の向上、ESGスコアの向上、CO2排出量の削減など、企業行動に実質的な変化をもたらすことが示唆されています。

形骸化リスク・限界と乗り越え方

一方で、エンゲージメントには「形骸化リスク」という課題が常に存在します。エンゲージメント活動は通常非公開で行われるため、外部からその実効性を判断しにくい点が指摘されています。投資家がコストを最小限に抑え、形式的な対話に留まるインセンティブが生じる可能性もあります。このリスクを乗り越えるためには、エンゲージメントの成果を具体的に測定し、透明性高く開示することが不可欠です。また、定量的なデータ分析に加え、企業との対話の質を高めるための専門知識や経験を持つ人材の育成も重要となります。

国内外の先進的な事例紹介(固有名詞なし)

エンゲージメントの先進事例としては、以下のような取り組みが挙げられます。

  • ある運用機関では、投資先企業に対し、独自のディスカッションペーパーを作成し、経営層に直接提案することで、具体的な行動変容を促しています。
  • 別の機関では、投資先企業が同様の課題を抱える他社と議論する機会を設け、ベストプラクティスや異なるアプローチに関する知見の共有を推進しています。
  • また、ある地域では、地域の特性を活かしたグリーン・トランスフォーメーション(GX)に関連する資金・人材・情報を集積し、サステナブルファイナンスを促進するためのエンゲージメント活動が行われています。

これらの事例は、エンゲージメントが単なる対話に留まらず、具体的なアクションと成果につながるための多様な手法が実践されていることを示しています。

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今後の展望とまとめ

エンゲージメント活動の課題と持続的発展への道

アセットマネジメントにおけるエンゲージメント活動は、企業価値向上や持続的発展に大きく貢献する一方で、いくつかの課題も抱えています。特に、活動の形骸化リスクや、成果の客観的な測定・開示の難しさが挙げられます。また、グリーンウォッシュ問題に代表されるように、表面的な取り組みに終わらないよう、実効性を伴ったエンゲージメントが強く求められています。

持続的な発展のためには、以下のような取り組みが不可欠です。

  • 透明性の向上: エンゲージメントの目的、プロセス、そして成果を、より具体的に、そして定期的に開示することで、投資家や社会からの信頼を獲得し、活動の実効性を担保します。
  • 専門性の深化: ESG要素を含む非財務情報の分析能力や、企業との建設的な対話をリードするスキルを持つ専門人材の育成が不可欠です。
  • データとテクノロジーの活用: AIやビッグデータ分析ツールなどを活用し、ESG情報の定量評価やエンゲージメントの効果測定をより高度化することで、意思決定の質を高めます。
  • 協働の促進: 運用会社間、あるいは運用会社と評価機関、規制当局との連携を強化し、業界全体としてエンゲージメントの質の向上と普及を図ります。

投資家・社会全体へのインパクト

エンゲージメント活動は、個々の投資家にとって中長期的なリターン向上に寄与するだけでなく、社会全体に対しても大きなインパクトをもたらします。企業のガバナンス強化や環境・社会課題への積極的な対応を促すことで、より持続可能で公正な社会の実現に貢献します。これは、資本市場を通じて、社会課題の解決と経済成長の好循環を生み出すための重要なメカニズムとなります。

まとめと今後の参考情報

アセットマネジメントにおけるエンゲージメントは、単なる資産管理を超え、企業と投資家が共創し、持続可能な未来を築くための強力なツールです。その基礎的な理解から最新トレンド、そして具体的な手法を把握することで、アセットマネジメント業界の進化とその社会的な意義を深く理解することができます。今後も、この分野での知見を深め、実効性のあるエンゲージメント活動を推進していくことが、投資家、企業、そして社会全体の持続的発展にとって不可欠となるでしょう。

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この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)

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