保険会社リスクマネジメント関連用語3

EV (エンベディッド・バリュー、潜在価値)

EV(Embedded Value:エンベディッド・バリュー、潜在価値)

生命保険会社の企業価値・業績を評価する指標の一つで、主に貸借対照表から計算される「修正純資産」と、保有契約から生じる将来の株主利益の現在価値である保有契約価値の合計額である。従来の生命保険株式会社の法廷会計では、新契約獲得から会計上の利益が実現するまでに時間がかかる。EVでは、将来の実現利益を現時点で評価することができるため、法定会計による財務情報を補完する役割がある。

EVにはTEV、EEV、MCEVの3種類がある。最初にヨーロッパの保険会社を中心として普及した計算方法を、後に制定された方法と区別する意味でTEV(Traditional Embedded Value、伝統的なエンベディッド・バリュー)と呼ぶ。その後、TEVに対する批判を踏まえてEEV原則、MCEV原則が制定され、これらのルールに則った開示への統一が目指されている。

EEV (ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー)

EEV(European Embedded Value: ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー)

EVの計算手法、開示内容について一貫性および透明性を高めることを目的に、2004 年5月に欧州の大手保険会社のCFO(最高財務責任者)で構成されるCFOフォーラムによってそれに関するガイダンスとともにEEV原則が制定された。

EEV原則では、EVは「対象事業における総リスクを十分に認識した上で、対象事業に割り当てられた資産から得られる分配可能利益の中の株主分の現在価値」と定義されており、全てのリスクを勘案して潜在価値を算出することが求められている。また、TEVとは異なり、オプションと保証の時間価値の影響を確率論的手法によって計算し、その結果を保有契約価値から控除することとしている。つまり、契約者が保有する権利や契約者に対する保証といった、株主に帰属しない価値を控除すべきことを明示している。具体的には、EVは対象事業に割り当てられたフリー・サープラス、維持するための費用を控除した後の必要資本、保有契約価値の3つの合計である。

1)フリー・サープラスは保有契約に割り当てられた資産の市場価値であり、保有契約を維持するために必要となる資産の市場価値ではない。

2)必要資本 必要資本は株主への配当が制限され、保有契約負債の維持に必要とされる額を超えて保有契約に属する資産の市場価値である。

3)保有契約価値 保有契約価値は、確実性等価将来利益現価から、オプションと保証の時間価値、必要資本維持のための費用、非フィナンシャル・リスクに係る費用を控除することにより算出する。

オプションと保証の時間価値

オプションと保証の時間価値(Time Value of Financial Options and Guarantees)

市場で取引されているオプション価格と整合的な前提に基づく確率論的手法を用いて計算されたオプションと保証の価値から、確実性等価利益現価に含まれるオプションと保証の価値を控除して求められる。具体的には、有配当契約の動的配当、変額商品の最低保証、予定利率変動型商品の予定利率最低保証、動的解約などのオプションおよび保証を計算対象とする。

必要資本維持のための費用

必要資本維持のための費用(Cost of Holding the Required Capital)

保険会社では健全性維持のために負債の額を超えて必要資本を保有する必要がある。この必要資本に係る運用収益に対する税金と、必要資本に係る資産運用費用を合わせて必要資本維持のための費用とする。

非フィナンシャル・リスクに係る費用

非フィナンシャル・リスクに係る費用

EEV原則では、事業が抱える全てのリスクを勘案してEVを算出することと定められているため、ベスト・エスティメイト前提による保有契約価値やオプションと保証の時間価値に反映されないリスクに係る費用を、このような項目で特別に認識する必要がある。一般的には、死亡率の変動リスクや金利上昇時の選択的解約などのリスクは非フィナンシャル・リスクではあるが、ベスト・エスティメイト前提を適切に設定することによって追加的な費用調整は不要であると考えられている。非フィナンシャル・リスクに係る費用として認識する必要があるリスクとしては、オペレーショナル・リスクが挙げられる。

MCEV (市場整合的エンベディッド・バリュー)

MCEV(Market Consistent Embedded Value:市場整合的エンベディッド・バリュー)

2008年6月に欧州主要保険会社のCFOフォーラムによって、生命保険会社の企業価値評価を市場と整合的に行うことや会社間の比較を容易にすることなどを目的としてMCEV原則が制定された。

MCEV原則によるEV算定手法は、よりリスクを反映した手法であり、個々の保険種類ごとにリスクをとらえ、市場取引されている商品価格と整合性を保つよう工夫されている。原則の中の定義によればMCEVは「対象事業における総リスクを十分に認識した上で、対象事業に割り当てられた資産から得られる分配可能利益の中の株主分の現在価値」であり、リスク測定やパラメータ推定においてはインプライド・ボラティリティを用いるなど、基準日時点における市場価格にカリブレートすることが求められる。MCEVは、対象事業に割り当てられたフリー・サープラス、必要資本、保有契約価値の3項目から構成される。

1)フリー・サープラス フリー・サープラスは保有契約に割り当てられた資産の市場価値であり、保有契約を維持するために必要となる資産の市場価値ではない。

2)必要資本 必要資本は株主への配当が制限され、保有契約負債の維持に必要とされる額を超えて保有契約に属する資産の市場価値である。

3)保有契約価値 保有契約価値は、確実性等価将来利益現価、TVFOG、フリクショナル・コスト、ヘッジ不能リスクに係る費用の4項目から構成され、確実性等価将来利益現価から他3項目を差し引いた額として算出される。

MCEVとTEVの主な違いは、割引率、収益率、リスク準備金、測定方法の4種類である。割引率については、TEVではリスク・プレミアムが全てのリスクに対応するために設定されるのに対し、MCEVでは割引率がリスク・フリー・レートとして設定される。

収益率は、TEVではリスク資産に対してはリスク・フリー・レートより高くなるリアル・ワールドの期待収益率、MCEVではリスク・フリー・レートである。

リスク準備金はTEVでは割引率中のリスク・プレミアムや、目標とするソルベンシー比率を保つための資本コストであるのに対し、MCEVではTVOG、CRNHR、フリクショナル・コストである。

測定手法はTEVでは決定論的手法であって、TVOGの測定方法は明示的には定められていない。一方で、MCEVでは確率論的手法によってこれを測定するよう定めている。

確実性等価 / CE (Certainty Equivalent)

資産や負債の現在価値を測定するために将来キャッシュ・フローを決定論的に割り引く手法のこと。運用利回り前提をリスク・フリー・レートとし、将来収益をリスク・フリー・レートで割り引いて現在価値を算出する。MCEV原則に則った保有契約価値計算において、保有契約からの確実性等価将来利益現価がその基礎となる。この時、リスク・フリー・レートとしてはスワップ・レートを用いるべきとされている。

CRNHR (ヘッジ不能リスクに対応するコスト)

CRNHR(Cost of Residual Non Hedgeable Risks:ヘッジ不能リスクに対応するコスト)

EV計算にあたって予測したキャッシュフローには不確実性があるため、これに対応する金額をリスクマージンとして評価する。株主は、リスクを取ることに対して上乗せしてリターンを稼ぐ必要があるが、その超過リターンを保険負債の一部として見ることができる。このリスクマージンを算出する際は、資本コスト法が用いられることが推奨されている。この手法によって、ヘッジ不能リスクが必要とする資本を決定する。

フリクショナル・コスト (Frictional Costs)

保険会社の株主が、組織を経由して保険事業に投資していることに伴って負担しているコストのことで、必要資本に関わる運用収益に対する税金や資産運用費用の現在価値として計算する。

CFV (現在履行価値)

CFV(Current Fulfillment Value:現在履行価値)

時間の経過とともに保険契約負債を履行する場合に保険会社が負担する費用の期待現在価値を示している。現在履行価値の測定にあたっては、市場情報が不足する場合は、各社の将来予測を使用できる。キャッシュフローは会社自身のキャッシュフローに基づくべきであり、更に、他の市場参加者には発生しないキャッシュフローも含める場合がある。

ルックスルー原則

財務情報を提供する際に、対象となる会社単体の情報のみを報告するのでなく、株式持ち合いや相互取引などを相殺し、実質的なグループ全体の会計を行う連結会計のように、間接的に保有する経済価値まで把握することによって、全体で保有する経済価値を通算する考え方のこと。